Cheese98〜花光〜
野高先輩の告白から数日経ったある日、わたし、立川 華のもとに一通のメールが届いた。
『今日は何の日か、知ってる?』
華(むむ?)
それは淳くんからのお尋ねメールでした。
華(今日は8月10日だから…わかった!)
『ハットの日で、帽子の日!』
『ブー』
華(ほへ〜…?じゃあ、何の日だろう??)
『正解は花火大会の日だよ』
華「花火大会!!??」
…………ガンッ
(思わず机の角に足をぶつける華)
華「い゛っ………い゛だい゛ぃ゛ぃぃぃっっ!!」
葵「姉ちゃんうるせぇぞ!?」
(ノックなしで部屋を覗く葵)
華「成敗っっ!!!」
(枕を投げつける華)
…………ドスッ
(激突)
葵「また…いつものパターンで…す…か……」
…………パタ
(転倒)
その後、淳くんと約束を取り付けて、花火大会に行くことになりました!
華(へっへ〜ん!こんな日もいずれ訪れるだろうと思って、オニュ〜の浴衣を買ってよかったぁ〜☆←(貯金全額注ぎ込み)
華「………」
どうしてこんなに、はしゃいでいられるんだろう………
野高先輩を傷つけた……
わたしの答えはひとつなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう…
気持ちが晴れないまま、わたしは淳くんとの待ち合わせ場所に向かった。
華(淳くんの顔を見たら、きっと元気が出るはず。いつものわたしに戻ろう…)
―――待ち合わせ場所に着くと、淳くんはもうすでに来てくれていた。
淳「華…ちゃん?」
華「うん…。ど、どうかな?浴衣…」
淳「一瞬、誰だかわからなかった…。すごい似合ってるよ。かわいい…と思う」
華「む!その間が気になる〜〜!!」
淳「言い慣れてないから…だと思います」
華「………」
淳「華ちゃん?」
華「ありがとう…」
淳「うん…。じゃあ、行きますか!」
華「うんっ!」
淳くんといると、元気が湧いてくる…。
わたしの1番好きな人。
ずっと……
あなたの傍にいられたら、きっと、幸せになれるよね
淳「そろそろ始まっちゃうな…」
華「すごい人だねー!うわわっ……!?」
(人の波に流される華)
淳「華ちゃん!!俺の手に捕まって!」
華(淳くん……!)
(手を伸ばし、淳の手を強く握る華)
淳「ごめん、ちょっと走ってもいい?」
華「へ…?」
淳「せぇのっ……!」
(華を人込みから引っ張り出し、そのまま駆け出す淳)
華(うびゃやあぁっ!!??)
(もみくちゃになる華)
――――――――――
しばらく走っていると、段々と人込みから離れた場所へ向かっているのがわかった。
華「淳くん。もうすぐ花火、始まっちゃうよ?どこに向かってるの…?」
淳「もう少し……もうすぐなんだ…」
華「………」
そう言って、淳くんは生い茂った草の中に入り、道なき道を通り始めた。
華「ぶわぁっ!?蛾だぁぁっ!!」
淳「こんなとこ通らしてごめん!!俺の手、離さないでね」
華「意地でも離さないっ!!だから大丈夫だよ!」
淳「……よし。ラストスパート!」
華「はいさぁっ!」
(気合いを入れる華)
生い茂った草を掻き分けた先に、空が広がった。建物が小さく見える。ここは……
淳「俺が小さい頃、よく遊んでた場所なんだ。今は草でいっぱいだけど、昔はもっとだだっ広くて、よくキャッチボールとかしたなぁ」
華「淳くんの思い出の場所なんだ……」
淳「それもあるけど、ほら!そろそろ始まるよ」
華「……?」
…………ドーーーン
(花火が上がる)
華「はっ……花火だぁ!!」
淳「ここ、丘みたいになってるから花火がよく見えるんだ。俺達だけの特等席」
華「花火がおっきい……!すごいすごーい!」
淳「間に合ってよかった…」
華「……うぅっ」
(泣き出す華)
淳「華ちゃん!?」
華「ごめん…嬉しくて…つい…」
淳
(ハンカチを探す淳)
淳「……ごめん、ハンカチ持ってない…」
華「大丈夫!浴衣で拭くからっ……」
淳「!」
(浴衣で涙を拭おうとする華の手を止める淳)
華「……え……?」
淳「駄目。俺の手で払うからじっとしてて。たぶん……きれいだから」
華「あはは!たぶん?」
淳「そう、たぶん…」
華「………」
淳「………」
花火の光りがチカチカと目に焼き付く。
目の前にいる淳くんの顔がよく見えた。
淳「き…キスする時って、眼鏡を外すのかなぁ」
華「は…外した方がいいと思う…」
淳「じゃあ…」
(眼鏡に手を掛ける淳)
華「待って!わたしが外してもいい…ですか?」
淳「…うん」
華「そのままじっとしててね…」
(淳の眼鏡に手を掛ける華)
淳「……無理だよ。華ちゃん」
「――――――」
初めてキスをした。
何も味はなくて、温かい息だけがほんのりかかった。
―――花火の音が鳴り響く、夏の夜の出来事。
〜花光〜 完。