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三人のヒロインとシェアハウスすることになった僕は、全員を本気で愛して呪われてしまった。 ――告白は観覧車のてっぺんで  作者: iron-bow


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【第07話-12】恋と欲と日常のあいだ-千晴・和也

第7話、いよいよ完結です。


千晴と梨子。

最初は軽い火遊びのように見えた関係が、いつの間にか深い信頼へと変わっていきました。


姉のようで、親友のようで、時には共犯者。

依存ではなく、選択として並び立つ――そんな関係。


この第7話は、その形が一つの節目を迎える回です。


少し騒がしくて、少し危うくて、でもどこか温かい。

そんな締めくくりを、楽しんでいただければ嬉しいです。


【Scene12:1年前3月】



ある冬の日の正午前。

高橋千晴は、リビングの隅で静かに頭を抱えていた。


場所は、例のシェアハウス。

ソファーには花音が優雅に腰掛け、まるで女王のように紅茶を傾けている。


そしてその周囲には──


「花音お姉様、お寒くないですか?」

「花音お姉様、お茶のお代わりをどうぞ」

「花音お姉様、昼食は洋食と和食、どちらがよろしいでしょうか?」


「「「花音お姉様!!」」」


声を揃えて跪く、美少女三人娘。梨紗・梨絵・梨花。

まるで王国の騎士団が、主君に忠誠を誓っているかのような光景だった。


──どうしてこうなった。



時は、半月ほど遡る。


「あの……お姉様、ごめんなさい」


しおらしく謝ってきたのは、阪本梨子だった。

千晴は警戒しつつ問いかける。


「どうしたの、梨子? また何かやらかしたの?」


「えっと……怒らないでくださいね?」


「うん、よっぽどのことじゃない限り怒らないわよ」


「その……お姉様と和也お兄ちゃんのこと、シェアハウスの皆に話しちゃって……」


「……は?」


「そしたら皆、”自分たちもしたい!”って……てへ♡」


「てへ、じゃないわよ!!!」


千晴は頭を抱えた。梨子はその後、徹底的に説教されたという。



かくして──千晴は再び、シェアハウスを訪れる羽目になった。


「千晴先輩、連れてきました〜」


梨子は他人の前では「千晴先輩」、

和也と千晴と3人の時は「千晴お姉ちゃん」、

特別な時には「お姉様」と呼び分けている。

そして今回の“お姉様呼び”は──”怒らないでほしいな♡”という媚びだった。全く通じなかったけれど。


「……で、希望者は?」


梨子が手を差し出した先には──梨紗、梨絵、梨花。

昨年現場視察で訪れた時と同じ全メンバー。

どの子も、梨子に勝るとも劣らないレベルの美少女だった。


千晴は思う。


(……この3人を和也に会わせたらアウトじゃない?)


警戒を強めたそのとき──


「あの、千晴先輩……お願いしたいことがあるんですけど、実は……」


話しかけてきたのは、千晴の直接の後輩・梨紗だった。が、その言葉は梨絵によって遮られる。


「もう! 梨紗は軽すぎるの! こういう時は真剣に話さないと!」


ピシッと姿勢を正した梨絵が、神妙な面持ちで語り出す。


「千晴先輩、お忙しい中、お越しいただきありがとうございます。

実は私たち、梨子さんから千晴先輩との関係のことを聞きまして──」


(……和也は貸さないわよ)


心の中でそうツッコみかけた瞬間、梨絵はこう続けた。


「──女同士の経験って、そんなに素晴らしいんですか?」


「……へっ!? そっち!?」


千晴は絶句した。きっと、とてつもなく間抜けな顔をしていたに違いない。


「つきましては、私たちもぜひ一度、体験してみたく……その、何卒ご指導いただけませんでしょうかっ!」


深々と頭を下げる梨絵。


「梨絵ちゃん……あなた真剣の方向性、完全に間違ってるから」


千晴の冷静なツッコミが、場の空気を微妙な方向へと落ち着かせた──いや、混迷させただけかもしれない。



「無理よ、私ノーマルだもの」


きっぱりと答える千晴に、梨花が鋭く反応した。


「だったら、なぜ梨子とは?」


千晴は即答だった。


「梨子は私にとって、特別なの」


そう言って、そっと梨子を抱きしめる。


「お姉様……」


それは決して百合的な雰囲気ではなかった。

信頼と親愛──深く、強く、結びついた姉妹のような絆だった。


「「「そんなぁ……」」」


梨紗・梨絵・梨花の三人が、悲鳴のように声を揃える。

そしてその瞬間、千晴に宿る“性格”が発動した。


──嫌われたくない。好かれたい。

(なんとか、してあげたい)


千晴は考える。


(……ああ、いるじゃない。適任者が)


「いい人、紹介してあげるわ。少しだけ待ってくれる?」



そして三月の初め──


ひのき色の夕暮れに染まるシェアハウスのリビング。

千晴はコーヒーカップを片手に、静かにソファに座っていた。

対面には、そわそわと落ち着かない三人娘。


そこへ、千晴のスマホが振動する。


「……うん、そう。たぶん間違いないと思う。チャイム、鳴らしてみて?」


ピンポーン


「うん、大丈夫。今、迎えを行かせる」


通話を切ると同時に、千晴は梨子へ視線を向けた。


「迎えに行ってくれる?」


「はいっ」


梨子が元気よく立ち上がる。


その間に、千晴は三人に向き直る。


「止めるなら、今のうちよ。一度踏み入れたら、抜け出せなくなるから」


三人は顔を見合わせ──そして声を揃えた。


「「「はい!」」」


やがて、リビングへの階段を上がってくる足音。


「千晴姉さん、久しぶり」


現れたのは、一之瀬花音だった。


「うん、久しぶりね」


どうやら和也とは別で顔を合わせていたようだが、千晴との再会は久々だった。


「ところで……千晴姉さんから『どうしてもお願いしたい』なんて言われるの、初めてかも」


「そうね。そうだったかも。いきなりで申し訳ないのだけれども──」


千晴は横に並ぶ三人をちらりと見やって、微笑む。


「この子たちが、“女同士の秘め事”を経験してみたいそうなの。相手、お願いできるかしら?」


「いいわよ」


即答だった。


拍子抜けするほど、軽かった。


花音は三人に視線を向け、ふっと笑みを浮かべた。


「あら……梨紗ちゃんじゃない。お久しぶりね」


「はーい、一之瀬先輩。この前もTVで、見ましたぁ〜」


花音は“老舗旅館の美人若女将”として、メディアにも時折顔を出していた。

ただ、梨紗の反応は、軽かった。

そういう子だった。


「じゃあ、花音。あとはお願いね。私は今日は出掛けるわ。また明日、昼前に来るから」


そう花音に伝えると、すぐに席を立つ


「梨子、行きましょ」


「……あっ、はいっ!」


千晴と梨子は軽く手を振り、リビングを後にする。


──そして、残された四人。


花音はソファから立ち上がると、上着をすっと脱ぎながら、口元に笑みを浮かべた。


「さて、挨拶は──体で直接、のほうがいいかしらね?」


その声に、三人は同時に息をのむ。


──えっ、選択肢間違えたかも?


そんな不安が胸に去来するも、もはや遅い。

目の前には──

妖しく笑う一之瀬花音。


まるで、牙を隠していた狼に招かれた子ヤギのように──

三人は運命の扉を、自らの手で開けてしまったのだった。



千晴と梨子は、シェアハウスを後にした。


「……梨絵たち、大丈夫かな?」


「大丈夫よ。別に、花音が取って食うわけじゃないんだから

……あれ? “食べられちゃう”んだった!」


「千晴先輩、下品です」


「梨子、そういうこと言ってると──今夜は仲間外れにするわよ?」


「そ、それだけは……っ、お姉様ぁ……」


「ふふふっ」


「はははっ」


──ふたりの笑い声が、夜の路地に溶けていった。


「さ、私たちは和也のところへ行きましょう」


今日は、久しぶりに和也に可愛がってもらう日だった。

本来なら、千晴はバレンタインの夜にチョコと一緒に“甘い時間”を過ごす予定で、ピルの調整もしていた。


けれど、あの日は梨子と連名でチョコを渡すことになり──

梨子は「まだ心の整理がつかなくて」と、行為には至らなかった。


その時、千晴にはなぜか“梨子抜きで和也と夜を過ごす”という選択肢は浮かばなかった。



「……なんだか、緊張してきちゃいました」


「大丈夫よ。むしろ今日は、私たちが和也さんを“食べちゃう”日なんだから」


「千晴先輩っ……! やっぱり下品ですっ」


とはいえ、ここは駅に向かう人気の少ない道の途中。

さすがの千晴も、小声でしゃべっている。


「でも、わたし、お姉様と一緒に可愛がってもらいたいです」


「うん。一緒に、たっぷり可愛がってもらいましょう」


だが千晴よ……

ここは往来のど真ん中。


いくら小声とはいえ、今そんな話するか?

……大丈夫か、色ボケ娘。


2年に及ぶ過激な性生活。

だいぶ感覚がズレてきてないか?


まあ──

本人たちが幸せなら、それでいいのだけれど。


──


同刻・シェアハウス


花音がお相手する順番は、入居順。

すなわち──

1人目・阪上 梨紗

2人目・阪中 梨絵

3人目・阪下 梨花


詳しくは省くが、三人はあっという間に弱点を探しだされ

メロメロにされてしまうのだった。



花音メモ(千晴へ報告予定)

•梨紗:下乳の付け根 → 自尊心が強くても性感帯は隠しきれないタイプ。ギャップが萌える。

•梨絵:耳の後ろ → 脳が過敏なタイプ。理性が吹っ飛ぶと豹変しそう。

•梨花:ヒップ上部 → 最も純粋な反応。抱き癖がある。痴漢に会うと危険。



さて、千晴と梨子

今日の予定は、前回とまったく同じ──

個室居酒屋で飲んで、そのまま同じホテルの、同じ部屋に宿泊。


居酒屋代は和也、ホテル代は千晴が支払うことになっていた。


そして今回は、ふたりとも“ある目的”のために、コーディネートまでしっかりと揃えていた。



駅までの道すがら。

春の夜風が、ふたりのスカートをふわりと揺らしていた。


梨子は淡いピンクベージュのフレアミニに、白のパフスリーブブラウス。

足元にはリボン付きのパンプス。まるでお人形のような、小悪魔ロリータ系の妹スタイル。


一方の千晴は、落ち着いたモノトーンのエレガント系。

白のフロントホックブラウスは胸元が深く開き、寄せ上げブラとパッド2枚でDカップ→Fカップに“戦闘力アップ”。


下は、膝上35cmのアシンメトリーブラックミニスカート。

そして、太ももまでの黒のレースストッキング。


──歩くたび、スカートがふわりと舞い上がり、

“絶対領域”からガーターベルトが一瞬だけ、ちらりと覗く。


もちろん、本人たちはまったくの無自覚。


けれど通りすがりの男性たちは、その危うい魅惑に目を奪われ──

振り返る者、足を止める者さえ現れる始末。


梨子:小悪魔ロリータ系妹

千晴:エロ可愛いお姉様


──視線誘導率、最大値。



電車に乗ると、即座に車内の視線がふたりに集中した。


「千晴先輩、今日……やたら注目されてません?」


「まぁ……こんなミニスカート、久しぶりに履いたからね」


「それに胸元も……」


「ふふ。寄せて上げて、パッドも2枚。あとは勇気と演技力よ」


そう言いながらも、千晴の頬はやや赤い。

見せる覚悟はあっても、見られる意識までは消せない。


梨子も照れ笑いを浮かべ、自分の胸元をちらりと見る。


──今日は、“ふたりで”可愛がってもらう日だから。

いつもより、ちょっとだけ大胆に。



やがて、ふたりは居酒屋に到着。

そこにはすでに和也が、スマホを片手に立っていた。


「和也、お待たせ」


「和也お兄ちゃん、お待たせ〜。ねぇ、どうこれ?」


梨子はくるりと回ってスカートをふわり。

危ういところが見えそうになり、和也の目が一瞬泳ぐ。

しかし、梨子の目を正面から見据えて

即答する


「梨子、可愛いよ」


「あら、私にはコメントなし?」


千晴がふくれっ面で詰め寄ると──


「千晴は、エロい!!」


こちらも即答された。


「エロ可愛い、じゃなくて……?」


「違う。今日の千晴は、どストレートにエロい!」


「千晴お姉ちゃん、電車の中でも視線集めまくりだったんだよ?」


「そりゃそうさ。こんな格好の女が同じ車両に居たら──

俺だって、目、離せないよ」


──和也の言葉は、本気だった。


「えっ、えっ、えっ……」

千晴は狼狽する。


そして──


「ここ、1階で良かったな。階段だったら──

後ろに行列できるぞ?」


(……やばっ。駅で階段上がった時、後ろなんて全然気にしてなかった……)


「もう、和也お兄ちゃんったら、からかいすぎ〜」


「い、今のは冗談だよね……?」


「いや、100%本気だぞ」


「……えっ」


「はぃ」


和也は“本気”と書いて、“マジ”と読んだ。



今回の千晴と梨子のコーディネートの目的は明確だった。

**”居酒屋で和也をドギマギさせて、ホテルで主導権を握る”**──そのはずだった。


だが、その目論見は、開始早々に粉々に砕け散っていた。



梨子はというと、「可愛いよ」と即答された瞬間から、すでに様子がおかしい。


(え、なに……? なんか心臓バクバクしてるんだけど……)


「可愛い」なんて、今まで何百回も言われていたはずなのに。

なのに今日は──なぜか、頭の中が和也お兄ちゃんでいっぱいだった。


しかも前回の夜。ベッドでのあのシーンが、次々にフラッシュバック。

あんなことや、こんなこと。今夜もまた……と思うと、


(ど、どうしよう……和也お兄ちゃんの顔、まともに見れないかも……)


もちろんこれは、肉体関係を持った後の男女に特有の空気感。

だが若き梨子には、それがなんなのか、まだわからない。

完全に、恋する乙女モード突入中であった。



一方の千晴。


“どストレートにエロい”というパワーワードにより、急速に冷静さを取り戻していた。


(私……こんな格好、自分でノリノリで選んでたの?)


寄せて上げて、パッド2枚重ね。

膝上35cmのアシメスカート、ガーター仕込み。

どう見ても、攻めすぎ。自分で見ても“マジエロい”。


(……やば……私これで道歩いて、電車乗ってたの?)

(階段……誰か後ろにいたような……)


羞恥心で顔から火が出そうになる。


──しかしその中に、ほんの少しの悦びもあった。


(でも……和也も “エロい=今すぐ抱きたい” って思ってるよね?)


──違います。


……が、千晴の脳内ではすでに“前戯モード”が始まりかけていた。

もはやそっちの準備は、ほぼ整っている。


なんとかしろ、このエロ妄想暴走系お姉様。



そして和也。


彼の脳内は、もっと酷かった。


梨子はロリータ全開の小悪魔モード。

このあとそれを“脱がせる”のだと考えると──


前回の夜に見た梨子の素肌、表情、声、体温、震える吐息──全てがよみがえる。

そのギャップ、破壊力、最強。


一方の千晴は、“どストレートにエロい”ビジュアルで、しかも無自覚。

しかもその姿で、無防備に道や電車を歩いていたと想像すると──


(……嫉妬なのか何なのか分からんが、なんか……ムカつくくらい興奮する)


梨子のロリータ全身。千晴の胸元と絶対領域。

そして今、ふたりとも上気したような表情に見える。


──いや、本当に興奮してます。


視線をどこに向けても危険。

目を合わせても、逸らしても、危ない。

そして今、すでにフル勃起中。


(くっそ……こんな状態で歩けるか……どうやって誤魔化す……)



つまり──ここは誰も勝っていない、全員敗者の戦場だった。


もし誰かが、「もうホテルでよくない?」とポツリと口にしたなら、

その場で全員、即・回れ右だったろう。


──大丈夫か、これから向かう“個室”居酒屋。

変なことに使うなよ?


大切なことだから二度言う。

“個室”の使い方、間違えるなよ。


──


千晴・梨子・和也の3人は、

掘りごたつ式の個室に通された

予約は3名のはずが、なぜか8人は座れそうな広々とした空間。

その中央、片側に寄って──右から千晴・和也・梨子の順に並んで座る。


横並び。偶然ではない。

それぞれが和也に近づく“口実”が欲しかった。


──とりあえず乾杯。

お通しをつまみながら、タブレットで料理を選ぶ。


千晴

(まずは軽く腹ごしらえして……その後の展開は……)

「から揚げ、頼んじゃうね」


和也

(スタミナ、つけとくか)

「焼き鳥セット、3人前で」


梨子

(スタミナ、精力、ニンニク……匂うかな。でも皆で食べれば、怖くない?)

「にんにくのホイル焼き、いきまーす」


千晴・和也

「「攻めてきたな」」


千晴

(精力、子宝、子だくさん)

「……子持ちししゃもも入れとく」


──もはやスタミナ云々なのか、暗喩なのか。

全員、深くは語らず、タブレットを操作する手が妙に早かった。


(料理さえそろってしまえば、あとは“閉じた空間”。扉の向こうには誰もいない……)


やがて料理も運ばれ、乾杯の空気が和らいでいく。



詳しくは言えないが

そこでは決して誰にも見られてはいけないような事が行われた。

そして三人共にすっかり、できがってしまった。


「……もう、出ようか」

和也の声に、二人はようやく正気に返ったように頷いた。



この後に向かうのは、“個室”居酒屋の“次”。


繰り返す。

個室の使い方、間違えるなよ──諸君。



会計を済ませた3人は、隣のホテルへと足を運んだ。

チェックインを済ませ、部屋のドアを開けると、そこはまるで静寂を抱え込んだような空間。

靴を脱ぐ間も惜しみ、和也と梨子は引き寄せられるように唇を重ね合う。


その光景を、千晴は一歩下がった場所から静かに見つめていた。

(……最初は、譲ってあげる)

その言葉は、胸の内で小さく転がりながら、彼女の心を宥めていた。


やがて、和也の想いが梨子の奥深くまで届いた時、

梨子の中でも何かが満たされ、ほどけていき

意思を失った



目を覚ました梨子が気づくと、そこは千晴の腕の中だった。

二人とも、下着すら身につけていない。

けれど、ただ静かで、穏やかな余韻があった。


「起きた?」

千晴が優しく声をかける。

「うん……ありがとう。幸せだった」

梨子の言葉は、心の底から自然にこぼれたものだった。


小さな頃から憧れてきた“お兄ちゃん”。

まさか、こんな形で想いが叶うなんて──。


「よかった」

千晴は微笑みながら、梨子の額に優しくキスを落とす。


(そういえば……

昔、私が泣きそうになった時も、

お兄ちゃんはこんなふうにキスをしてくれた)


──でも。


「……子供扱いは、もう嫌です」

梨子はそっと千晴に顔を寄せ、今度は自分からキスをした。

その一瞬に、千晴はわずかに目を見開いたが、すぐに受け入れた。


唇を離すと、梨子はまっすぐに言った。

「私、本当の意味で、大人になれた気がします」



たしかに、ホテルに入る前とは空気が違っていた。

少女の面影は淡くなり、そこにいたのは、自分の意思で未来を見つめる“女”だった。


「和也お兄ちゃんとの関係、このままでいいわけないですから」

梨子は、迷いのない瞳で続けた。

「私、本当の恋を探します」


千晴はその言葉を聞いて、心の中でつぶやく。


(ああ……なんて強い子

私には思っていても口にできないことを、こんなにはっきりと言える

だから、私はこの子を……こんなにも好きになったんだ)


梨子は、少しだけ笑って言った。

「それまでは、和也お兄ちゃんに……可愛がってもらいます。

これからも、よろしくね──千晴先輩」


それはもう、“妹”としての言葉ではなかった。

“友人”として、あるいは、“女”としてのまっすぐな挨拶。


だから千晴も、迷わずこう返した。

「よろしくね、梨子。私たちは──親友よ」


「えっ、あっ……はい!」

梨子の笑顔は、まるで満開の花のように明るかった。



シャワー室から戻った和也がタオルで髪を拭く間もなく、梨子が勢いよく抱きついてきた。


「和也お兄ちゃん! もう1回しよ!!」


(……え、今いい雰囲気だったよね?

なんなら、これでエンディングでも良かったよね?)


和也の抵抗もむなしく、梨子はそのまま彼をベッドに押し倒す。

火照った身体はまだ冷めておらず、目の奥に灯る炎が、少女から“女”への変化を雄弁に物語っていた。


(……あの感動、返してくれません?)


そんな千晴の心の叫びをよそに、梨子の動きはしなやかで、けれどどこか覚悟のようなものが滲んでいた。

──あれは、昨日までの少女ではない。

和也も、そして千晴も、その変化を確かに感じていた。


「まぁ……仕方ないか。これも、一つの成長なのかな」

千晴はため息混じりに呟き、ベッドサイドに腰を下ろす。

順番を待つ──それはあまりにも不思議な状況だったが、今さら驚くほどのことではなかった。



翌朝。

和也が目を覚ました時

千晴も梨子もまだ和也の腕の中で寝ていた

ベッドの中央で、身動きもできない和也は、ふと思う。


(……うん。今回も、俺の意思とか関係なかったよね)

(ていうか……セリフ、一言も無かったよな)


けれど。


最愛の女性と、ずっと可愛がってきた従姉妹が──自分を取り合ってくれる。

困惑しながらも、そこには確かに幸福があった。



その朝、花音はシェアハウスの2階──阪本梨子の部屋で目を覚ました。

前夜、泊まるならそこを使ってほしいと、あらかじめ案内されていた部屋だ。


鼻先に漂う心地よい香り。

(コーヒー……かしら)

ドアのすぐ外はキッチンとリビング。香りの主に心当たりがある。

花音が部屋をでると


「「「おはようございます、花音お姉様」」」


梨紗・梨絵・梨花──三人の声が揃う。

まるで舞台の幕が開くような登場だった。


「はい、おはよう」


どこか異様にも思えるその出迎えも、花音にとっては馴染み深い光景だった。

仲居寮での生活を思い起こせば、これくらいでは驚かない。


洗面とトイレを済ませたあと、彼女は軽く顔を流す。

(お化粧は後でいいわ)

ふと、このシェアハウスの間取りを思い出す。

──1階にミーティングルームとバスルーム。2階にキッチンと吹き抜けのリビング、個室がひとつ。

3階には個室が三部屋あり、トイレと洗面台は各階に備わっている。

住みやすく、よく考えられた造りだ。


1年後、花音はある出来事をきっかけにこの場所に“入り浸る”ようになるのだが、それはまた別の話。


テーブルに並んだ朝食は、三人が手分けして用意したらしく、とても美味しかった。



昨晩、花音は三人をそれぞれ二度ずつ、優しく可愛がった。


──夕方に一度、夕食を挟んで語らい、そして就寝前にもう一度。


いいや。

バスルームで交代で訪れた三人との戯れも含めれば、三回かもしれない。


花音が浴室で待機していると、三人が順に入ってきて──

濡れた髪と肌に触れる指先、浴槽に響く笑い声。

それは妖しくも愉快な時間だった。


その結果──


今や彼女たちは、花音のことを完全に“お姉様”と崇め、目を輝かせていた。



花音がふと、昨夜のことを思い返していると、玄関の方から賑やかな声が聞こえてくる。

千晴たちが戻ってきたらしい。そして、その隣には──


「和也、久しぶり!」


花音は、とびきりの笑顔で声をかけた。

まるで恋する乙女のように。


「やっ、やぁ……全然久しぶりじゃないけれどもな」

(この前の土日、泊まりがけで会ったばかりだよな)

和也は内心で、ささやかなツッコミを入れる。


「あっ、千晴姉さんもお帰りなさい」


「私はついでみたいね」

千晴はそう返しながらも、どこか余裕のある微笑みを浮かべていた。


その横で──


「千晴先輩、花音さんって……和也お兄ちゃんのこと……」


梨子がそっと小声で尋ねてくる。


「そうよ。私たちの、強力なライバル」


(えっ、わたし、このふたりと争うの?

早く新しい恋、見つけなきゃかも。

いや、でも……負けないから!)


梨子は心の中で、ぎゅっと拳を握りしめた。


そして──

梨紗・梨絵・梨花の三人は、和也を凝視する。


(なかなか格好いいっすね……)梨紗

(素敵な人……千晴さんも梨子ちゃんも、この人と……)梨花

(……和也先輩)梨絵


和也と同じ理工学部情報学科に通う梨絵以外は、和也とはほぼ初対面だった。

だが、既に三人の目には「恋愛対象」としてのスイッチが入りかけていた。


──今、和也はモテ期の真っ只中。

まるでラノベ主人公のような補正を受けたかのように、あらゆるヒロインたちに囲まれている。


しかし、三人の胸の内にはそれぞれ、こんな決意が芽生えつつあった。


(お姉様にお似合い──でも、負けられない!)


──違うベクトルのフラグが、静かに立ち始めていた。



そして冒頭へ


千晴は、リビングの隅でひっそりと頭を抱えていた。


ソファーでは、花音が優雅に紅茶を啜っている。

まるで王国の女王のような風格をまとって。


その周囲には──


「花音お姉様、お寒くないですか?」

「お茶のお代わりをどうぞ」

「昼食は洋食と和食、どちらがよろしいでしょうか?」


──ひざまずき、声を揃える三人の少女。梨紗、梨絵、梨花。

騎士団が忠誠を誓うような荘厳さが、そこにはあった。


……どうして、こうなった。


「こっ、この人数だとここで昼食は無理ね! ね、和也、梨子!

私たち、高橋家で食べない?」


「いいね!」

(えっ、でも俺、この立場で高橋家行っていいの?)

和也は不安げに視線を揺らす。


「行く行くー!!」

(ごめん、みんな。

この空気、耐えられない。)

梨子は内心を隠すように、勢いよくうなずいた。


「じゃあ、花音。お昼終わったら、また来るね」


千晴・和也・梨子──それぞれの想いを胸に、そっとその場を離れた。

いや、戦略的撤退を選んだのだった。



千晴はスマートフォンを耳に当て、自宅に電話をかけた。


「……あっ、お母さん。今から帰るけれど、お父さんと美晴姉さんは?」


『何言ってるの。今日は平日よ。大学に決まってるでしょ?』


「あっ、そうだった……今から二人連れて帰るんだけど、キッチン使える?」


『お昼ご飯? 大丈夫よ。昨日、美晴も帰ってこなかったから、残ってるおかず使えば?』


「うん、ありがとう。何があるの?」


『豚の角煮ね。あと使わなかった青梗菜が残ってるから、何か作りましょうか? 冷やご飯もたくさんあるのよ』


「ありがとう。自分で作るね」


通話を終えたあと、千晴はふと二人に問いかけた。


「そういえば、今日って大学は?」


「千晴先輩、何言ってるんですか。今は春休みですよ」


「そっか……。そういえば、美晴姉さんって大学大好きっ子だったわ」


──大学大好きっ子。

今でこそ理由は違う。

大学に行けば恋人の坂下亮太に会えるというのも、今の美晴の“やる気”を支える理由だった。だがそれはまた、別の話。


「俺も今は特に実験ないし、大学行かなくて大丈夫」


そうして、三人は連れ立って高橋家へと向かった。



「ただいまー」


「こんにちは〜」


「おかえり、千晴。いらっしゃい、梨子ちゃん」


台所から顔を出した幸恵は、その後ろに立つ青年に気づいて目を丸くする。


「……あら?」


「あっ、あの、初めまして。上嶋と申します。このたびは突然お邪魔してしまい、申し訳ございません」


「まぁまぁ、ご丁寧に……大歓迎よ」


幸恵は笑顔で二人を迎え入れたあと、こそっと梨子を手招きした。


「ねえねえ、あの方って……?」


「うん。私の従兄弟の“和也お兄ちゃん”だよ。千晴先輩が──“大学1年の時から”付き合ってる彼氏」


「そっ、そうなの? 千晴、そういうのあまり話さないから知らなかったわ。もしかして昨晩も──?」


さすがに“三人で”とは言えず、梨子は言葉を選ぶ。


「今ね、一ノ瀬さんって方が私の住んでるシェアハウスに来てて、皆で夜更かししてそのまま泊まっちゃったんです」


「そうだったのね。花音ちゃんがうちに来るかもって聞いてたから、角煮たくさん作って、から揚げも仕込んでおいたのよ。今も“二人連れてくる”って言ってたから、てっきり花音ちゃんと梨子ちゃんかと──」


「千晴先輩と和也お兄ちゃん、一度は別れてたんだけど、少し前に復縁したの」


「そう……なのね。じゃあ、から揚げ、食べていってね?」


「わーいっ! 幸恵さんのから揚げ大好き!」


梨子はすっかり高橋家に溶け込んでいた。

二人のやり取りは、まるで本当の親子のようだった。



リビングのソファで、やや居心地悪そうに腰を下ろす和也に、千晴がキッチンから顔を出す。


「お母さん、から揚げ仕込んでたって。冷やご飯もたくさんあるから、炒飯でいい?」


「ああ、ありがとう。噂の“幸恵さんのから揚げ”、楽しみだよ」


キッチンでは幸恵と梨子がから揚げの準備中。


そこへ千晴が戻る。


「和也さん、炒飯で良いって」


「ねぇ! 和也お兄ちゃんに炒飯作ってもらおうよ!」


梨子が弾んだ声を上げる。


「えっ?」


「和也お兄ちゃんの炒飯、美味しいんだよ!」


「いいわね〜。うちの人は料理まったくしないから、男の人の料理って食べてみたいわ!」


千晴は少し躊躇いがちに目を伏せた。


「……うーん、聞いてみようか」


「大丈夫、私が行ってくる!」


梨子は笑顔でリビングに顔を出した。


「和也お兄ちゃん、炒飯作って!」


「え、いきなり?」


「ここは格好いいところ見せるべきだと思うけれどもな〜?」


少し考え込んだあと、和也は笑ってうなずいた。


「わかった。お邪魔じゃなければ、作るよ」



台所では、幸恵と梨子がから揚げを仕上げ、千晴が青梗菜で炒め物を作る。

和也は冷凍エビを使わせてもらい、炒飯の準備を始めた。


下処理は繊細に。仕上げは豪快に。


そして──

できあがった炒飯は、文句なしの美味しさだった。


食卓に並ぶ、から揚げ、角煮、青梗菜炒め、そして和也の炒飯。


高橋家のリビングに、ふわりと湯気と笑い声が広がった。


──いかにもな家族団らん。


それは、親元を離れて久しい和也と梨子にとっても、胸の奥がじんわりと温かくなる、そんなひとときだった。



ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


気づけばこのシリーズも50エピソード。

そして今回で第7話完結です。


正直、ここまで続くとは思っていませんでした。


千晴、梨子、和也、花音。

誰が主役なのか分からないくらい、それぞれが強くなっていく物語でしたね。


特に梨子というキャラクター。

可愛い?

あざとい?

計算高い?

それともただまっすぐな子?


作者としては「強い子」だと思っていますが、

読者の皆さまにはどう映っているのか、ぜひ感想を聞かせていただけたら嬉しいです。


ここまで付き合ってくださった皆さまに、心からの感謝を。


引き続き8話もお楽しみください。


作品の最初、ep1に全話あらすじをアップしています。

ここまでの話を確認したい方は読んでみてください。

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Verry Good
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