【第07話-02】恋と欲と日常のあいだ-千晴・和也
甘えん坊で、あざとくて、計算高い。
――それでも、どうしようもなく可愛い。
如月千紗という少女は、
努力を隠すのがうまい。
笑顔も、声も、仕草も。
すべては「武器」。
けれどその裏側で、
ちゃんと汗もかいている。
コンカフェという小さな舞台で磨かれる、
千紗と優香の現在地。
そして、まだ何も知らない晴道。
にぎやかで、少し危うくて、
だけど確かに愛しい日常。
今回はそんな三人の、
少し騒がしいゴールデンウィークの一日。
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【Scene02:2年前5月】
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ゴールデンウィーク真っ只中のある日の出来事
「甘えん坊で、ぶりっ子で、“ロリ巨乳”な美少女・千紗ちゃん、登場!」
(うーん、なんか違う)
「甘えん坊で、ぶりっ子で、“ロリ巨乳”な美少女・千紗ちゃんだよ〜」
(“だよ〜”って何よ)
高校2年になった千紗は、姿見の前でキャラ作りの練習中。
これを誰かに見られたら、黒歴史一直線である。
幸い、美優母様は買い物、兄はバイトで不在――のはずが。
「千紗、いるの?」
玄関の外から、幼なじみ・優香の声。
「あっ、優香! どうしたの」
「どうしたの、じゃない。バイトの時間でしょ」
「え、もうそんな時間!? 今、準備する!」
「さっき、一人で何しゃべってたの?」
「えっ……聞こえてた?」
「さあ、どうかしら?」
にやにや――千紗は真っ赤になったり青くなったり、忙しい。
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「いらっしゃいませ、ようこそ!」
二人の美少女が、安っぽいアイドル風の衣装で接客している。
ここはコンカフェ。メイド喫茶ブームの派生形だ。
千紗たちの学校は“授業のある日はバイト禁止、土日祝はOK”。
だから二人はGWを丸ごと“夏の貯金”に当てる作戦にした。
衣装は――へそは隠れるが、お腹は見える。下乳が”見えそうで見えない”。
ただし接客自体は健全路線。店のルールは「撮影は店のチェキのみ/スタッフ同伴/ボディタッチ禁止(握手はOK)」と徹底されている。
衣装が攻めている分、時給は3,000円(※GWイベント手当込み)。
さらに“特別メニュー(ツーショチェキ付き)”には歩合ボーナス。
•ラブラブ・オムライス:1,300円(ケチャップでハートを描く)
•握手付き:1,800円(バック300円)
•ツーショチェキ付き:2,500円(バック1,000円)
千紗は“ぶりっ子ロリ巨乳美少女”を演じ、愛想をふりまきまくる。
優香は同じ衣装でも無愛想――だが、それが“クールビューティ”として刺さる。
二人はこの店にぴったりの看板ペアになっていく。
鉄板で卵が固まる“じゅうっ”という音。
バターの甘い匂い。
ケチャップボトルを押す“プシュッ”。
スマホのシャッター音の代わりに、店のチェキ機が“ウィーン”と写真を吐き出す。
テーブルの向こうで、緊張したお客さんの笑いがほどけていく。
「千紗さん、ご指名。ラブラブ・オムライス、ツーショット付き」
「は〜い、ラブラブ注入しちゃうぞ♡」
――あざとい、でも刺さる。今日も人気。
「優香さん、ご指名。ラブラブ・オムライス、ツーショット付き」
「あ、あの……あんたなんか、何とも思ってないんだからね」
――なぜツンデレ。だが“美人女子高生”がやると、それも刺さる。やはり人気。
初来店の会社員風の青年。手が震えて、ハートがうまく描けない。
「いっしょに描こ?」と千紗が後ろから手をそっと添える。
赤い線がふるふると丸みを帯び、ハートが完成した瞬間、周りから小さな拍手。
チェキ“カシャ”。千紗は胸の前で指ハート。「ありがと。また会いに来てね」
にやけ顔で退店する青年。
――こうしてリピーターが増える
千紗と優香のシフトは12:00オープン〜18:00の6時間。
食材が切れるまで売れ続け、千紗は1日最高30件、優香も最高20件(同)。
歩合が時給を超える日も珍しくない。
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「そろそろ上がりの時間だな。ナイト君、もう来てるよ」
店長は普通のおじさん――しかし、とてもいい人だ。
(ラノベなら“美人女店長”か“ごついオカマさん”が定番なんだけどな)と、千紗は失礼なことを思いつつも、彼には感謝している。
「君たちは人気者だから。18時で必ず上がり。ストーカー対策で駅まで護衛をつけようか」
「じゃあ、幼なじみに迎えに来てもらいます!」
「それなら、その子にも日給1,000円と交通費を出そう」
控室では“ナイト君”こと、晴道が待っていた。
「おつかれ、千紗、優香」
「つかれた〜。晴道、着替えるから、ちょっと待っててね」
「いつもありがとう、晴道。朝から別のバイトもしてるのに」
「いいって。日給もらえるし」
「晴道〜」「なんだい」「絶対、覗いちゃダメだよ?」
千紗は豊かに盛り上がる胸の下の布を“ちょい見せ”。
「そ、そんなことするわけないだろ!!」
「わたし、晴道になら……覗かれても、いい……」
天然・優香の無自覚爆弾。晴道、顔真っ赤。
「イケメン+美少女+美女の幼なじみ……」
「尊い」
「推せる」
「白米がすすむ」
入れ替わりで入るお姉さま店員たちまで、つい口を挟む。
二人は同僚にも愛されていた。
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着替えを終え、店の外ヘ。
晴道は出待ちがいないか、先にチェック済み。
「はーるーみーちー!」
千紗は駆け寄り、がっつり腕にしがみつく。自慢の胸を押し当てながら。
「うわっ、千紗、くっつくなって」
「えー、晴道、わたしのこと、嫌い?」――上目づかい。あざとい。でも可愛い。
「いや、嫌いじゃないけど……あの……当たってるんだよ」
「なにが当たってるのかな〜? 千紗、わっかんなーい」
「だ、だから、その……!」
視線は胸元から離れない。
「ねえ、“当たってる”じゃなくて、“当ててる”の♡」
耳元でささやき、ふっと息をかける。
「ばっ、ばかかぁ!!」
「もう、千紗ったら、毎回からかって……」
遅れて出てきた優香が、ため息をつく。
「晴道も慣れなさいよ。そんなの、ただの脂肪でしょ」
「これが“持つ者”と“持たざる者”の差というやつですよ〜♡」
「な、なによ! 大きければいいってもんじゃないの!」
「じゃあ今日のツーショ、優香は何枚だっけ?」
男はだいたい巨乳に弱い――勝負はいつも、千紗の勝ち。
……そこで、優香は胸の中でつぶやく
(でも、昨日より指名は増えた。……私も、負けてない)
「そ、そりゃ……大きいに越した……」と思わずごにょる晴道
「でも、優香、あの衣装すごく似合ってたよ」
そこで慌てて優香をフォローすると、すかさず千紗が拗ね顔。
「じゃあ、千紗のは似合ってないの?」
「千紗は…お、おっきくて似合いすぎ……」
“おっきくて”は小声でも、正直すぎる晴道。
優香がズーンと沈む。
からかいすぎたかと反省した千紗は、晴道と優香の手を取ってぎゅっと握らせる。
「今日は、優香に譲ってあげる!」
三人のあいだを、GWの夕風がやわらかく通り抜けた。
穏やかな日常は、こうしてまた一つ、思い出を増やしていく。
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おかげさまで、40エピソードまで辿り着くことができました。
ここまで読んでくださっている皆さま、本当にありがとうございます。
千紗たちの青春と、千晴の恋。
同じ時間軸の中で、違う温度の物語が進んでいます。
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次回、
うまくいき過ぎる少女は、少しずつ削れていく。
「売れる相手にしか売れない」という噂。
“誰にも嫌われたくない”という弱さ。
そして、支えると決めた男の覚悟。
交わらなかったはずの過去が、
静かに、再び近づく夜。
選ばないことを選び続けた少女の、揺らぎ。




