【第07話-01】恋と欲と日常のあいだ-千晴・和也
第7話、開幕。
第6話で明かされた策略と選択の余韻は、
まだどこかに残っている。
けれど時間は進み、季節は巡る。
舞台は4月。
高橋千晴、社会人一年目。
恋でもなく、欲でもなく、
けれどどちらとも無関係ではいられない日常の中で、
彼女は“新人”として立つ。
これは特別な夜の物語ではない。
選ばなかった未来を胸に抱えながら、
それでも前へ進む者の話。
恋と欲と日常のあいだ――
新章の始まり。
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【Scene01:2年前4月】
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4月初日、高村不動産にはその日、新入社員を三人迎えた。
高村蘭は事務所の中心に置かれたミーティングテーブルで、三人と顔を合わせる。
•営業希望:坂本正
•事務希望:大橋律子
•経理経営希望:高橋千晴
「面接の時にも会ったが、改めて挨拶をさせてもらう。私がこの高村不動産の代表取締役社長の高村蘭だ。我が社は君たち三人を歓迎し、活躍を期待している」
「「「はい、よろしくお願いします」」」
三人の声が揃う。
「面接でも説明したが、我が社は完全週休二日制を採用している。定休日は水曜で、そこにもう一日休みを合わせ週二休としている。火曜か木曜を基本としているが、土日を選んでも構わない。ただし今週は今日から来週火曜まで社内業務説明とオリエンテーションを行う。そのため来週木曜を休みにしてもらう。その後は説明通り、まずは二年間、営業を経験してもらう事になる」
「「「はい、わかりました」」」
再び声が揃う。
蘭は心の中で頷いた。今年の新入社員は出来がいい。
坂本は体育会系だが礼儀をわきまえ、筋の通った性格。
大橋は誠実を絵に描いたようで、細やかな気配りが期待できる。
そして高橋千晴――格別だった。
他の二人とは明らかに雰囲気が違う。姿勢は凛として、一言一言を漏らさずメモに取りながら、決してこちらから視線を外さない。手元に視線を落としているはずなのに、そうは見せない。
──この子がいるだけで、同期全体の水準が底上げされる。
蘭は満足し、同時に期待を覚える。
「そういえば高橋君、明後日が誕生日だったな。休みを入れなくてもいいのか? 恋人はいないのかな?」
場を和ませるつもりでの一言だった。千晴ならば軽く受け止めてくれるだろう、と。だが千晴の表情は一瞬曇る。
「いえ、お付き合いしている人はいません。それに……もう家族に祝ってもらうような年齢でもありませんので」
心の奥で千晴は思ってしまった。
もし和也との関係を続けていれば、ささやかでも温かな祝いがあっただろう。
もし達也について行っていたなら、高級ホテルでの夜だったかもしれない。
けれど、どちらも叶わない。選ばなかったのは、自分自身なのだから。
「すまなかった。今のは完全にセクハラだ。ここに謝罪する」
蘭は大勢の社員たちが見ている中で深々と頭を下げる。
「いえ、そんなことはありません。どうか頭を上げてください」
千晴は慌てて答える。だが、社長自らの率直な謝罪は、新入社員たちに強い好感を与えた。千晴もそれを感じ取り、この社長は只者ではないと認識を改める。
以降のミーティングは和やかに進み、蘭は社内案内を中堅社員に任せて社長室へ戻った。
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蘭は机に腰掛けながら、昨年の発表会を思い出す。
あのとき初めて千晴を目にして思った。
──似ている。“美優”……かつての思い人に。
だが今日、目の前にいたのは「理想の新入社員」だった。
発表会で感じた圧倒的な存在感は消えていた。いや、必要とされる場面によって、彼女は自在に姿を変えるのだろう。
「優秀な司会者として必要だったから、支配的な存在感を纏った……。今日の彼女は、新人として求められる姿を体現していた。そういうことか」
自嘲めいた笑みを浮かべつつも、納得する。
蘭はふとパソコンを開き、氷室設計事務所からのメールを確認した。
現在進めている自宅設計に関する調整依頼だ。手を抜けるものではない。
思い出す。あの発表会に氷室から誘われたときの言葉――
「面白いものが見られる。お前の好みに合うはずだ」
まさにその通りだった。そしてお礼代わりに、自宅設計を依頼した。通常より高いグレードでの注文。
「そういえば氷室には、まだ伝えていなかったな。あの時の少女が我が社に来た、と」
蘭はメールの返信に取りかかる。
自然と、自慢げな文面になるのを抑えきれなかった。
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土曜は社内で、新入社員向けのオリエンテーションが行われた。
まだ右も左も分からない千晴たちにとって、先輩社員の体験談やアドバイスはどれも興味深く、仕事の現実を想像するきっかけになった。
翌日の日曜は現場視察。
複数の空き物件を回り、それぞれのアピールポイントを自分なりにまとめるという課題が与えられた。
夕刻、千晴たちが最後に訪れたのは、千晴の家の近所にあるシェアハウスだった。
ここは以前、大学の授業の一環で高村不動産を訪れた際にも見学したことがある。
定員四名だが、現在は三人しか入居していない。
――来週からの実地研修では、この空室の契約者を勧誘することも課題になるらしい。
そう聞かされ、千晴は自然と背筋を伸ばした。
すでに入居者三名にはアポイントが取られており、全員が揃って待っていた。
「――あれ、高橋先輩じゃん!」
出迎えた軽いノリの少女が声を上げた。
「梨紗、知り合い?」
隣の子が小声で尋ねる。
「うん。この春卒業した先輩」
彼女――阪上梨紗は、千晴が卒業した経済学部の二年下の後輩だった。
他の二人は面識がなかったが、やはり同じ大学の後輩らしい。
名前は阪中梨絵と阪下梨花。三人並ぶと姉妹のように雰囲気が似ていて、どこか親しみやすさを感じさせた。
対応に立ったのは、先輩の女性社員だった。
「本日はお忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます。
弊社では、この春に一名が大学を卒業されて退去されたお部屋の新しい入居者を募集しております。
本日はその件について、ご意見やご希望を伺えればと思っております」
梨絵がすぐに口を開いた。
「やっぱり、同じ大学の子がいいよね」
「そうそう。規約上は女性専用じゃないみたいだけど、男性はちょっとね」
梨花も頷く。
女性社員は柔らかく微笑んだ。
「ご安心ください。空室の段階であれば男女を問わず募集いたしますが、このようにすでに女性だけで入居されている場合、新たに男性の方をご案内することはございません」
「そっか、なら良いよ」
梨紗たちは安心したように笑顔を見せた。
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視察を終え、シェアハウスを後にしたところで、先輩社員が声をかけた。
「少し早いけれども、社長から今日はここで解散にしてよいと指示されています。社屋に取りに行きたいものがあれば車で送りますけれど、どうしますか?」
「私は家が近所ですので、このまま帰ります」千晴が答える。
「俺は会社からの方が駅に近いから、乗せていってください」
「私もお願いします」
坂本と大橋は社に戻ることを希望し、結局、千晴だけがここで解散となった。
母から「今日は早く帰るように」と言われていたが、それにしてもまだ時間が早い。
少し迷った末、家の固定電話にかけてみる。
「はい、高橋です」母が出た。
「あ、母さん。仕事が終わったから、そろそろ帰るけど、何かある?」
「えっ、早いわね。ちょっと待ってね」
保留にされたあと、再び母の声が戻ってくる。
「牛乳買ってきてくれる? コンビニじゃなくて、スーパーにあるいつものブランドをお願いね」
――少し遠回りになるけれど、急ぐこともない。
千晴はそう考え、ゆっくり帰ることにした。
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「サプラーイズ! ハッピバースデー!! 千晴!」
玄関のドアを開けた瞬間、クラッカーの音が響いた。
視界に飛び込んできたのは――どこのアイドルだよ、とツッコミたくなる衣装姿の中田美由と田中由美。
「ちょ、ちょっと……なんで!?」
「なんでって、親友の誕生日をお祝いに来たんじゃん!」
「花音は来られなかったから、お母様に連絡して計画立てたの」
更に奥には、美由・由美と同じ衣装を身にまとい、恥ずかしそうに立つ姉・美晴の姿。
その隣には、昨年秋から交際している姉五歳年下の大学二年生――坂下亮太の姿もあった。
眼鏡の奥に光る切れ長の瞳、精悍な顔立ち。
けれど今の彼の目の奥には、ハートマークが浮かんでいるかのようだった。
当然、その視線の先にあるのは、愛しの美晴のコスプレ姿である。
「みんな……ありがとう」
千晴の目に涙が滲む。
――暖かな時間を過ごす幸せ。
それを、胸の奥で何度もかみしめた。
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宴の後に千晴は、美由と由美から今回の経緯を聞くことになる。
二人によれば、きっかけは新倉南の誘いだった。
『私たち親友よね? 今度東京に遊びに来ない? 旅費はこっちで持つから』
そう強引に言い切られ、由美は頷くしかなかったらしい。
……いや、電話だから頷いても見えないのだけれど。
予算の出所は和也。
ディズニーリゾートの予約を取ってもらった恩義もあり、美由と由美は無下に断れなかったのだろう。
さらに聞けば、本当は今日会う予定だったのを“千晴の誕生日だから“と明日にしてもらったという。
「千晴も来ない?一泊する予定なの」
由美が声を潜めて誘う。
千晴は和也から聞かされた」霞の宿での痴態”を思い出したが、冷静を装い、さらりと言う。
「南が私を呼んだわけじゃないんでしょ? じゃあ行かないわよ。明日も仕事だし」
そうして話題を変え、笑いながら夜は更けていった。
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翌週(水・木の連休明け)。
新入社員の三人はいよいよ営業の現場に入った。
通常なら先輩に付き、接客の所作を“見て学ぶ”のが定例だ。だが、蘭はあえて宣言した。
「高橋君は、初めから一人でやらせるように」
即座に異議が上がる。常に営業成績トップ争いをするベテランだ。
「社長、そんなことをしてお客様を怒らせたり、契約の機会を逃せば社の損失です」
しかし蘭は一喝した。
「私の判断が信用できないかね? 問題が起きた場合は、私が責任を取る」
それ以上、反対は出なかった。恐怖ではない。――会社の誰もが「社長の判断に従っていれば大丈夫だ」と知っているからだ。
当の本人は困惑したが、期待されれば応えるのが千晴だった。
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初めての接客は、朝一番に訪れた老夫婦。名は「阪本」と名乗った。
近くの大学に通う孫娘が、老夫婦の家から通っているという。息子夫婦は都内在住だが、孫のキャンパスまでは遠いためだった。
ところが、その孫娘が「一人暮らしもしてみたい」と言い出した。息子夫婦に相談すると、反対はなく、むしろ「独立の経験はさせるべきだ」という意見だったらしい。
――けれど、祖父母の胸には不安がある。
千晴は物件紹介に入る前に、まずそこに寄り添った。
「お孫さんは今、何年生でしょうか?」
「いま、3年目です」
「あと二年ですね。一人暮らしに慣れた頃には卒業、というタイミングになりそうです。でしたら“シェアハウス”という選択もあります。
完全な一人暮らしと違って安心感がありますし、家事は分担で責任感も生まれます。同居人に教えてもらうこともできるはずです」
「そうなの? でも、それで一人暮らしって言えるのかしら?」
「お孫さんの言う“一人暮らし”が、“保護者からの独立”を指すのだとしたら、十分に叶いますよ。まずはその意味を、ゆっくり話し合ってみてはいかがでしょうか」
「そうね。孫も午後には帰ってくるから、話してみるわ」
老夫婦は一度店を後にした。
影から千晴の接客を見守っていた中堅社員は驚きを隠せない。――新入社員の初接客とは思えない、と。
すぐに社長へ報告が上がり、蘭は大いに満足した。
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その日の午後一。老夫婦は孫娘を連れて戻ってきた。
顔を合わせた瞬間――
「千晴先輩!?」
千晴がよく知る顔だった。阪本梨子。上嶋和也の母方の従姉妹で、千晴の二つ下の後輩だ。
和也と交際していた頃、当時高校生の梨子を「この大学を受験するんだ」と紹介されたことがある。
交際していた事は知らせず、単なる後輩として話したはずなのだが
そのときの目は、たしか“恋敵を品定めする”ような光を宿していた。
「あら? お知り合い?」
「うん。和也お兄ちゃんの元カノ」
「まあ、そうなの! ご縁があったのね」
「私が今使わせてもらってる部屋、前は和也お兄ちゃんが使ってたのよね?」
「ええ、そうよ」
「和也お兄ちゃんが一人暮らし始めたの、今の私と同じ3年のときだよね?」
「ええ、そうだったわね」
「この千晴さんと付き合いだしたから、でしょ」
「おい、梨子、お前も!」祖父が咳払いをする。
「おじいちゃん、大丈夫。“私は”違うわよ」
――まるで、和也は“その目的で”一人暮らしを始めたと言いたげだ。
千晴の脳裏に、引っ越しを手伝った夜のことがよぎる。初めての夜。……すぐに頭を振って追い払う。
「そろそろ、物件のご紹介をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「そうね。千晴先輩、おばあちゃんから話は聞いたよ。シェアハウスがいいんじゃないかって」
「はい。現在、同じ大学の女子学生が三人暮らしています」
「それって、梨絵たちが住んでるとこ?」
「ご存じでしたか。はい、その物件です」
「おばあちゃん、私そこにするね」
梨子の決断は早かった。
「あの、物件の詳細は――」
「おばあちゃんに説明してあげて。私、何度も遊びに行ってるから大体わかるし。……あ、2階の先輩、卒業だったんだね」
梨子はスマホを取り出し、素早く指を走らせる。グループLINEに『入る!』と一言。既読が瞬く間に並ぶ。
「では、阪本様。よろしいでしょうか?」
「ええ、お願いしますよ」
説明を終えると、千晴は祖母と仮契約の手続きを進めた。
その様子を見ていた梨子が、ひょいと顔を出す。
「終わった?」
「お待たせして申し訳ございません」
「みんなへの連絡、済ませてるから」
差し出された画面には、シェアハウス住人とのグループLINE。
すでに「入居決定」で大盛り上がりだ。
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社内。朝イチに苦言を呈したベテランが、小走りで社長室へ。
「新入社員が、初日で契約……前代未聞だな」。報告を受けた蘭は、満足げに目を細めた。
「たまたま縁があっただけですよ」とベテランが苦笑する。
蘭はすっと目線を上げた。
「何度も言っているだろう。縁を引き寄せるのも実力のうちだ。――そんな言い草をしていると、ほんとうに千晴にトップを取られるぞ」
社長が社員を“名前呼び”するときは上機嫌――それを損ねるのは厄介だ。
ベテランは黙って頷くしかなかった。
蘭は社員の経歴をすべて頭に入れている。
このベテランも、新人時代から優秀だったようだが、単独接客で初契約を取ったのは三か月目と記録にある。
それでも十分早い記録――だったのだが。
「一日目、一人目の接客で契約、か。……破られない記録になったな、千晴」
蘭は小さく笑みを浮かべた。
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その結果、シェアハウスの顔ぶれはこう整った。
・阪上梨紗
・阪中梨絵
・阪下梨花
・阪本梨子
「なんだか、初めから仕組まれていたみたいね」
千晴はひとり、ぽつりと呟く。
それは、この先ある人物が千晴に与える呼び名――
『運命改竄の魔女』
の力が、すでに働いていたからなのかもしれない。
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その日の夜、高橋千晴は心の中で頭を抱えていた。
……どうしてこうなったのか。
時計の針を少し巻き戻そう。
千晴は初の接客業務を終え、初日から契約を取れたことで賞賛され、心地よい疲れとともに帰宅。夕食を済ませた頃、梨子から呼び出しを受けた。
例のシェアハウスに来てほしい、と。――“和也お兄ちゃんの元カノ”としての呼び出し。嫌な予感はしたが、近所だ。無下にも断れない。
訪れると、1階のミーティングルームに招かれた。
広めの部屋に簡素な机と椅子。
阪上梨紗/阪中梨絵/阪下梨花/阪本梨子――全員が顔をそろえている。
挨拶もそこそこに、梨子が千晴を見据える。
「“あれ”って、どういうことですか?」
見当がつきながらも、千晴は確認した。
「“あれ”とは、何のことでしょうか?」
「和也お兄ちゃんの“今カノ”のことよ!」
(ですよね〜)
「えっと……“新倉南ちゃん”。昨年秋に和也さんに告白して、今はお付き合いしています……」
「そんなこと、わかってる! 千晴先輩、いつ和也お兄ちゃんと別れたの?」
いや交際していたとは話していないはずだがと千晴は考えたが
当時からしてバレていた様子だったので、否定はしなかった。
あの“4人の夜”にも考えたことだが、別れ話はしていない。区切りは、いまだ付いていない。
いや、和也と南が正式に付き合いだした以上、その時点で振られた――そうなるのだろうか。
あの夜を説明できるはずもなく、千晴は心の中で頭を抱えた。
「3年前の春ごろには、和也さんに……私から距離を取られて。いえ、取って“くれた”と言いますか……」
千晴の”誰からも好かれたい、誰にも嫌われたくない”という厄介な性格は、こういう時に本当に面倒だ。
和也のことを悪く言って、後からばれて嫌われるようなこともしたくない。
目の前の少女を騙して嫌われたくもない。
その矛盾が、千晴の胸を押しつぶす。
「えっ、私が千晴先輩を紹介されて、そんなに経ってないころの話なの?」
「別れ話をされたわけではないので……正式に“振られた”のは昨年秋かな、とも……」
「私、”千晴さんには絶対かなわない”と思って諦めたのに〜、わーん」
芝居がかった泣き方は、ぴたりと止まる。
「で、“今カノ”って、どんな人なの?」
「一見かわいらしい子だけど、眼鏡を外すと美人さんよ。あと、脱ぐと胸とお尻がすごい。コスプレイヤーもやってるそうで……」
「和也お兄ちゃん、意外と巨乳好きだから……」
梨子は自分のつつましい胸を見下ろしながら言う。
「それで――意外というより、かなり“したたか”。私、全然勝てる気がしません」
何に勝つのか曖昧でも、それが千晴の正直な感想だった。
そこまで聞くと、梨子はあっけらかんと言った。
「あ、別にいいの。すっきりしたかっただけ。今、和也お兄ちゃんに未練があるわけじゃないから」
「今ね、好きな人がいるの!だからおばあちゃんち、出たかったのよね〜」
そして、五人の“恋バナ”は夜更けまで続いた。
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時は少し遡る。千晴の誕生日の翌日、遅い時間。
中田美由は心の中で頭を抱えていた。……どうしてこうなったのか。
中田美由(由美の親友/新倉南の親友?)
田中由美(美由の親友/新倉南の親友?)
新倉南(高倉南の親友/美由・由美の親友?/和也の現在の恋人)
高倉南(新倉南の親友/達也の現在の恋人)
上嶋和也(新倉南の現在の恋人/千晴の元カレ)
大杉達也(高倉南の現在の恋人/千晴の元カレ)
由美曰く──「達也さんは”千晴のカレじゃない”って言ってたけど、知らん、無視」。
美由は思う。
(千晴、無理やり連れて来なくて良かった。)
由美は思う。
(正直、期待してなかったと言われたら期待してた。でもこれは予想の斜め上。新倉南ちゃんの“親友”の高倉南さん、その彼が達也さんって……)
和也は思う。
(俺、二人分の旅費まで出して、何したいんだろ)
達也は思う。
(これ、どつぼにはまってないか? “南の初めてが……”って言われたら何も抵抗できないって。……いや、千晴がいないだけマシだと思うことにしよう)
沈黙を破ったのは、一番年少の新倉南だった。
「……始めましょ」
そこからは他人に語れるような事はなかった
そして──お肌つるつるで大満足の顔の女性陣4人と、出涸らし状態の男性陣2名。
「ねぇ、また呼んでもいい?」と南
「うっ、うん……まぁ、たまになら」と由美
「今日って平日ですよね」
「まぁな。学生の君と違って、俺は仕事として責任がある……」
「お疲れ様です。それでも反抗できない“南の初めて”って何ですか?」
「きっ、聞かないでくれ」
「はぁ」
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そんなこと知る由もない千晴は、仕事にやりがいを感じていた。
やがて、阪本梨子との契約も正式に完了し、入居が決まる。
このとき3年の梨子が入ったことで、2年後にぴたりと全員が同時卒業・同時退去になる。
それが、のちに千晴の運命を大きく変えることになる。
もし、初日に千晴が一人で接客を始めていなかったら。
もし、あの日、わずかなタイミングの差で梨子の祖父母の来店に千晴が担当していなかったら。
もし、千晴がそもそも和也と付き合っていなかったら。
もっと違う未来があったのかもしれない。
それもまた、『運命改竄の魔女』の力だったのかもしれない。
そしてそれは、彼女の知らぬところで、すでに始まっていた。
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第7話始まりました。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回は和也や達也の関係性よりも、
“シェアハウスの少女たち”に注目ください。
梨紗、梨絵、梨花、そして梨子。
名前も空気感もどこか似ている四人ですが、
物語の中で担う役割は、それぞれまったく違います。
とくに――阪本梨子。
現時点では、少し生意気で、少し茶目っ気があって、
千晴をからかう後輩ポジションに見えるかもしれません。
ですが彼女は、
ただの“元カノいじり要員”では終わりません。
新倉南が“計算して勝ちにいく女”だとするなら、
梨子は“感情で盤面をひっくり返す女”。
いずれ真正面から相対する時、
どちらが上に立つのか。
この先の物語で、
彼女は確実にキーキャラクターになります。
エロよりも、関係性。
欲よりも、駆け引き。
そして、少女たちのしたたかさ。
ぜひ、梨子の言動を覚えておいてください。
ここから先、第7話は
恋と欲と日常の境界線を、さらに揺らしていきます。




