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三人のヒロインとシェアハウスすることになった僕は、全員を本気で愛して呪われてしまった。 ――告白は観覧車のてっぺんで  作者: iron-bow


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【第06話-04】運命改竄(デスティニー・リライター)ー千晴・達也

今回は、達也側の物語が大きく動きます。


千晴との別れのあと、

彼はどこへ向かい、誰と出会い、

そして何を選んだのか。


運命は、ひとりの力だけで動くものではありません。

時に、それは複数の意志によって静かに書き換えられていきます。


少し重めの回になりますが、

最後までお付き合いいただければ嬉しいです。




【Scene05:2年前2月】



卒業式の日、達也が千晴へ告げた別れの言葉はあっさりとしたものだった。

「またな。次は、どこで会うことになるかな?」


千晴の返事も同じように簡潔だった。

「うん。達也も、元気でね」


それっきり二人は二度と会うことはなかった。


二人の出会いがなければ霞の宿の今はなかった。

また、達也が大学を移籍する決断も無かったかもしれない。


少し先の未来。和也が名付けた千晴の力。

”そこにいるだけで、他人の運命をより良い状態に動かす女――運命改竄の魔女デスティニー・リライター

達也もまた、その運命に巻き込まれた一人だったのかもしれない。


千晴は考える。


(達也のことは、確かに“好き”だった。

でもそれが、なぜ“恋”や“愛”に変わらなかったのか──はっきりとはわからなかった。

きっと私は、わがままなのだ。

誰にも嫌われたくない。誰にも遠ざけられたくない。

そんな気持ちを、捨てきれなかった。

達也だけのものになって、花音や、里のみんなと疎遠になるのが怖かった。

私は、誰にも好かれたままの私でいたかった。

たとえそれが、矛盾だらけの気持ちだったとしても)


千晴は知らない。

和也がそんな千晴を誰よりも深く理解していることを。

そして、愛ゆえに千晴のもとを離れたことを。


運命に翻弄されながら、

千晴が本当の意味で“恋”をして“愛”を知るまでには、まだ二年の月日が必要だった。


そしてそれは、彼女の知らぬところで、すでに始まっていた。



【Scene06:2年前3月】



ある春の日、大杉達也は、元の大学から今度の大学への私物の移動を終えていた。

元の大学では准教授、今度の大学では教授。割り当てられた部屋も広くなり、引っ越しは意外なほど簡単に済んだ。


そして彼をこの大学へ引き抜いたのは、かつての恩師である学部長だった。

その日の夕刻、恩師の家へ招かれ、夕食と晩酌を共にした。


そこで、恩師の娘と再会する。

高倉南、三十二歳。

彼女は高校時代から達也を慕っており、十六年越しの想いを秘めていた。


達也は思う。

(似ている……あの新倉南に。名前だけじゃない、纏う空気も近い。十二歳の年の差があっても、なお。)


二か月前、心に灯ってしまった黒い火。それが、彼女を目の前にして再び揺らめいた。


――恩師が酔いつぶれ、夜も更けた頃。

帰り際に南が言う。


「送って行きます」

「いや、外は暗い。そんな訳にはいかない」

「なら……少し散歩でも」


彼女はそう言って立ち上がった。


南の装いは、落ち着いて見えて、しかし計算され尽くしていた。

控えめなクリームベージュのブラウスは、胸下で絞られていて、豊満な曲線を自然に強調する。

濃紺のミニスカートは大人びた印象を保ちつつ、膝上で視線を奪う。

ふとした角度で、薄手の布地越しに淡いラベンダー色の下着が透ける。

三月の夜気を理由に羽織ったオフホワイトのカーディガンは、身体のラインを隠すことでむしろ輪郭を強調していた。


(今日、俺が訪れることを知っていたはずだ。これは、誘いなのか。)


達也はそう思った。

それはあくまで男の自分勝手な思い込みに過ぎないかもしれない。

だが否応なく、心に黒い炎が燃え上がっていくのを止められなかった。



達也と高倉南は、夜の街を並んで歩いていた。

南は自然に彼の横へと寄り添い、その距離感はまるで付き合い始めた恋人同士のようだった。


(雰囲気に飲まれたな)

そう自覚しながら、達也はそっと南の腰に腕を回す。指先を下げ、軽くヒップを撫でる。

その感触は豊満で、自分の好みにあまりに合致していた。

脳裏に、あの”もう一人の南”の夜がよぎる。


(完全にセクハラオヤジだな……)

達也は苦笑するように自嘲するが、南は拒むどころか腕を組み、その胸を押し付けてきた。

その瞬間、達也は確信する。――これは、誘っている。


「もう少し、時間いいですか?」

南は軽やかにそう告げ、巧みに達也を公園へと導いた。


その公園は街中にありながら、木々が茂り、道路からは死角になっていた。周辺の住宅からも視線が通らない。夜気が満ちる閉ざされた空間。


さらに、公園の通路から少し外れた小さな空間へと達也は案内された。

そこは、誰にも見られない場所。

実のところ、そうした目的で男女が訪れることで知られる「隠れた名所」だった。


ただし時間を誤れば、別のリスクもある。

深夜になれば覗きが現れる。だが、今はまだその前――。

人通りは減り、しかし余計な影が紛れ込むには早すぎる。


すべて計算された時間だった。

父親に晩酌を勧め、今この刻限に眠り込ませたのも、その布石。


――ここは女が周到に張った蜘蛛の巣。

達也はそれを知らぬまま、足を踏み入れ、絡め取られていく。



「16年前のこと、覚えていますか?」

南の声は、夜気に溶け込むように柔らかかった。


「もちろんだよ」

達也は答える。あのとき、彼女が未だ16歳で、子供であることを理由に交際を断ったのは確かだった。


「私、もう子供ではありません」

その言葉に、達也は少し可笑しさを覚える。


(そういうのは十八、二十になった頃に口にする台詞だろう。――もう三十二歳なのに)


だが南は続ける。

「もう、こんなこともできます」


彼女は達也の手を、カーディガンの下へと導いた。

布越しに伝わる形は、確かに「成熟」を物語っている。

気がつけばブラウスのボタンが二つ外れており、谷間が夜の陰影に浮かび上がっていた。


(割り切って付き合える年齢だ。もう小娘ではない』 )

達也はそう自分に言い聞かせた。

それが女の仕掛けた罠とも知らずに。


顎に手を掛け、唇を重ねる。


唇を離した南は告げた。

「でも、勘違いしないでください。……男の人の経験はありません。南はずっと、達也さんだけを慕ってきました」


そこから先の記憶は断片的だった。

気づけば、南は達也にもたれ掛かり荒い息をしていた

着衣は乱れていた。


(俺はこんな所で南の初めてを最後まで・・・)


達也は南の身体を抱きしめ

もう一度優しいキスをした。


「俺と付き合ってくれ」

千晴にさえ言えなかった言葉が、自然と口をついた。


「はい」

南は微笑んだ。その表情には“してやった”という勝ち誇りが隠れていたが、達也は気づかない。


そして確信する。

(逆だ――俺がこの女の物になったのだ。もう一生、この南には頭が上がらない)


それは後に現実となる。

結婚は先のことになったが、小さな口論のたびに南が一言、

「南の初めてが、あんな事だったって忘れました?」

と切り出すだけで、達也は全面降伏するしかなくなるのだった。



それは達也が南と付き合い始めて、まだ数日後のことだった。

「南の親友に会ってほしいの」


そう言われ、紹介されたのは――あの新倉南だった。


「大杉さん、お久しぶりです」

彼女は達也を苗字で呼んだ。あの夜の“南”は、一度もそんな呼び方をしなかった。最初から「達也さん」としか呼ばなかったのに。


「南ちゃん、達也さんのこと知ってるの?」と、高倉南が首を傾げる。

「高倉さん、なにを言ってるんですか。大杉さん、先月まで私の大学にいたじゃないですか」

「……あ、そうなの? 南、ぜんぜん知らなかったわ」


ふたりの南が並ぶ光景は、奇妙で不自然なほど芝居がかっていた。

名前が同じだからこそ、新倉南は高倉南をあえて「高倉さん」と苗字で呼ぶ。もし「南さん」と呼んでしまえば、誰のことなのか判別できなくなるからだ。


――だが、達也は気づいていなかった。

この会話そのものが、周到に仕組まれた茶番劇であることを。


あの「4人の夜」ですら、真の目的は和也から千晴を消すことではなかった。

達也から千晴を消すための布石だったのだ。

高倉南が大杉達也を手に入れるには、高橋千晴がじゃまだった。

新倉南が達也に抱かれたのも、単なる欲望ではなく――その計画の一環。

高倉南との公園での出来事すらも、ふたりで組み上げた筋書きの中にあった。


達也は、何も知らなかった。


そしてさらに、この日、達也はそのままホテルへ連れて行かれ、ふたりの南を同時に・・・

達也が捕らえられた蜘蛛の巣には二匹の女郎蜘蛛が待ち構えていたのだった。



こうして、千晴と真剣に結婚まで考えていた達也を、ふたりの南は完全に奪い去ったのである。

さらには、千晴への想いを捨てきれない和也さえも、新倉南の手のひらの上で転がされていた。


――新倉南と高倉南。

二人とも、心の底から恐ろしい女たちだった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


達也は、自分の意思で選んだつもりでした。

千晴を手放し、新たな関係へ踏み出したのは自分の決断だと。


けれど本当にそうだったのでしょうか。


二人の南。

偶然の一致か、それとも周到な策略か。


「奪われた」のか、

「自ら絡め取られに行った」のか。


達也の選択について、

そして“ダブル南”という構図をどう感じられたか、

ぜひ感想をお聞かせください。


さて、第6話、ここで完結です。


絡まり合った感情も、策略も、

それぞれの選択として一度は収まりました。


けれど――

収まっただけで、終わったわけではありません。


運命を動かす者がいるなら、

動かされた側もまた、新しい道を歩き始めます。


そして物語は、次の章へ。



次回、

4月。

高橋千晴、社会人一年目。


営業現場で初日契約という異例のスタートを切る。

社長・高村蘭は確信する。


──この子は、ただの新人ではない。


一方で、

誕生日を迎えた夜、

千晴は“選ばなかった未来”を思い出す。


恋と欲と未練と、

それでも進まなければならない日常。


そして再び動き出す、

“運命改竄の魔女”の歯車。


第7話、開幕。


作品の最初、ep1に全話あらすじをアップしています。

ここまでの話を確認したい方は読んでみてください。

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