エピローグ
* * *
「ンジ……ケンジ?」
耳に届いた声は、俺が良く知るものだった。
「珍しいな、お前がぼーっとしてんの」
目が冴えてくると、日焼けした友人の輪郭がはっきりと見えた。
「いや……あれ、今何日だ?」
目を擦って、大きなあくびが漏れた。涙で目が潤うと、さらに視界がクリアになった。
「五日。一時間目から現国の小テストな」
「……世界滅亡は?」
「何言ってんだよ、ケンジってそういうの好きだったか?」
タツキに笑われて、彼の机の上を見た。水筒の下に敷いてあったはずのビラは無くなっていた。
「来週の祭り、超楽しみ」
「それな〜」
「私新しい浴衣買っちゃった」
クラスメイトの会話に聞き耳を立ててみても、来週の夏祭りを楽しみにする会話が聞こえてくるばかりだった。
スマホを見ると、SNSのトレンドは芸能人の熱愛報道や政治家の不正が明るみに出たニュースが大半をしめ、世界滅亡の文字は一つも見当たらなかった。
どうやら夢を見ていたらしい。長く、リアルで、妄想を具現化させたような、俺にだけ都合のいい夢。
「——どうか幸せになって。終末世界の方が良かったって、失望しないで」
そんな夢の中で出会った少女に俺は未来を託された。」
「なんか嬉しそうだな。いい夢でも見てたのかよ。教えろよー」
タツキに肩をちょんと突かれた。殴られてあざがついた箇所をピンポイントで触られて——痛まなかった。
まさかと思い、ブレザーを脱ぐと、まだら模様のあざは消えてなくなっていた。夢だけど夢じゃなかった。この超常現象をうまくは説明できないが、不思議と心が温かくなった。
「お。なんか、ケンジの半袖見るの久々だな」
もう痛々しい腕を隠す必要は無い。脱いだブレザーを椅子にかけて伸びをした。
「明日から移行期間まで半袖の予定」
「いいと思う。クールビズだな」
こんなクソみたいな、けれども愛おしい世界で、必死に前を向いている人がいる。
進もう。逃げるのは、もうやめた。必ず、打破してみせる。あの子の約束をちゃんと守れるように。この世界を、少しでも好きになれるように。




