切迫
「時間がないから単刀直入に告げる! あれを止める方法はないか!」
カルベルトを始めとするキーツ王国の面前の前で俺は切羽詰まった声を上げる。
幸いにもアーデルハイトとキザマリックは進行方向上にいたため拾うことが出来た。
「あの爪によって握り潰されるかと思ったぞ」
「……陛下はもう少し女性に対する扱い方を学ぶべきネ」
まあ、時間が無かったから着陸などせず魚を掴むワシの様に鍵爪で掴ませてもらったが、今回ばかりは許してもらおうか。
「5秒経過よ、我が君」
ベアトリクスが楽しそうにそう告げるのが癪に障る!
「陛下よ、あれはな終焉の扉と呼んでおる。ラブレサック教の創始者であるイリーナ=ラブレサックが異界へと繋がる門を操る魔物を召喚し、時が来るまで地下奥底で眠らせ――」
「だから説明は止めろって言っただろ!」
俺はアーデルハイトが始めた話を途中で打ち切る。
「今、必要なのはあれをどうすれば止められるかということだ! そういった考察はまた後日に行う!」
「……あれの封印を解くことは誰でも出来るが、再封印など初代聖女でも不可能。大陸全てが魔物で埋め尽くされるまで止められん」
「何だってそんな真似を!?」
何故初代聖女はブレーキの無い車を作る様な真似をしたのか!
「それは陛下が最も分かっていると思うネ」
褐色の肌を持つキザマリックが皮肉気に唇を歪めて。
「積みが確定したのなら盤をひっくり返せば良イ。どうせ負けるのなら全てを道連れにしようと考えても仕方ないネ」
「ああ、畜生! 否定できない!」
俺ももし前の戦で負けた場合、大陸すら吹っ飛ばす威力を持つダークマターと呼ばれる代物を使おうと考え、密かに生成しておいた。
恐らく初代聖女もキーツ王国と戦い敗北した場合を想定してあんなものを召喚し封印していたのだろう。
……不味い。
解決策が全く思い付かない。
ダークマターも勝利が確定したからすでに廃棄してしまっているし。
まだ勝利したわけではないから皆に浮かれるなと喝を入れていたが、まさか自分が浮かれていたとは。
救いようのない自分を殺したい気持ちで一杯になるが。
「1分経過、残り4分よ我が君」
後悔するのは後で良い!
今は解決策を考えろ!
「ダルムンク王! キーツ王国の秘儀である“天”をぶつけることはできないか!」
先日の話を思い出した俺はせき込んで尋ねる。
「1000年前! 混沌とした大陸を力で制したキーツ王国ならばあれを抑えることが可能だろう!?」
「ふむ……」
「頼むから考えないでくれ! ハイかイイエで答えて欲しい!」
「残り3分~♪」
時間があと3分しかないから悩まないでくれ!
「あることにはある」
ダルムンク王が厳かな調子で告げる。
「あの化け物の頭頂部には無数の触手が蠢いておる。一見すると隙の無いよう見えるが、複雑な造形ほど脆いことは世の道理。ゆえにあの触手付近で“天”を放てば止められるかもしれん」
「本当か!?」
一縷の希望が見えた俺はせき込んで尋ねる。
「2、ふ、ん。2、ふ、ん」
ご覧の通りダルムンク王がゆっくりと話したせいで1分も経過してしまった。
しかし、ベアトリクスがうざい!
滅亡の瀬戸際に立っているのに何故人をからかうことが出来るのか!?
「あらあら、そんな恐ろしい形相で睨み付けないで頂戴。私はただ楽しんでいるだけよ」
「楽しむ暇があるのなら少しは知恵を絞ってくれ!」
朝、駅へ猛ダッシュする通学高校生の如く一秒を争う時なのだぞ!
「だって私の領分は長期的に物事を考えることよ。こんな5分足らずで結論を出せなんて無茶言わないでよ。そういうのは我が君の得意分野でしょ?」
俺だって向いていないわ!
思わず反射的にそう言いそうになるが、すんでの所で思い留まる。
場を茶化す行為に殺意すら覚えるが、変な案を出して場を混乱させるよりかはマシ。
そう考えるとベアトリクスの行動は己の能力を弁えた行動だと捉えることが出来るが。
「我が君、私を怨むのは勝手だけどもう1分を切ったわよ?」
「はあ!? もうそんなに時間が過ぎたのか!?」
あっという間にタイムリミットの5分が迫って来ていた。
「ええい、仕方ない! ダルムンク王! カルベルトを借りるぞ!」
「痛い痛い! カザクラ王、分かっているから腕を引っ張らないくれ!」
残念だが謝罪や腕を緩める時間すら惜しい。
後で非礼に見合った報酬を取らせるからそれで勘弁してほしい!
「イズルガルド! 行くぞ!」
俺は外で待機させていたイズルガルドにカルベルトを放り込んだ後、その背に乗った。




