没話 ニーゲンベルクの街並み
「覚悟はしていたけど、実際その場面に立ち向かうと辛いものよ」
俺の隣で歩いているアーデルハイトが苦々しげに呟く。
エレナ伯爵が率いる部隊と合流した俺達は部隊編成も兼ねて近くの街に逗留している。
その街の名はニーゲンベルクと呼ばれ、東側から巡礼に参る参拝者が必ず通る街ゆえに規模も大きく、住人も国際性豊かであった。
「まあ、俺達はあまり歓迎されていないようだけどな」
どの建物も窓を閉め、通りには行商人以外店を開いていなかった。
窓の隙間から覗く視線に含まれている感情は怒りや恐怖といった負の感情。
しかし、物を投げ付けられないだけましか。
「ベアトリクスのおかげネ」
俺の独り言に突っ込みを入れるキザマリック。
「あいつ、どこをどうやったのか知らないけれど、徹底抗戦の雰囲気を醸し出していたニーゲンベルクにエルファを伴って交渉しに行ったところ、向こうは武装解除したネ」
「ほう、それは良い仕事をしたな」
「そうネ。おかげで私達マルボルク教の信者はこの街から見下されてしまっているネ」
「ベアトリクス……」
ベアトリクスの取ったであろう話術について大体の予想が付いた俺はため息を零す。
普段から陽気な人物であるキザマリックがこうまでボロクソに言うのだから余程ベアトリクスの所業に苛立っているのだろう。
まあ、よく考えてみるとキザマリックの故国がジグサリアス王国によって占領されたのは、ベアトリクスが張本人ゆえに悪印象の1つや2つは当然かもしれないな。
「あ~……一応尋ねてみるが、ベアトリクスと打ち解けることはでき――」
「「出来るわけがない(ヨ)」」
会話が続かなかったのでとりあえず頭に浮かんだベアトリクスのことを尋ね、返って来た返事がそれ。
「地獄からやってきた悪魔の使いです」
「人間の皮を被った畜生ネ」
等、評価は散々である。
「……まあ、仕方ないか」
決戦に参加できるとアーデルハイトにぬか喜びをさせ、キザマリックに同族を攻め滅ぼす手伝いを強制させたベアトリクスに好印象など持つはずがない。
俺はベアトリクスより立場が上だからまだ我慢が効くが、逆の立場だと1ヶ月も持たんな。
例え意味があることだとしても、こうコロコロと変更されると付き合わされる部下は堪ったものではないよな。
まあ、上司の立場である俺からすると結果を出しているので文句はない。
「あの悪魔に闇討ちを仕掛けましょうか?」
「それ良いネ、エレナ伯爵も絶対賛同してくれるヨ」
「……お前ら、王の前で重鎮を始末するような会話は止めてくれ」
先程の諦観的な様子から打って代わって暗い笑みを浮かべて企む2人に俺はため息しか出ない。
……ベアトリクス。お前、いつか絶対に後ろから刺されるぞ。
エレナ伯爵やアーデルハイト、キザマリックを始めとしたベアトリクスの下で働いていた部下が全員目を血走らせながら包丁を振り回して彼女に特攻していく場面が容易に想像できてしまった。




