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今後の方針

「……良いの?」


 アイラの提案にユキが確認する。


「……アイラは蚊帳の外に置かれちゃうけど構わないの?」


 ユキが心配しているのは、俺を含めた5人のうちアイラだけ仲間外れになってしまうことである。


 それにベアトリクスが仕掛けた策といっても、南諸国が攻め上がってくる保証などどこにもない。


 下手すればキッカ達が必死に戦っている間、自分達は何もせずに待機という羽目になってしまうだろう。


「それで良いと思うわよ」


 ここで口を挟むのはオーラ。


 見た目は子供、頭脳は大人というどこぞの名探偵かと突っ込みたくなる容姿を持つ彼女。


 肩書こそ副団長だが、一匹狼のアイラの代わりに黒梟騎士団を率いているので実質団長と称しても過言ではない。


「私達黒梟騎士団は表に出ると色々と都合が悪いのよ。だからそっちの方が団員も性に合ってるわ」


 黒梟騎士団は諜報や暗殺など後ろ暗い任務を主に扱う闇の騎士団。


 その特性上、武器を持って相手を屠るというよりも、暗がりからの騙し打ちを得意としているので開戦してしまえば出番が少なくなってしまう。


「しかしなあ……」


 俺が懸念を示すのは、アイラ達が抜けると情報の精度が落ちてしまうこと。


 黒梟騎士団は敵が放った間者から情報や命を守る役目もある。


 俺やベアトリクスが何の心配もなく作戦を立案・施行できるのは黒梟騎士団の活躍によるものであった。


 俺の心配事を察知したアイラはさらに言葉を紡ぐ。


「ご安心ください。神聖騎士団は己の強さと神の加護に慢心していますから絡め手が得意でありません。私達が守る必要はないでしょう」


「なるほど」


 神聖騎士団並みの強さがあれば小賢しい手など使わず圧倒的な武力で押し潰した方が効率は良いだろう。


 それにアイラは報告に一切主観や憶測を含めないので真実だと言っても過言ではない。


「それなら黒梟騎士団は南方へ向かってもらおうか」


「は」


「了解よ」


 アイラとオーラの了承を聞いた俺はベアトリクスが放った火種を何とか消化できたことに安堵するのだが、そこにユキが挙手をする。


「……提案」


 相変わらず言葉足らずのユキに苦笑しながらも俺は許可する。


 するとユキは立ち上がって口を開き。


「……独断専行によりベアトリクスの謹慎を求める」


 淡々とした音程のまま特大級の爆弾を投下した。


「アハハハハハハハハ!!」


 皆がユキの発言に呆気に取られる中、最も先に我に帰ったのは当のベアトリクス本人である。


「なるほどねえ、そうきましたか」


 クツクツクツと手の甲で眼尻を拭い去りながら言葉を紡ぐベアトリクスの表情は晴れやかだ。


「策でも何でも私が約束を破ったのは事実。これで私がお咎めなしだと示しがつかないわね」


 ベアトリクスは納得気味なのだが、俺からすると彼女の謹慎は不味い。


 ベアトリクスは性格こそ最悪で面倒事を引き起こす性質なのだが、その能力はキッカさえも認めている。


 只でさえアイラが抜けた今、ベアトリクスも不参加となると勝利が危ういものになってしまう懸念があった。


「ベアトリクスまでも抜けるのは不味いぞ」


 俺の心情を代弁して発言するのはヴィヴィアン。


 元リーザリオ帝国の第3王女で、現在は俺の正妻。


 人を惹きつけるカリスマ性の他にも賢さを兼ね備えている彼女だが、引き際を見極め切れないという弱点を持っている。


「私もベアトリクスの独断には噴飯ものだが、それを補えるほどの能力を有しているのも事実。ゆえにここは目を瞑った方が良いのでは」


 人の上に立つことを小さな頃から教え込まれてきたヴィヴィアンらしい発言だと思う。


 確かにベアトリクスはこちらの意図を無視して行動する場面が多々あるのだが、それでも今の地位を保っているのは常に結果を出してきたから。


 例えるなら、ベアトリクスは問題の多い社員だが成果を出し続けているのでクビにならず、逆に重宝されているというところか。


 ただ、それは俺側の考えであり、キッカ達からすればまた違うんだよな。


「ヴィヴィアン、何寝ぼけたことを言ってんの? ベアトリクスの謹慎でさえ最大現譲歩した結果よ」


 皆の顔を見ていると、ベアトリクスの謹慎に反対なのは俺とヴィヴィアンの他にはシクラリスとエルファぐらいか。


 この状況でベアトリクスを擁護すると必ず軋轢を生む。


 やれやれ、能力は最高クラスでも人望が無いからこうなるんだよな。


 俺は恨めしげにベアトリクスを見やるのだが、当の本人はどこ吹く風といったようである。


「発言をよろしいでしょうか」


 ここでクロスが手を挙げる。


「確かにベアトリクス参謀長は罰を受けてしかるべきですが、それを城で腐らせるのは惜しいです。なら黒梟騎士団と共に南方諸国への対応という形で進ませることを進言します」


「ほう……」


 クロスの提案に感心する俺。


 それならベアトリクスの罰となるし、後顧の憂いなく戦うことが出来る。


 まあ、ベアトリクスがいないのは不安だが、それでも城で謹慎させるよりかはましだろう。


 それに不安材料であるアーデルハイトとキザマリックを戦線から引き離すことも出来るから一石二鳥だな。


 向こうは騙されたと思うかもしれないが、彼女達はベアトリクスの指揮下に入っているので逆らう権利など無いし。


「まあ、妥当な提案ね」


 ベアトリクスも自前の銀髪を撫でながらそう答える。


「ならベアトリクス、お前にはアイラと共に南方諸国の対応を任せても構わないか?」


「ええ、問題無いわよ」


 ベアトリクスも特に不満が無さそうだったのでそう決まりかけたその時。


「あ、そうそう我が君」


 ベアトリクスは続ける。


「さすがの私も黒梟騎士団と援軍だけで南方諸国を抑えるのは難しいわ、だから――」


 そしてベアトリクスはこれまで一度も発言していないエレナ伯爵に向かってニッコリと微笑む。


「ゆ、ユウキ陛下! 意見が――」


 苦労人の性かエレナ伯爵はベアトリクスの意図を察知し、慌てて発言しようとするが。


「エレナ伯爵を南方へ配置してほしいのだけど」


 ベアトリクスを止めることが出来なかったエレナ伯爵はめでたく決戦から外され、起こるかどうかも分からない戦の準備をする羽目となった。

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