39話 生まれた地へ出発
ダンシングヒーローっていつ聞いてもいいですよね。
別れる当日。俺たちは朝早く起きて、準備を始める。
いざ別れるとなると、一抹の寂しさがよぎる。実際には、ゴブリンたちと過ごした時間と比べるとこの5人で過ごした時間は少し短い。なのに、あのときよりも心残りがあるように感じた。いや、ゴブリンたちとの別れは唐突すぎてただ辛かっただけか。
今日は、あの土地へと帰ることになる。俺は、ガルヴァと共に宿の前に出る。
「みんな、揃ったか?」
「はい…では、しばらくお別れになりますね」
ラナリリスは、寂しそうにしている。どれだけ共にいたのかは知らないが、仲間と離れるというのはやはり辛いことのようだ。しかも、今は戦争直前。怖くないわけがない。
「うん…でも家に帰るって言っても、たぶん数週間もすれば戻ってこれるからそんなに心配しないで!」
なんだか、暗い雰囲気になってきた。こうやって、何をいえばいいのかわからなくなっていくのは苦手だ。俺は、少し話題を逸らす。
「そうだ…次会うときは土産話を持ってきてくれよ。ホガ=ドルナがどんな凄い街だったか、みっちり聞いてやるからな」
俺は努めて明るい声を出した。別れで、いちいち寂しそうにしていたら身がもたないことを、二度の別れで知っている。
「土産話か…それもいいな。面白いのを用意しておく!」
「そういえば、ホガ=ドルナに行くのはいいんですが…ホガ=ドルナのどこに行くなどは決めているんですか?」
「まずは首都に行ってみたら?定番でしょ!」
スフィウスは、さっきの暗さを感じさせない声で話しかける。彼女にとっては、家族と会えることは嬉しいことでもある。ラナリリスは、少し呆れた声で返事をする。
「スフィウス様…ホガ=ドルナの首都がどこにあるのか、ご存知ですか?」
「えーと確か…」
俺は、全知王に地図を見せてもらう。
「大陸の中央、ホガ=ドルナにとって北東か…これじゃあ、数週間で行ける距離じゃないな」
「今回行けるのはせいぜい、ファラウルの周辺都市でしょう」
「そうなの?じゃあ、そこでいいから私には美味しいものちょうだいよ。とびきり美味しいやつ!」
「忘れていなかったらな!まあ2人とも、できるだけ気をつけてな!最近は物騒になってきてるんだ、何があってもおかしくないからな」
「わかってるよ……ガルヴァもいるし、心配はいらないよ」
「私だって、一応強いんだからね。襲いかかってきたら、返り討ちにしちゃう」
スフィウスはそう言って、拳を繰り出す真似をする。
俺は隣に立つガルヴァに視線を送った。彼は静かにこっちを見ている。その瞳には、一切の曇りがない。別に、白内障だと言いたいわけではない。勘違いはしないでくれ。
「キュラゴクスも、ラナリリスたちを頼む。……あまり無理はするなよ?」
「わかっている。食い過ぎ以外は、気をつけておく」
キュラゴクスが、珍しく冗談を言う。
「………じゃあ、行こうか。あまり長く居ると、本当に足が重くなっちゃうからな」
「うん、じゃあね! また何週間後かに会おうね!」
「……ええ、また。どうかご無事で」
「ああ、またな」
そう言って俺達は宿の前を離れ、それぞれの方向へあるいていった。
石畳を叩く足音が響く。朝の早い時間ということもあり、通りにはまだ人影がまばらだ。朝食の準備を始める煙突の匂いや、遠くで聞こえる家畜の鳴き声。つい数日前まで馴染んでいたはずの生活音が、歩みを進めるごとに少しずつ遠ざかっていく。
アフィラードの街を出て、街道から外れて緩やかな上り坂へと足を踏み入れる。舗装されていない土の感触に変わり、周囲の建物の屋根が徐々に低く見え始めた。
そのまましばらく歩き、人の気配が完全に途絶えたところへと辿り着く。後方には、さっきまでいた街とどこまでも続くエメラルドの海が見えた。
「……始めるぞ、ガルヴァ」
俺は深く息を吸い込み、偽造を解く。久しぶりに、完全なドラゴンの姿へと変身した。
「準備はいいか?」
「はい、バーザール様。いつでも出発できます」
ガルヴァが俺を見上げている。俺は力任せに羽ばたくと、凄まじい風が砂を巻き上げ、身体は重力から解き放たれた。アフィラードの街並みが、遥か遠くに見える。
「………バーザール様、バーザール様の生まれた地はここから南東の方向にあるようです。出発しますか?いつでも行けます」
本当に南か?俺は少し不安になり、ヘルメスに聞いてみる。
〈貴方様の生まれた地は、ここから南東の方角に進むと存在します。目的地としてマークしますか?〉
本当に南東だった。これが、よく言う帰巣本能というやつか。
「よし、目指すは故郷だ!南東へ進むぞ!」
「了解です、バーザール様」
〈了解。目的地を生まれ故郷にマーク。予定は9日後。このままの気流であれば予定より早く着くでしょう。〉
俺は強く羽ばたき、南東へと加速した。




