19話 新生活後編
俺はガルヴァの元へ行くと、ことの経緯を説明した。
「人間を信用できないのもわかる…俺だってまだそうだ。だが、これからはその四人と会っても敵対しないでくれ」
「その程度のこと、わざわざ言わなくても大丈夫です!誓って手を出したりしません」
「まあ、一応だ。会っておきたかったしな。それじゃ、俺は言ってくるぞ」
そう言い、振り返ると建物の影から4つの頭がのぞいているのが見えた。やばい、今の聞かれていたか?
「バーザール、ずるいぞ!こんな貴重な経験を、独り占めしているとは!」
「そうだそうだ!」
「あら、意外と可愛らしいのですね」
「……本当に」
聞いていないようでよかった。そう思い振り返ると、ガルヴァはドヤ顔になっていた。褒められ、ご満悦の様子だ。
「いや、別にそう言うことでは…4人のことを勘違いしないように言いにきただけで、…」
「それなら触っていいか?触るぞ!」
「わたしも!」
「私も…」
「私も触るわね」
ガルヴァは少しかがみ、顔を下げる。あれ、俺の時よりも嬉しそうだ。なんだか対抗心が湧き立つ。
(ガルヴァ、嬉しそうだな…)
(いえ!そう言うわけでは…)
(いやいいんだ。ただ、傷つけはしないでくれってだけで警戒はしておいてくれよ?何かあったら笑い事じゃ済まない)
(それは…心に決めておきます)
「どうしたんだ?二人とも同時にとまって…もしかして、念力で会話でもしてるのか?」
「そのようなわけがないでしょう。」
ラナリリスが、ガルヴァに顔を埋めながら言った。無口そうな雰囲気を醸し出しているのに、意外とガルヴァのことは好きなんだな。ギャップがすごい。
「これは…珍しいですね。この毛並み…普通の魔狼ではないです。この子、恩恵個体ですか?」
「え、恩恵ってなに?」
「なんだか聞いたことがあるぞ。幼い頃に学んだ気がするが…?」
「魔族の全てが出来ることですよ。簡単に言うと、名前をつけてもらうと強くなれる、ということじゃなかったかしら」
「そのとおりです。この子は、普通の魔狼とは首元の毛並みが違うので…もしかしたら、と」
恩恵。あの、森での惨状が瞬時に脳裏に蘇った。途端に俺は膝をつき、倒れ込む。
「大丈夫かバーザール?!」
「大丈夫ですか?!」
(バーザール様!)
頭が痛い。
「大丈夫…だ。少し休めば、治る」
そう言い、立ち上がる。が、次の瞬間、地面に倒れた。
目が覚めると、ベッドで寝ていた。上半身だけ起き上がり、周りを見わたしてみる。窓辺に、ラナリリスがいた。こちらに気がつき、声をかけてくれる。
「お体、大丈夫ですか?倒れたのは、多分私のせいですよね。すみません…」
「いや、君のせいじゃないよ。ありがとう、ずっとここに居ていてくれたのか」
「……はい」
少し気まずい雰囲気になり、俺は目をそらした。横の机には、飲み物が置いてある。
外を見ると、日が上りそうだった。建物の隙間から、空が明るくなり始めているのが見える。
静けさが俺たちを襲った。
俺はベッドから立ち上がり、窓のラナリリスが座っている椅子の向かいに座る。心地よい風が、目の前を通り過ぎていった。
「僕はね」
気がつくと、喋りはじめていた。
「昔、ある森に住んでいたんだ。そこでは、楽しい出会いと、いい仲間に恵まれた。今までに経験したことがないほどに楽しかった」
「そこに、悪者が来た。初めは少しだけ。無事追い払えたからか、俺は強いと思ってしまった。それで、そのみんなと約束をした」
声が、聞こえてきた。
『…… 俺に仕えてくれているんだから、守ってやるのは当然のことだ!今後も安心してくれていいよ!……』
「俺が気を緩めたから…そのすぐ後に、みんな…一瞬で、…」
視界が歪む。頬を、水が流れ落ちた。
「そう、ですか…」
久しぶりに泣いた。数年ぶりに。
彼女は何かを察したようなそぶりを見せ、俺についてそれ以上何も触れなかった。




