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11話 魂と戦慄

 意識が遠のく。体が重く沈む感覚から、急に軽くなった。


 痛みが消え、血の臭いが遠ざかる。……どこだ、ここは?


 果てしなく白い空間。壁が鏡のように反射して、無限に続く廻廊。


 椅子から立ち、足を踏み出してみる。相変わらず音がしない。自分の息さえ、聞こえない。


(……夢? それとも死んだ?)


 前方に、ぼんやりとした人影が立っている。透けていて、輪郭が揺らぐ。


 顔はよくわからないけど、声だけははっきりと響く。


「私は留刺。周りからはスラーボンドと呼ばれている。ようこそ、精神の廻廊へ……生き残った者よ」


 俺は後ずさった。声を出そうとする。 ……何も出ない。 喉が動いているのに、口が動いているのに、声が出ない。


声が……出ない?人影がゆっくり近づいてくる。


「あなたには見てもらなければならないものがある」


 スラーボンドが目を瞑ると、突然周りが動き出した。


 全方向の壁が波打って、色が付いていく。地図のようなものが浮かび上がる。


 国々が次々と赤く染まり、炎が広がっていく。街が崩れ、兵士たちが叫ぶ。


 人と人、人間と魔物が混じり合い、血と火花が飛び散る。


 空を鉄の翼が覆い、巨大な影が降り立つ。スラーボンドの声が、重く響く。


「これから数年で、世界中で戦争が起こる。今始まる人間同士の争いは、もはやただの前座に過ぎない。ドラゴンが復活・動き出し、魔族の影が再び現れる。そして…最古の悪魔が降りる」


(最古の悪魔が…?さっきの悪魔が言ってた「あの方」って……もしかして?)


 映像が加速する。燃える都市。崩れる要塞。泣き叫ぶ民衆。


 その後、仲間たちの顔が、一瞬だけ浮かぶ。


 隊長の首が飛んだ瞬間。魔法使いの体が潰された瞬間。その他様々な隊員が映る。胸が締め付けられる。


(あれは俺のせいじゃない……俺は何もできなかっただけだ……)


 スラーボンドが続ける。


「お前は生き残った。だが、それは救いではない。今までここにきた者は数多いたが、その全てが運命を変えようとして他のヴァルダらに潰されるか、変えずに見殺しにして最悪の結末を迎えるかのどちらかでしかなかった」


 映像が俺の顔に迫ってくる。俺は、壊された街に立っていた。ぼろぼろの服、血まみれの体。


 一人で立っている。視界が歪んでいく。涙だ。なんで…?


「嘘だ…」


 声が出た。スラーボンドがは静かに答える。



「どちらの結末にしても、選ぶのはお前だ。だが覚えておけ。戦争は、もう止まらない。これだけは事実だ」


 廻廊が反転する。壁がひび割れ、白い光が漏れる。体が引き戻される感覚。痛みが一気に戻ってきた。


 



 ……目を開けると、ベッドにいた。石の屋根。窓からはオレンジ色の光が差し込んでいる。


 遠くから馬車の音や人の話し声がする。街にいるようだ。


(……生きてる……)


 肩と胸に包帯がつけられている。誰かが運んで、手当てをしてくれたのか。体を起こそうとして、激痛が走る。


 その時、足音が近づいてきた。


「おい、大丈夫か?」


 見上げると、男がしゃがみ込んで、俺の顔を覗き込んでいた。


「もう起きないんじゃねえかと思ってたが、ようやく目が覚めたな。覚えているか?俺はバーザールだ。森で倒れてるお前を運んだんだ」


 俺は答えようと声を出す。やつれた、弱々しい声だ。


「……ありがとう」


 バーザールは軽く頷く。

「礼はいらねえ。ただ……何か変なことあったか?倒れていた時の、あの体勢は普通じゃねえ」


 俺は黙った。廻廊での映像が頭に蘇る。炎に包まれた大陸。巨大な影。無慈悲に破壊された数々の都市。


 俺は小さい溜め息を吐いた。


「いや、何でもないんだ……!」


 バーザールは静かに立ち上がった。


「そうか、なら大丈夫だ。体が動くようになったら、また俺に言ってくれ」


 そう言って、ドアの方へ歩き出す。俺はベッドに体を預けた。


(そうあれは幻覚だ。あれは嘘、間違いだ)


 だが、告げられたことは全て今起きていることと辻褄が合う。


(どうすれば……いいんだ?)


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