3.最強パーティーとの接触
「すまんヒイラギ!」
「えっ」
いきなり腹に膝蹴りが飛んできて、俺は目から火花を散らせることとなった。
嘔吐するほどの力じゃないが、みぞおちに正確に打ち込まれた痛みに立っていられず地に膝をつけてしまう。
『閻魔』の姿をした男が跪く光景を目の当たりにした『スズラン』のメンバー達は言葉を失った。
ヤリスさんなどは大口を開いて仰天している。
俺に蹴りを叩き込んだアリシアさんは、両腕を広げてアピールした。
「ほら、反撃とかしてこないだろ?これが証拠だ!今のヒイラギは『閻魔』なんかじゃない!普通の男の子だ!」
「酷いですアリシアさん・・・・・・!」
俺が非力であることを証明するためとはいえ、こんな突飛な行動を取るなんて。
いやそもそも、俺がもし巧妙に嘘をついていて本当に『閻魔』だったらどうするつもりだったのか。
「・・・なるほどな。お前らの話、受け入れざるを得ないみたいだ。」
一歩間違えれば惨劇になっていたであろう肝の冷えるパフォーマンスを見せられ、フランクさんもある程度の納得を示す。
少しの時間頭を抱えて悩んでいたようだったが、やがて俺の方に向き直った。
「仮にお前らの話が本当だとして・・・そのヒイラギさんとやら。お前さんはどうしたいんだ?」
フランクさんは俺のことを『閻魔』ではなく、初めて名前で読んでくれた。
「とりあえず・・・戻りたくはないです。『アンデッドに』」
俺は直球の願望を伝えた。
「もちろんそれはそうだろうが、どうするんだ?奴等はあんたが戻ってくることを待っているわけだから、隠れるかもしくは──」
「今からでも人違いってことにするとか?」
「簡単に言うなよ・・・・・・」
わかってはいたが口にはできなかった選択肢を前にヤリスさんは頭を抱えた。
「でも隠れるってのも簡単じゃなくないか?今後ずっとあいつらの目を欺き続けるのは無理があるだろ。どうなんだ?フランク」
アリシアさんは人違いで乗り切る線を模索する。
だが、フランクさんの反応は、あまり良いものではなかった。
「そいつを見ろ」
そう言って指さしたのは、俺のコートの肩口に刻まれている謎のロゴマーク。
「その印は『アンデッド』特有のものだ。奴らに『閻魔』発見の一報を入れた時、本人かどうか確かめられたんでな。そのマークのことも言っちまった。今さら人違いで言い逃れるのは無理だろうし、俺から見ても実際にヒイラギと『閻魔』が同一人物だというのは状況証拠からして間違いない」
外見上は完全に『閻魔』そのもの。
なのに中身は異世界から転生してきた魔法の使えない一般人。
「すみません。俺がもっと早く別人だって言ってたらあなたが報告することもなかったのに・・・・・・」
そうして俺の今後についての話し合いが始まった頃だった。
フランクさんの目の前に、小さな魔法陣が出現した。
それは先程彼がヤリスさんと連絡を取るために使ったものと同じ魔法。
つまり、誰かが『スズラン』の責任者に連絡を要請している。
「お前ら、少し黙れ」
けして大声ではないが緊迫感の籠もっていた彼の指示に、一同は口を閉ざした。
「テレパスだ。奴等からだ」
今までは小屋の外で行っていた通話だが、今度は全員に内容を聞かせることを選んだようだ。
フランクさんは受話器を取るかのように杖で魔法陣に触れた。
「俺だ。」
色の変わった魔法陣から短い言葉が聞こえてくると、フランクさんの顔が強ばった。
「副隊長に変われ。」
連絡相手は事務的で、地を這うような低く冷たい男の声。
「1つ、トラブルが発生した。こっちで預かっているあんたらの幹部だが、『アンデッド』に戻りたくないと言い出している」
フランクさんは向こう側の相手に、事情が変わったことを簡潔に伝えた。
だが、返ってきたのはそれを意に介さない一方的な命令。
「2度も言わすな」
有無を言わせぬ口調に、彼は無言で魔法陣をこちらに向けてきた。
そこで"副隊長"とは俺のことを指しているのだと気づき、心臓が止まりそうになった。
フランクさんの顔を見ると、額には冷や汗が滲んでいた。
この屈強で歴戦の戦士のように見える大男が恐れるほどの相手。
間違いない。
魔法陣の向こうにいるのは、『アンデッド』のメンバーだ。
俺は今からこの男と話さなければならないのか。
はやる鼓動を抑えつつ、俺は恐る恐る魔法陣に向けて話しかけた。
「・・・もしもし」
「ああ副隊長!ご無事でしたか!」
だが驚いたことに、魔法陣越しに聞こえてきたのはそれまでの冷たい声ではなかった。
「お休みのところすみません!俺です!ボルガンです!今回副隊長の安否が確認できなくなったとのことで、万が一を危惧した隊長に捜索を任されてたんですよ!」
「あっ・・・えっ・・・?うん。こっちは大丈夫・・・・・・」
「そうですか!無事で良かったです!もし副隊長の身に何かあったら、俺はこの先死んでも死にきれませんからね!いやぁ、そっちの環境は食事も寝床も劣悪の極みでしょう。何か不都合がありましたら我々が『スズラン』の連中に相応の制裁を加えますんでご安心下さい!」
ボルガン、と名乗った相手の男。
通話が俺に変わってからの相手の様子は、まるで出張から戻った上司を労う太鼓持ちの部下だった。
先程のフランクさんを相手していた時との不気味なギャップに、思わず通話を切りたくなる。
~キャラ紹介~
〇柊レイジ
本作主人公。前世で死んだら『閻魔』というチートキャラに転生した。黒髪に赤目の少年。引っ込み思案で臆病。自意識過剰すぎて五感が鋭い。自由が好き。
●海岸部ギルド冒険者パーティー1381番『スズラン』
〇アリシア・ワルツ
猟銃を背負った赤髪の少女。好奇心旺盛。破天荒で遠慮のない言動。自由人。イタズラ好き。
〇フランク・バースタイン
鋼鉄の盾で武装する大男。常識人。『スズラン』の隊長。
〇ヤリス・カイザー
長剣で武装する少年。ビビりの常識人。
〇ミア・クラウゼ
杖を大量に持つ少女。寡黙でマイペース。
●内陸部ギルド冒険者パーティー0001番『アンデッド』
○ボルガン
『城壁のボルガン』の異名を持つ、アンデッドの幹部。『閻魔』を慕っている。




