2.明かされる正体
~ここまでのあらすじ~
前世で不幸な死を遂げた主人公、柊レイジはこの世界で『閻魔』というチートキャラに生まれ変わった。
ただし、『肩書がチートキャラに生まれ変わっただけで中身は凡人』という最悪の形の異世界転生。
レイジは山の中で倒れていたところを新人冒険者のパーティー『スズラン』に保護された。
最強パーティー『アンデッド』に閻魔を引き渡そうとするスズランだったが、レイジはアンデッドに戻ることを嫌がっていた。
俺がアリシアさんに追いついたのは、彼女がちょうど小屋の扉を開ける時だった。
「本当に大丈夫ですかね・・・?ヤリスさんとか、俺の話受け入れてくれるかどうか・・・・・・」
もしかしたらフランクさん、ミアさんの二人は冷静に聞いてくれるかもしれないが、ヤリスさんは俺をより強く敵視している節があるからな。
「あいつ君のことビビりすぎだよな!ちょっとからかってやるか」
アリシアさんは邪悪な笑みを浮かべると、俺が返事をする前に小屋の扉を開けた。
そこにいたのは、これから大枚が転がり込んでくると宴気分な『スズラン』のメンバー達。
「あ、遅いぞアリシア!何してたんだ?って・・・・・・」
テンションが高くなっていたのか、ヤリスさんが奥から声を張り上げた。
だが、背後に立つ俺の姿を目にしてその勢いはあっという間に萎む。
「いやちょっとな。『閻魔』様とベッドが一つ足りないんじゃないかって話をしていたんだ」
そう言って小屋の4隅のベッドを指さすアリシアさん。
そこで俺はハッとさせられた。
当然のことだがベッドはパーティメンバーの数だけしかなく、俺の分は用意されていない。
つまり今日は床で寝るしかないのだ。
まあ硬い場所で寝るのは慣れているのでそれほど苦には感じないが・・・・・・
「おいヤリス!『閻魔』様は君のベッドが一番清潔で気に入ったって言ってるぞ!」
「は!?」
「アリシアさん!?」
彼女の口から飛び出た虚言に、俺もヤリスさんも意表を突かれた。
「えっ・・・ええ・・・・・・?それって・・・・・・?」
俺が床で寝ることを拒むのなら、『スズラン』のメンバーに取れる選択肢は2つ。
誰かがベッドを降りるか、もしくはどれか一つのベッドで2人がくっついて寝なければならない。
「どうする?今日は床で寝るか?虫だらけで快適とは言えなさそうだけどな!」
俺に許しを乞うような目を向けてくるヤリスさんに、彼女は追い打ちをかける。
「リーダー・・・一緒に寝てもいいですか?」
「なんで野郎とくっついて寝なきゃいかんのだ」
2人で同じベットで寝る選択肢はあっさり却下された。
「そんなぁ・・・・・・」
「はははは!冗談だヤリス!本気にするな!」
アリシアさんは笑ってネタばらしをすると、困惑しているヤリスさんの背中を叩いた。
「こいつ・・・・・・!」
「なあみんな!ヒイラギのことで話し合いがしたいんだが」
彼の唸りを無視して、アリシアさんは声を張り上げた。
あまり注目を浴びるのは得意ではないので、こういうことをされると寿命が縮む。
「おいアリシア!やめとけって!何度も言ってるだろ。その人には関わ ・・・迷惑かけるなって」
『閻魔』に対する再三の無礼を阻止するため、ヤリスさんが制止にかかる。
「話すのもダメか?」
「せめて敬語使えよ。後が怖い」
「そんなことはどうでもいいからさ、ヒイラギが『アンデッド』から抜ける方法を考えるぞ!」
話し合いと言って彼女が出したのは、事情を知らないメンバーにとっては全く予期できないだろう議題。
「何言ってんだアリシア?さっき向こうの奴と取り合って、彼の引き渡しは明日の早朝に決まったんだ。それまで俺達にできることは宴と仮眠くらいのものだ。一応今夜も交代制で見張りは付けるが、『アンデッド』の大幹部を狙う山賊なんてこの世にいねぇだろう。・・・とはいっても、お前の言う通り確かに客人を床に寝かせるのはあまりよろしくないな。」
フランクさんは彼女の話に耳を貸さないどころか、どうすれば今夜俺が快適に過ごせるかについて思考を巡らせている。
「それじゃ可哀想だ!」
アリシアさんが叫ぶと、辺りは一瞬静まり返った。
「可哀想って・・・・・・何が?」
この場の疑問を代弁するかのように、ヤリスさんが眉をひそめる。
皆の注目が集まる中、彼女は俺の抱える厄介な事情について話し出す。
「ヒイラギはな、異世界転生してきたんだ!」
助けてくれるのはありがたいのだが、その言い方では話がややこしくなってしまう気がする。
「あ・・・その・・・つまり今までの記憶がなくなってしまって・・・魔法も全部使えなくなってしまったんです。」
記憶と力を失った。伝えるべき情報は、それだけでいい。
「記憶喪失だと?そんな都合のいい話があるか」
「というかさっきから言ってるそのヒイラギって何だ?」
当然簡単に信じられるわけもない。
ヤリスさんとフランクさんから、怪訝そうに質問が飛ぶ。
「ホントさ!向こうのパーティで自分が今まで何をしてたかも、魔法の使い方も何も知らないんだ!元々は別の世界で暮らしてて、そこで死んだら何故かこの世界で『閻魔』に成り代わってしまったんだ!ヒイラギ・レイジってのはこいつの本当の名前だ!」
俺は記憶喪失という構図で説明しようと軌道修正を測ったつもりだったが、アリシアさんは真実を全部開示してしまうつもりらしい。
「悪いが何を言っているのかわからないな。俺が馬鹿なのか?ミア」
フランクさんは一連の流れを静かに聞いていたミアさんに話を振った。
「同じく私も馬鹿のようね」
アリシアさんが頭がいいと太鼓判を押していたミアさんも含め、誰もこちらの話を理解できていない。
「脅されてるのかアリシア?なあ『閻魔』さん。何が目的かは存じ上げないが、我々をそちらの問題に巻き込むのはやめていただけないだろうか?俺たちはただ、お前さんをホームタウンに帰してやりたいだけなんだ」
皆の刺すような視線に耐えられず、俺は俯いた。
やっぱり駄目だ。
すぐに信じてくれたアリシアさんが普通ではなかっただけで、こんな突拍子もない話、とても通じそうにない。
万策尽きたと思った俺だったが、次の瞬間アリシアさんが信じられない行動に出た。
~キャラ紹介~
〇柊レイジ
本作主人公。前世で死んだら『閻魔』というチートキャラに転生した。黒髪に赤目の少年。引っ込み思案で臆病。自意識過剰すぎて五感が鋭い。自由が好き。
●海岸部ギルド冒険者パーティー1381番『スズラン』
〇アリシア・ワルツ
猟銃を背負った赤髪の少女。好奇心旺盛。破天荒で遠慮のない言動。自由人。イタズラ好き。
〇フランク・バースタイン
鋼鉄の盾で武装する大男。常識人。『スズラン』の隊長。
〇ヤリス・カイザー
長剣で武装する少年。ビビりの常識人。
〇ミア・クラウゼ
杖を大量に持つ少女。寡黙でマイペース。




