↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/235

30.初めての魔法

俺が勝利を確信して最後の肉団子を口にしようとした時だった。


「なんてな!」


アリシアさんは何事もなかったかのように起き上がると、おどけた表情を見せた。


「えっ・・・・・・」

「おまっ・・・!嘘かよ!」


今の悶絶する下りは演技だったのか。

アリシアさんは本当はハズレを引いていなかった。

それが意味することは。

俺が持つ最後の1つが、超絶激辛肉団子ということになる。

俺はその現実が受け入れられず、実はハズレなど最初からなかったのではないかという考えを巡らせた。

アリシアさんが実は心優しい人で、雰囲気を作るためにブラフを謳っていただけで本当はこの残った肉団子にもタバスコなど入ってないんじゃないのか?


「俺がもらおうか?」


俺が肉団子を前に呆然としていると、フランクさんが救いの手を差し伸べてきた。


「よせよフランク。ヒイラギが引いたんだ。責任持って食わなきゃな!」


よくある飲みサーで一気飲みを強要されるのって、こういう感じなのか。

アリシアさんの楽しそうな笑顔を前にすると、雰囲気を壊したくないという思いに駆られてしまう。


「責任はお前にあるんだよ」

「大丈夫だ。食っても死にはしない!ウンコがちょっと赤くなるだけさ」


そんなの絶対嫌だ。

下手をすれば後遺症で一生痔が治らない体になるんじゃないのか?


「アリシアさんは・・・実は優しい人だったりしませんか?」


俺は思わず現実逃避の質問を口にした。

どうしても残った団子にタバスコは入っていない説を提唱したい自分がいる。


「もういいだろうアリシア。ヒイラギが困ってる」


俺が現実と願望を混同し始めたことで、フランクさんが止めに入った。

とはいえ、この場を乗り切る手段がないわけでもない。


「だ、大丈夫です。辛いものは得意なので・・・・・・」


俺は肉団子をスプーンで掬うと、口に入れるふりをして手に隠した。

食べているフリをすれば、雰囲気を壊さずにこの場をやり過ごすことはできる。

後は大げさに見えない程度に苦しがりながらさり気なくポケットに肉団子を仕舞う。

俺は実際に辛いものを食べた時のことをイメージし、適度に脂汗をかいた。

呼吸を乱して顔を赤らめれば、演技は十分だろう。


「マジか」

「見直したぞヒイラギ!男じゃないか!」

「お前すごいな。タバスコ平然と食える奴初めて見たぞ」


俺の勇姿を見届けた皆は感心したようだ。

子供の頃、学校の先生に無理やりピーマンを食べさせられた時の技術がここにきて活きるとは思わなかった。


「みっ水・・・水をください・・・・・・」


俺は口に残った辛味を洗い流す気持ちで水を一気飲みした。




時刻は丑三時を迎えた頃だろうか。

俺は洞穴を離れ、一人夜風に当たっていた。

食事を終えた後すぐに寝てしまった皆と違い、俺は中々寝付くことができなかったのだ。

初めての世界での野営。敵に追われる恐怖。

加えて明日で決着をつけることの緊張感が重なり、どうしても眠気が起きなかった。

前世のように睡眠導入薬でもあればよかったのだが・・・・・・

気分を落ち着けるため数分ほど散歩していると、森の開けた場所へと辿りついた。

ほとんど明かりがないため今は暗闇しか目に映らないが、遠くにはきっと素敵な景色が広がっていることだろう。

道に迷ったりしてはならないので、あまりみんなから離れる訳にはいかない。

それでも、俺の立っている場所は既に人気の及ばない所となっていた。

こうして誰もいないところでは、少し人前でできないこともしてみたくなる。

一人暮らしをしていると風呂場で一人カラオケを始めてしまいたくなる、アレと同じ感覚。

誰かに見られたくはないので、俺は念入りに辺りを見回し本当に誰もいないことを確かめた。

耳を澄ませても聞こえてくるのは、風に揺られる草木の涼しい音だけ。

大丈夫。今この場所にいるのは俺一人だ。

俺は深呼吸すると、ミアさんに貰った杖を右手に握った。

この世界にやってきてからというもの、驚きの連続だ。

魔法やら、魔物やら、冒険者やら、これまでの常識を覆すものばかりだ。

この機会だ。いくつか試してみたいことがある。

俺は近くにあった小石を拾うと、杖の先端を近づけて頭で念じてみた。

すると俺の願望通り、石は通常では考えられない光を放ち始めたではないか。


「使える・・・俺にも魔法が!」


俺が頭で念じた魔法。それは圧縮魔法だ。

先ほどまで手のひらに乗っていた石ころは、ものの10秒で光るキューブへと姿を変えていた。

使った魔力が少なかったからだろうか、圧縮と言いつつもそこまで大きさは変わっていない。

ともかく俺は何の訓練もなく、普通に魔法が使えた。

魔術回路に触れて頭で念じ魔力を注ぎ込む。

この流れさえ間違えなければ俺でも魔法が使えることがわかった。

転生初日の頃は魔力の出し方すらわからなかったわけだが、使う魔術回路がなければそもそも魔力というものは目に見えないものなのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。