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29.ロシアンルーレット

その後、洞穴で一夜を明かすことにした俺達は夕食を摂ることにした。

フランクさんは療養、ヤリスさんとミアさんは荷物の整理と備品の点検を行っていたため、晩御飯はアリシアさんと俺が作ることになった。


「できたぞ!」


皆を焚き火の周りに集めると、アリシアさんは蓋を開けて鍋の中身を見せびらかした。


「おお!旨そう!」


煮え立つスープに浮かぶのは、魔物と思われる小動物の肉を使った大量の肉団子。

コンソメスープをベースにした肉団子鍋だ。

肉団子の原料となった小動物だが、今日の昼間にアンデッドから逃げてくる道中で捕まえたのだった。

昼ご飯抜きで半日以上も死線を駆け抜けた皆はすぐに食事に取り掛かるはずだったのだが・・・・・・

それを制したのは、一旦鍋の蓋を閉じたアリシアさん。


「何すんだよアリシア」

「このご時世。食糧難に苦しみ、今日を生きるのに精一杯な私達には、皆公平に食の機会を与えられるのが理想と思います。全ての食事に感謝し、責任を持って食し、私達の血肉にする。その当たり前の礼儀も知らず、我先にと醜く群がって食べ物を汚く食い荒らすなど、そのようなことは摘んでいった命に対する冒涜です。」


皆の視線を集める中、アリシアさんは胡散臭いナレーションを付け始める。


「そこで、この鍋の中に超絶激辛タバスコ入りの肉団子を1つ入れました!1つでも多く食おうとした奴は当たりを引く確率が上がるからな」


もう一度蓋を開けて邪悪な笑みを浮かべるアリシアさん。

料理中、俺には肉団子の取り合いを防ぐためと説明してきたが、その本音は全く隠しきれていない。

彼女はただ、ロシアンルーレットをしたくなっただけなのだ。


「またいらん事しやがって!何で止めなかったヒイラギ?」

「すみません・・・・・・」


好奇心と邪心に突き動かされたアリシアさんを俺なんかが止められるわけもない。


「さあ、ルーレット開始だ!この円に沿って順番に一人ずつ取っていけ!最初は私からな」


アリシアさんはヤリスさんの抗議を無視して鍋を囲むみんなに呼びかけた。


「アリシア、魔法は使うなよ」

「使うわけないだろう、面白くなくなるんだからな」


よほどお腹が空いていたのか、フランクさんは逆らわずにアリシアさんのノリに乗ってくれた。

彼女の謎の探索力をもってすればどれがタバスコ入りの団子なのか判別できてしまうので、魔法の使用は禁止する。


「信用できんな。ヒイラギ、こいつの分はお前が取れ。」

「わかりました・・・・・・」

「フンッ」


パーティーリーダーに信用してもらえなかったアリシアさんは拗ねたように鼻を鳴らした。

よかった。彼女の方を盗み見たが、俺に怒りを向けている素振りはない。


「いただきます」


そうして静かな洞穴で始まったロシアンルーレットだったが、フランクさんとミアさんは迷うことなく肉団子を次々に取っていった。

迷いに迷う俺とヤリスさんの番が回ってきた時だけ、あからさまに詰まるという状況ができ上がる。

もしアリシアさんの分で俺がハズレを引いてしまったら。

彼女からどんな報復が来るのかを想像し、どうしても選ぶのに時間をかけてしまう。

早く誰かタバスコ団子を引いてくれと真摯に願う俺だったが、神の悪戯によるものだろうか。

誰も途中でハズレを引くことなく、肉団子は残すところ2つになった。

俺の前に順番の回ったヤリスさんは無事最後の一周を乗り切り、満腹と安堵でため息を付いた。


「面白い展開になってきたなヒイラギ!」


彼の後に続いて引くのは、俺とアリシアさん。

つまり、5人で催したロシアンルーレットの決戦は俺達2人の一騎打ちとなったのだ。

とはいえアリシアさんの分は俺が選ぶ事になっているので、全ての選択権と責任は俺に委ねられている。

俺は鍋にプカプカと浮かぶ2つの肉団子を凝視した。

右か、左か。

どちらか一つがハズレ。


「無事に当たりを引けたら、火を吹いて空までトべるぞ」

「じ、冗談じゃないです・・・・・・」


どちらを選ぶか迷っていると、アリシアさんがハズレのことを当たりなどと言い換えて耳打ちしてきた。

この人、俺に精神的な揺さぶりをかけて楽しんでいるな。


「全く。優柔不断だなぁ、ヒイラギは」


先程までのビビりっぷりはどこ吹く風か、すでにゲームを上がったヤリスさんは安全地帯を確保すると同時に俺を煽ってくる。

その言葉、そっくりそのままお返ししたいところだ。

俺は震える手で左にあった方を取ると、アリシアさんの小皿に乗せた。


「いいのか?それで」

「うう・・・・・・」


ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるアリシアさん。

実は今目の前に残った最後の1つがタバスコ玉なのかもしれない。

そう思うと、とても口に入れようという気は起きない。

俺が自分の分に手を出せないでいると、アリシアさんは躊躇なくもう一つの団子を口に放り込んだ。

2度、3度と咀嚼する様子を俺は冷や汗をかきながら見届ける。


「ン“ッ!!」


そして4度目の咀嚼の後、アリシアさんは息が詰まったような声を出すとその場にうずくまった。


「お前やったのかアリシア!見事に自業自得だな!」


アリシアさんの苦しむ姿を見て顔を輝かせるヤリスさん。

なんというか、安堵している俺も含めて人間の汚いところが凝縮された時間だったな。

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