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18.キックレフト

俺達はメンバー全員の合流を済ませた後、隠れ家を探し求めて湖から離れた。

昨日とは違って水も食料も十分量蓄えているため、安心感は段違いだ。


「手、大丈夫かヒイラギ。」


フランクさんとアリシアさんの2人が先頭を歩く中、ヤリスさんが俺の手のひらの傷に気づいて声をかけてきた。


「このくらい大丈夫です。ただのかすり傷なので」


さっき竹筒を割った時に少し切っただけなので、傷口から破傷風菌でも入らない限り放っておいても問題ないだろう。

現にもう血は止まっており、あとは自然治癒を待つだけだ。

そう思っていると、ミアさんが無言で杖を傷口に向けてきた。

杖の先端が光を放つと、かさぶたが剥がれ、割れていた皮膚があっという間に閉じていった。


「すごい・・・・・・!」


最後に残ったのは、目をよく凝らしてやっと見える程度の薄い傷跡だけ。


「治癒魔法よ。このくらいなら彼らに魔力探知されることもないわ」


丁度さっき魔物に襲われたばかりなので、その恐ろしさは嫌と言うほど理解できる。

魔物に感づかれないために、魔法一つ使うのに俺達は最新の注意を払わなければならないのだ。


「魔物って敏感なんですね」

「違う。私が言っているのはアンデッドのこと」

「え?」


想像の斜め上の警戒対象を告げられる。


「奴ら、目撃情報の収集以外にも魔法の痕跡を洗い出す技術を持っているんだ。派手な魔法を使えば、速効でこっちの場所がバレる」


フランクさんが全員に魔法を抑えるよう指示していたのはそのためか。

騒げば魔物、魔法を使えばアンデッド。

改めて俺達は危ない橋を渡っていると思う。

そうしてしばらく歩いた頃だった。

アリシアさんがおもむろに腕を上げ、皆を制止した。


「どうしたアリシア。」

「魔物だ」


全くその気配もないのに、真剣な声で告げられる緊急事態。

だが俺以外の全員が臨戦態勢に入ったことで、それが嘘ではないのだと認識させられた。


「どんな魔物だ?」

「巨大な鳥のようだが、恐竜に似た二足歩行で走ってくる。すごいスピードだ。とても逃げきれんぞ」


まだこちらからは姿も見えないのに具体的に敵の特徴を説明する。

どうやら目がいいと豪語していたのは本当のようだ。

アリシアさんが敵襲を報告してから2、30秒ほど経った頃、遠方の草木が踏み倒された。

現れたのは、体高3メートルはあろうかという怪鳥。

俺達の姿を視界に入れた途端、陸上選手が腰を抜かすような初速で襲いかかってきた。


「ありゃA級討伐モンスターのキックレフトだ。気をつけろ」


フランクさんの忠告と裏腹に、姿を目にした途端顔を綻ばせるアリシアさん。


「速いな!アレに乗ったら馬より速く移動できるんじゃないか?」

「ニンジンで手懐けられそうに見えるか?」


すると突然、ヘラヘラと笑っていたアリシアさんの顔に凄まじい蹴りが飛んできた。

彼女はそれを猟銃で受けると、数メートル後方へ吹き飛ばされ地面を転がった。

キックレフトという魔物は、蹴りの間合いに入った途端瞬間的に加速したのだ。

それにより、攻撃を避けるつもりだったアリシアさんの反応が一瞬遅れた。


「・・・ッ!」

「大丈夫か!?」

「ああ。飛ばされただけだ」


アリシアさんは平然と立ち上がると、服に付いた土を払い落とした。

その様子からして、上手く受け身を取ったようだ。


「足癖の悪いヤツだな。蹴るのは男の股間だけにしておけ」


蹴られたばかりだと言うのに軽口を叩く勇気があるのはすごい。


「それにしても、なんでこうもしょっちゅう魔物と遭遇するんだ?」


もう安全に寝床へ向かうだけだと安心しきっていたヤリスさん。

弱音を吐きながらも、フランクさんの隣に並んで魔物と正面から向き合う。

アリシアさんの蹴りから切り返してきた怪鳥の突進を、リーダーが盾で受け止める。

金属と金属がぶつかり合うような甲高い音が鳴ると同時、ヤリスさんがキックレフトに攻撃を仕掛けた。


「おい!剣が通らないんだけどこいつ!」


流れるような連携だが、恐らくフランクさん以外はこのレベルの魔物との戦闘経験がないのだろう。


「気をつけろヤリス!今までの奴とは違う!」


一度蹴りを受けたアリシアさんが相手の力量を感じ取ったのか、大声で叫ぶ。


「ヒイラギ!」


名前を呼ばれてハッとした時、俺の体は地面に投げ飛ばされていた。

俺を投げたのはフランクさん。

直前に目の前で鈎爪が横切ったことを考えれば、俺を魔物から助けてくれたようだ。

だが完全には躱しきれなかったらしく、俺は頬を少し切られてしまった。

流れた血を袖で拭い、深呼吸する。

今、俺が狙われたのか。

自分が狙われたことに後から気づくほどの素早い攻撃。

フランクさんに投げられていなければ、首が飛んでいた。

キックレフト。

あいつの蹴りを喰らえば、この世を去ることになるというわけか。


~キャラ紹介~


〇柊レイジ

本作主人公。前世で死んだら『閻魔』というチートキャラに転生した。黒髪に赤目が特徴的な魔族の少年。引っ込み思案で臆病。自意識過剰すぎて五感が鋭い。自由が好き。人生に絶望している。不器用すぎる。


●海岸部ギルド冒険者パーティー1381番『スズラン』

〇アリシア・ワルツ

本作メインヒロイン。猟銃を背負った赤髪の少女。好奇心旺盛。破天荒で遠慮のない言動。後先考えず行動するため危なっかしい。自由人。イタズラ好き。好戦的。人間。


〇フランク・バースタイン

鋼鉄の盾で武装する大男。責任感の強い常識人。『スズラン』の隊長。人間。


〇ヤリス・カイザー

長剣で武装する少年。ビビりの常識人。虫が苦手。人間。


〇ミア・クラウゼ

杖を大量に持つ少女。寡黙でマイペース。人間。


●その他

〇キックレフト

A級討伐モンスター。翼の退化した巨大な猛禽類。二段階の加速を持つ蹴りはタイミングが読みにくい。

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