19.射殺
4人は俺を背にして、魔物を半分囲むような陣形をとった。
睨み合いが続く中、フランクさんが指示を出す。
「アリシア。銃を使え」
「いいのか?他の獣に気づかれるぞ」
ここは山の中だ。よく響く銃声は、それを脅威と思わない凶悪な猛獣を誘き寄せる。
ここに来るまでの道中、アリシアさんが一度も発砲しなかったのはそれを警戒してのことか。
「この際仕方ない。魔力を抑えて勝つならお前以外の適任はいない」
「了解した!」
合点するや否や、アリシアさんは猟銃を肩に構えた。
だが、その銃口が火を吹くことはなかった。
「なあフランク」
「なんだ」
その代わり、彼女の口から出たのは不穏な疑問。
「こいつら、群れを作る習性でもあるのか?」
「あー。もしかして来てるのか?」
「10・・・いや 20 はいるぞ」
核心を突かないような言い回しをしているが、キックレフトの群れが押し寄せていることは馬鹿な俺でもわかった。
次の瞬間、フランクさんは苦渋の決断を下す。
「ミア!ライオロスを捨てろ!」
「ええ!?囮にするのか!?せっかく手に入れた食料なのに!?」
フランクさんの指示に反発したのは、昨日ほとんど食事を取っていないヤリスさんだった。
苦労してやっと手に入れた収穫を簡単に手放すのは辛いだろう。
「今の俺達じゃこいつらを撒けない!やれ!」
ヤリスさんと違って躊躇なくキューブを解凍すると、ミアさんはライオロスの死体を地面に放り出した。
その瞬間に背を向け走り出す俺達。
だが、一人だけ何故かそこから一歩も動こうとしない人物がいた。
「アリシアさん・・・・・・?」
逃げ遅れたのかと思って振り返ったが、彼女の後ろ姿を見てすぐさまその考えを否定された。
その身に纏っていたのは、今までの快活な言動からは想像もつかない、凍るような殺気。
怪鳥がライオロスの死体に気を取られた一瞬の隙をつき、彼女は音もなく銃口を向ける。
「お返しだ」
銃声とともに放たれた弾丸は、一撃でキックレフトの頭蓋を撃ち抜いた。
「走れ走れ!」
「追っ手は!?」
「距離は離したが来てるぞ!こっちに一直線だ!」
「なんでだ!?俺達の場所がわかるのかあいつら!」
後から追いついてきたアリシアさんと合流し、俺達は魔物の群れから逃走していた。
「さっき、なんで殺したんですか!?」
アリシアさんは逃げ出す直前、それまで対峙していたキックレフトを射殺していた。
どうせ逃げるのだ。
にも関わらずわざわざ仕留めた理由を、俺は聞いてみる。
「ああいう魔物は少なからず共食いの習性を持つんだ!一匹でも追手が減るほうが、こっちの生存率が上がるだろ!?」
転がる死体を増やして少しでも魔物達を釘付けにするための合理的な判断だったようだ。
だがフランクさんの獲った獲物まで捨て置いたにも関わらず、どういうわけか奴らはこちらに真っ直ぐ向かって来ている。
このままでは直に追いつかれるのを待つばかりだったが、アリシアさんが生存ルートを見いだす。
「フランク!穴だ!この先にデカい穴がある!」
彼女はどうやら隠れる場所を見つけたらしい。
俺はアリシアさんの示した場所に目を凝らしたが、穴らしきものは見受けられない。
「中は?」
「留守のようだ!」
またしてもアリシアさんは肉眼で見えるはずもないのに断言した。
身を隠していた俺の存在に気付けたときと同様、やはり透視のような魔法を使えるらしい。
「ミア!」
フランクさんに呼ばれてミアさんが杖を振ると、白い煙が辺りに立ち込めた。
煙幕で魔物の視界が遮られている間に俺達は素早く身を隠す。
アリシアさんは土に手を突っ込むと、地下室の扉でも開けるかのように地面を持ち上げた。
するとそこには、彼女の言った通り5人全員が入れそうな広い縦穴が現れた。
皆は迷いなく次々に穴へと滑り込んだ。
「ヒイラギ!早く!」
誰が、なんの目的でこんな隠れ家を作ったのか。
そんなことを考える暇もなく、俺はフランクさんに急かされるままそこに飛び込んだ。
最後に全員が入ったのを確認するとフランクさんは蓋を閉じた。
穴の中は暗く、明かりと言えば蓋の隙間から微かに差し込む外の光だけだ。
その僅かな光だけでも目に見えるものがあった。
「・・・・・・糸?」
壁を手で触れてみると、一面にびっしりと粘着性の糸が張り巡らされていた。
天井の蓋も、高強度の糸によって周囲の土砂を固めてできたもののようだ。
ということはつまり・・・・・・
「ちょっと待てよ!ここって魔物の巣なんじゃないのか!?」
俺と同じ考えに至ったヤリスさんが小さく悲鳴を上げる。
「大丈夫だ。ここには誰も住んでいない」
「本当なんだな!?信じていいんだな!?」
ヤリスさんとアリシアさんの口論は、蓋越しに聞こえてきたキックレフトの鳴き声によって中断させられた。
怪鳥の群れが辺りをゆっくり徘徊する足音がこちらに響いてくる。
奴らが俺達の頭上を歩くたびに蓋が揺れ、細かな砂利が降ってきた。
「蓋・・・壊れたりしないよな?」
「しーっ」
俺はふとキックレフトに切られた頬の傷が気になって、自分の顔に手をやった。
どうやら、頬を切られた際の出血は止まったようだ。
キックレフトの群れはしつこく徘徊していたが、やがて足音は遠ざかっていった。




