第97話 故郷への義理
俺は故郷、デーバ町へと舞い戻る。
この世界に転生した俺が、17まで育ったロクでもねえ海辺の町に。
住人? 嫌いだったよ。
教会で俺を育てて下さった、おやっさん以外は、人様に挨拶も出来ねえ、教会に文句ばっかり言ってきやがる連中、それもいい歳したジジイやババアがだぜ? 終わってんだろ?
その連中も、おやっさんも、もういない。
悲しいよな……今思い返しても悲しい思い出だ。
俺が最初に遭遇した悪魔、シャドーデーモンとか言うマヌケ野郎に、全員ぶっ殺されちまって。
体バラバラにして、コンクリ詰めのケジメしてやったぜ。
そんで俺は道中、世界が闇に包まれているのにも関わらず、可憐に地べたに咲いている花々を摘み、町へと向かう。
俺は、教会の僧侶見習いだったし、ここの町の連中は、俺が勇者になったって事も知らねえで、死んじまったんだから、墓に花でも添えてその報告もしなきゃあならねえ。
なんだかんだいっても、この町と、あの教会には17まで世話になった故郷なんだから、花でも墓にお供えして、手を合わせてやんのが、筋ってもんだし、義理だろう。
義理欠いたヤクザなんか、チンピラ以下のゴミみたいなもんだしな。
それと一応、俺は教会の司祭だったし、教王ソフィアは俺の保護下にある。
だがこの世界の教会組織は、手下にしたマフィア野郎達の情報によると、解体されて国家公安警察とかいう共産主義国家様の、市民弾圧組織に変えられちまった。
人がせっかく、任侠と共和の精神にあふれる、皆が笑って過ごせるような、夢と欲望が渦巻いて、明日の希望にワクワクする、大統領制の資本主義国家にしてやったのにこのざまよ。
俺が以前ケジメつけてやった、平民派議員のブリュワーズが国家主席様らしい。
あの野郎、やっぱりぶっ殺しときゃあよかった。
だが、俺様は連邦対策の仕掛けの絵図は描いている。
あとは、準備が整い次第、共産主義国家をぶっ潰しやる。
オークデーモンの豚野郎を、こっち側に引き入れたおかげで、大魔王軍のガイウスや、魔神達の絵図もわかった。
奴らの作戦名は、頂上作戦。
魔界を統一し、神界の勢力を弱体化し、邪魔になる俺の存在を消して、大邪神を復活させて、世界全ての頂上たる、創造神様の命をとり、全てを破壊するのが奴らの目的。
頂上作戦ねえ……ふざけやがってぇぇぇぇぇ!
転生前、俺や日本中の極道組織が、サツのお偉いさんの点数稼ぎでくらったのが頂上作戦よ。
簡単に言えば、極道組織の主要な親分衆の逮捕起訴後、懲役に引っ張る事で、組織を壊滅させるという、サツの作戦が頂上作戦。
だがな、その作戦は失敗に終わるだろうぜ。
奴らに逆襲するための、作戦は閻魔大王親分には伝えてある。
俺の絵図を完成させるためにも、アースラの武器の素材集めは必要不可欠。
そして俺は、滅びた故郷、デーバの町に帰還した。
世界救済後は、ここを俺の生誕の地として勇者会館とかパビリオンでも作って、永久にシノギできる、箱物でもおっ建てて、二代目極悪組の資金源にしちまおう。
子を助けるのが、親である先代の俺の務めだからな。
ん?
なんだこれ、町に……住人がいる。
ぶっ壊された町が、元に戻って……あれは町長のランドさん?
それに、仕立て屋のメルンの婆さんの店、町の中央広場の救世主像前で、朝の体操してる、大工のゲン爺もいるし、マンゴラドらしか置いてねえしけた八百屋や、たまに人肉とか混じってるんじゃとか噂されてた肉屋に、生臭い干物しか置いてねえ元漁師のマルークのオヤジのみせなんかもありやがる。
「よく帰ってきたな、マサヨシ」
神父様、おやっさん!?
いやいやいやいや、なんで?
なんで、みんなシャドーデーモンのマヌケ野郎に殺されちまったはずじゃ……。
「教会には寄っていくのだろう? お前の部屋もそのままにしてある」
俺はゴーグルを外し、静かに涙を流しながら頭を下げた。
なんでかはわからないが、俺の生まれ故郷は復活しているようだ。
ぶっ壊れた教会は元に戻り、俺は中に入る。
すると、この周辺で地図は光始めて反応しているようだった。
間違いない、この近くに俺の探し求める刀の素材がある。
だが今は、もう少しこのままでいさせてほしい。
ここは、俺の故郷だから。
夕食をとりながら、俺はおやっさんに今までの冒険の話をする。
子分ができたこと、愛する女ができたこと、舎弟との思い出、組を作った事。
そして、この可哀そうな世界を救いたい思いを。
すると、おやっさんが涙を流す。
「逃げろ……マサヨシ……これはお前を殺す罠」
え?
罠だって?
「ぐ、うおおおおおおおおおおおお」
おやっさんの体が溶けていき、腐敗臭漂うアンデットと化す。
な、なんなんだこれは?
いったい、何が。
すると、教会の窓から、次々とアンデット共が入り込んでくる。
そして教会が青い炎に包まれた。
全然熱くないが、これは、この現象は一体?
俺はアンデットを振り切り、教会の外に出ると、町の人間が次々俺に襲い掛かる。
ちくしょう、これは一体!?
俺をぶっ殺す罠だと?
すると、馬の鳴き声と共に、超高速の何者かが突っ込んできた。
俺は躱しながら、懐からピストルを取り出してその何者かに連射する。
だが、目にもとまらぬ速さで、今度は腹を抉りに来るような空気の渦が俺の体を貫こうとしてきた。
咄嗟にかわすと、町の建物が一瞬で吹き飛ばされる。
その攻撃に気を取られると、今度はアンデットと化した町の奴らが俺の足に絡みついた。
間違いねえ、これは俺の命を取るための罠。
俺は心の中で詫びながら、アンデットになった連中を刀で切り飛ばし、地べたを転げまわる。
「ほう? 人間にしてはまあまあと言ったところか」
夕闇のなか、俺を攻撃してきた青い影が実体化する。
青い炎の馬にまたがった、真っ青の全身鎧を着込んだ、青い髑髏の死神だった。
身の丈は人間と変わらないが、超大な魔力と戦闘力を感じる。
「我が名は魔神、ペイルライダー。生と死を自在に操り、幾多の戦場で無敗。そして貴様を殺すものの名だ」
「そうかい、魔神野郎か……てめえ……よくも、よくも俺の故郷で、俺の町の人達をアンデットにしやがったな! ぶっ殺してやる! テメーだけは絶対に許さねえ!!」
俺は、ペイルライダーに斬りかかるが、体に縋りつくものがいた。
おやっさんだった。
もはや完全に、あのペイルライダーの操り人形のようになっている。
「ふふ、我が力は魔神の中でトップクラス。私の力は死、そのもの。冥界に召し上げられた魂ですらも自在に呼び寄せ、この力は名だたる冥界の神々をも超えているのだ。そしてこの者たちの魂を消滅させることは、この者たちの存在自体の消滅を意味する」
な……んだと?
つまり、この町のアンデットに変えられた連中を始末することは魂の消滅。
すなわち、二度と蘇らないという事。
俺はアンデットに変えられたおやっさんを見つめる。
……だめだ、俺は……こいつに、勝てねえ。
転生前に俺が殺したような先代、おやっさんを、殺せねえ……。
「ふふ、世界消滅後は、新たなる創世の世界で我こそが冥界の管理者に相応しい」
ペイルライダーが呟いた瞬間、地面からおぞましい地鳴りのような音がした。
何か、とてつもなくやべーのが地の底から来る、
こいつの能力か?
いや違う、俺はこのオーラを知っている。
「ほう? 貴様は我の仕事を奪う気でおるのか?」
地面から現れたのは、どす黒い髑髏の杖を持った、閻魔大王親分だった。
顔には、メロンのような血管が浮かび、恐ろしい顔をして激怒している。
ああ、これは滅茶苦茶ブチ切れてる。
縄張り荒らししに来たボンクラを、親分自らぶっ殺しに来た感じだ。
その証拠に、俺が見たことない、親分専用の道具持ってるし、魔神野郎を殺る気満々だわ。
「ほう? これはこれは、大魔王ヤマ。いや、今は閻魔大王か? ようやくお出ましか」
ペイルライダーは、青白い槍を親分に向ける。
すると、親分は髑髏の杖を天高く掲げて、額から三つ目の目が見開き、俺の魂に怖気が走るような表情になった。
「許さぬ。貴様、人間を、魂を、思いを侮辱しおって、崇高な魂の循環を何だと思ってるのか!? 許せぬ、許してなるものか外道め、貴様は我が滅ぼさねば気がすまぬ! 冥界第一級審問官の名において、貴様を消滅させてくれる!」
すると、俺の目の前で魔神と神の闘いが繰り広げられた。
杖を持ってる親分が、必殺の一撃を繰り出そうと攻撃し、魔神野郎がそれをかわして、突撃を繰り返す、手練れ同士の喧嘩。
そして、自分を殺してくれと言わんばかりの俺を見つめるおやっさん。
ちくしょう、ここで俺がアースラになれば、喧嘩にケリがつく。
だが、そうなれば俺はおやっさんを。
「ヤマめ、なかなかやりおる。しかし貴様、この世界を守ろうとするあまりか、力をセーブしておるな? それと貴様の持つ必殺の死の杖。死を司る私には効果が無い代物。そして、私は死の魔神、天に召されぬ、魔族の魂を召喚することも可能! このように!」
魔神野郎は槍を天叩く掲げる。
すると雷鳴と共に、二人の男女が現れた。
「な!? 貴様、我の父上と、母上を!」
「そうだ、大魔王ヴィヴァスヴァットと、王妃サラニーユ! 貴様が殺した両親、我が最強のアンデットだ! 死ね、閻魔大王よ! 黄昏の彼方に」
親分は一気に劣勢となり、攻撃の余波が俺を吹き飛ばす。
ちきしょう、あの魔神滅茶苦茶やりやがる。
俺と親分をぶっ殺すために、策を練り込んできやがった感じ。
そして、親分が両親からの攻撃に気を取られている刹那、魔神野郎が必殺の槍の一撃をくらわそうとした瞬間、俺はおやっさんを振り切り、親分の盾となり、胸を貫かれる。
「マサヨシ!」
俺は魔神の必殺の一撃を受けて崩れ落ちるように、地べたに倒れた。
親分は、なんとも言えないやり切れぬ顔をする。
そんなお顔をしなさんな、親分。
親を庇うのが、子分の義務よ、当たり前の話さ。
「貴様ぁぁぁぁ!」
親分は、魔力を高め三対一の喧嘩の大立ち回りを繰り広げる。
ちくしょう、目がかすんできやがった。
俺の冒険の旅も、これにてゲームオーバーってやつか。
すると、俺を庇うように様々な属性魔法の障壁が覆う。
「マサヨシ、しっかりするのじゃ!」
「マサヨシ殿、お気を確かに!」
「ああ、マサヨシ様、なんてこと、今すぐ私の神霊魔法で」
「勇者よ、これしきのことで、貴様は私を女にするのではないのか?」
「こんなところで死んだら許さないんだから! 私の贖罪はどうするのよ!」
「神よ、勇者様を御救い下さい」
なんだよ、走馬灯か?
女共が、涙目で俺の前に次々現れやがったぜ。
涙のしずくで、俺の着物が濡れちまうじゃねえか。
まあ、俺様はモテモテの稀代のスケコマシだからな。
女共に囲まれながら、死ぬのも悪くねえ……。
すると帯にさしこんだ刀がまばゆい光を放つ。
俺は懐から飛ばされた地図を見やる。
第三の素材、それは種族を超えた乙女たちの涙。
なるほどね、俺はこの故郷でヤミーを泣かせたり、レオーネを泣かせた。
だから地図が反応を示した、なるほどな。
そして俺の体に次々回復魔法がかけられ、刀を手にして立ち上がる。
あいつら、俺が死にそうになって泣き入れやがって。
しょうがねえ女共だ、これじゃあ男としてカッコつけねきゃならねえじゃねえか。
「みんな、あそこにいるアンデットは、俺と親分の義理と縁がある大事な人達なんだ、殺さねえで動きだけ止めてくれればいい」
俺は、集まってきた女たちに告げ、骸骨野郎を見据える。
こいつだけは、こいつだけは絶対に許せねえ!
ヤミーは、アンデットにかかりきりになり、無間地獄の魔法を使えねえが構いやしねえ。
大魔王軍の奴らに見られようが、こいつは今この場で殺す。
人のも思いを、魂を、ないがしろにするようなこいつだけは!
俺はまばゆい光に包まれ、背中に阿修羅の入れ墨が浮かび上がる。
アースラの魂も告げている、非道を許すな、己の正義を貫けと!
その瞬間、着物がはだけて、背中に腕が四本生えてきて、瞳は燃える漆黒の炎のように、肌は褐色に、そして髪の毛が逆立つ感覚があり、太陽の光のような青白い輝きを放ち、抜いた刀は金色に光り輝き、俺の魔力は一気に膨張する。
親分と骸骨野郎は、アースラになった俺を見やる。
「な!? 何だこのバカげた魔力は! 貴様は、貴様は何者だ!?」
髑髏野郎は、俺を見てテンパって上ずった声を上げた。
親分は、俺の姿を見やり、にやりと笑う。
「俺か? 俺はよお、てめえらワル共をぶっ殺すために、幾度も幾度も転生を繰り返した男の魂よ。親分! 俺がこいつにケジメ、つけますがよろしいでしょうか!?」
「許す! 存分に力を発揮せよ!」
さて、許可を得たし今からケジメの時間だぜ骸骨野郎。




