第5話 修行
異世界転生して17年目になった。
俺の朝は早い。
まず朝起きて祈りをささげ、青い月が沈まねえうちに、手製のひのきの棒で素振りから始まり、それが終わると棒を持って教会の周りや町周辺を寝巻でランニングする。
距離にして15キロくれえで、その間にモンスターに出くわす。
馬のふんみてーな目障りなスライムやら、あの世にもいけねーでさまよってやがる亡者、骸骨のスケルトンやら腐った死体のゾンビを、神の名の下に笑いながらぶちのめして浄化する。
この世界にストレスが溜まりまくった、俺の息抜きみてーなもんよ。
俺も転生する前の若い時には、繁華街で50メートルおきに、いきがった余所者のチンピラや、愚連隊とか暴走族のヤンキーみてーな与太郎連中を、木刀とか持ってぶちのめして回ったが、まあそんな感じ。
それでこの世界には魔法ってもんがある。
まるで若い衆がはまってたファミコンのRPGみてーな世界だよな。
俺も、子分からゲームは一時間までだって取り上げて、シノギの合間にはまったもんだ。
この世界の魔法には、種類がある。
まず、相手をぶちのめすための攻撃魔法で、魔界魔法ってやつかな。
これは魔界の侵略の影響で、この世界の人類が使えるようになったものだが、大きく分けて属性が、
火
水
風
土
この4元素を高めたり、組み合わせて相手を攻撃するって寸法よ。
俺が一番得意な魔法だ。
この4元素の組み合わせ次第ですげー魔法が撃てたりするが、体力消費が激しいので、とにかく使いまくって体力鍛えて気合で慣れるしかねえ。
次に、神霊魔法。
これは神職たるうちのおやっさんの得意魔法で、神に祈りを捧げて体力を回復したり、肉体を強化したり、すげーのになると、死者の魂を肉体に蘇らせちまったり、広範囲の不死者系のモンスターを冥界送りにしちまったりする。
この辺で使えるのはおやっさんくらいなもんで、正直俺はこの魔法は苦手だが、必死に修行している。
だってよ、神職についてるおやっさんの息子が使えねーとかって恥ずかしいだろうがよ。
そのせいで、あのろくでもねえ町の連中は俺を下に見てきやがってくるし。
他にも、精霊魔法なんてのもあるらしいが、これは人間には使えねーようだ。
俺が今いるクソ田舎のデーバ町から離れたところにある、富士の樹海みたいなトワの大森林にいる、エルフって耳が長い連中が使えるらしい。
俺もお目にかかったことがねえが、女のエルフはべっぴんさんが多いようで、見かけたらぜひ口説いてコマしてみてえ。
最後に、冥界魔法という魔法がある。
ぶっちゃけ、この世界の書物にはあまり詳しく書いておらず、僧侶のおやっさんによると、どうやら俺はこの魔法の適性が高いようだ。
まあ、この俺様は一度冥界、あの世に行ってるわけだから当然と言えば当然かな。
そんで、ある程度モンスター共をしばき回った後、教会に帰って、素早く自分の汗を拭き、鏡の前で身だしなみを整えるわけさ。
俺の今の外見は転生前の若い時とそっくりで、太陽がない世界なのか、若干肌の色はなまっ白くなりやがったが、転生前の繁華街をほっつき歩いてるバカ女に、ジゴロができそうなくらいにはいい男ではある。
願わくば、床屋やら美容院でこの長く束ねた髪の毛を切って、アイパーや二グロパンチは無理としても、キリッと角刈りにはしてーが、この異世界にそんなものはねえ。
一回、長く伸びた髪があまりにもうっとおしくて、ハサミで切ろうにもうまくいかず、風魔法使って自分の髪の毛を切ろうとしたが、あやうく頭皮まるごとすっ飛んでいきそうになって以来、髪の毛はおやっさんに切っていただいている。
そして教会の僧侶の正装に着替えて、俺のおやっさんが起きる前に教会の掃除を済ませ、飯の準備。
飯ができたころになると、おやっさんが起きてくるので三つ指ついてあいさつよ。
なんか、俺が転生前に組事務所に住み込みで修業してた、若衆時代と全然変わらねえのな。
どこの世界も、駆け出しは修業しなきゃならねえのは変わらねえらしい。
もっとも、駆け出しヤクザの住み込み生活は厳しく、電話番や掃除、それと兄貴分へのお伺いができずにヘタ打ちまくったら、容赦なく兄貴分から鉄拳制裁どころか木刀や灰皿が頭に飛んでくる。
それに比べれば、この修行生活はぜんぜんマシな部類よ。
俺が修行している教会の仕事は、神への祈りと、この仁義なき世界で多少は信仰心と心ある人々への、保護と相談事が主な仕事となる。
あとは、近隣で死者が出た場合は、葬儀や埋葬の仕事も請け負っている。
このくそろくでもねえ世界にしては、まっとうな仕事だと俺は思う。
そして、今更ながら思うがよお。
あのクソバカ娘のヤミーはいつこっちに来やがるんだ?
そりゃあ、閻魔大王様も俺が転生前に準備があるから時間がかかるとか言ってやがったが、全然その気配すらねえ。
あのガキ、多分こっちに来るのがめんどくせえとか駄々こねまくって、頭スイーツだからどっかでお茶菓子食ってやがるんだぜ?
まあ来ねえほうが俺の修行の邪魔されずに済むが。
それとこの世界の状況だが、だんだん悪化してきやがってる。
モンスターの活動が活発化しているし、教会から入ってくる情報によると、国内のあちこちで下級の悪魔共の目撃情報が寄せられている。
教会ってのは、この世界でも結構な影響力があるらしく、情報が回ってくるのが早い。
情報力はどこの世界でも生命線だ。
俺もヤクザだった時は、いち早く敵対組織の情報や、サツの動向を気にして回った。
これを怠ると、極道の世界はサツにパクられるか、相手の組織にはめられて、半殺し、悪けりゃ死ぬ。
こっちの世界でもそれは同じことだ。
すると、俺のおやっさんが、食事を終えて神に祈りを捧げていた俺を呼び止めた。
「マサヨシよ、今日も相談事や懺悔をする人々が訪れるだろう。お前もそろそろ聖職者として私の仕事を見てるだけでなく、迷える人々を救うために今日は私に代わってやってみなさい」
ああ、この代貸の許可がおりる日を待っていたんだ。
転生して、修行の日々を送り勉学に励み、モンスターをしばき回る以外は、おやっさんの仕事を見ているだけだった。
そんな俺に、おやっさんが仕事を任せてくれる日を、どんだけ俺は心待ちにしていたか。
「わかりました、お父さん」
俺は意気揚々と、相談事をうけるための教会の執務室に行くと、すでに一人のフードを被った少女が相談席に座っている。
大きなフードを被って、自身の体に不釣り合いな長めのポンチョを身に着けている少女のようで、執務室には少女が持ってきたであろう、旅で薄汚れたズタ袋や、竹刀袋みたいな物を置いていやがる。
よく、あんな小さな体で結構な荷物を運べたもんだ。
俺はある意味感心しながら彼女に用件を聞く。
「迷える女性よ。この私が相談に乗りますので、どうか私めにご用件をおっしゃってください」
「神に仕える神父よ、この辺りにいると言われる男を探してほしいのじゃ」
人捜しか。
しかも男を探してるとか、この世界の女はガキにしちゃマセていやがるし、いい根性してるな。
「なぜあなたはその男を探しているのです?」
男を探しているとしたら、色恋沙汰絡みのトラブルだろうか?
俺が転生前だったら、子分共に命令して日本全国どこにいようが探し出せたんだが。
ていうか転生した世界だとそもそも若い衆なんて俺にいねーし……。
とにかく情報を引き出そう。
「我は兄にその男がいる近くまで送ってもらったのじゃ。しかし道を間違えたのか、三日三晩飲まず食わずでモンスターに襲われながらさ迷い歩くも、探してる男は見つからずもうあきらめかけてるのじゃ」
なるほど、お兄さんのお使いからはぐれて、散々道に迷ってここにきちまったって事か。
かわいそうにな、何とか見つけてやらねえと。
「我もう心が折れそうなのじゃ、我をさっさと助けるのじゃ、神に仕える人の子よ!」
あん?
なんかこの上から目線の声、どっかで聞いたことがあるような?
だが、俺は神父見習い。
この世界のメスガキの口の利き方がなってなくとも、話を聞いてやり、助言をして彼女を導いてやらなきゃあならねえ。
「その男はどのような名前で、あなた様とどういったご関係でしょう? よろしければお顔を拝見させていただいても」
俺が少女に尋ねると、しばしの沈黙があった後、フードをとって少女は俺に言った。
「兄様に聞かれても誰にも言うなと言われたのじゃが、名前は清水正義という外道で、今は名前を変えているようで見当もつかぬのじゃ。我はヤミーと申すもので、兄に頼まれそのクズめを探し回っていたのじゃが……もう限界じゃ……家に帰りたい………」
てめえかああああああああ
何で閻魔のくせに道に迷ってんだこの馬鹿はああああああああ
俺を探しに会いに来たヤミーに俺はクソでかい溜息をついてこういった。
「俺だ馬鹿野郎……」




