第4話 父親
お控ぇ成すって、お控ぇ成すって!
そちらにいらっしゃるお兄さん方、お姉さん方、お控えなすって!
小説家になろう軒下を借り、遅ればせの仁義、失礼さんでござんすが、これよりあげます言葉のあとさき、間違えましたら御免なすって!
これより軒下三寸を借り受けまして、転生前、転生後の稼業、仁義、発します。
あたくし、転生前の生まれも育ちも地球の日本でござんす。
生前、恥ずかしながらの悪行三昧、日本全国砲刃矢石の中に身を置き、縁あって親戚筋の関西神戸、極悪組親分より、親子の盃を頂戴し、以降は極悪組の直参、初代清水一家を立ち上げまして、後に極悪組6代目を襲名いたしやした。
稼業にて、殺した男は数知れず、泣かした女は数知れず………。
転生前の性は清水、名は正義と申しやす。
人呼んで、「日本最大組織の大親分」「6代目極悪組 清水正義」「人斬りマサ」「外道」
色々と呼ばれてきやしたが、自業自得の因果にて、愛する子分に引導を渡され、以後あの世におわします、閻魔大王様の恩情により、転生後、今までの渡世人、外道人生、全てを捨てやした。
転生後の性は無く、名はマサヨシと発しやす。
親、一家、持ちませんが、以後お兄さん、お姉さんのお引き立て、よろしくお願い申し上げやす。
俺は、神々が見捨てた最悪の世界、「仁義なき世界」に転生した。
転生して赤ん坊だった俺は、二度目の人生で初めて父親という存在に出会う。
父親、俺はお父さんと口で呼んでるが、心の中ではおやっさんと呼んでいる人の住まいの軒下で、赤ん坊だった俺は拾われた。
俺の居住地はアルフランドって言う大陸の北端、暴君が支配するデヴレヴィ・アリイエ王国から西の辺境、クソ田舎のデーバ町から、更にはずれの海沿いの丘に住んでる。
そして、転生前の俺の心配をよそに、魔界の悪魔からの襲撃もなく、こうして俺は男を上げるため、おやっさんの書庫で読み書きし、この最悪の仁義なき異世界の知識を勉強してるってわけさ。
それに読書はいい。
俺も、この世界に来る前に、ヤクザの大親分だってふんぞり返っていた時からの趣味。
読書が趣味の親分衆は少なくなく、俺みてーにガキの頃学校に行ってねえようなヤクザは、学がねえ馬鹿呼ばわりされて、サツや世間様から足元を見られることも多い。
そのためにも、勉強は必要だ。
それにヤクザとしての座布団が上がると、大手のゼネコンさんなどの企業や、お偉い政治家さんとその秘書の交渉事や、相談事なんかもあるし、上に立つなら知識は必須。
どんな相手でも、組と代紋の名誉がかかっている以上、世間様や人様の風下に立つことは許されねえのが極道の社会さ。
俺のいた組事務所にも、六法全書やビジネス手引き書から始まり、経済本や、コンピューターのプログラミングの専門書に歴史書まで、ありとあらゆる分野の書物を本棚に入れていた。
それを、俺が幹部連中や当番で来ている若い衆へ、漫画ばっかり読んでねーで、勉強しろって口うるさく言うのよ。
知識は力ってわけさ。
そして俺は、転生前は世間様が眉を顰めるヤクザな生き方をしていたが、こっちではなんと、神々に祈りを捧げる、教会の神父様の息子って事になっている。
教会の神父見習いは、馬鹿には務まらねえ仕事だ。
それに、社会奉仕もできてやりがいがあるいい仕事だと俺は思ってる。
任侠道を貫くならば、別に生き方はヤクザじゃなくてもいいって最近は思えてきた。
「マサヨシ、早く寝なさい。明日も朝が早い」
「わかりました、お父さん」
俺は部屋の外から声を掛けに来た、この世界の親代わりである、クランツ神父に返事をする。
頭がややハゲてはいるが、インテリ風のお役人みたいな風貌をしている。
この世界には珍しく人間ができた俺の自慢のおやっさん。
お父さん、父親か……俺はカタギの世界の父親ってもんを知らねえで育った。
転生前のガキの頃の俺は、物心ついたときには、世間一般の人様が指さすような、繁華街から少し手前におっ建つ、小汚え団地で生活していた。
腹がいてえとか、熱っぽいとか、どっかに体ぶつけたって、3歳くらいの俺が泣き入れて言っても、おふくろは知らんぷりで、一夜限りのロマンスとか言ってやがったが、男連れ込んで、その日暮らしの立ちんぼで生計を立てていた。
おふくろ、俺をこの世にオギャーと生んでくれた女は、どうしょうもねえクズだった。
俺の父親は誰かは知らねえが、多分おふくろの情夫のろくでなしの誰かだろう。
この世には、生まれながら好きもので、それを商売で食っていく女がいる。
何不自由なくご両親から愛され、学校に通い、社会で真面目に働く連中には、信じられねーかもしれねえが、そんな哀れでかわいそうな女もいるんだ。
ある日、俺が小学生の年になった時、おふくろが連れてきたロクデナシに、散々殴る蹴るされて、血だるまになって痣だらけになる。
なんで俺がそんな羽目になったかって?
俺を小汚えゴミのような目でみやがる、ろくに子供にかまいやしねえで、子供のために戦争反対とか頭に花咲いた活動してやがった、当時小学校の担任の先生様が、クラス全員に九九の歌を教えたんだが、俺は一発で理解し、家ん中で歌ってた。
そしたらおふくろの客が来やがって、そのヤローにボコボコにされたんだ。
わけがわからねえだろ?
俺もわけがわからなかったが、今思うとガキのくせに小賢しい歌を歌ってると思ったんだろうな。
そんで、前々から俺の泣き声聞いてて、うるせえと思ってた周りの住人が、おまわりに通報した。
通報で駆けつけてきたおまわりは、おふくろと客をパトカーに乗せ、俺は救急車で病院に連れ込まれて入院生活を送る。
けど当時は、児童養護とかいう法律や概念がなかったから、当然おふくろの元に戻される。
そんで、おふくろはまた殴る蹴るするわけよ。
お前のせいで、男に振られちまったって言ってさ。
その後、俺は児童福祉送りとなり、俺を不憫に思ったんだろうか、おふくろを捕まえたおまわりから施設でこう言われたんだ。
「なあ、ぼうや? 俺の家は男の子いねーからさ、俺んち来いよ、息子にするから」
けど、俺は今まで酷い境遇だった自分を、見て見ぬふりしてたサツや社会が嫌いだったし、そんなクズみてーな母親でも、親は親だからって首を振ると、そのおまわりのおっさんは悲しそうな顔をしていたのを今でも覚えている。
このおっさんはその後、刑事になったが、結局シャブで狂ったポン中ヤクザに撃ち殺されて殉職したって話を聞き、人知れず俺は涙を流した。
施設に入った俺はまともに育つはずもなく、あちこちで盗みや喧嘩に明け暮れた15歳のある日。
俺はおふくろに会いに、生まれ育った汚え団地に戻る。
けど、おふくろは地元の繁華街のチンピラからシャブを覚えて、イカレちまってた。
俺はそのチンピラを持ってたナイフで顔面を切り付け、けつをぶっ刺さす。
そして、血まみれで許しを請うそいつをぶっ殺そうとした。
後に、「人斬り」と言われた俺が、初めて斬った野郎がそいつだった。
その野郎を殺す前に、その野郎の腐れマラを切り落として、野郎の口に突っ込もうとした。
だがその寸前で、俺はそのチンピラの兄貴分のヤクザに捕まって、ボコボコにされた。
そして組事務所に突き出され、組長室の前で正座させられる。
そのヤクザの組は、俺の地元で勢いに乗ってる組で、そこを預かる親分は当時としては異例の20代の若さで組をまとめ上げてる、優秀な渡世人だった。
その親分は俺に、何でこんなことしやがたんだって聞いたわけさ。
俺は一歩も引かず、ビビらず、ヘリくだらず、生まれてから今までのことを話して、おふくろを壊したあのシャブ野郎をぶっ殺すつもりだったって言ったら、涙を流してその親分が俺を抱きしめた。
「すまねえ、今からケジメつけて、俺がお前と母親の面倒を見るから許してくれ」
その人は俺に言うと、自分の左手の小指を、若い衆から持ってこさせた包丁で切り落とす。
自分の小指を俺に見せつけ、これで許してくれって言ったんだ。
これに俺はしびれちまったね。
すぐに俺や組の若い衆が駆け寄り、その親分を病院に連れて行く。
先端医療も発達し始めていたおかげか、医者の力で小指はくっつくことはできた。
だが、一生その人は小指を曲げられなくなった。
親分の話によると、大所帯になってきて、素性のよくわからん愚連隊を子分にしちまったようで、調子に乗ったそのチンピラは、ご法度だったシャブをイジリだしやがったとのことだった。
そして、最後のケジメだって言って、俺が殺しそこない、おふくろを壊しやがったチンピラを若い衆に命じて車でどっかに連れ去っちまい、以来そのチンピラの姿を見た者はいなくなった。
父親ってこういう人を言うんだなって思ったぜ。
こうして、ガキだった俺はその組でヤクザとしての第一歩を踏み出したってわけさ。
俺の渡世の最初のオヤジさんだが、かなり出来る人で上からも覚えめでたかった。
俺が組に入ってすぐに、その組の盃返して上の組織に行くと、組織の若きホープとして極道社会にその名をとどろかせる。
そしてオヤジと離れ離れになった俺は、オヤジのことを忘れられなくて、必死に稼業に励む。
あの人の男を立ててやらなきゃと、俺なりに極道社会で上りつめるべく奮闘した。
この俺も、30代で極道社会に多少名前が通るようになり、ことあるごとに俺の最初のオヤジさんの名前を広めたわけよ。
そのかいあって親分衆の覚えめでたく、あの人は最終的に本家に取り立てられる。
その後大きな抗争事件を解決した功績で、オヤジは5代目極悪組の組長に就任。
日本一の大親分となったわけだ。
そう、6代目極悪組組長だった俺の先代だ。
けど俺は、そんな渡世の親代わりの恩人を、結局引退に追い込み、6代目に就任する。
つくづく親不孝この上ねえ話だぜ。
そしておふくろも、俺は内心死ねばいいんだと思って、組の仕事を理由に一切面倒見なかった。
とうが立って、たちんぼの客の男に相手にされずに孤独になったおふくろは、俺が生まれた団地の屋上から飛び降りて死んじまいやがった。
こんな親不孝者の俺が、転生してカタギの父親を持つなんて夢にも思わなかった。
その転生先の俺の父親、おやっさんに、何の因果か名付けられた名前はマサヨシというわけよ。
そして、俺が転生したこの異世界での生活。
ああ、はっきり言うぜ。
最低最悪のクソみてーな場所だ。
あの世で三途の川を竜に追い立てられたり、閻魔大王様の法廷で、牛頭や骸骨や鬼共にメンチ切られて裁判受け、あの馬鹿娘にベロ抜かれたあの時がまだかわいいもんだぜ。
まず、食い物。
家畜なんて育てるのは、お偉い金持ちの貴族様とその奴隷共。
一般市民が肉を取るには、モンスターと呼ばれる、悪魔からの侵略で送りこまれた化け物を討伐しなきゃならねえ。
だが、討伐には死人がつきもの。
死んだ野郎の肉も市場でこっそり混ぜられてて、食卓に上がってんじゃねえかって噂もある。
しかも、モンスターなら何でもいいわけじゃあなく、獣の姿形をしたやつじゃねえと、毒にあたって死んじまう場合もあるという。
ドラゴンとか言われる竜の肉は絶品らしいが、文字通り西洋の伝説のあのドラゴン相手だぜ?
誰が討伐して食うんだよ、アホじゃねえの?
人間が狩れるわけねえだろっての。
でも俺が冥界、あの世で追い立てられた竜は、本を読むと竜神って言う名前でドラゴンの上級種らしいが、よく生きてたな俺……いや、死んでたけど。
次に野菜だが、野菜はうちの近くの畑でも栽培して採ってる。
どんな野菜かだって?
野菜の名前は根菜の一種で、マンドラゴラという。
他にも色々種類はあるが、抜くといちいち悲鳴を上げやがる。
まな板と包丁で切ると罵倒してくる。
そしていざ食べる時、口の中に入れると
「しね」
「呪われろ」
とか呪いの言葉を浴びせてきやがる。
すげーむかつくよなあ、しかも味は地球の野菜と比べて、各段に落ちるというかまずい。
それとこの世界は闇に包まれちまって、昼と夜もねえ。
もうその時点で、やべーよ。
東に上ったお天道様が、西に沈んでお月さんが出てくるのが、転生前の地球だったが、こっちは、赤と青の気味が悪い月しかねえ。
朝上るのが赤い月で、夜が青い月。
正直言うと、地球に降り注ぐあの太陽が懐かしいし、気が滅入りそうになりやがる。
でも、こんな状況でもこの世界の植物って育つからスゲーよな。
だが褒められたところはそこしかねえ。
まともに食えるのは、洞窟の中の極彩色のキノコくれえさ。
たまに毒にあたった奴が、ラリって幻覚見て騒ぎを起こしたりする。
まあ、そのキノコ採りに行くのも、洞窟のモンスターに襲撃されて命懸けだが。
他にも、比較的食えるのは、海辺でとれる海藻とか貝や魚だ。
近年はとりつくされて見かけるのもまれだし、魚のモンスターに襲われる可能性もある。
気候は、日本みてーに四季なんてねー。
雨はチクチクする酸性雨で、たまに悪魔の嫌がらせで、攻撃魔法とかも降ってきやがる。
他にも危険は盛沢山って感じで、酷い世界だぜ。
なんていうか、全力で人類殺しに来てるだろ。
で、その人類ときたら、はっきり言ってクズしかいねえのな。
そりゃあそうか。
こんな環境でまともな人間が育つわけがねえ。
ヤクザだった俺が言うんだから間違いない。
中でも、王国の貴族のゴミ共と、暴君デヴレヴィ・アリイエ10世とか言うクソヤロー。
あの外道共、人間の心なんか持ち合わせてねえ。
思い出しただけでもむかつくから、これ以上は考えねーようにするが……。
それに、この世界で任侠道を行うには、まだ俺には力が足りねえ。
なぜなら転生してからまだ7年目。
小学生のガキと同い年くらいでは、人類のワル連中はおろか悪魔にも勝てねえだろう。
あれよ、見た目は子供、頭脳はヤクザ、それが今の俺、マサヨシ様ってわけさ。
どっかの漫画みてえな状況さ。
けど、いずれ最悪の仁義なき異世界で男を上げるためにも、今は精進するしかねえ。
俺は思いながら、うちの教会の信仰の対象を見やる。
まあ、こんな最低最悪の世界だがよお、最大の危機は過ぎ去ったようだ。
歴史書を見ると、俺が転生する100年前、救世主が世界を御救いになったという。
つまり、俺の先輩にあたるお方だ。
歴史書みると、数多くの悪魔共をバッキバキにしばき回ったらしいぜ。
だが、その先輩の力を恐れたやつらがいた。
それが、この仁義なき世界の住人達よ。
で、この仁義なき異世界の住人達に、逆さ張りつけにされてぶっ殺されそうになったんだと。
この世界つくづく終わっていやがる。
それで、先輩は最後の力を振り絞って神の奇跡を起こす。
これにより悪魔の侵攻を食い止めるが、この世界の住人の半数以上が神の力にあてられ消滅。
以降、この歴史書を見ると、魔界の悪魔たちとは膠着状態で100年を迎え、人口も元にもどりつつあるという。
そう、この世界は一回滅びかけたが、ぎりぎり踏みとどまっているようだ。
ていうかよ、俺も閻魔大王様の相談事でこっちこなきゃ、こんな世界滅びちまえって思うぜ?
つくづく救いようのねえ世界だ。
そりゃあ、あんたもそんな顔するよな先輩よ。
俺は教会の信仰対象に一礼し、眠りにつくため、開いていた本を閉じ、ろうそくの明かりを消す。
教会の信仰対象は、俺の世界でも救世主だとか神とか言われ、長い髪にひげを生やし、十字架に逆さ張り付けにされながら、憤怒の表情を浮かべる男の像だった。
oh……Jesus,Kleist !
世界観を書くって難しいですよね。
私の文才がないためか、表現するのが非常に難しい。
なろうで異世界書いてる人の話を、よく勉強したいなと思っている所存でございます。
さて、マサヨシは異世界で初めて父親という存在に出会い、育てられます。
転生前の彼は、少年時代の影響でヤクザになるべくしてなってしまった哀れな男です。
もしも、児童福祉院で気にかけてくれた、おまわりさんの息子になってたとしたら、彼はヤクザにはなっておらず、普通に結婚して孫たちに囲まれながら天寿を全うできたかもしれません。
そのかわり、ヤクザ絶対殺すマンの優秀な警察幹部になって、日本の極道社会潰されてたかもです。




