第36話 ポンコツ
マサヨシ達が、城塞都市に到着する前の話。
仁義なき世界の南側にある氷の大陸に、アスモデウスは魔王軍総指令本部を設立するため、招集に応じたアスモデウス獣騎軍に、基地を建設させていた。
オークデーモンは、到着して早々軍法会議にかけられ、処刑は免れたものの獣騎軍から軍籍は抹消され、失った体についてはサタン王国の科学力で、サイボーグ化して基地建設に従事している。
しかし、いかに魔王軍の屈強な悪魔達と言っても、補給部隊が勇者によって倒され、食料の乏しい過酷な氷の大地の労働や軍務で、将校以外の末端の悪魔達の中に、体調不良を起こす者たちが続出し、士気がダダ下がりになる。
招集に応じたのは、獣騎軍の半数以下で、あとは参謀本部所属の、ベルゼバブ妖魔部生き残りの特務将校達の一部と、マーラー不死隊の精鋭。
原因は勇者と閻魔大王を恐れた敵前逃亡と、特務任務を理由にしたサボタージュや、ガラの悪い獣騎軍を嫌ったためであった。
新魔王軍総司令部は、始まる前からすでに戦える状態ではなかったのである。
停戦協定は、魔王軍にとっても結果的に幸いだったのだ。
アスモデウスは、自室でため息を吐く。
部下思いの彼女にとっては、この現状は何とか打破したいところ。
「これだけは、あまり使いたくなかったが、しょうがないか」
アスモデウスは軍服を脱ぐと、あられもない下着姿となって、頬を染めて恥じらいながら、朝の朝礼を行う点呼場に姿を現した。
本来、妖艶な女悪魔は男性経験が豊富で、恥じらいなど全くない。
だが彼女は、軍務が多忙すぎて、今まで男性経験など全くなかった。
彼女は、平民出身の魔族にしては、180歳の若さで元帥の称号を得たエリートであり、サタン王国の切り札の一人とも言われる。
小国ながらサタン王国が魔界各国からの侵略をうけないのは、彼女の存在と、特殊精鋭の不死隊、そして単体では魔界最強クラスで、大魔王クラスの力に最も近いと噂される、ルシファー親衛団のベリアルによるものが大きい。
「おお、アスモデウス閣下が!」
「なんと美しく可憐な!」
「ああ、たまんねえよ。さすが俺達の元帥閣下だ……」
「うおおおお、閣下ああああ、大好きだあああああ!」
獣騎軍や、妖魔部残党が歓声をあげ、アスモデウスコールが沸き起こる。
将官たちは、あまりの美しさに鼻血を流していた。
そして、これを見つめる魔王秘書長直轄の不死隊も、口々に賞賛を贈る。
「さすが元帥殿、意識が高い」
「ええ、軍人の鑑ね」
「精鋭の、我らでも不可能なふるまいにゃ」
「馬鹿でアホの獣騎軍共には、もったいない逸材」
不死隊の精鋭たちも、ここまでして軍の士気を高めようとする、アスモデウスに対し、畏怖と賞賛の拍手を贈っていた。
――さ、寒い。いかに私が元帥号をもってるとはいえ、この氷の大陸寒すぎる。
アスモデウスは思いながら、下着姿で点呼台に上がり、朝の訓示を始めた。
そう、彼女の特殊能力にして、切り札の魅了である。
彼女自身が、この能力を嫌っているため、本来は使用しない封印した能力。
それを士気が最悪だった魔王軍に向けて行った。
これで士気がある程度は回復し、基地建設も捗るというもの。
朝の点呼を終えると、アスモデウスは自室に戻り、軍服から勇者マサヨシの小指を取り出す。
そして下着姿のままベットの上で、毛布にくるまって暖をとった。
マサヨシの小指は、サタン王国の科学力を使い、特殊な保存液に浸したため、持ち主の体が無くとも、腐敗もせずに生気が保ったままの状態となっている。
そして、アスモデウスは勇者の小指を口で咥えて、キャンディの様に舐めながら、思考を巡らせる。
基地建設に移る際、本国のサタン王国との通信機能が回復し、魔王ルシファーに自身が得た勇者の情報について、報告を実施した。
閻魔大王と勇者が、前線基地ブルームーンを破壊した事。
すでに悪魔達が勇者に倒され始めている事。
勇者が今までの人類側の善の存在ではなく、地獄の刑期と引き換えに送り込まれた、世界最大最悪最高の犯罪組織、極悪非道なヤクザの首領だった事。
そして、停戦協定を本国の意向の確認をとらずに、勇者と結んだ事などだ。
しかし、ルシファーからは、アスモデウスが勇者の小指を戦利品として奪ってきたことを高く評価され、停戦協定合意の件も、神の奇跡を防止する観点から高評価を受けた。
だがルシファーにとって、予想をはるかに超える元大魔王の閻魔大王と、勇者の存在。
危険極まりないと感じたルシファーは、密かに魔界各国に通達を出す。
このままでは、サタン王国どころか、魔界すらも消されかねないと感じたためだ。
すでに神界からの工作で、現存する大魔王達は皆神界にて、神の称号を得ているため、魔界には対抗する力がない。
ルシファーは悩んだ末、ある計画を実行に移す。
そのためには、魔王軍地上攻撃隊に、なんとか勇者を食い止めてもらい、停戦協定を維持して時間稼ぎをしなければなるまいと、ルシファーは思ったのだった。
「万が一のため、近いうちにベリアルと、余の親衛団をあの世界に投入しよう。あの勇者の魂を見極めるために。もしかしたら……」
ルシファーは一言、呟いた。
一方、アスモデウスは暖を取りながら、勇者の指で自身の体をもてあそびつつ、更に思考を巡らせる。
勇者マサヨシの情報が足りない。
あの勇者、停戦協定を結んだからには何かしら策を弄している筈。
美しくも残虐で、知能が高く弁が立つあの勇者の事だ。
妖魔部の特務部隊に任せるか?
いや、万が一を考えるといたずらに犠牲を出すことになり、停戦協定違反でそれこそ閻魔大王から、魔界を攻撃される恐れもある。
ここは、私自らが偵察に赴くしかない。
アスモデウスは、秘密裏に勇者マサヨシへの、ストーカーという名の偵察任務を決意した。
そして、アスモデウスは思った。
しかしこの指、勇者め!
呪いでこの私を、意のままにしようとは恐ろしい男。
絶対に勝利して、私の部下として一生この自室から出られないよう、飼ってやる。
こうして、アスモデウスは水と風の魔法を用いて、光を屈折させ景色を投影させる透明魔法をかけて、勇者の軌跡を単身調査した。
そして調査に当たっては、人間に偽装し、人間達から情報を収集する必要がある。
これは、参謀本部の長にしてベルゼバブ王国宰相が発案したものだった。
現在、ベルゼバブは勇者と閻魔大王の攻撃で消息不明であり、もう生きてはいないだろうとアスモデウスやルシファーは、生存を絶望視していた。
アスモデウスは自身の角に透明化をかけて、人間たちを魅了させないよう、この世界の村娘などが着る、ダサくてセンスのない服装に着替え、更に自身の顔は勇者にバレているため、少しかえる。
こうする事で、情報が収集しやすい、可憐な村娘へと偽装することが出来る。
そして、調査から分かったのは勇者が東へ東へと王都に向かい、自身の勢力圏を広げているという事と、同行する神は閻魔大王ではなく、美しい少女の女神で、閻魔王ヤミーと名乗る人物という事。
アスモデウスは、再び透明化を行い、勇者の小指を取り出すと口に入れて、おしゃぶりのようにすると、思考を巡らせる。
閻魔大王ではなく、閻魔王ヤミー。
おそらくは、閻魔大王の血族の者だろう。
そしてブルームーン破壊に関わったのは、彼女の可能性がある。
間違いなく、大魔王クラスの力の持ち主で、厄介な相手だ。
そしてアスモデウスは、ある結論に辿り着いた。
まさか、勇者は閻魔大王の血族を連れまわすことで、彼女を悪魔が万が一傷つけた場合、これを口実に閻魔大王を参戦させて我らを滅ぼす気では?
あの勇者、やはり頭が切れるとアスモデウスは判断し、更に調査を実施する。
そして、勇者が成し遂げた偉業の一つ、グレートドラゴンの討伐について調査した。
魔界の知能の高い竜ほどではないが、この世界の人類では単独討伐など不可能な存在のはずであり、力と体力の高さからアスモデウスも、多少の長期戦は免れない相手。
聞けば、3頭のドラゴンを瞬時に消滅させて、まばゆい光と共に標高千メートル以上の山を消滅させる大魔法を行い、雷でグレートドラゴンを攻撃して、剣でとどめを刺したという。
その際に、勇者は首を何度も執拗に突き刺して、真っ赤な血で染まっていたらしい。
恐ろしい男だ、竜の血は身体能力と生命力向上の効果がある。
狙ってやったのか?
アスモデウスは思いながら、グレートドラゴンに致命傷を与えたという、光の攻撃の痕跡を、超視力を使って残存魔力を確認した。
「う、何だこれは! 私の魔力を超えて、これは閻魔大王ほどではないが大魔王クラス」
思わずアスモデウスは、絶望の中で独り言ち、思考の末ある恐ろしい結論に到達する。
この世界に、閻魔王ヤミー以外の大魔王クラスの化け物が存在すると。
――まずい、残存魔力の形から、伝説の魔獣の最上位種と推測される。私とベリアルの二人がかりでないと、倒せない恐ろしい相手だ。閻魔大王の臣下の者、それも戦闘力に長けてる相手か。くそ、なんとか勇者を先回りして、直に確認しないと。
アスモデウスは、東へ東へ移動しているという勇者一行を、立ち寄るであろう村に先回りする。
王国の治安は、勇者によってかなり改善されており、生産力も向上していた。
このまま長引けば、人間共の勢力が拡大する。
危機感を覚えながら、アスモデウスは村娘に変装して勇者を待っていた。
「あれだ、あの馬車の一行がおそらく勇者の」
アスモデウスは勇者一行を確認する。
最初に降りたのは、異端審問官と呼ばれる悪魔達から見たら、邪教の徒の集団。
周囲を警戒しており、抜け目が全くない。
そして次に降りてきたのは、顔立ちが整った小さい少年。
すると、アスモデウスの心に保護欲が湧き出す。
人類に勝ったら、勇者だけでなくあの少年も私の身の回りの世話をさせようと。
次に降りてきたのは、黒い着物を着た、黒い髪に黒い瞳の美少女と、中型犬。
あれが、閻魔王ヤミーと、魔獣に違いない。
しかも魔力を偽って、ただの人間と犬に偽装している。
なんて頭が回る奴らなんだろう。
部下に間違っても手を出さないように、くぎを刺さないと。
などとアスモデウスが考えていた時だった。
異端審問官服を着た、勇者マサヨシが馬車から降りる。
ーー勇者め、今度は邪教の徒に成りすましているのか。頭がキレるこいつの事だ、何かを企んでいる筈。
アスモデウスが見つめていると、マサヨシと目があった。
そして、マサヨシは村娘に偽装した、アスモデウスの方に真っすぐ近寄ってくる。
偽装がバレたのかとアスモデウスは焦り出す。
「お、君可愛いねえ。村の子かな? 俺さ、マサヨシって言うんだけど、ちょっとこの村案内してくれねえ? 色々と知りたいこととかあってさ、君の事とか」
マサヨシは流れるような優雅さと速さで、笑顔でアスモデウスの右手をとり、手を握ってくる。
「な、あ、ああ、あああ。ご、ごめんなさい、あたし村の仕事があるんで」
アスモデウスは赤面しながら、マサヨシから逃げようとする。
だが、マサヨシは手を離さない。
「仕事なら、俺と一緒にやろうって、手伝うから。そんでさ、早めに作業終わらして、二人きりでいろいろ君の事を聞きたいなあって思って。家どこなの? 一人暮らし? お父さんとお母さんと一緒に住んでるのかな? 俺、君とすげー仲良くしてえなあって、ウゲッ」
矢継ぎ早にアスモデウスに質問攻めにして、口説こうとするマサヨシの尻へ、ヤミーが後ろから蹴りを放ち吹っ飛ばす。
そして、犬がワンワンとマサヨシを追い回すように吠えたてた。
「うちのマサヨシが無礼を働き、すまなかったの」
ヤミーはぺこりとアスモデウスに頭を下げると、犬を連れて少年とどこかに行ってしまう。
そして、マサヨシは舌打ちしながら、村の情報掲示板の方へと向かった。
あの勇者め、行く先々でこうして女たちを口説き落としてるのか。
許せない、二度とそんなことが出来ないよう私の自室で飼ってやるぞ。
アスモデウスは密かに決意し、マサヨシ達の動向の調査を継続した。
そして、城塞都市イムールにてマサヨシの姿を確認する。
どうやら、マサヨシはある人間の一団と敵対関係にあるようだった。
そしてアスモデウスは、マサヨシの行いに戦慄する。
「オラァ! てめーら俺の連れさらって、若い衆半殺しにしやがって!」
街の路地裏でがなり立てながら、男を木刀で執拗に痛めつけてる光景だった。
猿ぐつわを口にはめられ、声が出ないようにしている。
アスモデウスは、勇者の行うリンチの残虐性に恐怖する。
同じ人間相手に、ここまで残酷になれるのかと。
「てめー指全部出せこらぁ!」
マサヨシは、ブレードソードを取り出すと、左手で押さえつけた男の指に、一気に振り下ろす。
「んんんんんんんんんんんんんんんんんん!」
男の声にならない悲鳴が上がり、アスモデウスは思わず視線を逸らす。
「ついでに、足の指も全部貰っとくか」
マサヨシが呟くと、魔獣が吠え立てる。
「わかってるよ兄貴。こいつらに、今後五体満足で騎士なんかを出来なくするのと、ちょっとしたストレス解消と、相手の戦力ダウンだって」
マサヨシの残虐性に、耐えられなくなったアスモデウスは、一時的にその場を離脱した。
あの勇者は、人間の姿をしているが、悪魔に違いないと彼女は戦慄する。
同じ人間相手にも、遠慮や躊躇など全くない。
しかし、あの憤怒に染まりながらも美しさを損なわない、マサヨシの顔をアスモデウスは思い出し、自然とマサヨシの小指を取り出して、また口に咥え出した。
そして、アスモデウスは人間が住まない空き家の中で、勇者の小指を使って、勇者の姿を妄想し、日が落ちるまで、物思いにふけっていたのだった。
すると、いきなり異端審問官達が空き家に入ってくる。
アスモデウスは、顔を真っ赤にしながら飛び起きるようにして、自身の姿を透明化する。
「なあ? 今、裸の女いなかった? すげーべっぴんの」
「いるわけねえだろ? これから重要任務なのに何考えてんだよ!」
空き家は異端審問官達で埋め尽くされ、急いでアスモデウスは軍服に着替えだす。
そして、小指は軍服の胸ポケットにしまって様子をうかがう。
「よう、相手は王国の大貴族だろ? 本当に大丈夫か?」
「あの勇者様なら余裕だろ。あの人は本当に、俺達の為にがんばってる」
「ああ、神をさらうなんてとんでもねえ話さ、クソ貴族の罰当たりめ」
「しかも、それ魔王軍の手下が絡んでるって話、レオーネ様もしてたな」
「獣騎軍のラットデーモンだっけ? 協定が無ければ、今すぐ悪魔狩りしてえ」
アスモデウスは、異端審問官の話に戦慄する。
魔王軍が神をさらった。
しかもそれが、自分の部隊の末端で、軍規違反者によるもの。
これでは神々との開戦の口実にされてしまい、魔界が閻魔大王に滅ぼされる。
何としても阻止せねばとアスモデウスは思った。
「合図だ! 突入、突入!」
異端審問官達は、城塞都市のひときわ大きな邸宅を取り囲む。
すでに、勇者たちは戦闘状態のようだ。
アスモデウスは透明化の魔法を使い、屋敷の主と勇者の戦闘を目撃する。
実力的には、自分の半分以下といったところだろうか?
だが、あまり手傷を追っていないところを見ると、余力を隠している?
そして背中には、閻魔大王の姿が投影されている。
間違いない、あの勇者は閻魔大王の加護を受けている。
アスモデウスは、また勇者の小指を咥え出し、思考を巡らせていた。
そして、戦闘終了後に自分と同様、不可視化の魔法を使っていたのか、美しい少女が姿を現した。
魔力を確認すると、先ほど戦闘中の勇者よりも高い可能性がある。
何者だろうか、この全身白づくめの少女は。
「アレクシア殿下!」
赤い髪の小生意気な白い鎧の騎士が跪いたのを見た、アスモデウスは、あれが魔王軍にも報告が上がってるこの国の王女、アレクシア・アリイエであると思った。
勇者出現前は、彼女が救世主候補、または人間側の賢者と目されていた逸材。
性格は冷酷だが政治能力に長けた、人類の希望の一人。
確か、参謀本部幕僚監の妖魔部所属、バフォメット准将の監視対象だった筈。
将官を送り込まなければならないほど、幼少期から存在を危険視されていた。
頭脳がずば抜けてよく、魔法戦闘と格闘戦闘のエキスパート。
そして暗殺に動いた妖魔部の将校たちも、逆に返り討ちにされていた凄腕の戦士。
アスモデウスは、勇者の小指をくわえながら思考を巡らせる。
英雄チャイ・チャイーノ皇帝と組まれたら、非常に厄介だった。
妖魔部の工作で、敵対してくれたからよかったものの。
この王女の監視にかまけていたから、あの極悪勇者の発見が遅れたのだ。
そしてまさか、勇者と手を組む気か。
まずいぞ、勇者と賢者が揃えば、我が軍の形勢が一気に不利に。
すると王女が、勇者と戦っていた騎士の頭を粉々に吹き飛ばした。
残虐な光景に、アスモデウスは目を覆いたくなる。
捕虜への虐待は、軍規違反だからだ。
アスモデウスがマサヨシを見ると、さすがに顔が引きつっていた。
もしかして、あの王女は魔王軍にとって勇者以上に危険かもしれないと彼女は思った。
すると、今度は女神ヤミーが魔獣を連れて現れ、王女と口論を始める。
――チャンスかもしれない、このまま仲たがいしてくれれば魔王軍にとっても。
アスモデウスが思った時だった。
「ここに、アスモデウスもいやがったら、すげー修羅場に、またなりそう」
マサヨシが独り言を呟き、アスモデウスの体がびくりと反応する。
そして、透明化魔法の効果が揺らめく。
――まさか、この場に私がいるのがバレてる。そして、これらの行動すらも、勇者とこの賢者が魔王軍総司令官の私を誘き寄せる罠だとしたら……
アスモデウスは焦りだした。
そして、マサヨシはアスモデウスの方向に振り返り言った。
「王女様、人がいないところで、さっきの話の続きをしましょうか。誰が聞いてるか、わかりませんし」
アスモデウスはパニックに陥る。
「そうですね、一応停戦協定がありますが、油断はできませんもの」
王女は、アスモデウスの方向にピストルを向け始めた。
――まずい、ここは一時離脱を!
アスモデウスは、瞬時に空を飛翔して難を逃れる。
翌朝、警戒状態を維持したアスモデウスが街を確認すると、勇者たち一行は、大型の気球に乗り込み、大陸南側の精霊界の領域、トワの大森林に向けて出発した。
「くそ、勇者め。我々との戦いに精霊界も巻き込むつもりか?」
アスモデウスは、両親より幼い時に聞いた、閻魔大王の英雄譚と、敵対していた神々と、大精霊たちの話を思い出す。
「間違いなく、まずい事になる。これは、私の責任の範疇を超える。ルシファー様に報告すべき」
朝日の中、アスモデウスは魔王軍総指令本部を目指して帰還した。
しかし基地には精鋭の不死隊の姿が無く、大悪魔マーラーの独断により、勇者暗殺命令が出ていた後であった。
こうして、ポンコツ軍人のアスモデウスの勘違いに拍車がかかるのであった。
この人、デスクワークや戦闘力と特殊能力が優秀だったため、元帥になったんです。
実態はただの恋する年頃のポンコツ乙女で、軍の統制まるで取れないんですよね。
そして次回は、王国番外編の亜人国家へ出発します。
きっと、酷い話になるだろうなあ……




