第32話 タイマン
「ぬぬぬぬ、若造のくせに小癪な男め! 我こそは王国最強の一角にして公爵、ルイ・ド・モンワールである! 貴様が勇者で、今ここにおるのが神じゃとしたら、我こそ勇者にして、この神は我がものぞ!」
外道のくせに調子に乗りやがって、このクソ野郎が。
とうとう、勇者とか名乗り始めたよこのボケ。
あれか?
腕に覚えがあるお貴族様は、勇者とか名乗りたがるもんなのか?
「何だとこの野郎? さっきから若造呼ばわりしやがって、クソ貴族の小僧のくせによお。てめー俺の実年齢知ってて上から物言ってるのか馬鹿野郎が」
「なんじゃと!」
「俺こう見えても、前の世界と冥界とこの世界で、実年齢185歳よ! 小僧が一端に調子乗りやがって、ぶち殺すぞ?」
嘘は言ってない。
マジで俺、人生3回分くらい経験してるからな。
その大半は、このガキの不始末なんだけど。
するとヤミーが俺を指さして笑い出す。
「ぷ、あははははははは。185歳とか、お主の方がちんちくりんではないか! 我なんて3千歳じゃぞ?」
「はあ?」
俺と公爵野郎はヤミーを見て呆気にとられる。
嘘だろ?
コイツ、3千年も生きてんのか?
まあ、神だもんなあれでも。
でもよ……
「なんだおめーさん、3千年も生きてやがるくせに頭スイーツなのかよ? しかも全然神っぽくねえし、程度が低すぎるぞ?」
「なんじゃと! 185歳のマサヨシのくせに生意気なことを言いおって! お主こそ人殺しさえしとらんものの、ほとんど外道のままじゃ! その着物もカッコつけすぎじゃ!」
俺がヤミーの程度の低さを指摘すると、ヤミーは顔真っ赤にして、また人様を外道呼ばわりする。
まあこんだけ憎まれ口叩ければ、大丈夫だろう。
「まあいいや、おめーさんが無事で何よりだよ。俺、おめーさんに何かあったら死んでやったし」
俺が言うと、ヤミーが顔真っ赤にしてまた怒り出す。
「何でそんなことを言うんじゃ! まだ死ぬことは許さぬ、我が認めぬぞ!」
へっ、人様の人生を面白おかしく指さして笑い、人の死を軽く見てたこいつも、多少は言うようになってきたな。
「ええい、黙らぬか賊め! このルイ・ド・モンワールをコケにしおって! 貴様など、我が騎士団の力で!」
うるせえ野郎だな、もう俺の絵図でカタにはまってんのに。
まあいいわ、とりあえず水晶玉出してと。
「おい、いいぞ!」
俺はそれだけ指示する。
「なんじゃ、賊めが! 何がよいのじゃ!」
すると、レオーネが白の鎧に身を包み、廊下の奥から姿を現す。
「おお、そなたはレオーネ・ド・コルネリーアではないか。見違えたのう、立派になって。そなたもしや、このワシの助太刀に……」
すると、レオーネが廊下の奥を手招きし、5歳くらいの幼い双子の兄妹を連れてくる。
「ジャン! ルイーズ!? どうしてこのような場に!」
察しが悪いヤローだな。
この子らのおかげで騎士団連中は、今頃手出しできねえ状態だろうよ。
なんたって、ご領主様が目に入れても痛くねえような、かわいい孫いるんだしな。
「おじさま、申し訳ございません。私、レオーネは勇者様の従者です」
レオーネが言うと、公爵の顔が真っ青になる。
ようやっと、テメーがはめられてる事に気が付いたようだった。
「マ、マサヨシ! 幼子を人質にするなんて卑怯じゃぞ!」
ヤミーは怒りだすが、しょうがねえだろう。
おめーさんと、異端審問官達の命を守るためだ。
本当は俺だって、こんな手は使いたくなかったよ。
「おい、公爵さんよ、交換条件だ。うちの神さんを解放しろ。そしたら、このレオーネもあんたの孫たちも、手出ししねえと誓ってやる」
野郎、茹でカエルみてーに顔真っ赤にしてやがる。
今まで平民ぶっ殺して、乙女たちを汚して殺してきた報いを受けるんだな。
「わかった、その条件吞む」
公爵は、ヤミーの手を離してこちらに寄こしてきた。
だが嫌な予感がするぜ。
ならば用心を重ねて
「魔界の鎖」
俺は土魔法で鎖を作ると、ヤミーの体に巻き付け、一気に引っ張り込む。
すると公爵は剣を抜き、ヤミーを後ろから斬りつけようとしやがった。
「やっぱりな、クズヤローが」
俺は呟きながら、ヤミーの体を抱くようにして受け止めた。
もう、こいつ殺すの確定したわ。
俺はよ、テメーのような外道が考えてる事なんか、手に取るようにわかるんだよ。
なぜなら俺も外道だったからな。
「マ、マサヨシ!」
「おい、おめーさんは早く逃げな。あとそこの幼い子達も連れていってよ」
ヤミーは頷くと、幼い兄妹を屋敷の外に連れ出した。
「さあて、覚悟はできてるだろうな外道」
俺は右手に持った長ドスを、公爵の頭に差し向ける。
すると、公爵は剣を八相に構えた。
こいつ、かなりできるな、隙がねえぞ?
アホのくせに。
「マサヨシ殿、よろしいでしょうか?」
レオーネが俺の後ろから声を掛ける。
「なんだい?」
「いかに非道な行いをしようとも、モンワール家は誉れ高き武門の家。レオーネのお願いです、どうかこのルイ・ド・モンワール卿に、槍を持たせていただき、貴族として誉れ高き決闘の機会を」
一瞬俺は、レオーネが裏切って、こいつに機会を与えてるのではないかと思った。
だが、レオーネの目は俺の勝利を確信してるような目をしている。
おそらくは、レオーネなりのこの貴族への最後の情けだろう。
「レオーネよ、レオーネ・ド・コルネリーアよ、かたじけない」
公爵は剣を構えながら、レオーネに返事した。
まあ、いいだろう。
本当はこの外道は、惨めにぶっ殺すつもりだったが。
女の前で格好の悪い所は見せられねえ。
俺は左手で懐の水晶を取り出すと、ニコに通信する。
「おいニコ。おめーさんが押収した槍持って来い」
決闘場所は、公爵屋敷の正面前の中庭。
決闘、言うなればタイマンだな。
公爵は、馬上で使うような大槍を両手持ちにして、腰を落として構える。
あの大槍、西洋で使うようなランスってやつだな。
獲物の長さは、ニコが持ってきた大きさから察するに、3メートル以上はある。
だが、ニコが持てるくらいだから、武器としてはそんなに重たい部類じゃない。
そして野郎の体格は、身長2メートル前後で体重は鎧を加味して100キロ越え。
円筒形で先が尖ってるから、一撃貰えば物理防御がねえ俺の体に風穴あくだろう。
俺は、長ドスを正眼の構えにして野郎を見据えた。
ちくしょうが、俺の持ってる道具だとリーチが短い。
距離にして10メートルか。
いいぜ、王国最強の一角とか言ってやがるが、俺だって転生前はタイマン無敗よ。
しかし左の小指落としちまったから、ちょっとグリップがなあ。
一応、キャップタイプで磁石ついた義指つけてるが。
「それでは、このレオーネ・ド・コルネリーアの立会いで、勇者マサヨシ殿とルイ・ド・モンワール卿の決闘の開始を宣言する。決闘開始!」
開始の宣言と共に、公爵が突っ込んできた。
先手を取られた?
野郎、早い!
俺はドスでいなして、ランスの上を滑らせるように、野郎の首を突きに行く。
だが、公爵は手首を返す最低限の動きで、俺の攻撃を防ぐと、連続で突きに来た。
右腕と脇腹の部分を、傷は浅いが抉られる。
くそ、こいつ思った通りアホだが達人だ。
ならば。
「魔界の鎖」
俺は地中から鎖を出し、野郎の槍を拘束する。
どうよ、これならば動けめえ。
槍を手放すしか。
すると公爵は槍を手放し、俺にショルダータックルを食らわせる。
俺の体が3メートルほど吹っ飛ばされた。
衝撃で、俺の左肩が脱臼した。
だが、俺の魔法で槍は拘束したまま。
すると、槍は真っ赤に白熱し、鎖を溶かすくらいの高温になる。
「火炎槍」
マジか、野郎抜け目がねえ。
すると公爵は、右手と左手を前に突き出した。
何をするつもりだ?
「変幻自在槍」
公爵が技の名前を叫ぶ。
すると、槍が風魔法で空中に浮かび、俺の体に向けて突っ込んできた。
「マジか、そんなのありかよ」
俺は呟きながら、地面を転びまわり槍の一撃をかわす。
まるで俺目がけて突っ込んでくる、自動追尾のミサイルだ。
次々と軌道を変え、俺の体目がけて攻撃してきやがる。
すると、地面が高熱を帯びて溶岩の様になった。
やべえな、こいつ魔法も超一流か。
火炎耐性がある着物着てなきゃ、死んじまうぜ。
それじゃあ、俺も。
左肩の脱臼を気合で、地面に拳を打ち付け、肩の骨をはめる。
いってぇえ、クソが!
だがアドレナリンが、ガンガンわいてくるから、多少は痛みが軽減される。
しかし槍がすぐ飛んできくるから、俺はそれを紙一重でかわし、起き上がる。
俺は、長ドスを鞘にしまい魔力を高める。
「真空居合斬!」
俺が風魔法の居合を放つと、公爵は鞘から剣を引き抜き斬撃を受け止めてはじいた。
この野郎、全然隙がねえじゃねえか。
「ふむ、この技はわが友、コルネリーア卿の技に似てるな」
マジか、レオーネのやつ、親父さんの技パクって使ってたのか。
そしてこいつは、この技を知ってる。
やべえな、冷や汗かいてきた。
そして、公爵は剣を八相に構えた。
俺の周りを、炎の槍が飛び回ってる状態。
アホのくせに、器用な真似しやがる。
じゃあ、隙がねえなら隙を作ってやろうか。
俺はにやりと笑い、公爵を見る。
ヤクザの喧嘩舐めんなこの野郎が。
「おうおう、夜な夜なテメーの孫くらいの娘っ子なぶりものにして、ぶっ殺してるお貴族様にしちゃあやるじゃあねえか? クズのくせしてよお」
「なんじゃと!」
公爵の目に怒りの炎が灯った感じで、俺を睨みつける。
「ああん? そうじゃねえのかよ、この変態野郎が。テメーみてえなカエル野郎が、俺と同じ空間にいっしょにいること自体が嫌になるぜ!」
「き、貴様ぁこのワシに対して……」
「何だこの野郎? ちげえとでもいうのかよ! てめーらお貴族様は、この国の民草なんだ思ってやがんだ! 俺の世界じゃなあ、ノブレス・オブリージュって言って、高貴なものは高潔な精神で人を導くって言葉があるんだ! 俺の元いた国の象徴の陛下さんはなあ、誰よりも人に頭を稲穂の様に下げる、すげーお人だった。この世界の奴らがクズばっかなのは、テメーら王侯貴族がドクズだからだよボケ!」
掛け合いで、俺様は人の風下に立ったことはねえ。
テメーの心を揺さぶってやるぜ!
「黙れ! 騎士道など、高潔な精神など、戦場では全く役に立たぬ! この世は金と武力が全て! ワシだって若い時は憧れたが、そんなもの弱者の戯言よおおおおおおおお」
すると、俺の周りを飛び回った炎の槍が俺目がけて飛んできやがった。
そして、公爵の馬鹿もこっちに突っ込んでくる。
ああ、そうか。
俺がこの馬鹿にむかついてるのは、転生前の俺と同じだからだ。
哀れな外道が、俺の業に引き寄せられたのか?
アホは死ななきゃ治らねえからなあ、俺みたいに。
ならば外道だった俺が、引導を渡してやろう。
「へっ、騎士野郎のくせに泣き入りやがって。哀れだな」
「き、貴様ぁ! 平民がぁぁぁぁ殺してやるぞ!」
俺は空中のランスをいなして、公爵の剣撃を長ドスで受け止める。
つばぜり合いから、相手の押す力をわざと引くようにしてやったら、公爵の野郎ずっこけやがった。
アホな野郎が、力みすぎよ。
人間の喧嘩で俺に勝てる可能性があるのは、俺の子分だったヤスくれえだ。
実際負けてぶっ殺されたしな。
そして、隙がでたぜ。
上空にはこいつに気づかれねえように、雷雲作ってやったのよ。
行くぜこの野郎。
俺は公爵から距離をとり、全魔力消費の最強魔法を繰り出した。
「稲妻」
稲光が走り、轟音と共に公爵の体を雷が打ち抜く。
よおし、決まった!
これで俺の勝ち……。
すると公爵は、風魔法を発動させた。
槍が公爵の手元に戻り、右手で持って立ち上がる。
マジか?
化け物かこいつは。
「我が家伝来のミスリル鎧は、魔法耐性に優れておる!」
ちくしょう、厄介なものを身につけやがって。
しかし、なんかその鎧、腹のところにひびが入ってやがるぜ?
じゃあ、ヤクザの喧嘩らしく弱点つかせてもらおうか。
俺は公爵の正面に正対し、下段に長ドスを両手持ちで構えた。
「さあ、おめーさんの罪を、俺の背中の閻魔さんに詫びて、涅槃に旅立つ時だ」
公爵が、俺の喉元目がけてランスで突きに来る。
だが先ほどのキレが全くない。
魔法耐性があるって言っても、かなりダメージを受けてやがる様子。
あのヒビのおかげかな。
俺は槍の攻撃を半身になってかわし、後の先の一撃を加えるため両手持ちで突く。
いわゆるカウンターの一撃。
ヒビの箇所に長ドスで突くと、鎧のヒビの箇所が砕けて、公爵の体を突き刺した。
「み、見事なり……ゆ、勇者よ……」
公爵の体に力が無くなり、俺がドスを引き抜くとそのまま崩れ落ちる。
俺が野郎の気持ちを揺さぶらなければ、勝てたかどうかも怪しい奴だった。
手応えはあった。
内臓抉るために、長ドスに捻り加えたから、こいつはもう駄目だろう。
持ってあと数分の命。
あーあ、人ぶっ殺しちまったよ。
この世界に来て初めての殺人か。
まあ転生前は、人斬りマサの異名持ってたし、しょうがねえ。
俺は、長ドスを振ってついた血を飛ばし、白鞘に収めた。
すると、長ドスは元の木刀に姿を変えた。
「それまで、勝者マサヨシ殿」
レオーネは一筋の涙をこぼして、俺の勝利宣言をした。
親同士が仲良かったみたいだから、ガキの頃は公爵に可愛がられてたんだろうな。
すると、パチパチパチと拍手の音が聞こえてきた。
何者だ?
全然気配も感じなかったし、ここにいるのは公爵と俺とレオーネだけのはず。
すると、拍手の主が夜の闇から姿を現した。
プラチナブロンドの腰まで伸びたストレートヘアー。
雪の様に白い肌と、女神の様に整った顔立ち。
そして瞳の色も白金色で、着てるドレスも手袋も靴もみんな白揃え。
頭には白金の小さな冠被ってる。
身長はヤミーよりもやや高い、155センチくらいだろうか?
小柄だが、そこそこスタイルは良い感じの、美しい雪の妖精のような感じがする。
ちと幼い感じがしたが、超絶マブい美少女が俺を見て微笑んでいる。
天使か何かだろうか?
いや、そんなわけねえよ、こいつはこの国の。
「アレクシア殿下!」
レオーネが片膝ついてその場に跪く。
アレクシア王女は、両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げて、腰を曲げて頭を深々と下げるような、可憐なおじぎをした。
「ごきげんよう、勇者様、そしてレオーネ。私、あなた様の活躍を聞いて、いても立ってもいられず、王宮から飛び出してきました。私、デヴレヴィ・アリイエ王国の王位継承者王女、アレクシア・アリイエと申します。お会いできて光栄の極みです、マサヨシ様」
ああ、化け物が来ちゃった。
こっち見て、うっすら頬を赤く染めて、めっちゃ微笑んでくるよ。
帰ってくれねえかな、今すぐ王宮とやらに……。
ヒロインB きちゃった…… (頬っぺた赤く染めて)
主人公 帰ってくれよ化物……




