第30話 街道のケジメ
俺は異端審問官共と手分けして、日が落ちる前に辺り一帯を捜索し始める。
そして、夕闇に差し掛かる俺達がみたのは、ボロ雑巾みてえに半殺しにされて、地面に転がってるニコと、クソの役にも立たねえで、お座りしてやがった犬っころだった。
俺とレオーネはニコに駆け寄ると、回復魔法をかけてやり、異端審問官に周囲一帯を警戒させた。
「おい人間、お前がボサっとしておるからヤミーお嬢様がさらわれた! おい、聞いてるか人間」
俺は兄貴面した犬っころの話は聞いてるが、一切返事をしねえで、ニコに事情を聞く。
「どうしやがった!? 何が起きやがったんだ」
意識を取り戻したニコが、俺を見て大泣きする。
「親分! オイラまた女の子守れなかった!」
馬鹿野郎、泣きたいのはこっちの方よ、生きてて良かったが、どうしてこんな事に。
まさか、もしかすると村を襲った奴らがまだ近くにいやがるのか?
逃がさねえ、絶対ぶっ殺してやる。
「そうだ、そこの小童が雑魚だから、お嬢様が連れて行かれたのだ!」
そして兄貴面するこの犬には、いい加減うんざりして来たぜ。
どうやら、ニコの話によれば、この犬っころは鼻が効くらしく、ヤミーのアイデアで、村を襲った連中を探し出すために警察犬みてーに嗅ぎ回ったらしい。
そこで、騎士団らしき一団と、商人ギルドの一員らしい、ネズミのような野郎を発見したようだ。
ニコがナイフ持って、衝動的に野郎らに襲いかかったが、逆に返り討ちにされた。
そして、ワン公も飛び掛かったが、ニコとワン公を守るために、ヤミーがこう言ったという。
「ニコは我の弟のようなものじゃ! こやつを殺すなら我が身代わりになる! 犬も我の命令でおとなしくする。爺や、そこでお座りじゃ!」
こうして、あいつは誘拐されちまったようだ。
「おい、人間! 聞いてるのか私の話を!」
クソ犬がヘタ打ちやがって、あとでどっちが上かわからせてやる。
「すまねえ、レオーネは見習いのニコの面倒見て、馬車まで行っててくれねえか?」
レオーネはうなずき、ニコを両手で抱えると、馬車まで移動した。
そして俺は、自分達の面子が潰されて、怒りでやる気満々の異端審問官達に命令を下した。
「異端審問官に告ぐ、下手人は赤十字騎士団とネズミのような商人だ。まだ遠くに行ってねえみてえだから、感覚強化魔法で探し出してくれ!」
「了解しました! おい、日が完全に落ちる前に探し出すぞ!」
俺が異端審問官達に頭を下げると、奴らは身体強化魔法で、その場から散った。
そして、その場に残されたのは、一人と一匹の状態となる。
そして俺は、クソ犬に思いっきり睨み付けた。
「やっとこっちを向いたと思ったら、なんだその目は? 貴様私に向かって……」
俺はワン公を、死なない程度にケツを蹴飛ばす。
動物を痛めつける趣味は全くないが、この野郎勘違いしやがって。
「テメー、いい加減にしておけよクソ犬が。親分の家臣で、ヤミーの見知った顔だから、顔を立ててやったのに、役立たずが」
俺は吐き捨てるように言う。
すると、犬は俺に飛び掛かってくる。
「い、言わせておけば人間め! わ、私は、お嬢様の命令を遵守したのだ! あのままでは小童はお嬢様もろとも殺された! それに神界法をお嬢様が犯したのは貴様が!」
「テメーも、下手打ってるじゃねえかこの野郎! テメーそれでも家臣か馬鹿野郎! 相手の喉笛掻き切って、一人か二人ぶっ殺す気合い見せろボケ!」
俺は犬と取っ組み合いになる。
飛び掛かって来たこのワン公を放り投げる。
犬はくるりと空中で反転し、四つ足で地面に立って、俺に唸り声を上げた。
「あいつが、無責任でいい加減に育っちまったのは、テメーのせいだ馬鹿野郎! あいつはこっち来て変わった! よく笑うようになったし、人様を守れるくらいに立派に! 何が兄貴だ馬鹿野郎が、帰れコラ!」
俺はようやく、この犬に腹の底をぶつける。
「帰れんのだ! 閻魔大王様が枕元に立ち、貴様と行動せよと命令を受けた」
なるほど、親分はこいつが無断でこっち来た問題を把握してて、俺にコイツを考え直させるために、ここに残すって事か。
「それに、わ、わかっておった! ヤミー様があれほど楽しげにしておったのを見て、わ、私が間違っていた事など。き、貴様を見る目が、大王様と同じくらい信頼されて……ウ、ウオオオオオオン」
悲しげな遠吠えを犬が上げた。
さっさと本音で言えばよかったんだよ。
あんたも、そして俺もな。
「ようやく、お互いに腹の底がわかったところで、どうするよ? ここで喧嘩してる暇も惜しい」
俺が言うと、犬は全速力で走り出す。
はええなこいつ、犬だから俺が全速力で走るよりも早い。
ならば俺も身体強化と風魔法で!
俺はなんとか犬に追いつく。
「私の嗅覚はケルベロス公に次ぐ、冥界でも二番目。金物着た奴らは、馬の残り香と残存魔力からかなり遠くに離れてるが、ネズミのような男は、まだこの街道沿いに留まっておる」
「どれくらいの距離だ?」
「あと10分で到着する!」
10分だと!?
俺の心臓と肺がもたねえよ!
ちくしょう、空でも飛べりゃもっと早く!
いや、待てよ?
確かアスモデウスの奴が。
俺は走り幅跳びみてーにジャンプして、全身に風を受ける感じで魔力を集中させる。
「捕まれぇぇぇぇ犬っころ!」
俺は全速力で空を飛び、犬を抱き抱えて空を飛び上がる。
ちくしょう、魔力消費とコントロールがかなり難しい。
あれを超スピードでこなしてた、あのアマ、化け物だやっぱり。
ヘリとかみてーに頭傾ければ!
空中を落ちるように俺は加速した。
うおおおおおおおおおお。
こええええええええ。
顔の皮が波打つぞ、これええええええ。
クソが、俺絶叫マシーン系ダメなんだよ。
舎弟や子分とか女と遊園地に行った時とか、絶対乗らなかったからな。
だがそんな事言ってられねえ。
気合だ気合!
「なんだ貴様、飛べるならさっさと言え!」
「今思いついたんだよ馬鹿野郎! あとどれくらいだ?」
「あれだ!」
犬が、見つめる方向に人影がうっすら見えた。
だが魔力が切れる寸前!
「おい、あんたも空飛べんのかい?」
「無茶言うな! 今の私に魔力はない!」
「ふーん、あっそう」
じゃあ無理やり飛んでもらおうか。
俺は空中でピッチングポーズをとる。
「な、貴様何を!」
「極悪組代表、投手マサヨシ! ピッチャー第一球、オラァァァァ!」
俺は神霊魔法の身体強化で、思いっきり犬をネズミ野郎の頭に目掛けて投げつけた。
「ワオォォォォォン! ぬああ貴様ぁぁぁ!」
ミサイルのように、犬がかっ飛んでいく。
飛行機雲を描きながら。
そして俺は、落下速度を風魔法で軽減し、地面に降り立ち、ダッシュで走る。
さすがに魔力が空っけつだから、魔力回復の聖水を、マラソンの給水みてーに飲みながらな。
そして、俺の前方でネズミ野郎の頭に犬がかじりついて、ブンブンと首を振る。
「おうし、ワンコロの野郎、うまく行ったぜ!」
そしてネズミ野郎は、地面に倒れた。
頭からは結構な勢いで出血してる。
「貴様! 殺す気か私を」
なんだ、元気そうじゃねえか。
俺は駆け寄って来たワン公の頭を撫でる。
その時、ワン公がドンと俺の顔面目掛けてジャンプし、体当たりする。
「痛えな犬っころ! な!?」
犬が首から出血し、地面に落ちてピクピクと痙攣しだした。
まさかこの犬、俺を庇って?
「この犬がぁぁぁ、畜生の分際でぇぇ」
商人の顔が見る見るうちに、完全に毛が生えたネズミ顔になる。
そして野郎の指の爪が、人間ではありえないくらい伸びきって、鉤爪になっている。
こいつ人間じゃねえ!
「このアッシを、誰だと心得る人間め! アッシは魔王軍……」
言い終わる前に、俺は木刀で、野郎の頭をかち割る。
ネズミ野郎はその場に白目を向いて倒れ、俺は何発か木刀で追い討ちを加えて、完全に昏倒させた。
こいつ雑魚だ。
「ふん、人間め……油断し過ぎた。しかし……礼を言う。ようやく大王様の忠実な配下としての仕事が、出来たぞ……」
重症だが、なんとか無事みたいだ。
俺はすぐに駆け寄って、両手で回復魔法を出血箇所に当てた。
ようやっとこの犬、じゃねえ、狛魔犬兄貴は、兄貴らしい事を俺にしてくれたな。
俺は最初の兄貴分を思い出す。
色々と面倒見がいい兄貴だった。
だがある日、チンピラとの喧嘩で、俺を庇って刺される。
兄貴は病院の輸血で肝臓やられ、傷の後遺症が元で足を洗っちまった。
なんの因果か、俺はあっちの世界で助けられなかった兄貴分を、こっちで治療している。
全く俺も業が深い事だ。
さて、ヤミーをさらい、兄貴を刺した、このネズミ野郎どうするかな。
確かこいつ、オークデーモンの豚野郎が言ってた、人間に化けて物資調達してるって言う、クズ野郎の、獣騎軍補給隊の二等兵のラットデーモンだっけか?
まさか、商人に化けて活動しやがってるとはなあ、まあいいや。
こいつから色々と情報を吐いてもらおうか。
アスモデウスの奴に、後で協定違反だって言われねえように、きっちり後始末つけてよ。
あ、その前に。
「なあ、兄貴よう。冥界魔法で、相手の通信魔法妨害するのってねえ?」
「人間め、物を知らんな。沈黙で魔法そのものを妨害できる。 相手の体力と精神力が弱れば弱るほど、かかりやすくなり、効果が長時間続く」
なんだよ、結構便利なものがあるじゃねえか。
お口にチャックってか。
冥界魔法は魔力消費が無くていい。
「お、さすが兄貴だわ。じゃあ、このネズミに沈黙っと」
俺はメモ帳とペンを取り出し、異端審問官達に、この街道に馬車で来ることを命じる言伝を書く。
応援を呼んどかねえとなあ。
「兄貴、このメモ持ってちょっと、ニコや審問官共のところに戻ってくれねえ?」
「何だ貴様? 私を小間使い扱いしおって」
「いやいや、違う違う、適材適所さ。俺はこいつに口割らすため、ちょっとヨゴレ仕事するから、兄貴はこれ持って行ってくれ。ヨゴレ仕事は弟分の仕事だし。あと、ヤミーも最初そうだったが、そろそろ名前で呼んでくれ。俺の名前は、マサヨシって言うんだ」
俺が説明すると、兄貴はメモを口に咥える。
「わかった、マサヨシよ」
そして来たルートを、兄貴は真っすぐ戻って行った。
俺はため息を吐いて、両指をバキバキっと鳴らす。
さて、ケジメの時間だネズミ野郎が。
まずは、こいつを動けなくしたいなあ。
ホントは、穴掘って頭だけ出して埋めちまうのがいいんだが。
お?
そういや、豚野郎の土魔法で便利な奴があったわ。
「魔界の鎖 」
俺は地面から金属の黒の鎖を出して、ネズミ野郎を街道の真ん中に、仰向けに拘束する。
後はっと。
「おらぁ、ネズミ野郎ぉ! 起きろゴラァ!」
俺はつま先でネズミ野郎の脇腹を、思いっきり蹴り飛ばす。
「ちゅちゅ! き、貴様は!」
俺はネズミ野郎の顔面を蹴り飛ばす。
そして木刀を持って、ヤキ入れを開始した。
体を中心に、滅多打ちにする。
「おら、ネズミ野郎ぉ! 兄貴刺して、俺の連れさらいやがってこの野郎! テメーが関わってる商人連中全員名前、吐けやおらぁ!」
ネズミ野郎は、ケツに木刀が刺さりながら、俺の気迫に恐怖し、商人ギルドの連中の特徴と名前をペラペラ喋り出す。
ていうか、魔王軍総司令本部は隣りの大陸に移ったのに、何やってんだこの馬鹿?
あれか?
アスモデウスの招集命令とか来てんのに、シカトして欲かいて、人間相手の小遣い稼ぎに、勤しんでやがったのか?
まじで獣騎軍の野郎ら、ダメな奴ばっかだぜ。
アスモデウスの奴、悪魔にしては人が良さそうだから、魔王軍の馬鹿とアホの厄介者全部引き受けたんじゃねえのか?
そして、拒魔犬兄貴がこっちに戻ってくる。
「到着まで、あと15分後だ。終わったのか? マサヨシよ」
「おう、兄貴。こいつらのネットワークや貴族野郎の情報一通り、全部吐かしたぜ」
「ちゅちゅ、貴様は? もしやその名前、勇者! チュチュチュチュウウウ」
気が付くのが遅えんだよ馬鹿野郎。
もうテメーは、カタにはまっちまってんだよクソ野郎が。
それで、なんか通信魔法っぽいものを、発動したようだが、辺り一面シーンとする。
1分過ぎ、2分過ぎ、野郎は顔面蒼白となり汗が噴き出す。
俺はため息吐いて、木刀を持って、野郎の体を滅多打ちにした。
そしてあっという間に10分以上経過する。
「チュウウウウ! なぜ、暗号通信魔法が? アスモデウス閣下ぁお助け!」
さすがに、雑魚でも悪魔野郎だけあって、なかなかタフだな。
人間だったらもう、意識不明の重体なのに。
それと、アスモデウスに通信しても通じねえよボケ!
その時、兄貴が身震いしてソワソワし始める。
「すまん、そのマサヨシ。さっき走ってこっち戻ってきたら、急に体が冷えだして」
「ああ、兄貴もか。実は俺も一仕事終えたんで、その、小便してえですわ」
俺はネズミ野郎を見やる。
ちょうどいいや、テメーには俺達の兄弟愛を深めるため、役立ってくれ。
「でも近くに、私が用を足す、ちょうど良い柱とかなくてどうしようかと」
「ああ、兄貴。あそこに間抜けヅラした柱みてーなのがあるんで、俺とご一緒にどうですかい?」
兄貴は、ラットデーモンをじろりと見やる。
すると兄貴は片足をあげ、ラットデーモンの顔に小便をかけ始めた。
俺も審問官服のズボンを降ろし、ラットデーモンの体に小便をかける。
兄弟で連れションってのはいいもんだぜ。
「うわ、ばっちいい、臭い、汚い! 傷にしみて痛ぁい、お、お前ら悪魔だ!」
悪魔はテメーだろうが馬鹿野郎。
もうそのセリフには、飽きちまったよクズ野郎が。
俺は舌打ちしながら、ズボンをあげると、街道に落ちてる棒きれを二つに折り、両手で野郎の両方の穴にぶっ刺す。
そして思いっきり、棒に蹴りを撃ち込んだ。
「ぎゃあああああああああああああ」
ネズミ野郎が鼻血を出しながら悲鳴を上げる。
「何だとこの野郎、兄貴の小便が汚えとは、どういうことだ馬鹿野郎! ご褒美だろうがネズミ野郎がよお、コラァ!」
すると、兄貴がしっぽを振って俺を見る。
少しは信頼関係が結べたようだった。
そして、異端審問官やレオーネ達を乗せた馬車が近づく。
「ああそれと兄貴、こいつが吐いた商人連中の居場所、確か商業都市にある、コルレオーネ商会って言ったが、今夜中にでも、商社が閉業する前に、俺が奇襲に行くんで」
「うむ、任せる。それと、ヤミー様にもしもの事があったら、お前には死んでもらうぞ?」
「そのケジメの件、当たり前でしょうが。俺は親分に約束したし、あいつは絶対に死なせやしないし、傷一つつけさせない」
俺と兄貴が街道から一歩離れたところで、星々が瞬き始めた地平線を眺めながら話してると、徐々に馬車がこちら方向に近づいてくる。
「ちゅちゅ、お、お前らアッシをどうする気……」
どうするもこうするもねえよ、ネズミ野郎。
もう会う事はねえだろう、達者でな。
俺は土魔法で作った砂利を、ネズミ野郎の上半身辺りにサッと撒く。
「じゃあな、ネズミ野郎」
「ワン!」
俺と兄貴は、馬車の車列が来る、反対方向の街道先を50メートルほど歩いて移動する。
ちょうどよく、ケジメはこの馬車達がつけてくれるだろう。
「ちょっと待て! 馬車、馬車がこっちに向かって、この非道チュ……」
がががががががが
バキバキバキバキ
ドドドドドドドドドド
ネズミ野郎の魂と体は消滅した。
さて、じゃあケジメ祭りと行こうか。
間違えて完結済みにしてしまいました。
申し訳ございません。
え?
謝罪はいらねえから、指と金置いてけって?
すいません、すいません、勘弁してください!
ヘタ打ってすいませんでした!
_○/|_ 土下座




