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【第五話】「どちらへおでかけですか」

「こんな時間にどちらへおでかけですか?」

 その声に振り返ったルリア。


 すぐ後ろにはジオが立っていた。


(この状況で言い訳なんかできるわけない! 走り去ろう……!!)


 無言で掛けだそうとするルリアだったが、案の定、肩をガシッとつかまれる。年齢を感じさせないその強さに、ルリアの体のバランスは崩され、思わずふらつく。


「待ちなさい」

 その声は穏やかだった。


「は……、離してください!」

「これを……持って行きなさい」

「!?」


 ルリアはその言葉の意味がくみ取れなかった。

 ジオが抱えているものを見る。


 それは、たたまれた洋服だった。

 いかにも町の人々が着ていそうな、どこにでもある洋服。


 ジオが言う。

「そのような黒いローブではまたすぐに魔女だと疑われてしまいます。外では人間と同じものを着なさい」

「あの……、私を止めないんですか!?」

 状況がつかめないルリア。


「し! ムークさんが起きてしまいます」


 ルリアは差し出されたその洋服を受け取る。

「ありがとう……ございます」


「なんとなく、ここにいさせてはならない気がしたのです。あなたはどうもどこか他の魔女と違う気がして……。そんなに悪いようには見えないし、何か生き急いでいるようにも見える。それが何かは私には分からないし詮索もしません」


「生き急いでる……、そうかもしれませんね」

 ルリアは目を細めた。


 ジオはまた小さな声で話しかけた。

「ただここを出たら、なるべく遠くに行きなさい」

「え?」

「ムークさんはあなたが思っている以上にしつこい性格だ。そして残虐でもある。あらゆる方法や金を講じてあなたの行方を捜すだろう。そしてもしまた捕まったら、今度はもっと厳しい生活を強いられることになります」

「そんなに……恐い人なんですか……」

「ああ……。ここで十五年働かせてもらっているからそれは確かだ」


 ギギギ。

 どこかの部屋の扉が開く音がした。

 二人はびくっとする。


「さあ、行きなさい。出口はあっちです。鍵は内側からならすぐ開くでしょう」


 ジオの早口なその言葉に、ルリアはこくりと小さく頷いて歩き出した。


 それを見送っていたジオの背後からムークの声。

「ジオ、何してんだ」

「いえ、最近夜中にトイレに行きたくなるのです」

「そうか、俺もだ」


***


 その後、ジオは開けられた牢の前に立ち、思う。

(明日の朝にはムークに脱走が気づかれるでしょう。それまでに、なるべく遠くに行くのです。それにしても……)


 鍵が挿されたままの鍵穴を確認。

(魔女とはいえ手に持てるものしか魔法は掛けられない。もちろん牢の格子を曲げることなどできないから逃げることは無理だと考えていたが、まさかここまで精巧な合い鍵を数回見ただけで作ってしまうとは……。やはり普通の魔女ではなさそうだなぁ)


***


 一方、脱走に成功したルリアは、ジオに言われたとおり丘を無心に下った。

 夜通し小走りで凸凹の山道を進み、町の建物が見えたところで、もらった人間の洋服へと着替えた。


「……?」

 そして、ポケットに堅いものが入っていることに気づく。


 手に取って月に照らして分かった。それはコインだった。

「ジオさんが入れてくれたんだ……。たしかに、人として生きるにはお金がないと困るけど……でもこのお金って……」


 ルリアはそれを置き去り、日の出とともに町へと向かった。


 空気は澄んでいた。

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