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【第三話】「薄暗い牢の中で」

【前回まで】


 人々に不幸を与えると言われる魔女ルリアを譲り受けたムーク。

 ルリアは処刑を免れ感謝を伝えるが、ムークはそれを笑って受け流し、彼女を屋敷の牢へと案内した。

 それは牢の入り口だった。


「え…………」

 ルリアの足はそこで止まる。


「立ち止まってないで早く入りな」

 無感情なムークの言葉に、ルリアはなおあたふたする。


「あの……」

「……」

「私の命を助けてくれたんじゃ……」

「俺がそんなお人好しに見えたか。俺が欲しいのはお前の魔力だけだ」

「じゃあ……私は……」

「感謝しろ、お前の衣食住は俺が保証してやる。ただし、俺の言うとおりにしたら……だがな……」


 ルリアの顔はこわばった。


***


 牢での生活はどんどんルリアの気分を憂うつなものにさせていった。


 雨風が直接入ってくる鉄格子の窓、外から施錠された唯一の扉、申し訳程度に設置されているシャワーとトイレ、隅に置かれた興味の湧かない古い本。


 ここに入って一週間が経過したが、ルリアにはここに来てもう何ヶ月も経っている気分だった。


***


 今日も、昼過ぎに人が来る気配がした。


「こんにちは、ルリアさん」と穏やかな声。

 いつもと同じく、その声の主はジオ。初老で小太り体型の男だった。この屋敷の持ち主であるムークが雇っている職員であり、今日も彼はどこから集めたかも分からない金属のガラクタを箱いっぱいに入れて抱えている。


「こんにちは」

 ルリアは若干引きつった笑顔で挨拶を返す。


 ジオは牢の鍵を開けるとそれを中に運び、ガシャンと少し乱暴に下ろす。


「これが今日の分ですね」

「ありがとうございます」

 さっそくそれにルリアは手を伸ばそうとする。


「……ここでの生活はどうですか」

 用件以外のことを初めて訊かれるルリア。


「え、いえ、まぁ少し退屈ですが……慣れてはきました」

「私も雇われの身なのでどうこうできる問題ではないんですが、なるべく過ごしやすい環境にできるよう働きかけはしますので、何かあれば声を掛けてください」

「……ありがとう……ございます」


「ご家族とか心配してはいないといいんですが」

「ああ、それは心配いらないです」(だって私は……)

「?」

「さぁ! 始めちゃいます」


「それでは今日もこの通りにお願いします」

 ルリアは見本となる本物のコインを渡されると、ガラクタを一つずつ何枚かの偽コインへと魔法を使い変えていった。


 手元に神経を集中させ、まるで粘土のように形を変え、最終的に綺麗な本物のコインそっくりに仕上げる。

 それをひたすら繰り返す作業。


***


 そして、三十分ほどが経過。


「できました」

 作り笑顔のルリア。


「お疲れ様、ありがとうございます」

 ジオは礼儀正しくそうルリアを労うと、できたての偽コインをかき集めて、ガラクタを持ってきた時の箱にすくい入れた。


 そして牢から出ようとしたとき、ちゃりん、と偽コインが三枚落ちる。


「あ、大丈夫ですか」とルリア。

 両手のふさがったジオの代わりにその三枚の偽コインを手に取ったとき、一瞬はっと表情を変えた。


 そして、二枚の偽コインをジオの抱える箱の中に入れ、残りの一枚はさりげなく自分のポケットへと忍ばせる。


 その後、ジオが牢を閉めるとき、その鍵の形を凝視した。

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