【第二十八話】「魔女を退治したあと」
更新にだいぶ期間があいてしまいました。申し訳ありません。
完結まであと少しです。なる早で更新していきます。
「いやぁ、参ったなぁ。ナコの奴、あんなに俺になついてたのに……。なぁ、反抗期はまだ早いよな?」
頭をぽりぽりと軽く掻きながら、ナコの父は横でお茶をすする妻に問いかけた。
「六歳になったばかりで反抗期なわけないでしょ」
「だよなぁ、でもいつも仕事から帰れば抱きつくようにして俺を迎え入れてくれたのに……」
「それだけ自立したってことでしょ。いつまでも子どもじゃないのよ」と興味なさげな返し。
「でもなぁ」
「あんたそんな女々しい性格だったのね。頼りがいあるから結婚したのに、そんなんじゃ将来ナコに恋人ができたときが心配だわ」
「変なこというのはやめてくれ……」
その返答に妻は溜息。そして面倒くさそうに口を開く。
「心当たりはないの?」
「あるさ。多分あのときからだ。俺が魔女を退治したあとに言われたんだ。『助けてくれたときはありがとうって言うんだ。それなのになんであんなことしたの
?』って。それからマトモに口も聞いてくれなくなった……」
「たしかにあの頃からね。あの子からしたら魔女はいい子だったんでしょ?」
「魔女が……」
ナコの父は腑に落ちない様子で腕を組み、そのまま黙り込んだ。
一方、ナコの母はテーブルの上の食器をキッチンへと運ぶと、その足で廊下へ赴き、響く声で言った。
「ナコ! お風呂入っちゃいなさい! ナコ! 聞いてるの!?」
返事がないことに嫌な予感のしたナコの母は、ナコの寝室を慌ててノックもせずに開ける。
「ナコ!」
ほっと一息。
ナコは窓の外をぼうっと眺めていた。
部屋に響く雨の音は激しく、廊下から大声を出しても届かないのは無理もない。そっと声を落ち着かせる。
「ナコ、お風呂入っちゃいなさい」
「あ、うん」
そう軽く返事をすると素直に戸棚から着替えを出した。
「何を見てたの?」
「窓の外。雷、すごいから。むこうに落ちたみたい」
「あそこって……」
「…………」
***
大雨がピークを過ぎた頃、一段と大きな雷鳴は、ルリアの捕らえられた屋敷の真上で轟いた。
ほどなくして屋敷はめらめらと光を放ちながら燃えはじめ、大きな支柱はバランスを崩して次々と倒れていった。
原型を留めなくなったぺしゃんこの屋敷の跡は黒く染まり、その上を炎が、しとしとと降る雨に抗うように、あたり一面をぼうっと赤く染めていた。
ばちばちとあちこちで聞こえる木が燃える音。
静かな小降りの雨の音。
そんな中、ざっ……ざっ……と、ほぼ等間隔の音。
火の中から一人の少女の人影が現れた。
炎に慌てることもなく、背中をやや曲げながら歩いていた。
姿は光が吸収されるようにただ真っ黒な人影で、その周囲は紫色の湯気のようなものが全身からぼわんと沸き立っていた。
その少女の人影は、少しずつ進んでいく。
そして屋敷跡から足を踏み出し、木々の生い茂った入り組んだ道を歩いていく。
彼女が歩いた跡は、草も花も茶色く枯れ、周囲の木は幹の部分から腐食されていった。
***
朝。
晴天の森は静かだった。
そこには枯れ葉と枯れ草でできた長くて細い茶色の道ができていた。




