【第二十七話】「根拠はないけどね」
ニューラ市の正午頃。
ミヤとその弟、そしてラチッタのメンバーたちは皆、以前ルリアが来た大きな図書館の入り口にいた。
「へぇー、私たちがこの前までいたこの街に、こんなでっかい図書館があったんだ」とレヴェカ。
ミヤはその横で答える。
「ここが昨日説明した手掛かりがあるかもしれない場所……。もちろん確実にあるなんていう保証はできないけど、私が思い当たるのはここくらいだから」
「ここで魔女の書籍を読めばいいんだよね」
「そう。ルリアが読んだものもあれば読んでないものもあるかもしれない。とにかく手分けして魔女に関する気になる記述を見つけ合うのがいいと思うんだ」
ぽたぽたと地面がぬれだした。
「おい、雨降ってきたからさっさと入ろるぞ」
お頭のその言葉に、一行は早速、図書館へと足を踏み入れた。
***
図書館のテーブルの一画を陣取ると、ミヤたちは一斉に魔女に関連する書籍を読みあさり始めた。
そしてその中から気になる記述とページ番号をそれぞれがノートに書き留めていく。
***
夕方。
ミヤが数時間の沈黙を破る。
「さて、そろそろみんなで情報共有しようか。それじゃ順々に時計回りでいきましょ」
それを合図に皆一斉に、目を大きく瞬きさせたり、背筋をぴんと伸ばしたりして、姿勢を整えた。
***
「ざっとこんなもんか」と腕を組み直すお頭。
ミヤが取りまとめた小さなノートに記述された箇条書きを囲んだ。
ノートの記述について、関連ありそうなものを読み上げるレヴェカ。
「魔女は徐々に良心を失っていくことがあるという記述あり。それと……、魔女が心に負のオーラを極限まで溜め込んだ場合、魔女は『悪魔』へと変貌し、あたり一帯には惨劇が待ち構えている。……この二つがちょっと気になる」
うん、と周りも頷いた。
大男が疑問をぶつける。
「ルリアは俺たちのこと嫌いって言ってたが、やっぱり本心なんじゃないか? この本にもあったとおり、人間としての心を失ったから俺たちを裏切りたくなった。きっとそうだろ」
「絶対違う!!」
そう瞬時に反対したのはレヴェカ。
想像以上の大声になってしまいあたりを見回し、こぢんまりと座り直す。
「違うってどういうことだよ」
「……大声出してごめん。アタイはルリアに良心がなくなってたなんて思えないし、これからもそんなことはないと思う。……たしかにルリアはこの本を読んだんだと思う。それでアタイたちに迷惑を掛けたくなくて、素直にさらわれたんだ」
ミヤがそれに付け加えるように、そっと口を開いた。
「私もそう思うんだけどね、それだけじゃないと思うんだ」
「?」
「本当は、魔女だからって特別に良心を失うなんてことはないと思うんだ」
「どういうこと?」
レヴェカは首をかしげる。
「……なんて言えばいいんだろ。えっと……魔女ってさ、私もルリアに出会う前までそうだったんだけど、人間からひどく嫌われてるでしょ。だから、どんなに純粋にマジメに生きようとしても、ひどい仕打ちばかり受けて、どんどん距離を置いたり性格が曲がってしまったりするんだと思うんだ。きっとこの本にあることはそういう傾向を意地悪な考察でまとめた気がするんだ。根拠はないけどね。なんとなくそんな気がする」
「だとすると、ルリアも性格が曲がっちゃうってこと?」
「私はもちろんそうは思わないよ! でも、ルリア自身はそうなることを恐れてたんだと思う……」
「なるほど……、そっか。だから……」
お頭が話を戻そうとする。
「まぁ、憶測はその辺にしとこうぜ。問題はもう一個のほうだよ」
「ああ……。そうね」
レヴェカも深刻そうに相づち。
「あいつがもし、今、負のオーラで満ちあふれてたら、……なんかよく分からないけど、この本に書いてあることが本当なら危ないんじゃないのか?」
「……悪魔になるってどういうことなんだろう……」
そのときだった。
図書館内の全ての音をかき消すほどの雷鳴が轟いた。
「ずいぶん天気荒れてるんだな」と大男。
「てかもう外が薄暗い。早いなぁ」とレヴェカ。
しかし、どうも外が騒がしいことにミヤは気づく。
「おいあれ見ろ」
「……なんだよあれ……」
テラスのほうからそんな声が次々に。
とっさに胸騒ぎが起きたミヤはすぐに立ち上がり、テラスのほうへと掛けていった。
テラスに出て、顔を足場から前へと向く。
そして景色を見たとき、唖然とした表情を浮かべる。




