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【第二十五話】「日に日に目に見える形で」

 大歓声に包まれるレヴェカたちラチッタのメンバー。

 大成功の舞台。


 だが、彼女らの表情に笑みはなかった。


***


 屋敷に戻ったムークはご機嫌だった。

 手足をきつく縛ったルリアを引っ張って馬車の荷台から下ろし、むりやりにひっぱって歩く。

 ルリアはそれに抗うこともなく、ただ顔を下に向け、左右にふらついて転びそうになりながら進む。


 玄関で出迎えたのはジオだった。

「おお、お帰りなさい」

 その声がけにムークは「おう」と明るめの表情。


 ジオは手元に握りしめる縄の先を確認すると、ルリアの姿を見るまでもなく「ああ……」と状況を察した。


***


 ムークはジオの手を借りることもなく、自らルリアを元の牢の中へと放り込む。

 そして堪えていたものを吹き出すかのような高笑い。

「こうして俺は迷子のお前を連れて帰ってきてやったんだ。ありがたく思え……」

「…………」

「返事をしろ……」

「…………はい。ありがとう……ございます」と細く弱い声。

「感謝しろよ? お前がまた勝手に迷子にならないよう、今度はどんなにあがいても出られないようにしてやった。今まではあまりにも不用意だったな」

 そういうと、いくつもの鍵をポケットから取り出し、ちゃりんちゃりんと振って見せつけた。


 ルリアはそれをちらりとだけ見、再び俯く。

 ジオはムークの後ろで、気の毒だと言わんばかりにルリアのその様子を見つめていた。


***


 それから一週間が経過した。


 おそるおそるルリアの牢へと食事を届けに来たのはジオ。

「調子は……どうですか?」

「ごめんなさい……」

 ルリアはそうとだけ小さく言った。

 檻からいちばん遠い壁で縮こまるようにして座る姿に、ジオは心配そうに近づく。


 そして食事のお盆を置き、口を開く。

「たしかにここで魔法を使いたくないのは分かります。それに、気が向かないときに魔法をする必要もありません。いや、そんなことを言ったらあの人には怒られてしまいますが……、でも魔法ってのはきっと、無理にやるものでもありません」

「…………はい」

「ですが……」

 ジオはルリアの腕に視線を向ける。

 日に日に目に見える形で痩せ細っていく姿は、とても表情を変えずに見ていられるものではなかった。

「……」

「ですがルリアさん。食事はしっかり摂ってください。これは私のお願いでもあります」

「でも……」

「少しでも構いませんので」

「……食べる気があまりしなくて」

「それでもです。むりやりにでも食べてください」

「…………」

 ルリアは返事をしなかった。


***


 ムークは日に日に苛立ちを募らせていった。

「せっかくあいつを取り返してきたのになんだあれは!! これじゃあ金がいつになっても生まれねぇ!!」

 息を荒げて椅子を蹴り倒す。

 横で掃除をしていたジオはその迫力に思わず目を閉じる。

 そしてなだめるように言う。

「まぁまぁ、もう逃げることはないのです。少しずつ改善させていきましょう」

「……ふん。それもそうだな。俺は気が短い。今はあいつの顔を見ただけで殴ってしまいそうだ。しかし死なれても困るからな。お前がうまくやってくれよ」

「はい」


 そうは返事をしたものの、ジオは不安な表情を浮かべた。

(たしかに、ルリアさん本人のためにも少しずつ改善できてればいいのだけれど……どうも悪化してるようにしか見えない……)


 ジオはゴミをまとめて紙袋に入れ、一人で外の焼却炉へと運び終えると、どんより灰色の曇り空を眺めた。


(それに……私の目が確かなら、ルリアさんは今までの魔女とは比べものにならないくらいに魔力が強く才能があるように感じていた……。もしそれが悪いほうに出てきたら……)

 胸騒ぎがしていた。


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