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【第十六話】「古い毛布を掛けて」

 日が落ちた。


 新たにつかまったミヤ姉弟はルリア同様に両手首を縛られ、ルリアとともに突貫工事の檻に入れられた。

「お前ら姉弟もしばらくはここで過ごしてもらう。なにせ俺らにとって魔女は必要不可欠だけじゃなく極秘事項でもあるからな」

 そう低い声、低いテンションで説明した大男に鍵を閉められ、三人はしばらく放置されることになった。


 大男の足音もなくなり、全く聞こえなくなった。


 ミヤは寄りかかって寝る弟レンをそっと離すと、気まずそうに終始俯いていたルリアに膝歩きで静かに近づいた。


 そしてルリアに対峙。

 息を吸う。


「ルリア! 本当にごめん!!」

 はっきりと言葉にした。


「……」

 だが、ルリアは顔を上げなかった。


 ミヤは性格とはいつもの強い調子とは裏腹に、少し声を震わせて静かに語りだした。

「私ね、あの日の早朝にルリアが私の店の中をこっそり直してくれてたこと、あとで分かったの。私が魔女嫌いだって言ったから、バレないようにやってくれたんだよね? なのに私は……そんなルリアの優しい気持ちを裏切ってしまった……。本当にごめんなさい」


「…………」

 依然、ルリアは沈黙のまま。


「もし私があんなひどいこと言って追い出さなければ、ルリアはここでこんな目に遭わずに済んだ。そう、だからルリアが私に対して怒ってるのも分かってる。簡単に許されるとは思ってないから……。でもやっぱり、本当に謝りたくて……」


 ミヤはルリアの様子を窺った。

 ルリアは俯いたままだったが、ひっくひっくと呼吸を荒げていた。

 そして、ぽたぽたと涙を地面に落とす。


「ルリ……ア?」


 その瞬間、両手を縛られたままのルリアは、突進するようにしてミヤに抱き着いた。


 潰れた声で呟く。

「良かった……。私……嫌われて……なかった……」


 徐々に脱力してミヤの上でぐったりとしたルリア。

 最初は目を丸くしてたミヤだったが、次第に頬は自然とゆるみ、そっとルリアの頭をさすった。


***


 三人は古い毛布を掛けて並んで横になった。

 ルリアは檻の格子の間から望める星の降る夜空を眺めていた。疲れたけれど眠くない、という感覚があった。


 寝返りを打って横を見る。

 ミヤもまだ起きて空を臨んでいた。


 ルリアはミヤに尋ねた。

「そういえば、ミヤさんが捕まってお店は大丈夫なんですか?」

「あー、大丈夫じゃないね」

 軽い口調。


「すみません、私に会いに来たからこんなことになって」

「私が悪いんだからいいんだよ」

「ご両親とかいないんですか? いたらお店手伝ってもらえたり……」

「……」

「あ、ごめんなさい……。私……」

「ううん、いいの。……私の両親は立派な人だったわ。自慢の父と母だった」

「……」

「今はもう遥か遠くに行ってしまったの。それでも、それまでに私を一人前になるところまで育ててくれた。だから感謝してるんだ」

「そうなんですね……」

「だから、今度は私の番」

「え?」

「私も弟を一人前に育てなきゃね。字も読めるようにして計算もできようにして……。私ね……、弟を学校に入れることが夢なんだ。私は行かずにいろいろ親に教えてもらったけど、やっぱり学校に行きたかったから……」

 そう笑った顔が、ルリアにはどこか寂し気に映った。


「ミヤさんならできる気がします。なんとなく!」

「なんとなくかよ」

 くすくすと二人で笑う。


 ミヤは明るい調子で言った。

「ねえ、ルリアのことも教えてよ。なんで旅してるの? どうして私んとこの町へ?」


 その問いにルリアは少し沈黙した。

 目を閉じ、軽く頷いて、小さく口を開いた。

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