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【第十四話】「ラスベリアスの花」

「あれ……? ここって……」

 馬車の荷台で数十分揺られていたルリアは、見覚えのある景色に目を丸くした。


 思わず乗り出して眺めたその景色はミヤたちの住む町。

 そこを通過するのかと思いきや、その町にある広場で、二台の馬車は停止した。


 周りに促されて荷台からぴょんと飛び降りると、周辺を見渡す。

 以前ルリアが通ったときは空っぽだった広場に、何やら打ち合わせをする大人たちがちらほら。


 ルリアを含む六人にダンディーな男が寄ってきた。そしてお頭に「久しぶり、楽屋はこっちだから」と案内されて小さな小屋の中へと入った。


***


 風が遮断された小屋の中は暖かかった。

 昨晩の洞窟では緊張のためほとんど休めなかったルリアだったが、次第に緊張感も緩み次第に目をうつろにしていた。

 こくっこくっ……と座りながらも倒れそうになる。


「これが……最後かもね……」

「そんなことを言うな……」

 ルリアのうつろな意識の中にそんな会話が聞こえた。


 不安や疑問よりも疲れが上回り、意識はどんどんと遠のいていった。


***


 ルリアたちのもとを離れた大男は、肺いっぱいに溜め込んだ空気を一気に吐き出すように発声した。

「さてみなさん、私たちは新たなマジックを披露します!!」


 ルリアはその声に目を覚まし、隙間から声のするほうを覗き込んだ。

 大男は舞台上に立っていた。そしてその先には人だかり。

 辺りは夕焼け空の下、舞台に意識を向けている人々もいれば、舞台に意識を向けずに周りの出店でみせに群がったり、単に会話をしている人々の姿もあった。


 ルリアは自分がいる場所が先ほどの小屋ではなく設営された舞台の裏であるということ、そして今、ここで祭りが行われているということに初めて気づく。


「もうお前らの出し物は飽きたぞ! 単調なマジックばかりやりやがって」

 そんな野次が飛び、一帯が笑いに包まれる。


 大男は容姿に似つかわしくない営業的な態度で言い返す。

「いえいえ、今回は皆さんを裏切りません。なんたって素敵なプレゼントがあるんですから。それが何か気になりませんか!?」


 まばらは拍手。


「私たちはここにいる全員分に花をプレゼントします。マジックショーの最後で、このトランプをすべて花に変えてみせます」


「なんだよ花かよ」と客席では文句。


 それを見越したかのように大男のスピーチは続く。

「たしかに! 普通の花では面白くありませんね。それではここらでは見ることのない、伝説の花、ラスベリアスにしましょう」


***


 ルリアは舞台裏で言った。

「すごい! ラスベリアスの花なんて私も見たことないし見てみたい。アタイさんもそう思いませんか?」

「何言ってるの? そんなものないわよ」

「え、じゃあどうするんです?」

「あなたが作るのよ」


 そう言われて渡されたのはラスベリアスの花の写真。横には準備万端で変形用の刈られた雑草が山のように積まれていた。


「マジックショーのラストまではあと二十分。その五分前までによろしくね」と大きな箱を渡すアタイ。

「…………わ、分かりました」

 ルリアは真剣な表情でそう頷いた。


***


 マジックショーは終了とともに大喝采が巻き起こった。


 ばら撒かれるラスベリアスの花に舞台下の周りの人々は狂喜乱舞。

 すべての人が皆飛び跳ねるように空中から舞い落ちてくる花を捕まえた。


「久しぶりだな、こんな反響もらえる舞台なんて……」

 裏で監視している男が懐かしそうに言った。

 もう一人の男も言う。

「でもこれはマジックへの拍手じゃないんだよね……。好評だったのはリアルなラスベリアスの造花をばら撒いたから。しばらくはこれで仕事もらえるだろうけど魔女だっていつまでも利用するわけにいかないし……」

「そう……だね……、俺もなんか違う気がする」


 その横でお頭は黙って棒立ちしていた。


***


 多くの見物人が花を取り合うなか、その中心で一人唖然とした人物がいた。


 ミヤだった。

(あんな貴重な花がこんなに用意できるわけない……。ルリア、あなたはそこにいるの……?)

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