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【第十一話】「元通りの黒いローブ」

 朽ち果てるほどに泣いたルリアはその後、脱力感に体中を襲われてただ俯いていた。


(結局、私は人間にはなれないんだ……。魔女は魔女。どんなに人間と同じ振る舞いをしようと、結局どこかで魔法を使おうとする自分がいる……。そして周りを不幸にしてるんだ……)


 ゆっくりと立ち上がり呟く。

「だったら、私は……やっぱり魔女なんだ」


 鞄から以前に着ていた黒いローブを取り出した。


***


 開店前のミヤはぼうっとしていた。


 頭が混乱したまま整理し切れていない状態。

 ルリアに裏切られた感覚が頭に残り、あまり人と関わりたくない、一人になりたい気持ちがあった。


 店の五分の一ほどがぐちゃぐちゃにされた商品。

 到底売り物にもできず、かといって運び出す気力も湧かず、ミヤはそれに大きい布をかぶせて隠した。

 割られたままの窓は、電話で修理を近所のガラス店にお願いする。


 そんなことをしているうちに、いつの間にか開店時間が過ぎていた。

 いつも通り、客はなかなか来ない。


***


 扉のベルが強く鳴る。


 案の定、客ではなく隣の雑貨店の店主、通称宝石女のしたり顔が見えた。

 そしてゆっくりと扉が開く音がして、ミヤの気持ちはさらに暗くなった。

(あー、今いちばん会いたくない人が来たよ……、ったく……)


 ミヤはとっさに忙しいそぶりをする。

 俯いて、ノートを開いてメモをする仕草。


 十秒ほどが経過。


(あれ、いつもの高飛車な第一声が聞こえない)

 違和感を覚えたミヤは、おそるおそる俯いたまま目線を前に向けた。


「?」


 正面には当然、宝石女が立っている。

 だがいつもの様子ではなく、口を半開きにしたまま目を見開きながら呆然としていた。


 思わず話しかけるミヤ。

「あのぉ……」


「どうして……どうしてなの?」

「え?」

 意味が分からずにきょとんとするミヤ。


 宝石女が小声で言う。

「昨晩あんなにめちゃくちゃにしておいたのに……。なんでこんなに元通りに……」


 そしてもう一人の人影。

 店内を宝石女の後ろからのぞき込んだのは、付き添いの老婆の魔女だった。


 彼女もまた、しばらく口をぽかんと開けていたが、次の瞬間、いきなり悲鳴を上げだした。

 そして錯乱して尻餅を付き、そのまま手足を震わせて二歩三歩後ずさり。


「ワシにはこんな……精巧な魔法は使えん。わずかな時間でここまで正確に……形を元に戻せるなんて。こ……この店……、とんでもない魔女を隠し持ってるぞ。ワ……ワシは他の商店街で儲けさせてもらうことにするわ。こんなのがいる店と関わったら偉いことになる。店どころか全財産持ってかれるわい」


***


 そそくさと退店していく二人を、ミヤは目をぱちくりさせて眺めていた。


 そして一人になり、ふと我に返り考える。

(えっと、落ち着いて考えよう。ルリアの今朝の行動って……、もしかして本当に商品を直してくれてたってこと……? でもなんで黙って勝手に……。そっか。私が魔女の悪口を言ったから、だからこっそり私が来る前に直そうとしていたんだ。だとしたら……)


 ミヤは眉をひそめて息をのんだ。

「私、とんでもない間違いを犯していたのかも……」


 慌てて立ち上がった。

 倒れた椅子を気に留めることなく店の外へ出て、駆け出した。


「ルリア! ルリア!!」


 必死に大声を張り上げて呼び叫ぶ。

 そして付近を全力で探し回った。


***


 しかしミヤがどんなに汗を流して何時間も探しても、ルリアの姿は見つからなかった。

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