第八話「ウェポンコネクト」
第八話「ウェポンコネクト」
俺が旅館の部屋からでて、お風呂に行こうとした時に見た光景は、なえかが陽樹を殴り倒している
光景だけだった。
陽樹……見つかっちまったんだな、だからやめておけって言ったのにな。
見つかってるっていうことは、あいつは見たということか?
あとで聞こう、返事次第では殴るかも知れんが。
俺は殴り倒されている、陽樹を無視して、お風呂へ急いだ。
風呂へ着くなり、俺は服を脱ぎ、風呂へ入った。
とても気持ちよかった、修学旅行に来てよかったと思えた。
まぁ、それまででも、咲となえかの笑顔が見れたからよかったと思った。
俺はなんで二人を意識してるんだろうな……最近戦いが多かったせいかも知れない、心が荒んでるのか。
我ながら、どうでもいいことばっかり考えている、でも戦いをやっていて分かったことがある。
それは、やっぱり俺は戦いのない、平和な日常が、あの繰り返されるような毎日が好きだった。
こういう風に変わるのは俺は受け入れなたくない……でも、戦いがなくても、あのまま毎日が続く訳じゃないというのは分かる。
皆学校を卒業して、進んでいく道もあるだろう、学校生活があのまま終わっていても俺は変わるものを恐れなかっただろうか。
多分、恐れた、何もかもが変わることを、だから俺はあの日常が好きだ。
変わることを認識したくない、これは皆が持っている恐れなのかもしれない。
この戦いは、あの日常を手に入れる、戦いだ……と俺はまた「逃げた」
……
…
「ふぅ、さっぱりしたな」
「あ、輝」
部屋に戻った俺を待ち構えていたのは、なえか、咲、陽樹、志乃、豊だった。
「なんでなえか達がいるんだ?」
「いいじゃない、就寝時間までは先生もあんまり厳しくないから、それに……」
なえかが鋭い目つきで、陽樹を睨む、陽樹がヒィッという声をあげる。
それほどまでに怖かったか……やっぱり地獄を見たな。
「まぁ、そうだな、で何か目的があったんだろう?」
「え?特にはないよ?」
「ないのかよ……」
「じゃあ、麻雀しないかっ!?」
陽樹がいきなり声をあげて立ち上がる。
「何を企んでる」
俺は陽樹の考えそうなことなら分かるが、一応聞いてみよう。
「麻雀で賭けをするんだ、もちろん、負けた人は脱――」
「「「却下!」」」
陽樹が言いたいことは皆分かったようで、女子は却下していた、当たり前だ。
陽樹は更に即座に、なえかに回し蹴りを食らって床に倒れる。
「んじゃ、賭けとかなしで麻雀やるか?」
「しようかっ」
「あ、あの、私麻雀とか分からないんだけど……」
咲がおずおずと手を挙げる。
「そうなのか、なら俺が教えるから大丈夫だ」
咲は下を向いて。
「ありがとう」
と呟いた。
なえかが何故か睨んでくる。
「なんだ?なえか」
「私も、分からないんだけど!」
「んー、でも俺は咲に教えるって約束したしなぁ」
「なら、俺が教えよう、宮木」
志乃が会話に入ってくる。
「あぁ、じゃあ志乃頼む」
「任せておけ、甲長」
麻雀を始めたが、なえかは終始不機嫌だった、何が嫌なんだ?俺も麻雀は志乃に教えてもらったんだが。
……
…
麻雀を1時間ほどやってから、なえか、咲、豊は帰って行った。
陽樹が目を覚ましたのは更に1時間後だった。
それから、天国は見れたか?と聞いたが。
陽樹はその話を持ち出すと震えていたのでこれ以上は追及しないことにした。
俺はそれから布団を引き、就寝をとった。
とっくに、就寝時間は過ぎていたから。
……
…
「甲長、起きろ」
体を揺さぶられる。
「なんだよ……」
俺は寝起きが悪い、とにかくテンションが低い。
「宮木と原川が来ているぞ」
「どうしてだよ……」
「知らん、とにかく行ってやれ」
陽樹は昨日かなり遅くまで起きていたようで、目を覚ます気配はなかった。
「分かったよ」
俺は重い腰を上げて、扉を開けた、そこにいたのは、なえかと咲。
「どうしたんだ?こんな朝早くから」
そうだ、凄く早い時間なのだ、起きる時間が7時なのだが、今は5時半だからだ。
「えーと、輝、今から朝日見に行かない?」
「こんな朝早くに起して言うことがそれか」
「ごめん、でもいいでしょ?ね?」
なえかと咲に囲まれて断れる男子は少ない、真症のホモくらいだろう。
「まぁ、いいけど」
「よし!じゃあ、いこうっ」
なえかが手を引いて歩きだす、咲も何故か負けじと、手を引いて歩きだしてくる。
こんな所を見られたら大変だ、冷や汗をかきながら俺は急ぐことにした。
……
…
「ここか」
「うん、いい朝日が見られるらしいよ」
ここは旅館の屋上だ、なんで旅館に屋上があるのか、なんてこの際無視してくれ……。
「本当にいい朝日が見られるといいね」
今まで喋ってなかった咲が喋りだす。
「あぁ、そうだなぁ」
「でも今日は雲が被ってるから見れないのかも」
「えっ嘘!?」
「嘘じゃないよ、これは無理かも知れないね」
何故か、咲となえかの差、距離感というものが縮まっている気がした。
「まぁ、仕方ない、また今度見にこよう」
「また今度?」
「また今度、いつ来れるか分からないけどな」
咲となえかも約束だよと言ってくれた。
この約束を守るために戦うのも悪くはないかなと俺は思った。
「絶対だ、絶対見にこよう、皆で」
「うん、絶対にね!」
「約束です」
そう、皆で見に来るんだ、戦いが終わったら、絶対に。
……
…
それから俺はなえかと咲と分かれ、自分の部屋に向かい、財布などを取りに行ってから、食事を食べに行った。
その後、俺、なえか、咲、志乃、陽樹、豊と自由行動を満喫した。
昨日の予定にはなかった、銅閣寺を見ている時だった。
空から、アルクェル帝国のロボットを見たのは、しかも今までの敵とは違う動き方をしているように感じる。
俺達の反応は確実に遅かった。
反応しようとした時にはもう、敵は地上へ降りてきていた。
なんでこんな所にまで、アルクェル帝国は……!
それにここではファリクサーが呼べない!
何故なら、日々之さんには他の人に俺がファリクサーに乗る所を見られるなと言われたからだ。
それは、咲、なえかにも言える。
とにかく志乃は危険をすぐに察知して、皆に声をかけていた。
周囲の人間は逃げ出しており、それに混ざって俺達も逃げようとした時だった。
「あっ!」
豊が転んだ、危ない、空に制止してる、アレは豊を狙ってる!
今でも日々之さんが行ったことを守るか、いやでも、豊との命には変えられない。
俺はほぼ考えずに、呼んだ。
ファリクサーを。
とても、これは危険なことだ、俺のことを皆に知られれば、敵に狙われるリスクも増すからだ。
今までは大丈夫だったかも知れない、でも今は違う。
人に見られている。
今は見られる対象が、俺達の間でのみだった、でも、今は一般人がいる。
この状態だけで、皆を危険に晒すかも知れない、でも俺は……耐えられなかった。
敵のロボが豊を踏みつぶそうとした時だった、ファリクサーは、敵に体当たりをかまし。
その後、俺の前に膝をつき、停止した。
本当に心で呼べばすぐにくる。
俺はすぐにファリクサーに乗り込んだ。
咲となえかには目で合図をしておいた、通じるか分からないけど、くるな、と。
陽樹がおい!輝とか言っていたが、俺は無視して、すぐに乗り込んで、ハッチをすぐに閉めた。
……
…
輝はファリクサーを戦闘モードへ移行させる。
すぐに戦闘は始まった。
ファリクサーはすぐにインフェルノソードを両腕から分離、合体させて、右手に握った。
右手にソード、左手に盾、それは騎士のようにも見える姿、赤い、紅の騎士。
ファリクサーが右、左と地面を蹴るように走りだす。
敵もそれに合わせて、動き出した。
真っ正面から突っ込んでくる、敵。
それをファリクサーは右手に持った、インフェルノソードを、左に降った。
それは空中を掠めただけだった、敵は当たる直前に軌道を変えて、こちらの動きを読んだのだ。
「今までの敵とは違う!」
輝は空振りした、体勢を立て直すべく、距離を取ろうとするが、敵はこちらの動きを読み切って。
瞬時にファリクサーの目と鼻の先に現れ、ファリクサーを体当たりで押し倒す。
ファリクサーのコックピットが激しく揺れる。
「ぐっ」
そのまま敵はファリクサーの頭部をさながら、アイアンクローのようにつかみ、持ち上げる。
物凄い力、それに今までのとは本当に動きが違う。
輝はこの時初めて、戦いに恐怖を抱いたと言ってもいいかも知れない。
その時、さらに頭上にフォクサーが現れた。
「ふん、宇宙の至宝が無様なものだな」
「この程度の相手、京朗様が出るまでもありません、お下がりください」
フォクサーとは違う敵から声が放たれた。
それはとても無機質で、機械のような声だ。
「そうか、ならば任そう」
「はっ!」
……
…
敵のロボットがあいている片方の手で、剣ともいえる形状のものを発生させて、俺を殺そうとしている。
その剣ともいえる形状のものが、狙っているのは確実にコックピットみたいだ。
どうすればいい、どうすればいい、ここで死ぬのか、冗談じゃないぞ!、だから戦いは嫌なんだ。
皆嫌いだろう、ロボットに乗って戦うなんてカッコイイとか、ヒーローみたいだとか言ってる奴がいたら言いたい言葉がある。
そんな生易しいもんじゃない、殺される、殺される、殺される。
俺の頭にはそんな言葉がループする。
ここで殺されて満足できるか!こんな所で。
そうだ、俺は約束した!あの日の出を見にこようと、絶対に皆で見にこようと。
ここで俺が死んだら何もできない、何も、何も、何も。
敵の剣のようなものが近づいてくるのが分かる、やけにゆっくりに見えてしまう。
こんな所で死ねるわけがない、そうだ、諦めない、諦めない、諦めない。
約束を果たすまで諦めない、諦めない、絶対に!絶対に!
なえか……豊……秋日……志乃……そして……。
「咲!」
俺の中で何か分かることがあった。
それはとても昔のことのような気がする。
このやり方でずっと切り抜けてきた気さえした、こんなことは記憶にないはずだが。
衝撃が襲ってきた。
目を開くと、敵がファリクサーの頭部を掴んでいた手がなくなっていた。
上空を見ると、そこにはあれがいた。
聖獣ユニコーンのような外見の奴。
そう、スパイラルユニコーン。
「なんで、こんな所に……そうか、わかったぞ!」
スパイラルユニコーンが求める、条件それは、勇気でもある、諦めない心。
何故かそのことが分かる。
すべてを知っていた気がする。
「こい!スパイラルユニコーン!」
スパイラルユニコーンが、こちらに向かって、空気を裂いて進んでくる。
ここで叫ぶ言葉は一つ!
「ウェポンコネクト!」
瞬間、コックピットの中が光に満たされる。
これがスパイラルユニコーンが求める、諦めない心……かっ。
スパイラルユニコーンが形状を変化させている。
形状を変化させた、スパイラルユニコーンはファリクサーの右手に装着された。
行動に支障がきたされないほどの大きさだ。
名の通り捻じ曲げられたような、角が特徴的な「ウェポンボックス」だ。
「うおぉぉぉ!インフェルノスパイラルユニコーンアタァァァック!」
スパイラルユニコーンの角が回転し、獄炎のような炎が角から何もかも溶かすように、断続的炎が生成されている。
「いっけぇぇぇ!」
敵にスパイラルユニコーンの炎が当たる。
空間が歪み、角から生成されている、何もかもを溶かす炎が、敵の周りを包んでいく。
敵の動きを封じ、空間が歪んでいる所に角を静かに静止させる。
「ウェポンエンド!」
直後、ファリクサーの飛行システムをフル稼働で始動させ、敵を貫く。
「ウェポンアウト!」
右手に装着されていた、スパイラルユニコーンが装着を解除される。
装着解除された、スパイラルユニコーンが粒子状になり、ファリクサーの中心部。
ブラックボックスがある場所へと吸収されていく。
敵の爆発音が聞こえる。後ろで爆発した、敵の破片も跡形もなく、消えた。
気づくと、フォクサーもいつの間にか撤退していたようだった。
ふぅ……終わった、でも日々之さんに怒られるか、それに陽樹達にも説明しなければいけない。
やることはいっぱいあるなぁ、と思いながら俺はコックピットハッチを開け、ファリクサーを降りた。
「輝くん!」
「輝!」
咲となえかの二人がこっちに駆け足で近付いてくる。
いい気分だ、何故か清々しい。
よくわからない、でもさっきとは違う感覚が俺に存在していた。
皆を守れた。
俺が守ったなんて恩を売るようなことは言わない。
あ、そうか、この気持ちが戦う上で大事なのかもしれない。
これからも戦いはあるだろう、この気持ちを忘れなければ負けることはない気がした。
諦めない心と皆を守る気持ち。
第八話 終わり
第九話へ続く