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第二章 絆の可能性 中編

第二章 絆の可能性 中編



俺はどこにいるんだろうか。

俺を包み込んでいるのは、暗い、ドス黒い、人がもっているモノだ。いや、目を凝らせば、それだけじゃなかった。

目の前に一番星のごとく、光輝く点があった。

その光に手を伸ばす、届きそうで届かないその光に。

……もうちょっとだ。

手を伸ばす。

手を伸ばす。

さらに手を伸ばす。限界まで手を伸ばし、その光を手で掴む。

すると、俺を包み込んでいた人の黒い感情が幾分かマシになった。


この黒く、どうしようも出来ない感情。俺だって知っている。


人に醜い感情があることぐらい。

でも、俺はファリクサーに乗って戦っている時――誰かの暖かい心を感じている。

それはどの時でも同じで、どの戦いでも……俺はその温もりを感じていた。

だから、俺は人は醜いだけの存在ではなく、人を思いやる、絆の心をもっていると知っている。


「もうちょっとだからな。我慢しろよ……」


ふと、どこからか声が聞こえた。

目を凝らす。

住宅街にぼつんと歩いている人を見つけた。誰かを背負っているみたいだ。

あれは……陽樹に豊?2人とも、もう警報は発令されてるだろうに……そうか、豊の風邪か。

人の心が読めるっていうのはあんまりやっぱり嬉しくないな……。

陽樹が考えてることが筒抜けだ。

俺のことや、咲のことや、なえかのことや、みんなのことを気にかけている。

ありがとう。陽樹。

目の前で言うのは幾分はばかれるのでここで礼を言っておく。

また、別のところから声が聞こえてきた。そっちに目を向ける。

そこはがやがやと騒音に包まれていた。逃げまどう人々を誘導しているのは――

――冬と日々之先生と志乃だ。

忙しそうにしている、そしてどの人間も"誰かの無事"を祈っていた。

そうだよな、醜いだけじゃない。みんな、どこかで誰かの無事を考えたり……人のことを思ったりしている。


沙川さかわ 魅穂みほ


彼女の話にあった人たちは全員……確かに醜かったかもしれない。

でも――どこかでその人たちも、誰かを守りたかったんだと思う。

人は歪みをもっている。

その歪みはどの人間でも大なり小なりもっていて……人を思う気持ちをほとんどもっていない人もいる。

いま見ている光景の中にもそんな風に考えてる人はいる。

しかし、人は絶対に孤独にはなれない。どこかで人に思われたり、思ったりしているからだ。

沙川さん、あなたは絶対にまだ戻れる。

引き返せないことなんて――ない。

また、誰かの声が聞こえた。


「咲……」


なえかの声だ。

俺がさっきまでいた場所。いまもいる場所。

宇宙で目の前には煙が立ち込めている。

全員の気持ちが伝わってくる。

フィアーズ・コード・因子があの月に集積されているからだろう。

近いほど感じられる、暖かい思い。醜い心より圧倒的に強く、光る。

人を思いやる心。

目の前を通りすぎていく人々の心。

俺も、いこう。


……


ファリクサーから放たれた紅の光が当たったのかは定ではないが、黒いファリクサーとフェクサーの周りにはもくもくと煙が立っていた。

フィクサーは立ち止まり、その光景を食い入るように見ていた。

「咲……ってどうして、ファリクサーがいないの!?」

さきほどまでガトリングバイパーを装着していたファリクサーは何処かに忽然と消えていた。

フィクサーの頭部を左右に動かす。分析され、取得される項目にファリクサーの反応はなかった。

「どこにいったの……?」

そのとき、黒いファリクサーとフェクサーが包まれていた煙が揺れ動き、それは現れた。


「うおぉぉぉぉ!」


煙を堂々と突き破り、出現したのは黒いファリクサーの頭部を右手で掴み、ひきづるようにスラスターを最大出力で吹かすファリクサーだ。

さらに速度は上がる。目では追いつけないほどの加速。

最大加速し、ファリクサーは黒い月へ向かう。

黒い月の表面に激突。ファリクサーや黒いファリクサーに脳天を貫くような衝撃が突き抜けるが、それをものともせず、ファリクサーは右腕に装着されたままのスパイラルユニコーンで黒いファリクサーを貫こうとする。

しかし、黒いファリクサーは右脚部を横に一閃する。

ファリクサーは後方へ避ける。

そこに、フェクサーとフィクサーが駆けつける

「輝くん!」

「て、輝!?」

ファリクサーからの

フェクサー、フィクサーに通信が繋がる。


「……ありがとう。咲、なえか……ただいま」

「ぐっ……貴様っ!どうして私の呪縛から抜けられた……!」

スパイラユルニコーンを解除し、ファリクサーの両手に装着してあるL字状のものが吹き飛ぶかのように両手から外され、ファリクサーの目の前で合体。柄のようなものができあがり、そこから刃がせり出してくる。

ファリクサーはそれを握り、宣言する。

「これが俺たちの絆だ!沙川さん、あなたが否定していた人の暖かい心のおかげで俺は意識を取り戻した……。これがあなたが否定してきた人の暖かい心だ!」

「……ざける……な!ふざけるな!そんなことがあるものか!妹羨!」

フェクサーを衝撃が襲った。

「きゃっ!?」

相手は何かがわからないが、その相手はフェクサーに組みあうように突撃し、大気圏まで一直線に飛んでいく。

「なっ……咲!」

それに重なるように、フィクサーにも衝撃が走る。

「くっ!」

「なえか!」

フィクサーもフェクサー同様に相手に組み合うように組みつかれ、大気圏まで飛んでいく。

そして最後に――フェクサーとフィクサーを見て余所見をしていたファリクサーの頭部を黒いファリクサーはつかみ、加速。

地球へ急降下する。

沙川 魅穂が、黒いファリクサーのコックピットで呟く。

「甲長 輝!人に心に暖かさがあったとしても私はそれを認めない!すべてを潰す!」

ファリクサー、フェクサー、フィクサーは落下していく。

ファリクサーは東京。

フェクサーは京都。

フィクサーは北海道。

それぞれの場所へ落下していく。


……


天空へと続く空から、2つの物体が組み合ったまま落下する。

加速、加速、加速。

さらに加速し、地面に激突する。

周辺を衝撃波が包み込み、ビルが倒壊し、川が荒れ狂う。物体が落ちてきたところにはクレーターともとれるような大きな穴が広がっていた。

「っ……なんなの……!?」

フィクサーのパイロット――宮木 なえかは激しく揺れる頭をどうにか押さえつけ、フィクサーを操る。

ボコッという音がして、フィクサーがめり込んでいた地面から立ち上がる。

周囲の状況を必死に探る。

「ここは……札幌!?それに、さっきの敵は……!?」

見渡す。レーダーにも映っていない。

「どこなの……」

そのとき、遠方が微かに光った。

それに反応して、フィクサーは足で地面を蹴るように反動をつけ左に回避。

ついさっきまでフェクサーのコックピットがあった空間に細い筒状のビームと思われるものがが過ぎ去り、後方に着弾。さらにビルが怒号をあげて倒壊する。

なえかは光った場所にモニターを動かし拡大させていく。倍率をあげるとそこには――。


「フィクサー……!」


なえかが駆っているものと同機種の機体だ。しかし、武装が違う。右腕に盾と左腕にライフルをもっている。

相手のフィクサーは対を成すように白から黒へ塗装が変化していた。

なえかは瞬時に判断する。

あれは、沙川 魅穂と同じく、別の世界から来たフィクサーだ。確実になえかを殺そうとしている。

輝のもとへ戻らなくてはいけない。ファリクサーの反応はないが、どこにいるかは手に取るようにわかった。

しかし、あのフィクサーは通せんぼをするかのように動かない。黒いフィクサーは、またライフルを構える。

「輝のところへ戻るには倒すしかなさそうか……」

大地を蹴りだし、フィクサーは黒いフィクサーへ進みだした。

黒いフィクサーのライフルが照準を合わせようとする。走り抜け、どうにか近づこうとする。家を潰したりしているが、いまはそんなことは考えられなかった。

黒いフィクサーがライフルを発射。

フィクサーは右に飛び回避。そこにまた銃弾が飛んでくる。

無理な機動をし、フィクサーは回避する。

そこにまた飛んでくる銃弾。また避けようとするが、無理な機動をした代償に、右脚部に少し掠る。

どうやら黒いフィクサーのライフルは連射できるようだった。

黒いフィクサーの猛攻が始まる。

次々と迫る銃弾を飛翔し、三次元の動きで回避する。

どうにか近寄ろうにも、激しい攻撃が続く。

ブラックボックス――またはフィアート・ボックスにはエネルギー制限がほとんどない。

しかしこの驚異的な連射力は人間のものとは思えないほどだった。

圧倒的な速度で弾がばらまかれるように発射されていく。

そのなかを縫うように掻い潜りながら近づく。

残り900mほどになった瞬間、黒いフィクサーは連射していたライフルを放りなげ、漆黒の銃を出現させ、左手にもつ。

漆黒の銃の形状は、フィクサーのウェポンボックスである、フェニックス・ノヴァに酷似していた。

「あれは……フェニックス・ノヴァ!?私のと同じだ……。なら!」

フィクサーをさらに進ませながら、なえかはコックピットで呟く。

「ウェポンコネクト!フェニックス・ノヴァ!」

純白のサブマシンガン状の銃が現れる。右手にそれを握る。

黒いフィクサーの漆黒の銃から6つの光弾が発射される。

光弾は、禍々しい光を放っていた。

6つの細い光弾は、上下左右、斜め右上、斜め左上からフィクサーに高速で向かってきている。

フィクサーも、銃から光弾を発射する。球状の1つの光弾が8つの細い弾に分裂。

8つの細い弾は、上下左右、斜め右上右下、斜め左上左下から黒いフィクサーの弾に垂直に激突し、空気の振動が舞い起こる。

斜め右下と斜め左下の弾は激突する弾がないため、進む。

黒いフィクサーは、その弾を右腕に装備した縦に伸び、横に短い長方形の盾を展開し防御する。

「やっぱり当たらない……かっ!」

黒いフィクサーは防御し、多少のけ反っている。

そこを、先ほどまで加速して目の鼻と先まで接近していたフィクサーは足をすくい上げるように縦に一閃するように蹴る。

態勢を崩した黒いフィクサーのコックピットに銃を突きつけ、発射。

球体の光弾が発射され、黒いフィクサーに直撃した――はずだった。

黒いフィクサーはゆらっと立ち上がり、地面に背中からひれ伏したフィクサーを見据えた。

「っ~!どうして!?」

フィクサーは確実に。コックピットに銃を突きつけて光弾を発射したはず、だった。

しかし、それは瞬時に展開された"見えない物体"に邪魔され、光弾がはじき返された。

黒いフィクサーは銃をフィクサーに突きつけ発射。強烈な衝撃をフィクサーが襲い、吹き飛ぶ。

「きゃあぁぁぁっ!」

2000mほど吹っ飛び、なんとか空中で姿勢を立て直す。

「やってくれるじゃな――」

だが、姿勢を立て直したそこは別空間のようだった。

「――なっこの弾は……っ!」

フィクサーの周囲360度すべてに光弾が滞空していた。

「あのライフルの弾……でも、こんなことができるのは――」

なえかの言葉はすべて紡がれなかった。体験したこともないような衝撃をなえかを襲ったからだ。

周囲360度すべての光弾が意思をもったように動きだし、フィクサーにすべて直撃した。

煙が立ち込めるなか、機体の節々がひしゃげたフィクサーは煙を突き破り、地面に頭から墜落した。


……


京都では、咲もなえかと同じように落下していた。

なえかとは違い、地面に激突する前に組み合いから脱出し、多少の衝撃はあったものの被害をそれほどだすことはなく着地した。

周りを見渡すが、あるのは……昔、輝と一緒に帰ってこようと約束した場所。

「ここは……京都……」

上空から音が聴こえ、咲は上方を見た。

そして、大した驚きもなさそうに呟く。

「黒いフェクサー……姫歌ちゃんだね」

「……」

相手の黒いフェクサーは、緩やかに着地し、真っすぐフェクサーを見据えた。

やはり、ブラックボックスやそれに準ずる機能をもつものは、人の心のあり方でその色を変化させるようだった。

「姫歌ちゃん……やめられないかな?」

咲はあくまで、戦いたくない様子だった。

妹羨いもうら 姫歌ひめか

彼女は今まで咲を慕ってくれた人の1人だ。きっと、彼女も咲に感情を与えてくれた1人で、友達なのだ。

「……それは、できません」

妹羨 姫歌は感情を籠らせず、抑揚のない声とともに、大地を蹴った。

一瞬で、フェクサーと肉薄。

黒いフェクサーはフェクサーに馬乗りのように乗り、両手でフェクサーの両手を押さえつけ、行動を制限する。

「……もう、このままおとなしくしていてください。私は……あなたを殺したくはありません」

「そう……でもね、姫歌ちゃん。私は、みんなのところへ行かなくちゃいけない」

「……」

「このまま何もしなかったら、人を見殺しにすることになる!それは……できないっ!」

押さえつけられている両手を振りほどき、馬乗りの黒いフェクサーを両手で押す。

黒いフェクサーは飛び、フェクサーから少し離れたところに着地する。

「……そう、ですか」

妹羨 姫歌の声。

フェクサーを起きあがらせながら、咲は言う。

「うん。だから、ごめんね。姫歌ちゃん」

「……なら容赦はしません」

妹羨 姫歌はそういって、自身の駆る黒いフェクサーの右足に深海のように深い蒼、そして龍をモチーフとして生まれたのだろうものが装着される。

黒いフェクサーに装着されたそれは、咲のウェポンボックスである、ドラゴンブリザードと酷似していた。

おそらく、あれは別世界のウェポンボックスなのだろう。

「……ウェポンコネクト、ドラゴンブリザード……!」

咲も同じようにドラゴンブリザードを呼びだし、フェクサーの左足に装着される。

ノータイムで、黒いフェクサーのドラゴンブリザードから、冷気の弾のようなものが発射される。

冷気の籠ったその弾は、大きさは一般の一軒建ほどの大きさがあり、フェクサーへ続く道を

凍らせながら進んでいた。

あれは避けても無駄だと判断した咲はもう一体のウェポンボックスを呼ぶ。

「ウェポンコネクト!フェニックス・ノヴァ!」

何もない空間から、盾の形状をした物体が現れる。

盾の上方は三角形のようになっており、頂点以外の角から下に多少出張っている。

盾と言われて、最初に思い浮かべるようなデザインだ。

呼びだした盾――フェニックス・ノヴァを持った瞬間、盾の四方から蒼色の薄い壁のようなものが、フェクサー全体を覆うように張り巡らされる。

そこに、黒いフェクサーが発射した弾が追突。

盾が白く凍るが、フェクサーにその冷気は届いていない。

このフェニックス・ノヴァが作りだす盾は、強度は強く、攻撃をほとんど防げるという性質をもつ代わりに、発動中は攻撃ができないという弱点がある。

フェクサーは盾を瞬時に解除し、左足に装着してあるドラゴンブリザードから冷気の矢のようなものが発射される。

空気に触れるとそれは一層大きくなって黒いフェクサーへ直進。

黒いフェクサーもフェクサーと同じように盾を呼びだし、全体を覆うように、蒼色の薄い壁が現れる。

矢が直撃するが、黒いフェクサーは損傷はないようだった。

まるで、同じことを見ていたような光景。

「……同じウェポンボックスをもってる……それなら……!」

咲が呟くと同時に、フェクサーを動かす。

ドラゴンブリザードを装着されている左足を地面にしっかり根をつけるようにめり込ませる。

そして――それは相手も同じだった。

黒いフェクサーも同じように右足を地面にめり込ませる。

「ドラゴンブリザード!アタック!」

フェクサー、右脚部のドラゴンブリザードからエネルギーを限界まで冷気を集束した、巨大な冷気集束砲が照射される。

黒いフェクサーからも同じように照射され、直進。

少しづつ近づいて行く両者の集束砲は、当たり一面を凍りの世界へいざなった。

川が凍り、家が凍てついていく。

衝突。

両者の集束砲がぶつかりあった瞬間、地面にボコッと穴があき凍りに満たされていく。

空気の振動が起こる。

「くうぅぅっ」

フェクサーは踏ん張るが、力の差は明らかだった。

黒いフェクサーの集束砲のほうが明らかな強さを誇っていた。

フェクサーの集束砲を飲み込むかのように向かってくる黒いフェクサーの集束砲。

「あっ!」

フェクサーが踏ん張り、足をめり込ませていた地面がついに限界を超えて自壊した。

その瞬間、黒いフェクサーの集束砲を押し戻そうと頑張っていたフェクサーの集束砲は止み、真っすぐに相手の集束砲がフェクサーを襲った。

冷気に包まれ、身動きができないフェクサーにさらに追い打ちをかけるように、冷気の弾が撃たれ、数秒で着弾と白い冷気の爆風。

爆風が収まると、そこには天空まで届く柱のごとく凍らされたフェクサーが存在していた。


……


ファリクサーを、激しい揺れが襲う。

それは宇宙から東京まで降下して、速度も常人の限界を超えている黒いファリクサーも同じなはずなのだが、揺れで臆した様子もなく、未だにファリクサーの頭部を掴み続けている。

地面に衝突。

地面に、10kmほどの巨大なクレーターが出来上がる。

周囲100kmほどにも、衝撃波が及び、山が飛び、住宅はゴミのように倒壊し、衝撃の強さを物語っていた。

クレーター

の中央に悠然とそびえたつ黒いファリクサー。

「はやく立て。損傷はなにもないはずだ」

あれだけの衝撃を受けながら、それは無傷だった。しかし、それは――。


「くっ……」


――ファリクサーも同じだった。激しく頭を揺さぶる振動を無理やり押さえつけ、岩に埋まっている、ファリクサーを操縦し立ち上がらせる。

そして、正面の黒いファリクサーを視界に捉える。輝は通信を繋げる。

「……どうして、すぐに攻撃しなかった?」

「もう、話すことはない。止められるなら、止めてみろ!ウェポンコネクト!スパイラルユニコーン!」

一角獣――幻の獣、ユニコーンのような頭部が現れ、黒いファリクサーの左腕に装着される。

「スパイラユルニコーン!?なら、こっちも!ウェポンコネクト!スパイラユルニコーン!」

黒いファリクサーに装着されたものと同じものがファリクサーの右腕に装着される。

「いくぞ」

黒いファリクサーは大地を蹴り、その反動で初速をつけ低空で飛ぶ。

「っ速い!」

ファリクサーに肉迫し、スパイラルユニコーンの回転している角を突くように振る。ギリギリのところで反応し、ファリクサーは右腕のスパイラユルニコーンの回転している角を黒いファリクサーのスパイラルユニコーンに軸を合わせるように突き合わせる。

耳が割れるような音が響き渡る。

「っ……あなたが人を嫌う理由はわかった、でも、なぜこんな面倒なことをする!?俺たちを殺そうと思えば今までもすぐに殺せたはずだ!なぜ、そうしなかった!?」

「理由はただ1つだ!おまえたちのフィアーズ・コード・因子を月に集めるためだ!」

両者が突き合っていたスパイラルユニコーンの均衡が崩れた。

ファリクサーのスパイラルユニコーンが分解されるように消えたのだ。同時に、ファリクサーが体勢を崩した。。

「っ!?身体が……」

「ここはフィアーズ・コード・因子、吸収がもっとも行われている場所……そして、いまお前の身体を構成しているのはフィアーズ・コード・因子そのもの!お前が消えるのか先か――それとも私の計画を止めるのが先か!」

ファリクサーが体勢を崩したのを見逃さず、黒いファリクサーは間髪いれずに攻撃。

スパイラルユニコーンの角に蒼いエネルギーが渦巻き、目の前に球状の物体が出現する。

「スパイラルユニコーン……アタック……!」

蒼い球状の物体をスパイラルユニコーンの角で突くように押す。

ファリクサーの目の前にあった蒼い球状の弾から、螺旋を描くように直線状の弾が放出され、ファリクサーに直撃する。

ファリクサーを拘束。各部装甲がひしゃげ、傷つき、コックピットを極限の揺れが襲う。

「くっぁ……」

嵐のような振動が止むと、半球状のクレーターの端、そこにファリクサーは持たれるように、死人のように倒れた。

そして、止めを刺すかのように黒いファリクサーは長身の黒く瞬く剣をもち、振り下げた。

輝は朦朧になっていく意識のなか、思った。

このままじゃ、俺は負ける。この絶対的にひっくり返せないような感覚に陥る、ドス黒く、それでいて哀しい……。

いま、輝のなかにあるのは不安だ。絶望的な不安……。

ゆっくり、スローモーションで近づく黒い剣に吸い込まれるように輝の意識はなくなっていった。


……


「っ……さっきの剣は……?」

俺が目覚めた場所は、真っ白な空間だった。俺に止めを刺そうとしていた黒いファリクサーは影も形もない。

この空間もしかして――かもしれない。どうして、俺はここにいるんだ?

どこを見渡しても、白い空間が広がっているだけ、どこまでも広がり続けるような空だ。

そんななにもない場所にいても、俺は知っている人たちの暖かみを感じていた。

「この暖かい感じは……咲となえか?」

俺が呟いたとき、何もない空間から、吐きだされるように、咲となえかが現れる。

吐きだされるように現れた2人は顔を見合わせ、次いで俺に視線を向けた。

「輝くん?」

「輝?」

「咲、なえか……」

「疲れてるような顔してるわね……」

「そうだねっ大丈夫?輝くん」

そういう、咲となえかも酷い顔をしていた。きっと、辛い戦いをしてきたんだろう。

「咲となえかこそ、酷い顔だぞ……」

会話が繋がらず、俺たちはその空間に立ちつくす。

しばらくの静寂のあと、口をおずおずと開いたのは咲だった。

「輝くんは、このまま戦っていける?」

俺は苦々しく、吐露した。

「……正直、このままいったら無理だと思う。その前に、身体がもたないか、もしくは……死ぬと思う」

「私も同じような感じかな……。フィアーズ・コード・因子を吸い取られた時点で私たちは負けだしね……」

「……輝もなえかも辛気臭いよ。私も同じような状況だけどさ、諦めないよ」

「わかってる。諦めるわけがない……」

「答えがでてるならもう迷う必要なんてないのよ、ただ突き進めばいい」

いままでになかった、なえかの言葉に、咲は口元を緩めた。

「ふふっそうだね、なえかさん」

そして、それは俺も同じだった。

「そうだな。迷う必要なんてない。じゃあ、俺たちはなんで、ここに呼ばれたんだろう」

「どうしてだろうねぇ……」

「どうしてなのかな……」

その答えは、すぐに明らかになった。

咲は下のほうを見て、何かを見つけたように指をさした。

「あっ輝くん、あれ!」

俺はその声と指につられるように下を見た。

「あれは……もしかして、フィアーズ・コード・因子?」

俺の眼下にあるのは、シャボン玉状の球体。少しづつこっちに上ってくる。

そして、それを両手で包みこむように、咲は触った。

「……これは、陽樹くんだ……」

「陽樹……?」

「はい、輝くん」

咲は、球体をこっちに柔らかく、割れモノを扱うよりも繊細に渡した。

それに触れた瞬間、俺は咲が言っていたことを理解した。

「ああ、確かに陽樹だ……陽樹のフィアーズ・コード・因子だ……」

「つまり……?」

なえかの質問に俺はいま素直に感じていることを口にした。

「ここはフィアーズ・コード・因子集積所で……きっと、俺たちを呼んでいたのは、そこら中にいる、フィアーズ・コード・因子の球体だ」

少し目を凝らしてみると、違う球体が見えた。少し不格好なのもいれば、黒光りしているものもいる、その黒光りしているものはきっと人の醜い感情が具現化したものだろう。

しかし、その球体の中には、しぶとく――そして決して消えない、光が灯っていた。

さきほどまでより、暖かい。

「どうして、こんな空間が……?」

「みんなだ。みんなが人を思いやる心が、この空間を作ってるんだ……。人が人を思いやり、大切に思う気持ちが、この空間を生みだし、俺たちをここに呼んだんだ。俺たちが不安という気持ちを抱いているから……」

なえかが、自分のなかにある不安な気持ちを振り切るように、笑顔になる。

「そうなんだ……うん!それなら、もっと負けられないね!不安だ、なんて思ってられない」

なえかの言葉を聴いた咲も、同じように笑顔を顔に宿らせる。

「うんっ!そうだね」

そして、不安を振り切るという気持ち、それは俺も、同じだ。

「ああ、絶対に……な。それに、みんな……力を貸してくれるみたい、だしな」

球状のものが集合しだし、次第に、扉を形作っていく。

暖かい、人を思いやる気持ちが詰まった扉。

扉が完成する。そして、ゆっくり、俺たちが不安を振り切る時間をさらに与えるように開く扉。

きっと、あの扉をくぐったら、また、戦闘だろう、でも――。

「輝くん、いこうか」

「輝、いこう!」

「ああ!」


――いまは、人を思いやる気持ちが、みんなの気持ちがついている……。もう、不安な気持ちは、ない。

迷うなんてことではないけど、俺たちのいま抱いている不安という気持ちは、確かな、人を思いやる心で満たされていた。

絶対に、沙川さんたちを救って見せる。そして、沙川さんたちの計画を実行させたりもしない。


……



黒いファリクサーは黒光りする剣を、半球状の端にいる、ファリクサーに振り下ろす。その光景は、クレーターの中にいるからか10秒にも、1時間にも感じられるような光景だった。

しかし、その時は訪れる。

振り下ろされた剣は重力に、振り下ろす力に後押しされファリクサーの頭部にあと一息のところまで来ていた。

瞬間――。


――剣が止まった。


時を止めるかのように、剣を止めていたのは、いままで死人のように倒れていたファリクサーだった。各部がギシギシと悲鳴をあげ、ズタボロになりながらも、動きだした。

右手で剣を止めたファリクサーを警戒するように、黒いファリクサーは飛び退く。剣は案外簡単にファリクサーから抜けた。

「っ!なぜ、動ける!?お前のフィアーズ・コード・因子は殆ど残っていないはずだ!」

ゆらっと、しっかり大地に根をつけるようにファリクサーは立ち上がる。今までのファリクサーとは何かが違っていた。

沙川 魅穂は続けて、絶望に打ちひしがれたように言い放つ。

「どうして……ファリクサーが"紅"に光っている!?」

そう、ファリクサーは周りを照らすように、光っていた。まるで、すべてを包み込むかのように――光輝いている。

甲長 輝はファリクサーの感触を確かめる。近くにいま、求められているかのように落ちていた、ファリクサーの剣――インフェルノソードを右手で引き抜く。

「……これが、人を思う気持ちが――絆の気持ちが生んだ……結果だ!」

言い放つと同時に、黒いファリクサーの黒光りする剣に対抗するように、インフェルノソードが紅く光だし、柄から、刀身にかけて紅の膜のようなものに包まれ、一回り刀身が大きくなる。

いまの甲長 輝は迷うことも、不安もなにもなかった。あるのは、人の気持ちが生みだした、いまの状況だ。


……


フィクサーに、6つの光弾が接近する。黒いフィクサーが漆黒のサブマシンガンから撃った光弾だった。

光弾は、世界に闇を照らしていくかのように、通過したところが一瞬、闇に染まる。

すべての弾は、フィクサーの頭部、四股、腹部を狙っているように軌跡を描いている。

距離にして、3000m。

このままでは一瞬で着弾する。いくらフィクサーと言えどあれだけの損傷を受けたあとにまた攻撃を受ければ致命傷になる。いまでも、機体の稼働に支障があるだろう。

しかし、なえかはついさっき取り戻した意識で、チャンスを待った。

なえかの頭のなかにあるのは、フィクサーが目と鼻の先まで接近して、確実に当たる距離で放った光弾が跳ね返されたということに対する疑問だ。

黒いフィクサーは当たるのを確信しているのか、否か、左にもったサブマシンガンを重力に従って垂らしている。そして右手には――なにももっていなかった。

その時、なえかに過ったのは、戦闘開始直後にもっていた盾だ、特徴も何もないように見える盾。しかし、それをいま持っていなかった。

なえかが、見ていた限り盾を捨てたということはない、それは、なえかが意識を失う前に抱いていた仮説を証明させるには十分だった。


あの機体――黒いフィクサーの盾に弾かれて、私はおそらくダメージを受けた、そして、それを可能としているのは――フェニックス・ノヴァだ。


ウェポンボックスというのは、本来人の想像力が生みだす武器だ。ドリルウィンドウレオなどはある程度固定された形を思い浮かべるようにできている。

スパイラルユニコーンなら、幻獣と言われている、ユニコーン。ドリルウィンドウレオは、百獣の王、ライオン。

しかし、それに当てはまらないものがいる、それが、フェニックス・ノヴァだ。

フェニックス・ノヴァは、純粋に、その人が想像するものや、心の奥底にあるものを具現化するウェポンボックスだ。

そして、その力の発揮の仕方も、多種多様に、人のように変化する。つまり、あの盾は人には見えない透明色へと自由に変色でき、一瞬で、真後ろに配置したり、さらに光弾のようなエネルギーに頼るものを弾くようだった。

もしそうなら、黒いフィクサーは無敵だ。

しかし――。


「できるかわからないけど、いける!やるよ!フィクサー!」


――彼女には秘策がある。

光弾は直撃間近だった。

決まれば、あとは迷う必要はないと、なえかは飛翔システムの出力を最大にし、一気に加速する。コックピット内が激しくビリビリと振動が支配する。

フィクサーは白く輝いていた。なえかは知っている、この現象は、人の絆が起したものだと、不安にかられた私たちを支えようとしている、光だと。

フィクサーは、迫る光弾を、左手で受け止めながら進む。どうせ、もう左手は使わないのだ。気にしないで進む。

黒いフィクサーはその場で立ち止まり、漆黒のサブマシンガンから、光弾を撃ちだしていた。

振動を受けながらも、フィクサーはなえかが意識を失っても手放さなかった、フェニックス・ノヴァ――純白のサブマシンガンを右手で構えた。

照準にいれることなど気にせず、黒いフィクサーにサブマシンガンから放たれる光弾を発射。

純白のサブマシガンから、1つの球状が生みだされ、そこからさらに8つの光弾に分裂し、黒いフィクサーに突き進む。

間髪いれずに発射。次は、1つの球体から、16つの光弾が生みだされた。

なえかは確実に手ごたえを掴んでいた。フェニックス・ノヴァの真の使い方だ。戦闘は刻々とそのあり方を変える。一定の武器ではなく、人の思いによって様々に力を変えられることが、フェニックス・ノヴァの真価だ。

そして、フェニックス・ノヴァはその人の理想に思う形、深層意識にあるものを具現化する。

それが、いま、発揮されている。

フィクサーの左手はもう損傷許容範囲を超えているはずなのに、自壊しなかった。

フィクサーはさらに加速する。もう、限界速度はでているはずなのに、それを超越した速度を生みだす、右手に構えた、純白のサブマシンガンの連射速度も明らかに速くなっていく、コンマ何秒、僅かその程度だが、それが詰みかさなっていき、連射に拍車をかける。

純白のサブマシンガンから生みだされ、球体から分裂していく光弾の矢も変化を告げていた。1つの球体から36本生みだされたかと思えば、次は72本、さらに増える。

それがすべて扇譲に広がり、黒いフィクサーに向かう、しかし、いくらかは外れ、幾分かは反射される。

その反射も押し流すように、分裂した光弾が突き進む!

ゴールは、目の前だった。

黒いフィクサーを通り過ぎるフィクサー。

加速度的に速度が収まり、フィクサーは地面に着地。互いに背中を向ける。

「はぁ、はぁ……かん、せい!」

なえかは息を切らしながらも言葉を紡ぐ。

フィクサーの背後では、無数の光弾が照り輝いていた。

黒いフィクサーを包み込むかのように。

なぜ、光弾を跳ね返される盾があるのに、そうしたのか、それは間もなく明らかになった。

フィクサーは背後に向けて、純白のサブマシンガンで撃つ。今度は分裂せずに、1つの球体として進む。

そして、黒いフィクサーに直撃――いや、案の定跳ね返された。

だが、黒いフェクサーが、後ろに傾く。

フィクサーが配置した、無数の光弾だ。ゆうに数千個はあるように見える。

跳ね返ってきた光弾を優雅とも言える動作でフィクサーは避ける。

なえかは自分の理論が間違ってないことを確信した。

黒いフィクサーの盾は、全方位ではない、1つの角度――盾の有効範囲外からの攻撃は通ずる。それならば、どうするか?

さっき黒いフェクサーがやったように、宮木 なえかは無数の光弾を配置する。それだけだ。

しかし、それだけでは不十分だ。

だから、下にも、配置した。

フィクサーの光弾が意思をもって動きだす。すべてが黒いフィクサーに向かう。

それを、黒いフィクサーは予測通り、見えない不可視の盾で弾いた。どうやら、弾いた弾に誘導性はなく、直進するだけだ。

フィクサーの周囲にきたところで、避けれる。

黒いフィクサーは忙しく盾を展開、展開。上、右、左、斜め。すべての角度に完璧に反していく。

おそらく、あれに乗っているのは人間ではないのだろう、だから、フェニックス・ノヴァの持ち味がいかせない。

機械のような驚異的な計算能力で、あの黒いフィクサーはすべてを返すだろう、例え人間技でなくとも、しかし、突然のことには隙ができるはずだ。

なえかはその瞬間を待っている。

数千の弾を返す、返す、返す。

ここだ!というタイミング、絶好のタイミングで攻撃を仕掛けるために、待つ。

そして、その瞬間は来た。

地上の弾がすべて弾かれた時だ。機械の反応速度は素晴らしい、しかし、この瞬間ならどうだろう。

あれだけの計算をし、弾いたあとだ、機械と言えども処理という名の隙ができる。


いまだ!いっけえぇぇぇぇ!」


なえかは渾身の叫びをあげた。

その瞬間、地面深くに配置し、熱源を探知されないように最小限のエネルギーで生みだした光弾が生命を得たかのように愚直に直進し始めた。

黒いフィクサーは反応したが、時すでに遅し。

足から脳天を貫くように一斉に射出される。

すべて黒いフィクサーに直撃し、爆発が周りを包み込む。

一度当たればあとは呆気ないものだった。

「はぁ……はぁ……たお、した?」

なえかがコックピット内でへたり込みそうになった時。


黒いフィクサーは未だに動きつづけ、煙を突き破って出現した。


「っ!」

黒いフィクサーはフィクサーとは逆方向から煙を突き破り、驚くほどの速さで形が小さくなっていく。

どこに向かっているのか、確認する。

「ど、どういうこと!?それにそっちにある反応は……ファリクサー!?輝……!」

そう、向かっている遥か先にファリクサーの反応がある。

輝になにかあったのかもしれない、もしくは、沙川 魅穂になにかあったのか?

思考する余裕もなく、フィクサーの出力を限界まであげ、黒いフィクサーを追いかけ始めた。


……


「……ごめんなさい。原河 咲……お姉さま……」

黒いフェクサーに乗り込んでいる、妹羨 姫歌はコックピットで呟いた。

目の前には、天空に届く柱のごとく凍らされたフェクサー。動く気配はない。

「……魅穂……は大丈夫だよね……。このまま、ここにいよう……」

「そういはいかないよ!姫歌ちゃん」

聴こえるはずのない声が聞こえた気がし、妹羨 姫歌は凍らされたフェクサーを見た。

さっきのは明らかに、原河 咲の声だ。

フェクサーを包み込んでいる凍りの中では、冷気により、機械の類はほとんど動かずパイロットも大変寒く、辛い思いをするはずの場所から、通信が妹羨 姫歌に届いた。

「お姉さま……?」

「ごめんね、姫歌ちゃん。私はここで立ち止まるわけにはいかないの。みんなを、守るために!」

フェクサーを包み込んでいる凍りは、見るからに音をたてて崩れ始めていた。

凍り柱の表面に傷が入り、パキッとという音とともに、一気にはじけ飛ぶ。


柱の中央に存在していた、フェクサーは周囲を蒼く光らせながら、地面に着地。しっかりと大地を踏む。

「あの状況から脱出するなんて……」

「妹羨ちゃんは私を逃がしてくれようと思ったんだね。動けなくして、あくまで死なないようにしてた……でも、私はそれにはのれない!私には、みんながついてるから!」

「っ……なら、貴方を殺すしかありませんっ!」

黒いフェクサーが腰に装備してある、ブリザードソードを左手にとり、上空へ飛び、フェクサーに直進する。

フェクサーはそれにこたえるように、腰に装備してある、ブリザードソードを右手にもち、飛翔システムの出力をあげ、飛んだ。

黒いフェクサーとフェクサーが交わる。つば競り合い。空気が振動し、空の雲が吹き飛ぶ。

「妹羨ちゃん、あなたは……あなたは、もう大丈夫でしょう!?」

「っ!」

黒いフェクサーが、離れる。フェクサーはそれを追いかける。

「あなたの過去を知るつもりもなにもない。けど、あなたがいましていることは、同じことを繰り返すだけじゃないの!?」

「なにを……なにを知ったようなことを!例え、同じことを繰り返しているとしても、私は!」

また、交わる、離れる。

繰り返される交わり、つば競り合い。

「だって、哀しいよ……。妹羨ちゃんはあんなに優しい顔もできるのに……!」

咲の脳裏に映しだされるのは、今までの妹羨 姫歌。学校でお姉さまと言って纏わりつく、可愛い後輩。

「あんなものはただの演技です!あんな、仮面になんの意味があるというんですか!」

黒いフェクサーはつば競り合いをしているフェクサーを蹴り、剣を捨て、フェニックス・ノヴァとドラゴンブリザードを呼びだす。

「あれは仮面じゃない!私にはそれがわかる!姫歌ちゃんも聴いてたでしょう、私も昔は仮面を被ってた、でもあなたのそれは仮面じゃない!」


……そんな、言葉は私には、届きません!」


右脚部に、ドラゴンブリザード。右手に、ロケットランチャー状ものが現れた。

フェニックス・ノヴァは人の思いによって形を変えられるつまり――。

「っ……姫歌ちゃんの、フェニックス・ノヴァなんだね。それで……終わらせるのかな?」

――黒いフェクサーのフェニックス・ノヴァの真に力を発揮できる姿は、あの姿なのである。

「はい。もう、終わりです……」

妹羨 姫歌はどこか寂しそうで、哀愁を誘うような、後悔を漂わせるような言い方だった。

この戦闘には、もう言葉は不要だった。

一撃で全てが決まる。

例え、咲のフェニックス・ノヴァであろうとも、あのロケットランチャーからの攻撃はおそらく防げない。

それを悟った咲は、あることを思いついた。

咲のフェニックス・ノヴァは絶対防御の盾ではあるが、フェニックス・ノヴァ同士の戦いで、さらに相手との力量差もある。

防げるわけがない、防げるかもしれないが、それも少しの時間だ。


なら、どうする?

言ってはなんだが、咲はフェニックス・ノヴァの力をすべて引き出せない。

なぜなら、咲の深層意識に芽生えている守るという心のせいだった。そのおかげで、盾はフェニックス・ノヴァの特性でもある、他の武器へ具現化することもできない。

でも――もしかしたら、いけるかもしれないと咲は思考を止めず、考える。

できるかは賭けだが、これをやらないと確実に、咲は死ぬ。

思考を止めたところで、全部をカラにして思い浮かべる。成功するかも、わからない、賭けの具現化の形を。

フェクサーの目の前に、一般的に想像されるような、頂点は三角形。底辺は下に出っ張っている、一般的な盾が出現する。

瞬間、黒いフェクサーがロケットランチャーを構える。タイムラグなく、ロケットランチャーから蒼い光が照射された。

光速。

そう言い表すのが適正である速度で、フェクサーに迫る。

それを、回避しようとするが、ダメだ。

その照射されたのであろう、ビームらしきものは追尾してきた。

フェニックス・ノヴァは人が使えば、ここまで強力な力を発揮できるのだ。

フェクサーは堪らず、盾を前に突きだす。

盾により拡散されたビームは、地上に降り注ぎ、戦闘の被害を広げ始めた。

さらに、ダメ押しで、ドラゴンブリザードの凍り弾も、ロケットランチャーからのビームの中を通るように迫る。

「くっ……この!」

フェクサーは、あろうことか盾を展開しながら、ロケットランチャーのビームに突っ込むように、飛翔システムを一気に最大速度に引き上げた。


突き進む、ひたすらに、愚直なまでに突っ込む。

途中で光弾に激突し、展開中の盾に猛威を振るったが、盾は自壊することなく、持ちつづけた。

さらに突き進む。黒いフェクサーまであと2000mとなったところで、一瞬、ビームが途切れる。フェニックス・ノヴァの――特にビームのような高出力兵器は放出できても、せいぜい30秒である。

いくら無敵である、フェニックス・ノヴァで、いくらでもエネルギーを作りだせるとはいえ、その容量を超えてしまえば、多少のエネルギー補給時間は必要である。

咲は、この時を待ってましたとばかりに、盾を剣を構えるように水平にし、黒いフェクサーに向ける。


普通に考えれば自殺行為だ。


盾は本来、面積が大きくなっているところを構えるものである。しかし、フェクサーは盾をもつ右腕を直角に伸ばし、盾を水平にしたのである。

盾は遠くから見ればペラペラの紙のようにさえ見える。

何秒も待つことなく、エネルギーの補給を終えた黒いフェクサーがロケットランチャーを再び照射する。

目の前まで迫る、蒼い光。


「はあぁぁぁぁ!」


それを、咲は文字通り、叩き切った。

蒼い光は縦に分裂し、途切れる。

そして、フィクサーは加速。距離はもう近距離だ。

フェクサーは、黒いフェクサーに向けて、蒼い膜が刀身のように練られていて、盾の三角形の頂点についた刀身を振った。

黒いフェクサーを斜めに切断する。

右頭部、右肩が綺麗に、削ぎ落された。

「はぁ……はぁ……姫歌ちゃん。終わり、だよっ!」

フェクサーの盾から伸びた刀身を思わせる形状になっている蒼い膜が蒼い光になって拡散する。

咲が思ったのは、盾から形が変えられないのなら、盾から出現する、蒼い光の壁の形状を変化させるというものだった。

蒼い光の壁は、武器状に変化し、見事に武器として使用できた。しかし、それは脆く、崩れやすかったため、すぐに形状が解け、拡散した。


フェクサーが、黒いフェクサーの肩に手をつけようと思った時だ。


黒いフェクサーは反転し、去った。瞬く間に、形が小さくなっていく。

「あっ!姫歌ちゃん!待って!」

フェクサーは、黒いフェクサーの追跡を開始した。


機甲ファリクサーF 第二章「絆の可能性」中編オワリ


機甲ファリクサーF 第二章「絆の可能性」後編へ続く

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