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第二章 絆の可能性 後編

機甲ファリクサーF


第二章 絆の可能性 後編



青く緑豊かな惑星の地球。

地球の大きさの前では、霞むほど小さい大陸の国家である、日本――その中の一都市、日本の中心とも言うべき東京のさらに真ん中。

そこに大地を抉るかのようにクレーターが現れている。抉られた大地に、雨が降り注ぎ、風が雨の行方を揺さぶる。

クレーター内部には、漆黒のように黒い装甲に、頭部のバイザーや間接が赤い、人型のロボットと業火のように赤い装甲をもち、頭部のバイザーが翠の人型ロボットが存在していた。

揺さぶられた雨が、紅の装甲に触れるたびに蒸気があがり、そこだけ異質な光を雰囲気を放っていた。

「……これが、人を思う気持ちが――絆の気持ちが生んだ……結果だ!」

紅の装甲をもつファリクサーが右手にもっている紅の剣を勢いよく振り、黒い装甲をもつファリクサーに突きつける。

剣を勢いよく突きつけた瞬間、風が舞うと同時にいままで雨を降らせていた雲が吹き飛ぶ。太陽が入りこみ、ファリクサーの装甲が眩いばかりに赤く光った。

風により、クレーターが一段と大きくなり、黒いファリクサーに衝撃が突き抜ける。

「……お前がここに戻ってきたのは、絆の力だと?」

両者共、動かない。

「そうだ……きっと、気絶したままだったら俺の意識と身体は月に吸い込まれただろう。でも、みんなの気持ちが俺たちを助けてくれた!沙川さん、これがあなたの否定してきたものだ!」

沙川 魅穂の歯が軋む音が輝の耳に届けられる。

「……私の否定してきたもの、そうだな。だが、いくら人を思う気持ちが――絆があろうとも、お前が落ちてくる月を止めることなど不可能だ。ましてや、私に勝つことなど不可能だ!」

黒いファリクサーが右足を踏みだすと共に大地が抉れ、姿を暗ます。

輝は見えなくなった相手に意識を乱すことなく、突きだした紅の剣を水平に構える――瞬間的に摩擦が生まれ、火花が散った。

ファリクサーの真後ろに足を滑らせ、大地を抉りながら黒いファリクサーが現れる。どちらも背を向け、相手を見ていない。

憎しみを力にしている黒いファリクサーのブラックボックス、その力はLv10因子+絆を力にするブラックボックス――つまり輝の力と同等あるいは、それ以上だ。

黒いファリクサーの異次元のような素早い動きは人間ができる技で言えば、縮地しゅくちと呼ばれるもので、瞬時に相手との間合いを詰める技だ。

機械を超えた動き、柔軟な動きができるのが、ブラックボックス搭載機ゆえの力。

他の機械ではできないような、機械が戦っているのでなく人と人が背を向けあっている雰囲気さえ漂う。

「沙川さん――あなたは、どこかでこの計画が止められるというのを望んでいたんじゃないんですか?」

「違うっ……!」

風を斬るように黒いファリクサーが動く。ファリクサーが反応し、一瞬火花が散る。

空中で、黒いファリクサーとファリクサーの剣が交わったのだ。遅れて風という衝撃がやってきて、周囲の雲が吹き飛ばされた。

一瞬で離れ、また火花が散る。

「沙川さん、それならあなたはなぜ!俺をフィアーズ・コード・因子集積所に送ろうとした!?」

「言っただろう!フィアーズ・コード・因子を集めるためだと!」

激しい衝撃が身体を襲い、コックピットから投げ出されそうになりながらも輝は強い語気で言い放つ。

「違う!俺をフィアーズ・コード・因子集積所に送ってしまったら、計画が台無しになる可能性があるにも関わらず、送ろうとした!」

輝はさらに語気を強める。

「それは、あなたがまだ絆の可能性を信じていたからじゃないのか!止めてほしかったんじゃないのか!」

「違う!違う!何度も言っているだろう!絆は存在しない!空想だ!幻だ!止めてほしいだなんてことがあるものか!」

黒いファリクサーが速度をあげた。空を駆ける音が遅れて聴こえる。それについていくかのように、ファリクサーも速度が上がる。

「もし俺をフィアーズ・コード・因子集積所に送っていれば月の制御が乗っ取られたかもしれないのにか!?それにフィアーズ・コード・因子はもう十分に足りていたはずだろう!」

そう、もしフィアーズ・コード・因子で身体の大部分を形成されている甲長 輝をフィアーズ・コード・因子集積所に送っていれば周りのフィアーズ・コード・因子の力とともに月が活動を停止し、すべての計画が終了した可能性もある。

フィアーズ・コード因子の力により、実際に、いま輝は月にフィアーズ・コード・因子を吸収されていない。月のフィアーズ・コード・因子集積所にある、幾多の人のフィアーズ・コード・因子が吸収させないようにしているのだ。

Lv1程度の因子が、地球にいる殆どの人の数だけ集合しただけでこのような力が発揮できる。さらに上位の存在にあたるLv7やLv9因子を吸収してしまえば、さらに妨害が進んだ可能性がある。

「……!」

僅かに沙川 魅穂が動揺したのか黒いファリクサーの速さが鈍る。

「本当に憎しみだけで人が動いていると思うなら絶対にそんなことはしないはずだ!あなたの過去は辛いものかもしれない……でも、あなたはこの世界に来て色々なものを感じたんじゃないのか!

 学校内での銃撃戦――あの時、あなたはそれを余興と言った!あの時の笑顔は俺が感じた限りでは嘘、偽りはなかった!」

「……私の心を感じたというなら、私の中にある心の内を少なからず覗いたはずだ!私が人を憎むことも!なぜ、私をその時止めなかった!お前は絆というものに疑問を持ち始めていたのではないのか!?」

「っ……」

黒いファリクサーに迫っていた、ファリクサーの速さが落ちる。どちらも、ほぼ同等の速さになった。

剣と剣から摩擦が生まれる。

「お前が私だけに言えたことではない!お前も、なぜ私を止めようとしなかった!?それだけの力があり、人を信じているのなら!」

「それは――確かに、人の心が読めるようになってから人の絆を信じられなくなっていたかもしれない。俺もあなたのように考えたことも……あった。誰もが綺麗に、純粋に生きてるわけじゃない。

 誰かを殺したいと思ったり、誰かを貶めたいと思ったり――人の心を読めるようになってから気づいた」

黒いファリクサーとファリクサーが剣と剣を交える。天へ登るように加速する。

空で岩でもぶつけたようにガコンっという天を貫くような音が断続的に響き渡る。

2機の機械が戦っている場所はもう、別次元のようだった。

「なら、なぜお前は私を否定する!そう思ったのだろう!?感じたのだろう!?人は不完全な生き物で、感情の制御ができず、暴走することもある生き物だ!そんな生き物は百害あって一利なしだ!」

「そう考えたこともある……でもな!それが人なんだ!喜怒哀楽、すべてがあって人なんだ!俺は一部の感情を失っている……それでも、人間の枠組みからはみださずに過ごせるのは、みんなが思ってくれるからだ!

 だから!俺が俺である限り、沙川 魅穂、あなたの考えを否定する!それが、人である俺の結論だ!それに、俺はあなたを救って見せる!あなたは、まだ絆の可能性を知ることができるから!」

動く、動く。

加速。加速。

クレーターから飛びでて、周りのビルを巻き込みながら進む。正面にいるファリクサーに剣を振るう黒いファリクサー。

ファリクサーは上空に飛翔し、上空から下降。黒いファリクサーに紅の剣を投擲。

回避される。

地面に突き刺さった紅の剣を瞬時に引き抜き、黒いファリクサーを正面に見据える。

さらに加速する。加速の衝撃で、ビルや家が音を響かせて倒壊する。

それを利用しながら近づき、両者共剣を振るう。どちらの剣の刀身にもヒビが入る。

剣と剣が、音速の領域での鍔競り合い。

輝と沙川 魅穂にしかこの現象は見ることができないだろうと言えるような光景だ。

どちらも離れる。また近づく。

速度は常人では耐えられない域であるのに、輝と沙川 魅穂はこの加速に耐えている。

しかし、機体はそうでないらしく、フィアーズ・コード・因子の力を借りているにも関わらずファリクサーの装甲が拉げる。

黒いファリクサーも同じように装甲が拉げていく。

動くたびに遮蔽物がなくなり、さらに動きは活発になる。

「私に絆の可能性を見せるなど無駄だ!同情はいらない!」

「同情じゃない!薄情かもしれないけど、俺はあんたの過去を聞いても、本当にそこにいたことにはならない。当人たちの痛みも、哀しみも、その辛さも、何もかもわからない!俺は話を聞いてもそこにいたことにはならない!わかるのはあなただけだ!それなら、俺はあなたが絆を信じられるようにしたい!

 あなたが、それだけ苦しんでいても、それを殺せるくらいの絆の可能性を見せたい!絆がこの世には満ちていると、それを証明したい!俺はあなたの過去のために戦ってるんじゃない!俺はいま、あなたを助けたいから!戦ってるんだ!

 それが誰に言われただでもない、俺がやりたいことだぁぁぁ――!」

輝の叫びと共に、天を貫いていた音が止んだ。

どちらも、急加速による限界で手や足を失った。

ファリクサーは左腕と左脚部。黒いファリクサーは右腕と右脚部。

そして、武器でった紅の剣と黒光りする剣はどちらも刀身にヒビが入り、それが柄まで浸食。

静かに音をたてて、粉々に砕け散った。

「はあ……はぁ……」

「はあ……くっ……まだ、終わりだと、思うな……」

「……まだ、やる気、なのか?」

「そうだ……私はここで負けるわけにはいかない……フェクサー!フィクサー!」

「っ!?」

瞬間、高速で移動する黒い物体がファリクサーの両脇をぬけていく。

黒いファリクサーの付近へ着地。それは、黒いフェクサーと黒いフィクサーだった。

「なっ……黒いフェクサーにフィクサー!?まさか……!」

沙川 魅穂が、呟く。

「そうだ……!甲長 輝!どれだけ私に言葉をかけようと無駄だ。これは、私の"すべて"を賭けた計画だ……!超至宝合体!」

言葉を放つと同時に、黒いファリクサー、黒いフェクサー、黒いフィクサーは黒い光に包まれた。

黒いフィクサーと黒いフェクサーの脚部、腕部、頭部が赤色の粒子となり、胴体にその粒子が纏わりつき、黒いフィクサーと黒いフェクサーの2機分で大きい下半身が再構成される。

黒いファリクサーも脚部が粒子となり、それが腕部や頭部や胴体に纏わりつき、再構成され、下半身と合体する。

そして、誕生する。憎しみを抱いた機械が。

「ブラックアルティメットヴァリアス……」

黒い光が飛び散り、ブラックアルティメットヴァリアスが降臨する。

ファリクサーを一回り大きくし、マッシブにした印象を受ける。装甲は漆黒。頭部にある目は赤。

すべての憎しみを抱いた機体、ブラックアルティメットヴァリアスは地面に降り立つ。それだけで、空が黒く染まり、夜の静けさを迎えたように辺りが闇に包まれる。

しかし、合体する前にどの機体もダメージを受けていたためか、中途半端に装甲が削られているところや、間接が見え隠れしているところがあった。

「……そちらも、来たようだな」

ファリクサーはブラックアルティメットヴァリアスから明後日の方向を向く。すると、そこには輝がよく知っている装甲の色をしたフェクサーとフィクサーが浮遊していた。

「輝!」

「輝くん!」

フェクサーとフィクサーがファリクサーに駆け寄ってくる。

「咲!なえか!状況はわかるな!?」

「うん……!私たちのやりたいことを、やろう。お兄ちゃんも、もうすぐしたらくるから……」

「京朗さんも……わかった。なえか、大丈夫か?」

「わかってるよ。大丈夫」

咲やなえかは状況を分かっている。おそらく、ここまで近づく際に通信を傍受したのだろう。

「いくぞ……!」

輝と咲となえかが、それぞれ息を合わせて、ハモるように声をだす。

「「「超至宝合体!」」」

ファリクサーとフェクサーとフィクサーが眩い光に包まれる。

フェクサーとフィクサーの脚部、腕部、頭部が緑色の粒子となり、胴体にその粒子が纏わりつき、フェクサーとフィクサーの2機分で大きい下半身が再構成される。

ファリクサーも脚部が粒子となり、それが腕部や頭部や胴体に纏わりつき、再構成され、下半身と合体する。

誕生する。


「「「アルティメットヴァリアス!」」」


眩い光が飛び散り、アルティメットヴァリアスが大地に着地する。それだけで、空が明るく光り、夜明けを迎えたように辺りが明りに包まれる。

ブラックアルティメットヴァリアスを鏡で映したような機体だが、装甲は赤色。頭部の目は緑だ。

ブラックアルティメットヴァリアスと同じく、合体する元になる機体のダメージが蓄積していたためか、装甲がなくなっているところや、間接が見え隠れしているところが見受けられた。

特に左腕は酷い物で、ほぼ骨格になるものしかないも同然だった。

アルティメットヴァリアスとブラックアルティメットヴァリアスはまるで光と闇のように輝いていた。

空をわけるように、光と闇の輝きが拡大する。

その光景は、この世の終わりを告げる戦いを告げているようだった。

嵐でも起こりそうなものだが、不思議とそこは静寂に包まれていた。

その静寂を破るように、両機は動きだした。

もはや、言葉はその意味をなさない。

輝や咲やなえかは沙川 魅穂を助けたい、止めるといい。沙川 魅穂は"すべて"を賭けた計画だと言った。

どちらの行動も交わることがない。

そう、交わることはないのだ。

どちらかが、倒れるまで。


……


アルティメットヴァリアス、ブラックアルティメットヴァリアスが大地を抉り、飛翔した。

それだけで、広く大地が陥没し、人を軽々と持ち上げるほどの突風が巻き起こる。

両機が激突。

アルティメットヴァリアスの繰りだした右拳を意図もたやすくブラックアルティメットヴァリアスは右手で受け止め、左手で拳を繰りだす。

拳が塞がれたなら、脚部。脚部が塞がれたなら、拳と言ったように、両機ともその押収が続く。

両機がバネにでも弾かれたように後退。

そして、急加速。

両機が飛行し、交わっては離れる。

音が遅れて聴こえ、周囲の大気は震えているように振動する。

右、左と動き相手を揺さぶる。時には上、下と三次元の動きを混ぜ、相手に貼りつこうとする。

ブラックアルティメットヴァリアスの軌道が僅かに揺れる。コックピット内部は相当な振動とGが掛っている。軌道が揺れるのも仕方のないことだろう。

僅かに揺れた隙を逃さずに、アルティメットヴァリアスが特攻するように組みつく。

両機ともクレーターに落下。

一段と大地を抉る。

マウントポジションを獲得したアルティメットヴァリアスは右拳で殴りかかる。

しかし、ブラックアルティメットヴァリアスは飛翔システムをフル稼働させる。ブラックアルティメットヴァリアスは浮き上がり、アルティメットヴァリアスが体勢を崩す。

ブラックアルティメットヴァリアスはそのまま上空まで移動。

ブラックアルティメットヴァリアスの左手に本体ほどの大きさもある剣が現れる。1薙ぎで100m四方はすべて薙ぎ払ってしまうくらいの大きい黒い剣だ。

その剣は漆黒に輝き、沙川 魅穂、妹羨 姫歌の憎しみを体現しているようだった。

それを左手に持つ。

アルティメットヴァリアスは体勢を立て直した。直後、何もない空間から、100mはあろうかという剣が現れる。

それを右手に手にした。

剣の名はフィアーズ・ソード。

その剣は明るく、白く輝いており、輝、咲、なえかたちの絆を体現しているようだ。

刹那。

両者の剣が激突した。

光と闇というに相応しい剣たちが交わる。

1つの剣は水平に、1つの剣は縦に。

鍔競り合い。

ブラックアルティメットヴァリアスは剣をカクンと刀身を落とし、アルティメットヴァリアスが縦に振っている剣を受け流した。

弧を描くようにブラックアルティメットヴァリアスは剣を動かし、アルティメットヴァリアスを一刀両断する。

かろうじて、その斬撃を右に避ける――否、避けられていなかった。間接しか残っていなかったとはいえ、左腕がスパッと綺麗に落とされる。

それに臆した様子もなく、アルティメットヴァリアスは受け流された剣を上方に振る。

ブラックアルティメットヴァリアスの左腕が見事に削ぎ落されるが、剣は手放されることはなく、右手におさまっていた。

切られる直前、左手から右手に譲渡したのだ。

剣を振る。

アルティメットヴァリアスの左脚部半分がなくなる。巻き添えをくって、右脚部も半分削ぎ落される。咲となえかのコックピットがある、膝の辺りまでいかなかったのは不幸中の幸いと言えた。

アルティメットヴァリアスが離れる。ブラックアルティメットヴァリアスは追跡しない。


どちらも、満身創痍だ。


いままでずっと戦いを続けていた。とっくに限界は超えているはずなのに、輝や咲やなえか、沙川 魅穂や妹羨 姫歌、そして人型機械は戦い続けた。

誰も、どれも、もう限界だ。

それは地球でさえも同じで、月が落ちてくるまでのタイムリミットはすでに30分ほどで、もう、時間もなかった。

アルティメットヴァリアスは動くたびにとんでもない音を撒き散らしているし、フィアーズ・ソードがあまりの衝撃に自壊した。

ブラックアルティメットヴァリアスは脚部が膝から下にかけて自壊。

両機共、動くタイミングを見極めていた。

動けるのは両機ともこれが最後になるだろう。


……


「姫歌……」

私――沙川 魅穂はブラックアルティメットヴァリアスのコックピットで呟いた。

動けるのはこれで最後。心残りなんてないはず……なのだが。

これでいいんだろうか、過去に縛られたままで、というのが私の心の中で渦巻いていた。

私の過去はどの人間にもこういう計画を迫らせるほどのものだと自負しているし、計画を止める理由はない。

妹羨 姫歌――大切な友達、親友。

もし、過去が変えられるなら彼女は私に会うべきではなかった。

ハンカチを差し出してくれた彼女、あの手を取っていなければ何事もなく、彼女は健やかに育ったはずだ。

いまみたいに、感情を私に委ねることもない。

彼女には自由に生きてほしい。健やかに生きてほしい。


妹羨 姫歌の過去をやり直す。


というのが私の計画。私のことはどうでもいい、でも、私のせいで彼女は壊れた。

何言わぬ人形になった。

この世界へ来て、私は原河 咲と仲良くなるよう彼女に言った。原河 咲と一緒に居る時の彼女は笑っていた。無邪気に笑っているように見えた。

でも……それは幻だったんだろう、私が声をかけると、笑顔はなくなり、人形になってしまう。

私が、彼女を壊した。

だから、私が彼女にやりたいこと――いや、違う。これは贖罪だ。それを可能にしてくれたのは、このファリクサー――いや、ブラックボックスだ。

分岐点を定める者と言われている、禁忌の力。

この力があれば、過去に戻れる、いくつかの分岐点の中にきっと戻れる。

なにせ、私が彼女と出会ったことにより、地球の存亡という名の分岐点が生まれている。ブラックボックスにはこの騒動の中心人物たちの過去が刻み込まれているはずだ。

フィアーズ・コード・因子集積所を地球にぶつけ、宇宙誕生を意味する――ビッグバンを起こす。そのエネルギーで私と妹羨 姫歌は過去に戻る。

そして……彼女を私に会わなかった過去に連れて行く……。

どれも賭けだ。

私たちは過去に戻った際にどうなるのか?

別の未来が生まれるだけじゃないのか?

それに本当に過去に戻れるのか――本当にすべてが、賭け。

しかし、ここまで賭けを進めてきた……だから、私はこの賭けも成功させなければならない。

そうでないと私に関わったばかりに不幸になった彼女が可哀そうだ……私が彼女の人生を狂わせたのだから、始末はつける。

それにしても、どうして私は甲長 輝に私の生きた証なんかを聞かせたんだ。相手が何を聞いても、私の痛みは分からないというのに。

コックピットから五月蠅い警報音が鳴り響いた。

私は思案をやめて、コックピットから外の様子を見渡す。

あれは……フォクサー――原河 京朗か?

フォクサーが合流したら厄介だ。

動くなら、いましかない。


……


フォクサーがアルティメットヴァリアスに接触するまであと1km

「――」

フォクサーがくるのは咲が輝に言ったので聞いていたが、フォクサーが来たタイミングは最悪に近かった。

満身創痍で戦っているところに、ある程度損傷は受けているがまだ戦えるフォクサーが現れたのだ。

チャンスが来たものと思い、隙は生まれる。


ブラックアルティメットヴァリアスがアルティメットヴァリアスに向かって真っすぐ突っ込んできた。右手には100mほどの黒い剣が輝いている。


フォクサーに意識が向いていたため、アルティメットヴァリアスの反応が遅れる。

狙うは胴体のさらに下の腹あたり、そこがコックピットだ。

接触。

黒い剣を水平にし、横に一閃。

反応が遅れたとはいえ、アルティメットヴァリアスはその攻撃を予測していたように下降して避けた。

ブラックアルティメットヴァリアスの剣は空を無残に空振る。

「くっ!」

沙川 魅穂は明らかに焦っていた。

避けられた?

予測されていた?

もしかしたら私は誘われたのではないか――。

思考の前に動かねば――。

「っ……」

ブラックアルティメットヴァリアスに衝撃が襲いかかる。

フォクサーが突撃してきたのだ。


……


「京朗さん!いきます!」

「了解した!」

アルティメットヴァリアスの

目前でブラックアルティメットヴァリアスとフォクサーが激突。

沙川 魅穂が誘いにのるか、のらないかは賭けだった。

原河 京朗と甲長 輝は予め、通信にて作戦の手順を話し合い、その場で作戦を決めた。

まず、アルティメットヴァリアスとフォクサーが接触すると思わせる。これ以上、沙川 魅穂は相手の戦力を増やしたくないだろう。

それに、いまのアルティメットヴァリアスはフィアーズ・ソードをもっておらず、丸腰だ。

確実にいまなら隙がある、と攻撃してくるだろう。

その時点で沙川 魅穂が誘いにのれば賭けは成功。

この作戦通り、賭けは成功した。

ブラックアルティメットヴァリアスは体勢を崩し、落下していく。フォクサーは損傷したスラスターをものともせず、体勢をすぐに立て直して、ブラックアルティメットヴァリアスにさらに追い打ちをかけた。

ブラックアルティメットヴァリアスは落下しながらも、黒い剣をなんとか正面に向けた。

このままでは、フォクサーに直撃する。


「至宝チェンジ!フォクサー!」


京朗の声がコックピット内で反響する。

声とともに、フォクサーが変形。

両足の裏と裏がくっつき、頭部が背中に周り、手が肘から二つに折られ、わきに沿われるようになる。

見た目は剣の柄と言ったところだろう。

続いて、輝、咲、なえか、京朗が次々と所持しているウェポンボックスの名をあげる。

「スパイラルユニコーン!ガトリングバイパー!」

「ドラゴンブリザード!」

「ドリルウィンドウレオ!」

「「「「フェニックス・ノヴァ!アルテマボックス!ウェポンコネクト!」」」」

スパイラルユニコーン、ガトリングバイパー、ドラゴンブリザード、ドリルウィンドウレオ、フェニックス・ノヴァ。

すべてのウェポンボックスがフォクサーに合わさり、アルテマボックスと称される、究極のウェポンボックスが誕生する。

柄上のフォクサーに透き通るように翠に輝く剣が生まれる。

この剣の名は、インフィニット・フィアーズ・ソード。

インフィニット・フィアーズ・ソードは背部にあるスラスターで加速し、ブラックアルティメットヴァリアスの黒い剣と接触する。

硬いものを削り取っているような音が辺りに響き渡る。

インフィニット・フィアーズ・ソードはさらにスラスターを吹かし、ブラックアルティメットヴァリアスの黒い剣を砕いている。

残るは50

m程度。

そこに、アルティメットヴァリアスが上空からブラックアルティメットヴァリアスに迫る。

ブラックアルティメットヴァリアスは黒い剣を差し向けようにも、インフィニット・フィアーズ・ソードに邪魔されて動かない。

アルティメットヴァリアスがさらに迫り、インフィニット・フィアーズ・ソードの柄をもつ。

さらにインフィニット・フィアーズ・ソードを黒い剣に押しつける。

あと30m。

ブラックアルティメットヴァリアスは落下の衝撃も相まって、動けない。

黒い剣の刀身が砕け、残るは柄のみだが、柄は刀身が破壊された時点で自壊した。

「うおぉぉぉ!」

輝の声とともに、インフィニット・フィアーズ・ソードが振られ、ブラックアルティメットヴァリアスの右腕が胴体との付け根から切断される。


アルティメットヴァリアスは大地を抉り、滑るように着地――とは足がないのでいかず、大地に激突。インフィニット・フィアーズ・ソードは自壊し、フォクサーはもう動けない。

ブラックアルティメットヴァリアスは四股を失い、大地に衝撃を立てて激突した。

砂が舞いあがり、周囲が飲み込まれる。

「はぁ……はぁ……」

砂が荒れ狂うなか、沙川 魅穂は甲長 輝に通信を繋げる。

「……どうして、殺さなかったっ……」

「……殺す必要なんて、ないから……俺は、助けると言ったはずだ」

「そう……だな。しかし、月は落ちてくるぞ?どちらにせよ――」

「月も、止める。俺たちは諦めない」

「……そう、か……」

「……はい」

アルティメットヴァリアスは、飛び立つ。

宇宙へ、黒い月へ、虚空の空へ。


……


虚無。それが一番似合うであろう、人間の人智を超えた広大な広さをもつ宇宙。その片隅で、地球と黒い月は激突しようとしていた。

地球と黒い月は互いに重力で引かれ合っており、すでに黒い月は落下コースに入っていた。

このまま落下すれば、黒い月に集積された、フィアーズ・コード・因子もろとも、月と地球はぶつかり、星々が生まれるような衝撃が宇宙の片隅で起こる。

黒い月が激突すれば必然的に人は死に、地球と黒い月は爆発する。

その危機を回避すべく、アルティメットヴァリアスは黒い月へと進路をとっていた。

アルティメットヴァリアスは頭部、胴体、右腕、背部スラスターだけが生きている状態で、左腕は根元からごっそりなく、脚部は左右どちらも膝から下がない。

そのせいか、軌道が安定しておらず、左にずれたり、右にずれたりしている。

頭部、胴体、右腕、背部スラスターは生きているといっても、完全ではない、多少マシというだけである。

力という力は、沙川 魅穂との戦いですべて出しきったあとなのだ、仕方ないだろう。

このままでは黒い月を止めるどころではなく、黒い月に張りついた時点で自壊する可能性がある。それほど、蓄積されたダメージによる限界が近いのだ。

黒い月との接触まであと5分。

その頃、月へと軌道を向けるアルティメットヴァリアスのコックピット内では、輝や咲やなえかが話し合っていた。

「輝くん、どうやって止める?あれだけ大きいものなら押し返すなんて無理だし……インフィニット・フィアーズ・ソードもフォクサーが動かなくなったから無理だよ?」

「わかってる……」

「輝、あんた本当は何も考えてなかったでしょ」

なえかが、呆れたように言った。

「うっ……いや、まぁ、な」

「て、輝くん!?何も考えてなかったの!?どうするの?」

「方法は……ある」

咲となえかはシンクロして発した。

「「なにかあるの!」」

「月を押し返す……方法は、それしかない」

「……でも、押し返したりなんて……」

「ううん、なえかさん。押し返せる可能性は0じゃないと思う……黒い月はフィアーズ・コード・因子がありふれてるから、0じゃない。みんなと助かりたいと思ってるし、誰かを思いやってる気持ちが集まってる。……でも、それでも限りなく0の可能性だけど」

「ふぅ……そっか。なら、いこう。0じゃないなら、やるしかないし」

「咲、なえか……わかった。押し返そう、あの黒い月を!」

「「うん!」」

アルティメットヴァリアスは不安定な軌道を描きながらも、黒い月に到着。このままでは、いずれ大気圏に突入するだろう。

地球と黒い月に挟まれる形になりながら、アルティメットヴァリアスは黒い月にとりついた。

スラスターを最大に吹かせ、残っている右腕を黒い月に抉りこませる。

コックピットは激しい揺れと衝撃が途切れることなく襲い、機体内部の軋みも伝わってきている。

アルティメットヴァリアスは、装甲がはげ始めた。いずれ、すべてが悲鳴をあげて自壊するであろう、その時を告げるように機体が軋み、悲鳴をあげていた。

アルティメットヴァリアスが自壊し、宇宙の散りとなり、地球が消えるか――それとも、限りなく0に近い可能性で黒い月を押し返すか。

その運命を知るものはいない。


……


「ふっ……始まった、か……」

私――沙川 魅穂の目には、アルティメットヴァリアスと思しきブースターの噴出が見えていた。

きっと、甲長 輝たちはあの黒い月を押し返そうとしているのだろう。

彼らのやっていることは無駄なことだ……フィアーズ・コード・因子の力を利用しても、とても押し返せるとは思えない。

それに、絆の力、などでは動くわけがない。そんな、生ぬるい力で……動くわけがない。

その時、ブラックアルティメットヴァリアスの膝小僧辺りにあるコックピットにいる、姫歌から通信が繋がった。

「どう、致しますか?」

「なにもしない。みている、だけだ」

「なら、私は……止めてこようと思います」

「なに……?」

私は姫歌からでた言葉に驚いた。目の前が真っ暗になったと言ってもいいくらいに。

なぜ、姫歌は私たちの計画を止めようとしているんだ?

なぜ、姫歌は自分の意思でちゃんと喋っているんだ?これまで多少の意思はあったものの、それはすべて憎いという言葉とかではなかったか?

なぜ、姫歌は――。

「もう、やめましょう……」

「な、なぜそういう!私たちは健全に生きて、健全に死にたいんだろう!誰を犠牲にしてもそうすると言ったのではないのか!」

そこで、姫歌の口調が変わった。

優しく、語りかけてくるようで、透き通った声。

以前――心を壊される前の姫歌だ。

「そう、だね。でもね、私が行きたい過去は、私だけの過去じゃない……私は魅穂ちゃんがいないと嫌……」

その言葉は、私の心臓を貫いた。

いままで、姫歌には嘘をついていた。2人で一緒に生きようと、辛い過去を塗り替えようと――実際は、戻ったあとは私から姫歌を遠ざけようとしていた。

姫歌はそれに気づいたのだ。

私は震える声を押し殺して、言った。

「大丈夫。姫歌を1人になんかしない――」

「違う!魅穂は……私を遠ざけようとしてたんでしょう?魅穂がいなければ、出会わなければ、私が不幸にならなかったと……」

「……ち、がう……」

「違わないわ、魅穂は……なんでも抱えてしまう人だから。私が、わからないと思った?私には、魅穂がいない過去や未来に興味はないの」

「……でも、それでは、姫歌が……不幸に……」

「誰が、不幸と言ったの?私は確かに憎んでると言ったわ。でも、憎んでるといっても、不幸とは言ってない……私は、魅穂と一緒に笑いたい。一緒に、いたい。その一心でこの計画を……ごめんね、言えなくて……」

その言葉を聴いた瞬間、蛇口をひねったように、涙があとからあとからあふれでてきて、止まらなくなった。

姫歌はきっと苦しかったんだと思う。彼女の中にも、人を憎む感情があった。

しかし、きっと原河 咲たちとの出会いで変わったんだろう。

それをいままで、怖くて、言えなかったんだろう。

「っ……くっぁ……」

「ねぇ、魅穂。止めにいこう?私たちのやったことに、けじめをつけるために」

「っ……あ、あぁぁぁ……くっうぅぅぅっ……わか……った」

いま、私の顔を見ている姫歌は笑っている。私は不格好に涙を流し、顔がぐしゃぐしゃになっているんだろう。

それに構わず、私はブラックアルティメットヴァリアスの飛翔システムを最大にまで加速させた。

急にGが襲いかかる。

それでも、涙はとめどなくあふれでて……止まる気配がない。

私たちはどちらのことも思っていた。

しかし、私は姫歌と一緒の未来は歩けないと思っていた。

なにせ、私が巻き込んだんだから。

でも、それは違った。

姫歌は私と一緒に笑いたいと言った。

私といて、不幸ではないと言った。

それなら、私も姫歌と笑う未来を取りたい、選びたい。

甲長 輝たちはまだやり直せると言った……だから、いまからでもできるなら……しかし、私はまだ、人を憎むのをやめていない。

私と姫歌の間に絆はある。しかし、人が人をちゃんと思いやるなんてことは――やはり、信じられない。

でも、それにはまず、私がいま引き起こした現象にけじめをつけなくてはいけない。

姫歌と一緒に。


……


「くっ……」

身体が揺さぶられる。姿勢を保ってられない。

「輝!大丈夫……!?」

ふと、なえかの声が聞こえた。通信は未だに繋がっているようだ。

「大丈夫、だ!咲は?」

「だい、じょうぶっ」

みんな、大丈夫と言っているけど、きっと……心の奥では不安なんだろう。それが、伝わってくる。

その不安の中に――人間が感じるものとは別な感情が、俺に流れ込んできた。


"決めかねている"


一言で言うなら、そういう感情。

一体、誰の感情だろうか。人の感情じゃない……もっと無機質で、透き通るようで純粋な感情。

人間ではない感情が俺を抜けていくと同時に、アルティメットヴァリスがある種の悲鳴をあげた気がした。

俺が、人ではない、人ならざる感情の根源の手掛かりを掴みかけた時――地球側から、何かが近づいてきた。

頭部をしたに向け、確かめる。

ブラックアルティメットヴァリアスだ。頭部と胴体しか残っていないのに……何をする気なんだ?

「輝くん、ブラックアルティメットヴァリアスが……!」

「わかってる!沙川さん!何をしているんだ!」

「……」

沙川さんは聴こえてるだろうに、無視してこちらに近づく。

ブラックアルティメットヴァリアスが、アルティメットヴァリアスの隣に突撃した。

黒い月に頭部がめり込む。さらに進むように、殆ど生きていないであろう、スラスターを吹かす。

「……何をやってる

んだ!沙川さん!」

「……けじめだ」

沙川さんの声は少し震えている。

「けじめ……?」

「そうだ。私が引き起こした。この現象にけじめをつける。でも、私はまだ絆なんて言葉を信じたわけじゃな――」

沙川さんの声に重なるように、もう1つ声が聴こえた。

「ごめんなさい。魅穂は照れ屋なの」

「その声は……妹羨さん?」

「はい。甲長 輝さん。私たちはこの計画に対するけじめとして、黒い月をどうにかするつもりです」

「……なにか、方法があるのか!?」

少し荒げたような声になる。

妹羨さんに変わって沙川さんの声が聴こえた。

「ブラックアルティメットヴァリアスを黒い月の中核にある、フィアーズ・コード・因子集積所にぶつける……そうすれば、爆発が起きるはずだ……」

「……ようは……特攻、か?」

「そうだ。その方法しかない」

「……そんなものを認められるわけがないっ!俺は誰も犠牲にする気もない!」

「甘ったれたことを言うな!これは私たちのけじめだ!お前たちは今すぐここから離れろ!」

回線に、咲となえかが割って入ってくる。

「そんなことできないよ!沙川さん!輝くんの言った通り、誰を犠牲にするつもりもない!」

「沙川さん!輝や咲の言った通り、私たちは誰を犠牲にもしない、私たちも犠牲になるつもりはない!」

「……それが、甘ったれた考えだと言うんだ!絆?そんな不確定なものが何になる……!この方法しか、お前たちが助かる方法はない!」

「……俺はそんな方法認められない。そんな方法、認めるわけにはいかない……!」


その時、また誰かが回線に入って来た。


『その通りだ!』


不特定多数の声。

これはファクロトアスからの通信だ。

「クロトアス……?」

「はい、隊長。私を介して地球にいる人の声を届けています」

「……っありがとう」

「凄い声……」

「いっぱいだね……」

色々な人が呼び掛けてきている。

みんな、人を思いやってそれで生きたいと言っている声が、俺の心臓を貫くように言ってくる。

気のせいか――アルティメットヴァリアスから断続的に悲鳴があがっていたのが、消えた気がした。

同時に、人を思いやる気持ちが俺の心を満たしていく。

「暖かいね、輝くん」

「ああ、暖かい……」

「あったかい……」

「この気持ちは、無駄にできないな……」

「うん。そうだね」

瞬間、アルティメットヴァリアスのスラスター出力が上がった。

今までとは比べ物にないくらい。速度がでる。

「うおぉぉぉぉぉ!」

アルティメットヴァリアスの右手が、さらに抉りこむ。

黒い月はやっぱり押し返せない。まだ、力が足りない。

フィアーズ・コード・因子が近くにあるお陰で、きっとこれだけの力がだせている。

でも、ちゃんとした力を発揮するのに、まだ足りてないものがある。

俺は、それに呼びかける。

「ファリクサー――いや、ブラックボックス……、聴こえるだろう!俺たちに、力を貸してくれ……!」

「て、輝くん?」

「輝!?」

咲となえかの声は耳に入らない、ただ呼びかけることを続ける。

「お前はあるものには禁忌の力、人が手にするのは許されない力、人を傲慢にさせる力、悪魔の力。人の希望の力、人の絆の力、人の心の力、人の可能性の力と呼ばれていたはずだ……!"分岐点を定める者"とも呼ばれていた!

 お前が、分岐点を定める者というなら、ここで地球を終わらせないでくれ!お前は俺と一緒に人の絆を見てきたはずだ!何かを感じたはずだ!お前に意思があるなら、ここで人の歴史を終わらせないでくれ!俺たちはまだ、ここで終わるわけにはいかない!

 まだ、人との絆を繋いで、生きたい!だから、頼む!力を貸してくれ――!」

俺が力を込めて叫んだ直後。

それは起こった。

アルティメットヴァリアスを振動が襲ったかと思ったら、黒い月のフィアーズ・コード・因子集積所に蓄積されていたのであろう、地球全土のフィアーズ・コード・因子がアルティメットヴァリアス――いや、ブラックボックスに流れてきた。


……


ブラックアルティメットヴァリアスをさらに月面にめり込ませた瞬間、それは起こった。

フィアーズ・コード・因子集積所にある、フィアーズ・コード・因子が、アルティメットヴァリアスに流れだしたのだ。

アルティメットヴァリアスから、透き通らんばかりの翠色の粒子が発せられ、ボロボロだったアルティメットヴァリアスの装甲や間接や左腕や脚部が元からそこにあったように、現れた。

アルティメットヴァリアスは、左腕を黒い月に抉らせ、スラスターをさらに吹かした。

瞬間――ブラックアルティメットヴァリアスは私の制御を離れて、翠の粒子に先導されるように、黒い月から離れた。

翠の粒子は、ブラックアルティメットヴァリアスを包み込むように動いており、黒い月とアルティメットヴァリアスが丸ごと見える区域まで、動かした。

翠の粒子が、コックピット内部に入ってくる。

それに、触れる。

「これは……とても、暖かい……」

触れた瞬間、世界が変わったように心が満たされた。

様々な人の思いが伝わってくる。表面上だけではわからない、心。

それが、粒子を通じて伝わってくる。

私の言葉に、姫歌も同意してくる。

「そうだね。とっても暖かい……ね。魅穂、人が人を思いやる気持ち、絆っていうのは……信じられるかもしれないね」

「……ああ、私の憎しみは消えてないが……でも、この気持ちは、信じられるかもしれない……」

暖かくて、気持ちいい、すべてを委ねてしまいそうになる。

アルティメットヴァリアスは、さらにスラスターの出力が上がったのか、黒い月を押し返し始めているようだった。

翠の粒子が、黒い月を包み込む。

甲長 輝たちの紡いできた結果が、いまここに表れているように思える。

人は醜いながらも、他者を思いやる気持ちをもっている。

私の頬には、自然と涙があふれでていた。

昔のことが脳裏で反復するように思いだされる。

私が生まれた時は……父も母も喜んでいたっけ……周りの人も。あれが変わったのはいつ頃だっただろう。

みんなが、悪魔のように見え始めたのは、いつだっただろう。

慣れない環境での変化は、人を無残に変えていく。私と姫歌の過去は、悲劇に彩られてはいるけれど、こんなものを見せられたら人に絆はあると信じられるようになってしまう。

私と姫歌は、黒い月を押し返すアルティメットヴァリアス――そして、それを手助けするように動く翠の粒子――フィアーズ・コード・因子を暖かい気持ちに包まれながら、ずっと見つめていた。

ずっと。

ずっと――。


……


「ふぅ……よし。準備は完了か」

私の目の前には、黒い装甲から紅い装甲に変化したファリクサーが垂直に立っていた。

あの翠の粒子に触れた時に――いや、私の心が憎しみに彩られなくなった瞬間、ファリクサーは黒い装甲から甲長 輝のファリクサーのように、紅に装甲を変えた。

私の計画から約半年。

地球は一時期混乱したものの、甲長 輝やメリキウスたちの協力があって、私はいまここにいる。

今日は、聖龍高校の卒業式当日の早朝6時。出会いと別れの季節である、春。

「魅穂」

私を呼ぶ声がして、後ろを振り向いた。

「姫歌――と、うん?」

振り向いた私の目前には、甲長 輝、原河 咲、宮木 なえか、原河 京朗、人間サイズのメリキウス、姫歌がいた。

「……ごめんね、魅穂。知られちゃった……」

「なっ……」

「誰にも言わずに行くなんて、薄情ですよ。沙川さん」

「甲長 輝……」

私と姫歌は今日、元の世界に帰る日なのだ。

ブラックボックスのエネルギー充電期間と元の世界の座標特定をやっていたら、ちょうど卒業式の日が、元の世界に戻る日になっていた。

「魅穂も、ちゃんと挨拶して帰りたいでしょ?なら、やっぱりこの人たちには来てもらいたいなって思って、怒った?」

「……いや、ありがとう。姫歌……」

甲長 輝が、一歩私に近づく。

「沙川さん、俺にはこれしか言えませんが、頑張ってください。それとこれを」

そういって、甲長 輝が差し出したのは、包みに包まれた長方形体の薄っぺらいもの。それを受け取る。

「ああ……ありがとう。そっちも……頑張ってくれ」

「えぇ……」

そうだな……いっそ帰るんなら、火種でも撒いておこう。

原河 咲と宮木 なえかにこっちにこいこいと言う。

「どうしたの?沙川さん」

「……?]

原河 咲は笑顔でこちらに寄って来たのに、宮木 なえかだけは訝しげにこちらに寄ってきた。

「いや、なに。1つ言っておこうと思ってな。甲長 輝のことについてだ」

「? なに?」

「なになに?」

原河 咲と宮木 なえかは、こちらに身を乗り出してくるように前のめりになった。後ろの甲長 輝は不思議そうに顔を傾げている。

「いやな、甲長 輝の恋愛感情についてだが……きっと、もう戻っていると思うぞ。フィアーズ・コード・因子は消えているんだろう?それに半年も経っているんだ。失った感情はすでに戻っているはずだ」

「えっ……!?」

「ど、どういうこと?」

「甲長 輝はな、色々言っても、失うのが怖いんだ。一度、お前たちのうちどちらも会えない状況まで言っているんだからな。だから、いま一歩踏み出せずに――」

話を続けようと思ったところで、原河 咲と宮木 なえかは甲長 輝に寄っていった。

甲長 輝は、会話を聴いているうちに逃げた。それを、原河 咲と宮木 なえかは追い掛け始めた。

ふぅ……世話のやける奴らだ。まぁ、私はどちらとくっつこうが構わんが」

「ふふ、魅穂。何言ったの?」

透き通るような声で、私に姫歌が話してくる。

「なに……あいつらもどっちかとくっつくべきだと思ってな」

「……意地悪だね。でも……まぁ、私は咲お姉さまと付き合ってほしいかな」

「……そうか、なら私は宮木 なえかとくっつくということで賭けよう」

「どっちが勝つかな」

「そうだな……」

騒ぎを傍観していた、原河 京朗とメリキウスが近づいてくる。

「原河 京朗……メリキウス。これぐらいしか機会がないだろうから言っておく。ありがとう」

「……そうか。しかし気にする必要はない。これは、すべてメリキウスがやってきたことなんだからな」

「我は罪滅ぼしを行ってきた……。お前も、そうしたいのなら、それを我は手伝っただけだ。あちらの世界での我に出会ったら、絆の大切さを教えてやってほしい」

「わかった。これまで、本当にありがとう」

「魅穂、そろそろ行く?」

「ああ、そうだな」

「輝たちにはちゃんと分かれを言っていかないのか?」

「私は、どれだけ時間がかかろうと、私の世界でのフィアーズ族を見つけて、再びここに戻ってくるつもりなのでな……」

「わかった。輝たちにはそう伝えておく」

「……ありがとう」

そういって、私と姫歌はファリクサーのコックピットに上った。

ファリクサーのコックピットは元来1人だけが吸われるのだけど、私の計画でフェクサーとフィクサーは大破したので、ファリクサーを複座式にして、姫歌と乗るようにFDAが修理、改修をしてくれた。

私と姫歌はコックピットに座る。

「そういえば、その包んであるのはなに?」

「ん、ああ。開けてみよう」

包みを丁寧にとる。すると、長方形の色紙のようなものが現れた。

また、そこで私は涙がでそうになった。

その色紙は、クラスからの送りものとでもいうのだろうか、転校生に送るようなものが沢山書きつづられていた。

帰ってこいだの、また会おうだの……。

私は、いままでやってもらえなかった分、人にこうやって優しくされるのに弱いのかもしれない。

前にいた、姫歌ものりだしてそれを見た。

そして、笑った。

「よかったね。魅穂」

「ああ……あ……あ……」

「……」

微笑みを浮かべたまま、ファリクサーを姫歌が操縦する。

飛翔システムを起動。

各関節、動力系OK。

そのまま、飛翔した。

「あり……がとう」

私は今日何度目かわからない、お礼を告げて。


……


「こら、輝ー!」

「待って!輝くん!」

ふと、音がして、上を見上げる。沙川さんのファリクサーが上空に上っていた。

「……」

俺はそれに見とれるように身体を向けていた。

「……行っちゃったね」

咲が、先ほどまでの勢いはどうしたのか、暗い雰囲気になっていた。

「ああ……」

「戻って、来てくれるかな」

「戻ってくるさ……」

俺と咲――それに地球全土の人間は黒い月を転送――つまり、沙川さんの世界に送り返した代償に、フィアーズ・コード・因子を失った。

きっとブラックボックスがそうしたんだろう。もう、俺たちには必要ない力なんだ。フィアーズ・コード・因子は。

俺と咲は人の心を読めることはなくなり、俺の身体の大部分を構成していたはずのフィアーズ・コード・因子もなくなり、元の身体に戻った。

フィアーズ・コード・因子がない世界でも、俺たちは変わらず生きている。テレビとかでは、多少物騒なことがささやかれるようになったけど、京朗さんやメリキウスが活動しているお陰で、それも集束に向かっている。

これの、騒がしい世界が元の姿なのかもしれない、フィアーズ・コード・因子がない世界なんのかもしれないと思う。

これまでが、フィアーズ・コード・因子に頼り過ぎていた。そう考えるのが普通だろう。

ストレスは分解されなくなったが、これでいいんだ、人は生きてる限りストレスを抱える、それが自然なんだから……これでいい。

見つめていた上空では、ファリクサーが光に包まれ、そして眩いばかりの光が拡散し、消えた。

「……本当に行っちゃった……でも、まぁいいのかな」

「ああ、彼女たちは彼女たちの成すべきことをしにいったんだ。それより、いまの時間は?」

なえかが、携帯を開いて時間を確認する。

「うーんと……あっ!?やばい!時間ないよ!」

「何時だよ!」

「8時……」

「なっ……咲、なえか!走るぞ!」

「うん!」

「了解!」

俺たちは走りだす。

今日は俺たちの卒業式。

卒業式後の予定というと、俺と咲となえかはFDAに就職。もとから、ファリクサーに乗っていたから別に就職というわけでもない気がするけど、事務的仕事があるという意味では責任が増えたということだ。

他の陽樹や志乃や冬たちはというと、陽樹と豊は沙川さんの計画の際に吊り橋効果――つまり危険な目にあった男女は恋におちいるという状況になっていて、陽樹と豊は付き合っている。

もとから陽樹も豊に対する恋というか、それに類似する感情はあっただろうし、吊り橋効果という感じではない気がするんだが……まぁ、2人は晴れて社会人になってしばらくは共働きをして、安いマンションに住むということだった。

志乃は相変わらずどこにいくか聴けていない。でも、きっと呼べばすぐ来るんだろう。アイツが野たれ死ぬところは想像できない。

次に冬は、大学に進学した。今回はちゃんと卒業できたため家族たちもホッと胸を降ろしたらしい。

日々之さんは、このまま聖龍高校に勤めながらも、FDAにちょくちょく顔をだす、とは言っていた。きっと先生がやりたかった職業なんだと思う。

京朗さんやメリキウスやエスやエムは各地を飛び回って物騒な……戦争などが起きないように活動している。

みんなが、それぞれ別の道を歩みだしている。

フィアーズ・コード・因子という抽象的でありながら、絆を象徴しているものは消えたけれど、人との縁や絆は繋がっている。

俺はこれからも色々な人と出会い、縁を作り縁を深めて絆にしていく……そうやって生きていきたい。

何があっても、俺は人との絆を大切にしてこの先も歩く。

そう、何があっても――人との出会いを絆にしていく。


機甲ファリクサーF オワリ

これにて機甲ファリクサーシリーズは完結となります。

これの後日談を書いたりしようかな、とは少し思うのですが余裕があったりしたら、ですね。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。感想などをもらえるとありがたいです

最初に完結させた小説で、最初と最後では本当に文字の文章が違う……はずです

今最初を作り直したらもっと別のものになりそうですね


それでは、ここまで読んで頂き本当にありがとうございました!

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