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第六学園「えっとね……――しちゃった~」

第六学園「えっとね……――しちゃった~」



朝いつもの通学路を歩く。

春、それは四つの季節では俺がとっても好きな季節でもあった。

何にも束縛されない。悪く言えばどっちつかずの状態。でも、ポカポカと温かい。

俺が春好きなのはこれくらいにしておいて。

俺のことはどうでもいいとして……隣では咲が歩いている。

ショートカットの見事な輝きを放つ黒髪。そして歩くたびに少しフワっと上がるスカート。

学園のアイドルと言われるのはなんとなくわかるような光景だ。

それにしても……回りで歩いている奴がとてもトゲトゲとした視線を送ってきている。


アルクェル帝国との戦いから、六ヶ月後。このキツイ視線とは早くおさらばしたい。まぁ無理なんだろうけど。

俺達の春休みは……無事とは言えない感じで終わりを告げていた。

咲、なえか、俺の誕生日があり、少し穏やかな感じではなかったものの、充実していた日々。

そしてこれから――。

「おはよー輝」

「ん、なえか。おはよう」

「おはよう。なえかさん」

後ろから声をかけてきたのは艶やかな黒い髪をツインテールにして揺らしている。

宮木なえか。俺の幼馴染だ。

なえかと歩く時も少しトゲトゲとした視線を送られてたっけ……。

「相変わらずラブラブ登校……」

「いや、そこで会っただけだぞ……?」

「ふーん。まぁいいけどね!今日から三年生だよ……憂鬱」

「憂鬱って……一応目標はあるんだろう?」

「うん。輝と咲もちゃんとあるんだよね」

「ああ」

「うん」

「いっせーのーで!」

「「「FDAに就職」」」

「皆一緒か……なえかもその道だったんだな」

「うん、そうだよ。私は……これからもずっとこんな日が続いたらいいなぁって思ってるからね」

「それは皆も同じだろう?」

なえかは笑いながら「そうだね!ずっと守っていこう」と言って早々に歩きだした。

「輝くん。急ごう?」

咲が手を引いて、なえかに追いつくように走りだした。

今日から三年生か……頑張ろう。

「はっやくー早くー」

なえかは先に行ったのかと思いきや、少し離れた所で手を振っていた。

ふとその手が止まったかと思うと近づいてきて、咲が握っていない、左手を持って引っ張りだした。

「ほら!早くいかないと遅刻遅刻!」

「ふふ、そうだね。遅刻しちゃうね」

「え、ちょ。おい!」

俺の手を導きながら咲となえかは走りだしていた。

回りの視線がさらに痛い。

これからはいつ解放されるんだ。

これが日常だったんだから全然悪くは……ないんだけどな。

……

「学校到着!早くクラス見に行こっ」

「はぁ……はぁ。少し休ませてくれ……」

「だらしないなぁ輝は。運動しなきゃダメだよ」

「うんうん」

「お前たちが……全力疾走で走ったりするからだろ……」

「はいはい、とりあえずいくいく」

「いこうよ、輝くん」

二人に促されるように、俺はまた走りだした。まだ二人は手を握っている。

人の目につくからやめてほしい。いや、人がいるところでもイイってことじゃないんだけど。

二人の手は汗ばんでいて、少し期待と不安が入り混じったような感じだった。

「ふぅ、ふぅ。とう、ちゃく~」

「はぁ、はぁ……。さすがに疲れるね……」

なんでこんなに走ってそんな感想がでてくるんだ。まぁそれはいいとして。

「クラスはっと……俺は、三組か」

「ん~何処かなぁ、私の名前」

「あ、私はあったよ。三組。輝くん。また宜しくね」

「ああ。宜しく……。で、なえかはなんでそんなにキョロキョロしてるんだ?」

キョロキョロ三年のクラス表がある所を一周したかと思ったら次は二年を見ている。

回りからは少し不思議に思われるほどの態度だ。

何してるんだ?なえかは。

そしてまた見て回る。

それを数回繰り返している。

あ、また回ろうとして……何やってんだ。

「お、輝じゃん。おはよう」

「甲長、ハロー」

「おはよう。甲長くん」

志乃の挨拶はスルーして、三人に向かいあって挨拶する。

「陽樹、志乃、豊。おはよう」

「甲長、宮木は何をやっている?」

「ああ……何かずっとああしているんだよ。あ、頭抱えて唸りだしたぞ……」

「不思議な行動だな」

「輝くん、なえかさん戻ってきたよ」

「なえか、どうしたんだ?」

「ない……」

「何が」

「わたぁぁぁしの名前があぁぁないのぉぉぉぉ」

回りにはなえかの断末魔とも聞こえなくもない声が響いた。

「は……?」

「だぁがぁらぁ……ないの」

次は少し泣いているような声だ。

本気で。

「何処にも私の名前がないの!」

「どうして」

「知らないよ!」

「咲は何か知らないか?」

「うーん……。ごめん分からないや」

「だってさ、なえか」

「だってさ。じゃない!一大事よ」

「そうなのか……」

「あんまり興味なさそうねぇ、輝」

「いや、残念だなぁとは思うけど、二年であんだけやすんでりゃ……」

「二年にも名前がなかったのよ!」

「一年には?」

「甲長……降格というのは聞いたことがないぞ」

「この学校だぞ?あるかもしれない」

確かに。と豊も咲も陽樹も頷いていた。

「御困りのようだね……諸君!」

この声は……聞いた事のある声だった。

でもその声の主はいないはずだ。この学校にはもう。

俺が小学校の時に知り合い、小学校の時に何処かへ転校してまた戻ってきた女の子。

とても能天気というか天然に見えるけど、実はとても考えて動いているんじゃないか、と思わせる。

髪はサイドポニーでまとめており「咲に並ぶ学校のアイドルとも言われていた」女の子。

「冬――」

「ん?何かな。会長さんに何かようかな?輝くん」

「どうしてここにいるんだ?」

「うっ……」

「比良乃……さん?」

「うぐっ」

目に見えないはずの言葉が重く冬にのしかかっているように見えた。

「もしかして冬……お前……」

「えっとね……――しちゃった~」

その言葉に俺ばかりか、咲、なえか、志乃、陽樹、豊が固まる。

皆が顔を合わせてもう一度問う。

「「「「もう一度お願い致します」

「コホン。よく聞きなさ――」

手をグーに握り、コホンと可愛く咳をする。

そのようなモノに今俺達は何も感じなくて、唾を飲み込んで次の言葉を待っていた。

「――――――――」

「いや、そこまで溜めなくていいから」

「ざんねーん。うっ……わ、分かってるよん~――えっと……留年しちゃいました」

ごめんなさいとでも言うように頭を下げた冬。何故頭を下げるかはさておき。

「りゅ、りゅうねぇぇぇぇんぅぅぅぅ!?」

陽樹が体をのけ反って驚いていた。それぞれ回りのメンツも驚きを隠せないようだった。

野次馬というか、いつの間にか人が集まっていた。

事の次第を聞いていたのか、歓喜の声などが飛び交っていた。

そこの男子、これ喜んでいいのか。と頭の中で突っ込んでいた。

「いやぁ、お恥ずかしい」

「本当に恥ずかしいな、冬」

「うわぁん」

「いやいや、泣くな泣くな!」

「嘘だよっ」

「……ふぅ、教室いこうか」

「ま、待って!最近色々厳しいよっ輝くんはッ!」

「分かった。とりあえず。留年したんだな」

「うっ……もう少しオブラートに包んで頂けると嬉しいかなッ」

「やめとく」

「やめとくって何っ!?あ、いかないでっ」

「それで……何処なんだ?冬は」

「輝くんと同じ三組だよっ」

「そ、そうか」

心底うれしそうな顔をしている。なんでそんなに嬉しそうなんだか。

とりあえず、皆は時間がないから教室に急ごうとした時。

「あれ?そういえば私の……クラスは……?」

「あ……」

皆忘れていたのか、あ……というのが口からもれた。

「そ、そうだっなえかさんにはこれを届けにきたよっ」

「これは……?」

「そこに書いてある通りだよっ」

「宮木なえか。あなたは三年三組に入りなさいby日々之先生より」

日々之さん……自分で持ってこればいいのに……。

「と、とりあえずよかったな。なえか」

「う、うん。うん……」

何か涙を流しそうな勢いだからとりあえず急ぐように促す。

「うん!了解!」

なんで了解なんだ……と思いつつも、全員が教室に向けて歩きだした。

今年は去年より、騒がしくなりそうだ。

でも、それが楽しいと思う。

……

「到着ッ!」

「冬。ここは生徒会室だろう?なんでこんなところに移動しているんだ」

「やだなぁ、輝くん。今年の生徒会メンバーを決定するためっ!」

「は?」

みんな、目が点になる。

志乃が驚いた顔をしている。珍しいな……。

「はっ……そういえばこんな話を聞いたことがある?」

一番に復帰した豊がみんなに語りかける。

「なんだ……?」

「坂部。話してみてくれ」

自ら情報通だと言いきる志乃でさえ知らない情報らしい。

「あのね――今年から生徒会長が好きに生徒会役員を決めていいって噂。聞いたんだ」

「何。それは本当か坂部。もしそうならば俺は情報通という称号を返上しなければならない」

誰が情報通なんて称号を欲しがる。しかもいつ

そんな称号をもらったよ。

「そうだよん。今年からは生徒会長が役員を決めていい……つまり私のハーレ――コホン。そういうこと」

「何がそういうことだ!って……これは?」

俺は言いかけて目についたものに視線を固定させ聞いた。

その本は少し薄汚れている本だった。

表紙には可愛い女の子がプリントされている。

「それはね――」

「こ、これはぁぁぁぁぁぁぁ!」

「陽樹、いきなり大きい声をだすんじゃない!」

「これは!これは!アレだぜ!今再放送中の生徒会の会長の一存って奴の本だぞ!100年前のものだぞ!」

陽樹、冬、志乃以外のメンツがはぁ?という顔をする。

「100年?えらい数字が飛び出たな……」

陽樹の言葉に反応したのか、冬までもが大声をあげる。

「そうだよ!秋日助手くん!これは100年前に発売された本だよっ」

「比良乃先輩は何処でこれおぉぉぉぉ!」

「これわねえぇぇ!私の家に置いてあったのだー!」

「な、なんだってっー!?」

「いい加減その漫才やめとけよ……」

「うっせーな。輝。やっと調子が出てきた所なんだ」

「そうか……ならもういい……」

「なんだか輝が疲れてるね」

「そ、そうだね。なえかさん」

なえかと咲は知らんぷりといってもいいほど興味がないらしい。

そこで志乃の説明が入る。

「この本は……保存状態がいいな。見たものの中でもトップクラスだ。この生徒会の会長というのは100年前に流行って生徒会長は女の子で決定という法則を国に作らせたほどの権力を持っていたらしい。のちにアニメも製作され約三ヶ月放送された。今も根強い人気を持つアニメで今は80クール目がスタートしている作品で長寿アニメと呼ばれている。内容に関してはただの駄弁る作品だと思われがち

だが、最初期に放送された頃には感動されたらしい。そして現在はニヤニヤ動画という場所で配信されている。ちなみに教科書にも載っているはずだ」

「長い解説ありがとう。志乃……」

「何、礼には及ばん」

誰も説明を求めてたわけじゃあないけどな……。

まぁ、これが志乃だな。

きっと冬はこれに刺激されたに違いない。迷惑な本だ……。

「っとっと。ここに来た理由は御分かりですね?皆さん」

冬の言葉に全員がハモる。

「何が!?」

「ふぅ……やれやれ」

「なんでそんなに呆れられないといけない」

「とりあえず」

冬の顔が細まった。仕事モードに入った時の顔だ。

小学生の頃もリーダー的な位置にいた彼女だから、こういう時はちゃんと仕事モードに入る。

俺は少し身構える形になる。

「輝くん、副会長。原河さん、副会長。宮木さん、会計。雹尾くん、諜報員。坂部さん、書記。以上です」

「なんでいきなり命名されるんだ」

「あれ、聞いてなかったのん?会長さんがなんでも決めていいんだよ」

「俺達に拒否権はないのか」

当然のように次の言葉を放った。

「ないっ」

「いや、待て、輝!何か忘れてるだろう!」

「陽樹……ああ。なんで志乃が諜報員なんだ?」

「えっとねっなんとなくそんな感じなのと!他所に諜報員として潜って貰うこともあるから」

「ほう。いい度胸だ。遠慮なく使ってくれたまえ」

志乃がなんだか偉そうに現生徒会長。冬に言っていた。

「おおまぁぁぁえらぁぁぁぁ!」

「おお、前田?」

「誰だ!そいつわぁぁぁぁ!」

なえかのボケに対し陽樹がツッコンでいた。

それは放っておこう。

「俺だ!比良乃先輩!俺の名前がない!」

「あー……」

冬は本当に頭数に入れてなかったんだろう。真剣に頭を抱えて悩みだした。

そこまで悩むことか。

少しの静寂が訪れたものの、それは5分で打ち砕かれた。

「思いついたよっ秋日くんは、雑用係に決定だよっ!」

「ひゃっほう!……え?」

「だから パ・シ・リ」

「いっやああぁぁぁぁぁぁ!俺はギャルゲの主人公じゃねぇぞぉぉぉぉそのポジションは輝だろうっぅぅっぅぅぅぅ」

本当に大きい声をまきちらしながら、陽樹は生徒会室から出て言った。

とてもキモイ動きをしながら。

「ふぅ、一件落着だねっ」

「まぁ……いいや……。所でもう授業始まってるんだけど」

「それなら大丈夫。欠席にはなってないよ。根回し万全」

手でブイを作って冬は笑顔で答えた。

こういう所抜け目ないよな……。

生徒会か。まぁ、面白そうだな、と俺は思い始めた。

……

教室に入ると何故かクラスの男子に囲まれている女子がいた。

俺が止まっているのを進ませようとなえかはつついてきた。

「早く早く」

「わ、分かってる」

俺の目の前には……彼女がいた。

目があった。

その女の子は、長い髪を後ろでまとめてポニーテールと呼ばれているものを作っている。それが歩くたびに揺れる。

スタイルはとてもよく。出る所はでて、出ない所はでていない。

これだけならば、とても可愛らしく見えるだろう。

でも――。

「どけ。変態虫被れ」

いきなりそんなことを言われた、取り巻きの男子達は一目散に退散していく。

ヘビに睨まれたカエルのように固まっているのもいるけど。

「やぁ、青年のような少年のような少年のような青年のような青年のような少年」

「こ、こんにちは……」

「あれ、輝どうしたの?って……あ……」

なえかも思わず声をあげた。当然だ。

なえかは一回彼女を怒らせてしまい、とてつもない御仕置きをされたそうで。

そのことはなえかの中でももう忘れられているっと思っていたけれど。やっぱり忘れきれなかったみたいだ。

「おや、宮木たん」

たんって……この人は……。

「なんだ?青年。そのハァハァみたいな顔は」

「な、なんでもないです」

「ならいい。それで。君の後ろにいる方を紹介してくれないかね」

全員が慌てて自己紹介を始めた。

手早く済ませると最後に彼女は――。

「沙川 魅穂だ。宜しく。青年との慣れ染めを説明するとな――」

何も聞いてないのに語りだしたぞ。この人。

「保健室で、青年を癒してやったのだ」

「……」

「……」

なんで咲となえかは無言で近づいてくるんだ!?それに沙川さんは笑いを懸命にこらえているようだった。

相変わらずだ……。

「輝うぅ?」

「どういうことかなぁ?」

「どういうことかなぁ?」

なんでそこだけハモるんだよ!顔が近い!笑ってるのに怖い顔だ。

「ハハハ。嘘だよ。いい感じだったよ。青年」

ついには吹きだして、笑っていた。

とても楽しそうに。

でも……鬼だ。

「とりあえず、宜しく頼む」

全員が挨拶をした所で学校のチャイムが鳴った。

密度の濃い朝だった。

これから三年生。

一体どうなるんだろうな?前途多難だと思ったけど。

とても、楽しかった。


第六学園 オワリ


第七学園へ続く

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