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第二十二話 「レクイエム」

第二十二話 「レクイエム」


「あと……一日」

そう、気づいたらあと、残された時間は一日だった。

咲を助けられる期限。それがあと一日。

エスとエムが再び合流してから、六日後。俺はずっとファリクサーで咲を探していた。

きっと地上にいるはず、見つからない。

皆、総力をあげて探している。FDAも仮本部を設営し、ある程度は行動がとれるようになっていた。

六日間。ずっと探し回っていた。エスとエムも、でも見つからない。何処にいるのか見当もつかなかった。

俺は、熱がでそうなほど熱くなった頭を冷やす為に近辺にある、川辺に来ていた。

また、この場所だ。でも、一つ違っていた。そこには先客がいた。

「陽樹……何してるんだ?大変なんじゃないのか」

「……」

俺は陽樹の隣に座る。なんでこいつはずっと前を向いてるんだ?

不思議に思いながらも、さらに声をかける。

「陽樹?」

「ん、ああー!輝じゃないか」

コイツは何を言ってるんだ。

さっき声をかけただろう。

「何言ってるんだよ、さっき声かけただろ」

陽樹はキョトンとした顔をして、不思議そうに首を傾げた。

「おかしい、時々輝を輝だと思えない時がある……」

「っ……気のせいだろ……所で、こんな所で油売っててもいいのか?大変なんじゃないのか」

少し俯き加減になって言った。

俺を

認識できないつまり、俺の存在がブラックボックスに吸収されていて、俺が解らなくなっているということだ。

覚悟はしている。大丈夫だ。まだきっと――大丈夫だ。

俺はそのことを振り切ると、陽樹に向き直った。

「ああ、輝。大変だ、あーそら、もう大変だ。大変。色々建物は壊れてるし」

「すまん」

「何お前が謝ってんだよ。お前が悪いんじゃない。それで、お姫様は?」

なんで陽樹は咲のことを言う時にお姫様と言うようになったんだろう。

いつの間にか、陽樹が咲を表す時にはそう言っていた。

「いつも思うけど、なんで咲のことをお姫様って呼んでるんだ?」

陽樹は少し頭を手でくしゃっと掴むと「あー」と言ってから呟いた。

「いや、なんだろうな。いつの間にかそう呼ぶようになってら……些細なことだろ、そんなこと。それより俺の質問はどうした」

「あ……あぁ、咲は見つかってない。今日が期限だ。咲を助けられるかもしれない最後の日……だ」

「お前、まだ悩んでるな。いい加減悩むのやめろよ」

「……すまん」

俺は俯いたまま言った。

陽樹はその光景をマジマジと見てから叫んだ。

「だー!そう言う所がダメだ!お前はお姫様のことをどう思ってるんだ!」

「お前、それ今関係ないだろ……」

「いや、あるね、絶対あるね。うん、あるでござる」

「ござるってなんだよ……」

「細かい所気にすんなよ」

「咲をどう思ってるか……か」

「そうだ、お前、なえかに遠慮してるとかじゃねぇよな。だったらあいつも迷惑かもしれないぜ」

「遠慮……」

俺が遠慮?どうしてだ。

いや、気づいているはずだ。俺は。

「なえかの気持ちに気付いてただろ、いや、今はお姫様の気持ちについても気づいてるはずだ。鈍感鈍感言われてるお前でもそれくらい気づいてるはずだ。と俺は思う。もし気づいてなかったら大馬鹿だ」

「大馬鹿ってお前な……ああ、気づいてるさ……」

「ならもうその言葉をぶつけろよ、もう叫べ、世界の右端で愛を叫べ。ドドーンと!」

陽樹が突然立ち上がって、右手を上にあげてからそう叫んだ。

自信満々そうだ。

右端ってなんだよ。何処だよ。

「右端?中心じゃないのか」

「あれ、右端じゃないのか?」

「中心だ。右端で叫ぶって中途半端すぎる」

「それもそうだ。とにかくお前に言いたかったことはこれだけだ。やることは分かったな?」

「……分かってる。大丈夫だ。ありがとう、陽樹」

「これくらいは当たり前だろ?皆、助けたいのは同じなんだし」

「ああ、そうだよな……。ありがとう」

「何回も気持ち悪いな!」

「お前な、素直にお礼くらい受け取っておけよ……」

「お前が言うと気持ち悪いもんでなぁ」

いつもの陽樹だ。

いつまでもこんな所でのうのうとしてる場合じゃないよな。

俺は立ち上がると背を向けたまま、この日三度目となる言葉を告げた。

「陽樹、ありがとう」

「いいってことだ」

陽樹が清々しく、透き通った声で、返してきた。

今日はいいことがある気がした。

……

俺は陽樹と話した後、FDAの仮本部へ戻ってきていた。

色々とざわざわしている。

FDAの仮本部は、ただの大きい、学校の文化祭などに使うテントのような物の中にあった。

外見は、薄汚い。でも、中身は外見と打って変わって、目新しい、最新の機械に包まれていた。

それでも、FDA本部に設置してあったものより、演算能力などは落ちるらしい。

そうして、考えていると日々之さんが声をかけてきた、何も疑問に思っていないような顔だ。

「あれ?いつの間に戻ってきてたの?甲長くん」

「さっき戻ってきました」

嘘だ。30分ほど前に戻ってきていた。俺に気づく頻度が確実に減ってきている。

俺を知らない人間なら、きっともう認識すらできないんだろう。

分かっていた。

それでも俺は戦うと決めたんだから、戦う。

少し俯いていると、隣にいつの間にか京朗さんがいた。まっすぐ前を向いている。

両手は手持ちぶさたのようで、ダランと垂れている。

「これがお前の選択した道だ」

「はい……分かっています」

「……すまない」

「なんで京朗さんが謝ってるんですか。これは……俺が決めて、今進んでいる道です」

そうだな……」

しばらく、無言が続いた。

回りでは、日々之さんが忙しく命令を飛ばしていた。

咲のことを必死に探してくれているようだった。

咲は……まだ、忘れられている訳じゃない。俺は忘れられるかもしれない。しかもそう、遠くない未来に。

その場合はどうなるんだろう?そんなネガティブなことを、頭で思考しようとしていた時だった。

そんなことを考えていると、京朗さんが思い出したように、質問してきた。

「そういえば、人間の容姿をしているが、中身は、機械という敵に出会ったらしいな」

「はい、とても、無機質で、不気味な目でした」

「そうか、ソイツの名はレクイエム。アルクェル帝国の王、いや、支配者である、ヴァルセメリキウス……の右腕と言われている」

「ヴァルセメリキウス……それが、俺達の敵……」

京朗さんは、少し驚いた顔をしていた。

何故、驚いているんだろう。

「……そうか、お前たちは、未だにアルクェル帝国の支配者を知らなかったんだな」

「はい、今、初めて知りました」

「だが、それ以上の情報は与えられそうにない。頭にモヤがかかっている感じがしていてな」

「いえ、それだけでも……それが分かっただけでも、よかったです」

「そうか……」

それからまたしばらく沈黙が続いた。

京朗さんはアルクェル帝国の支配者と言っていた。それはどういうことなんだろう。

支配者ということは、何かを支配しているということだ。もし、あの機械達が、元は……善良な存在で、それを無理やり、自分の意思にそぐわないからと、倒したりしていたら……。

でも、ヴァルセメリキウスは何を望んで、攻撃をしてきているんだろう?

最近の行動がよくわからない。

一時はウェポンボックスや、ブラックボックスを狙っていた。

でも、少し前に戦ったレクイエムは、あとで咲は返すと言っていた。それが本当か、信じることはできない。

けど、最近の行動は明らかに、ブラックボックスを奪う目的などがあるとは思えなかった。

一体どういうことなんだろう?

その時。頭には、前に戦った敵の姿が投影された。

あれは……確か、ブラックボックスを――。

「それは本当なの!?今何処に!」

「上空です、突然反応が現れました」

突然、日々之さんの声が、仮司令部に響いた。

「上空!?甲長くん!――あれ?」

「はい、すぐにいきます」

俺は簡潔に答えると、ファリクサーに向けて走りだした。日々之さんが最後に何かを言っていた気がしたけれど、この時の俺は、何も気に留めなかった。

上空では、また、黒く、禍々しい間接部分が、夕焼けに照らされていて、輝いていた。

……

ファリクサーに乗り込んだ輝は、すぐに飛行システムを起動。

上空に向けて、移動を開始した。

その間に移動したのか、フェクサーは、雲の上にまで、上昇していた。

あれは、咲だ。と輝の本能が告げる。

ここまで何故フィアーズ・コードを感じられるようになっているのだろうか。

でもレクイエムが言っていた一言。「あなたは随分フィアーズ・コードを感じ取れるようになっているようですし」

この言葉の意味。もう少しということなんだろうか?タイムリミットが迫っているんだろうか。

皆の前から呆気なく消える瞬間が。輝の脳裏にそんなことが過った。

だが、その雑念を捨てて、また正面を向いた。

「今は、咲を助けることに集中する、咲を助けることに……!」

ファリクサーの後方には、ファエスリアス・改。そしてファエムリアス・改が後続として続いていた。

「おや、来ましたか、甲長 輝さん」

目の前には、突如、フェクサーが現れていた。

いや、あれは、先日戦闘した、フェクサーもどきだ。

ファリクサーがフィクサーに近づくとファリクサーのコックピット内に声が響いた。

否。

それは、今、雲の上に響いていた。

その声は、間違えるはずもなく。レクイエムの声だった。

輝は、今、疑問に思っていたことを口にした。

「レクイエム!どういうつもりだ!お前はあのまま隠れていれば、そのままお前の目的は達成できたはずだ」

そう、このまま隠れていれば、見つからずにレクエイムの目的は完遂できたはずだ。

また、隠れていても見つかる可能性もあった訳だが、時間稼ぎは出来たはず。

レクエイムは、少し間をおいて、小馬鹿にするように声をだした。

「そうですねぇ……このまま勝っても面白くない。どうせなら、私はゲームを楽しみたいですからね」

「ゲームだと……?」

「そうです。ゲームですよ、コレは、原河 咲の命は今、私が握っていると言っても過言ではない。でもその状況であなたは彼女を救い出そうとしている。とても泣けるではありませんか、あなたが助けるか、それともあなたが負けるかそれがゲームです」

「おい!お前!なんて屑な野郎だ!俺が今すぐに叩きのめしてやる!」

「とても、今まで戦ってきた相手とは思えないですね」

ファエスリアス・改とファエムリアス・改は今の話を聞いていたのか、二機共、一斉にレクイエムへ突進していった。

「おやおや、血気盛んな方々ですね、私と同じ機械とは思えない。屑などと少し調教が必要ですねぇ」

レクイエムの駆る、フェクサーもどきは、またも人の手には、とても不可能な、機動を実現していた。

あれは、機械なのか?と思わせるほど、人のように舞っていた。

ファエスリアス・改とファエムリアス・改の攻撃をいとも簡単に避けていく。

すんでの所までは、避ける仕草をしていないのに、当たらない。瞬時に避けている。

とても人間、いや、人型の機械が操縦しているような感じではなかった。

「おや、この二人が押さえている間に、助けないんですか?甲長 輝さん」

「……」

輝は返事を返すことなく、フェクサーへ向かった。

「無視ですか、それもいいでしょう、原河 咲。そいつを破壊寸前まで、壊しなさい」

輝に聞こえてくるのは、レクイエムの声だけだった。咲が返事をしていないのか。それとも、声を外に出さないようにしているのだろうか。

どちらにせよ、こんなチャンスは二度とない。いや、これ以上、

時間がかかれば、咲を自分の手で救いだせずに、遠くへ行ってしまうかもしれない。

「咲!聞こえてるだろ!咲!」

ファリクサーに向かって、突進と表現できるスピードでフェクサーが迫ってくる。

輝は、声を出して呼びかけるが、咲は、何の反応もしめさずに、ファリクサーにに向かって、剣を突き立てようとするのみだった。

ファリクサーは両腕に半分となって存在している、インフェルノソードを分離。そして空中に浮いた、その二つが合体。

それを手に取ると同時に、フェクサーが振るった剣が、迷いなく、ファリクサーの頭に直撃しようとした時、インフェルノソードがその攻撃を受け止める。

火花が、両者の剣の間に散った。

その火花は、まるで、二人が戦っているのを象徴しているようだった。



第二十二話 オワリ


第二十三話へ続く

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