第二十一話 「フェクサー」
第二十一話 「フェクサー」
「咲が連れ去られるのを……ただ見ていることしかできなかった……」
ファリクサーを地上に降ろして、日々之さん達と合流したあと
俺は、自分に対する怒り、そしてやるせなさを覚えた。
ただ
見ていることしか
できなかった
ずっと反復される言葉。
FDA本部が爆発――いや、壊滅してから一日がたった。街は、一昨日のたった一日でその姿をガレキの山へ変えた。
見渡す限り見えるのは、ガレキ、ガレキ、ガレキ。
そして、至る場所で火災も起きていた。戦闘中に起きたものだ。
だが、これだけのことがあったにも関わらず、死者はでていない。
FDAの迅速な対応があってこそだ。でも、それでも……文句を言ってくる人達は存在する。
頭で分かっていても、それが許せない、その感情は当然だし、否定をするつもりもない……俺だってそんな時があったから。
その対応にFDAは今も追われている。
皆が無事でよかった、とかそんなことは考えられなかった。
ファエスリアスとファエムリアス。
この二機は、咲を連れ去ったとされる人間によって破壊された。
二機は四股を切断されて、頭部も破壊されていた。
爆発による衝撃もあったと思う。
格納庫の中でバラバラになっていないだけでも奇跡だった。
救いだったのは、動力である、フィアート・ボックスが破壊されていなかったことだ。
その為、修理をする為にファエスリアス達が開発されていた場所に動力だけが輸送されている。
動力の中にはAIもあり、記憶などといったメモリーに障害などはないらしい。
そして、残っていたもう一機のロボット
ブラックボックスを積んだ一機の機体。
フェクサーは格納庫から姿を忽然と消していた。
爆発が起こった時にはもう、いなかったのか?
それとも爆発が起こったあとに何処かへ行った?
それは全然分からないでも……フェクサーがいないということは、咲が呼んだのか、それとも――
「ここにいたか」
突然後ろから声がかけられた。
川辺にいた俺を見つける為に探していたのかも知れない。
この声は……陽樹の声じゃない。振り向かないで声の主に言った。
「京郎さん。どうしたんですか?」
「こんな所にいるとはな……お前の気持ちもわかるが、今はそんな風に悩んでいる場合ではない、取れ」
京郎さんが放ったものが川辺にある、石にあたり、乾いた音をたてて、目の前に転がってきた。
木刀……?
「……」
「な、何するんですか!」
京郎さんが、いきなり手に持っている木刀を振ってきた。
完全に頭を狙った、容赦のない攻撃だった。
「今の攻撃を避けるか、さすがファリクサーのパイロットだ。だが、心に迷いがある」
迷い。
またさらに京朗さんが、木刀を振ってきた、次は頭上からの一撃。
それを木刀で受けると反動が伝わってきて、少し肩に痛みがでた。
「お前は、咲を助けるか、名も知らない市民を助けるかどちらを取る?」
突然の質問。
今この状況がそれほど酷い状況なんだろう。
油断。いや、迷いがあったら死ぬ。
京朗さんの木刀による攻撃を凌ぎながら考える。
その間にも、矢継ぎ早に、京朗さんは声を発した。
「咲を助けると同時に名も知らぬ人達が死ぬ。でも、名も知らぬ人達を助けると咲が死ぬ。この極限の状況でどう動く?
何も知らぬ奴を助けなければ、悪と呼ばれ、逆恨みをされる。名も知らぬ人を助ければ、咲をどうして助けなかったと罵られる」
俺は歯ぎしりをしながら必死に考える。
名も知らぬ誰かと咲を選べ?無理だ。選べない。
どっちも大切な人達だ。フィアーズ・コードが、絆の力で繋がっている
大切な人達だ。
どちらも選ぶという選択肢は甘いのだろうか。甘いのかも知れない。こんな状況の中では甘ったれたことを言っていると思われるかもしれない。
……。
「どちらも俺は……諦めたくありません」
「どちらも……?」
「そうです、どちらも絶対に諦めたくありません。どちらか確立の高い物を選ぶのではなく、どちらも取って、とても確立が低い物になろうと俺は……」
そうだ、俺は……。
これがずっと戦ってきて学んだことじゃないか。また忘れる所だった。
ダメだな……俺。皆に助けられてばっかりだ。
いや、これでいいのか……そうだよな……なえか。
「どちらも取ります、リスクのない選択に、意味はないと思いますから」
俺の言葉を聞いた。京朗さんが、木刀を振るう手を止めた。
「そうか……リスクのない選択に意味はないか……」
途端に京朗さんが笑いだした。
「どちらかを選択させるつもりだったが……そうか、お前はそう選ぶのだな。辛い、辛い、道だぞ」
「分かってます、それが、リスクです。そしてファリクサーに乗って学んだことです」
「そうだな……お前は……本当に選ばれし者なんだな、ファリクサーに」
「いえ、俺は……選ばれし者でもなんでもありません、皆に助けられて立っていられるんです、今も、これからも」
「そうだな……その通りだ。絆の力。それがなんでも可能にする」
俺はハッキリと透き通る声で言った。
「はい!」
京朗さんは間隔をおくと、また口を開いた。
「咲のことだが……きっと、俺に掛けられたように洗脳されているはずだ。次はもっと強い洗脳だろう。もし助けたいなら、一週間だ」
「一週間……」
「そうだ、一週間だ。それ以上たったらきっともう咲は助けられない。そして最後にもう一つ――」
「大丈夫です……もし……咲を一週間以内に助けられなかったら……俺は、咲をフェクサーごと倒します」
「……先回りして答えられるか……ファリクサーのパイロット。お前に任せる。咲を頼んだ」
そういって、京朗さんは、去っていった。
俺を心配して、無理な体でここまで来たのかも知れない。
京朗さんがこなかったらきっと俺はあのままだっただろう、府抜けのようにずっと、あのままだったかもしれない。
リスクを取らずに、きっと安全な方を選んでいた。
やっぱり俺はまだまだ子供なんだ。皆に頼って生きて行く。
そう、皆との絆で戦っていく。
その時、上空で黒く、そして「青く」輝いている機体があった。
ファリクサー。心の中で言葉を紡ぐと同時に地面の石が舞い上がって、紅の機体が着地する。
ファリクサーはまだ完全な状態ではなく、どちらかというと不完全な修理状況でもすぐにやってきた。
絶対に勝つ。
きっと咲もでてくる、俺を惑わす為に。
あの無機質な目をした人間――いや、機械が送りこんでくる。
そんな気がした。
……
…
ファリクサーは先ほど青く輝いていた機体へ向かっていた。
下に広がる、ガレキの山。未だに復旧の目途が立たない。
一日が過ぎただけなので、当然といえば当然なのだが、当人達にとっては、その時間が数週間にも、一ヶ月にも感じられるようだった。
先ほどより、高度をあげた所で、青く輝いている機体。どんどん近づいていく。
それは、姿、形だけ見れば「フェクサー」だった。
「あれは、フェクサー?」
フェクサーの間接に当たる部分が、黒く輝き禍々しい色彩を放っている。
そして、頭部もさらに禍々しくなっていた。
でも、それは間違いなくフェクサーだった。
アルクェル帝国の敵と一緒にいる所がなければ、説得ができた。
きっとアレに乗っているのは咲だ。
輝は直感でそれを知った。
いや、フィアーズ・コードを通じて感じ取ったといったほうがいい。
「咲……」
一日でもう洗脳したのか?でも無事だったんだ。まだ助けるチャンスはある。
絶対に助ける。絶対に。輝はフェクサーに向けてさらに速度をあげた。
「っ!?」
突如飛来した人型機械に蹴りを受けて、ファリクサーは吹っ飛ばされた。
「な……いつの間に!」
いつの間にか接近されていたのだ。だが、驚くべきは姿だった。
「もう一体のフェクサー……!?」
もう一体、同じ形をしたフェクサーが現れたのだ。
フェクサーが二機いる。間接部分が光に反射して、黒く輝いている。
見た目はフェクサーだった。でも――
「でも……ブラックボックスの存在を感じない?」
輝にはもう一機、今飛来したフェクサーにブラックボックスの存在が何も感じられなかったのだ。
見た目はフェクサーでも、アレはフェクサーではない。
それに、パイロットがいるはずなのに、何も感じることができない。人工知能が動かしているのであろうか。
名づけるなら、フェクサーもどきだろうか。
フェクサーもどきは、銃を構えると無造作に発射した。
それに続くように、間接部分の黒く輝いている個所から、ビームが発射された。
ファリクサーに近づいていくビームをすんでの所で避けながら、左右の腕にある、分離された、インフェルノソードが着脱。
空中でインフェルノソードが合体。それを手にとって、さらにフェクサーもどきとの距離を詰める。
敵は避ける素振りも見せず、銃を連射している。
「これなら!うおぉぉぉ!」
真上からインフェルノソードを振り下ろすファリクサー。
だが――
「な……フェクサー」
もう一体いた、フェクサーが間に入ってきたので、思わずファリクサーは攻撃を中断。
その隙をつかれ、フェクサーもどきの右蹴りを受ける。
ファリクサーに衝撃。
しかも敵は、装甲が消耗している所を狙ってきたのである。
的確な判断だった。
「ぐっ……これがフェクサーを出してきた訳か!」
「ほぉ、人間はそんな風に考えられるのですね」
突然声がファリクサーのコックピットに響いた。
低い声だ。美声とでもいうのだろうか。
それはフェクサーもどきからの通信だった。
「人間は?……あの機械人間か!」
「機械人間ですか、アンドロイドとでも呼んで頂きたいですね。甲長 輝さん」
「っ……」
「おや、だんまりですか。ああ、原河 咲さんのことが心配なんですね、ほらそこに乗っていますよ、早く助けてあげたらどうです?」
馬鹿にしたように声を響かせるフェクサーもどきのパイロット。
輝は、驚いていた。自分の名前が知れ渡っていたこと。
これまで気づかれなかったのが不思議なのだ。知れ渡っていても、不思議ではない。
「咲に何かしたのか!」
「しましたよ、記憶を覗かせて頂きました」
だからか、だから。
しかもこちらのことが大分知れ渡ってしまったことにもなる。
でも、咲はまだあそこにいる。まだ助けられる。
その確信が得られただけで十分だった。
輝は、ファリクサーの外部音声をONにし、フェクサーに呼びかけた。
「咲!俺だ!」
そのままの可能性は絶対にないだろう。
けど。呼びかける他ない。
「……輝くん」
反応があった、輝はそれに声を返した。
「咲!咲なんだな!無事なんだよな!」
「うん、無事だよ」
「よか――」
ファリクサーを衝撃が襲った。
その攻撃はフェクサーからのものだった。
「な……咲!?」
「甲長輝、私を慣れ慣れしく呼ぶな」
思わぬ答えが帰ってきたのはその時だった。
「さ、咲……」
「人間とは愚かですね、このような策にさえハマる。本当に愚かだ。やってしまいなさい」
「はい。マスター」
「くっ!?咲に何をした!」
フェクサーの攻撃を避けながら、輝は問う。
「原河 京郎さんに聞いていないのですか?洗脳だと。まぁ、今回は原河 京郎さんのことがあるので、こっちで自由に操作できるようにしましたが」
「そんなことを……!くっそ!咲!目を覚ませ!咲!」
「うるさい!私を呼ぶなぁぁぁ!」
「人間は本当に愚かですね、助けられないのに可能性にすがっている。とても醜い」
輝は歯ぎしりをした。今この状況だったら輝を落とせるはずなのに、落とさない。
ただの実験。フェクサーもどきのパイロットにしてみれば、試運転に近い物なのだろう。
「お前に俺達の何がわかる!俺達はずっと絆の力で戦ってきた!そんなことに負けるかぁぁぁ!」
「絆の力ですか、我が創造主はそれにえらくおびえていますが、そんなことが何になるのかまったく理解できませんね。もういいですね、落としなさい、原河 咲、あなたの手で」
「はい」
「くっ!咲!聞こえてるなら分かるだろう!俺だ!」
咲は、もう話すことはない。と言う風にフェクサーの右腕で拳をファリクサーに振るった。
ファリクサーはその拳を左腕で受け止める。
だが、それが間違いだった。受け止められた拳をフェクサーは
そこで半回転すると、ファリクサーとフェクサーの立ち位置が逆になった。
当然ファリクサーの後ろにいるのは、
フェクサーもどきだ。
「こんな風に作戦にかかる。あなたは随分フィアーズ・コードを感じ取れるようになっているようですし、私が手を下すまでもないのかも知れませんが、考えが変わりました」
フェクサーもどきは銃の照準をファリクサーに合わせる。
「人間は儚いですね、こんなことで死ぬなん――」
突如、フェクサーもどきは吹っ飛ばされた。
「なんです?あなた方は」
「エス……エム……!?」
フェクサーもどきをふっ飛ばしたのは、ファエスリアスとファエムリアスだった。
だが、前に見たものとは、形が違っていた。
どちらもより、一回り大きくなっていたのである。
「はい、甲長隊長遅くなってすいませんでした」
「俺が来たからには安心だぜ!隊長は咲隊長を助けてあげてくれ!」
「……ありがとう、エス、エム」
ファエスリアスとファエムリアスは、フェクサーもどきと戦闘を開始。
輝も自分の役割を果たすべく動こうとした時だった。
「まだ、ダメですか、ふむ。原河 咲も不安定ですし、一度帰りますか、原河 咲、先に撤退しなさい」
「分かりました、マスター」
「咲!待て!咲!」
「おっと……」
フェクサーもどきは突如ファリクサーの視界を防いできたのだ。
さきほど、一定の距離離れていた機体が、一瞬で目の前に現れた。
あり得ない機動性。
「今、彼女を失う訳にはいかないんですよ、用が終わればお返ししますよ、フェクサーと一緒に、それまでおとなしくしておいてくださいませんかね」
「咲を物見たいに抜け抜けと……!そんな要求が飲めるか!」
「やっぱりダメですか、お返しすると言っているのに、人間というのはせっかちで考えなく困りますね。まぁいいでしょう。邪魔できるなら邪魔してみなさい、今の貴方にそれができるなら」
……
…
あの後、フェクサーもどきは機械とは思えない機動を取りながら、去って行った。
人間機械……俺は歯ぎしりをしていた。今日何度目だろう。
「隊長。あまり気負ってはいけません」
「そうだぜ、絶対に救いだすんだろ?だったら大丈夫だろ」
「ああ、分かってる……」
くっそ……分かってたことだ。それにあと一週間以内に無理だったら俺が咲を倒すしかないんだ。
返すと言っているがあんなものは嘘に決まっている。
俺は少し心を落ち着かせる為に、エスとエムに話しかけた。
「そういえば、戻ってくるのがえらく早かった」
「ああ、私達は、本体の入れ替えだけでしたから」
「入れ替え?」
「ええ、元々別ボディーが開発されていて、そこにフィアート・ボックスを移すだけだったんです、だから私達はこれほど早く戻ってこられた。ちなみに今の私の名前は、ファエスリアス・改です」
「俺の名前はファエスリアス・改だぜ!」
「どっちにも改ってついてるのな……」
「はい、これからも宜しく頼みます隊長」
「宜しくだぜ!」
「エス!また隊長に――」
この光景が何故か懐かしく。そして愛おしくもあった。
最初に会った時は、なえかも咲もいた……でも今は俺一人だ。
アルクェル帝国がすべてを奪い去って行く。すべて。
でも――咲を助けてみせる。
絶対に。
絶対だ。
それに、俺は……俺は――
第二十一話 オワリ
第二十二話へ続く




