第二十話 「崩壊」
第二十話 「崩壊」
「ああ、終わった終わった」
「うん……少し疲れたね」
俺と咲は家に帰る為に歩いている。
予想以上に冬のラジオが長かったのを、学校が容認している事実にもビックリしたけど。
最後の盆踊りは疲れた。予想以上の疲れを生みだし、俺と咲を疲れさせるには、十分だった。
最近は、学校の帰り道を咲と帰るのが日常になっている。いつの間にこうなったんだっけ、よく覚えてない……。
きっとキッカケは些細なことだったんだろう。
そんなことを考えていると、久しぶりに通信機が緊急のサインをだしていた。
それは、アルクェル帝国がまた来た、というのを認識させるには、十分のサイン。
俺は、少し躊躇ってから、通信。聞こえてきた声は、日々之さんの焦ったような声だった。
「甲長くん!日本付近を監視している衛星が破壊されたわ!最後に目撃された映像は、アルクェル帝国だったの、
また来たんだわ――」
それを聞いた、途端。咲と俺はファリクサーとフェクサーと念じた。念じたら、相変わらずすぐに来る。
すぐにファリクサーに乗り込み。戦闘モードで起動。
飛行システムもすぐに起動させる。レーダーに、敵が落下してくるのが映っている。
俺と咲はすぐにその場所へ急行した。
ファリクサーが飛翔する。でも、これは、俺達の存在を削って動かしている。
……もし消えるとしても、最後まで戦い抜く。もう迷わない。
決意が芽生えていた。きっと、咲にも同じ決意がある。それがフィアーズ・コードを通じて流れてきた。
……
…
ファリクサーは落下地点に急行。そして、降下中の敵を発見。二体いる。
他の所にも敵が降下中だっが、ファエスリアスとファエムリアスが向かったと聞いた輝と咲は安心している。
ちゃんと全員が
アルクェル帝国の形式ナンバーZF-KL-1の機体だった。
量産タイプとは違う機体。この惑星――地球にファリクサーがいる。ということで、敵も本腰を入れて攻撃しにきたのだ。
「二体……いくぞ!咲!」
「うん!」
高揚感が輝と咲を満たしていく。それを体現するかのようにファリクサーとフェクサーが戦闘を開始した。
二機共、分かれて敵に接近。この前まで苦戦していた敵だった。
でも、今は違う。
「うおぉぉぉ!ノヴァソード!」
ファリクサーは、ノヴァソードを縦に一閃!
真っ二つに敵が切り裂かれ、爆発。
それと同時に、咲も敵を撃破していた。
「ふぅ……終わったね」
「こっちは終わりました。エスとエムはどうですか?」
戦いが終了したことを、日々之に通信で報告する、輝。
「大丈夫よ、あちらも倒したみたいだわ……でも、まだ敵がその近辺にいる反応がある」
輝と咲はすぐにレーダーを確認。確かにいる。だが、かなり遠い。
「……そうか、衛星を破壊したのは――そういうことか!」
アルクェル帝国が衛星を破壊した目的。それは、監視衛星に発見されぬことなく、地球に侵入する為。
何か裏があるとしか思えないことだったが――。
「ええ、そのようだわ、すぐに向かって!」
今の彼らには、敵に対処するしかなかった。
「分かりました。咲!二手に分かれよう。咲は東に。俺は西の敵に向かう」
「うん、分かったよ。気をつけて」
「ああ」
ファリクサーは風に押されるように西の方角へ向かった。フェクサーも東の方角へ飛翔した。
……
…
「そこだっ!」
ファリクサーのノヴァライフルが敵に命中。大円形の穴が胸の装甲板辺りに空き。
爆発。
敵を殲滅したことを日々之に報告する、輝。
「終わりました、すぐに戻ります」
「戻るって何処へ?あと、原河さんも敵を倒して戻るとか言ってたわね……」
「少し……悪い予感がするんです、なのでFDA本部まで戻ります」
少し息の詰まったような声で言う輝。
「悪い予感……警戒させるように言っておくわ」
「お願いします」
通信を切ると輝はすぐにFDA本部へ向かった。そのさなか一言呟いた。
「この胸騒ぎ……本当に何か起こる気がする……本当に悪いことが……」
……
…
FDA本部に到着したあと、俺はすぐにファリクサーから降りて、格納庫を見渡すと咲がいた。
駆け寄って、声をかける。
「咲!大丈夫だったか?」
「うん、大丈夫。輝くんも感じてるんだよね……?」
自分の言っていることが合っているかな?とでも言うような感じで咲が聴いてきた。
迷うことなく答える。
「感じてる。ただ漠然としてて、悪い予感がするって程度だけど……」
「私もそう。予感がするだけ……」
格納庫に機械が歩いてきていると認識させるのには十分な音が格納庫に響いてきた。
エスとエムだ、少し傷がついている。でも大丈夫だったみたいでよかった。
「いやー、危なかったぜ、ありがとうな、エム」
「だからお前は普段から注意――」
相変わらず仲良しのようだ。このまま放っておいたらずっと言ってそうだなぁ。
俺は、二人の話を遮って言葉を発した。
「エス、エム。何か……悪い予感がしないか?」
「そうですか?私はそんな風に感じませんが……」
エムの返答を聞いてから、エスの言葉も聞いたけど、どうやら二人はそんな予感はないようだった。
俺と咲だけが感じている……。
その時。格納庫に日々之さんの声がスピーカーを通して響いた。
「甲長くんと原河さんは今から指示する場所に急行して!またアルクェル帝国がでたわ!エスとエムはここで待機!」
随分焦っている口調だった。久しぶりに来たからてんてこ舞いなのかも知れない。
咲に目を合わせると頷いてくる。
俺はファリクサーに向かった。
そして格納庫から出撃。
そういえば、格納庫から出撃ってしたことないよな……。
この出撃の仕方はなんとなく新鮮だった。
……
…
敵と交戦してから、五分で俺と咲は敵を殲滅。
「どうもいつもと違う気がする。敵の動きが……鈍い気がする」
「そうだね……どうしてだろう?本当の力をだしていないような……」
咲も同じことを感じているらしい。
「考えても仕方ない。とにかく戻ろう」
その時だった。そこに一人の「男」がいたのは。
無機質でいて、機械的な目。
俺はその顔に少し不気味な物を覚えた。
とてもこの世の人とは思えないような人だった、それにフィアーズ・コードが感じられない。
人間は全員フィアーズ・コードの遺伝子が僅かながらある、最近はそれを感じられるようになっているから分かる。
あの男にはフィアーズ・コードが――。
「甲長くん!早く戻ってきて!また違う所で敵が出現したわ!あっちにはエスとエムが急行してるから、すぐに出撃できるように本部で待機していて」
日々之さんのまた焦った声が聞こえてきた。この敵の数は尋常じゃない。もしかしたら何かの準備を行っているのか……?
でも、今の俺達には考える余裕も何もなかった。とにかく今はこの現状に身を委ねるしかないのか。
……
…
それからも、アルクェル帝国の機械――敵を倒すと10分ごとにまた敵を送りこんできた。
それがもう何十回も続いている。咲ももう体力が限界のようで、寝ている。
俺もかなり精神的に来ている部分もある。
先遣隊の連中が、それほど人間への対処法を知らなかったからある意味今までの戦いもある程度の苦戦で済んだのかも知れない。
でも今回の敵は違う……確実に人間を弱らせる術を知っている。
確実に俺達を潰そうとしている。それだけは分かってきた。
エスとエムもAIとはいえ、疲労もする。交代で敵を倒していくしかない。
もうそろそろ敵が来るころ合いだと思い、俺はファリクサーのコックピットに乗り込む。
いつでも出撃ができるように戦闘モードへしている。
その予感通り、敵が来た。
嫌な予感だ……。
本当に嫌な予感は的中するよな。
どうしてだろう。そんなことを考えるくらいに全員が疲労していた。
深夜2時。
もう町の皆は避難している、こうも敵の襲来が来ているのだから、一々民家に戻るなんてことはしていないはず。大丈夫なはずだ……。
……
…
「はぁ……はぁ……」
今まで5分で倒していた時を倒すのに30分は掛かっていた。
ダメだ。このままじゃあ俺達は……。
その時。視界の隅にさっきの男が映っているのが分かった。
さっきまであそこにいたか……?あの男。
男の無機質で機械的だった目が笑っているように思えて、俺は少し背の筋が寒くなるのを覚えた。
俺は今までの疲れもあって、男の無機質だった顔もすぐに忘れてファリクサーを本部へ向けた。
そして、この戦闘を最後に敵は攻めてこなかった。
俺達はその間に体を休められる時間を手に入れた……けど、それは「崩壊」を示していた。
……
…
「ふぅ……寝れない」
どうも敵がいつ来るのか分からないっていうのも精神的に悪い。
咲とエス、エムはしっかり寝ているのに対し、俺は全然眠れないでいた。
ダメだ、体を休めないと……。
今は何時だろう。体感時間的に7時くらいか。
もう、何がなんだか分からない。
漫画とかじゃあこんな展開はよくあるけど実際にあるともう何がなんだか分からなくなってくる。
逆に目が冴えるほどに。
その時だった。敵の反応が現れた。と通信が入った。
咲も寝ている……。
俺がいくしかない。
きっと一人で対処できるはず……だ。
俺は思い切って立ち上がり、ファリクサーに向かった。
ファリクサーに乗り込み、そのまま格納庫から出撃させようと外に繋がっている通路を通って行く。
その道中であの男を見た。
無機質でいて機械的な目をした男を。
俺はファリクサーを進行方向から反転させ、男が歩いて行った方向に向けた。
「いない……」
さっきまでの男は消えていた。疲れてるんだ……。
こんな所で時間をくっている訳にはいかない。
ファリクサーを進行方向に戻し、外へ向かう。
……
…
「はあぁぁ!」
ファリクサーのノヴァソードが数秒前までZF-KL-1が存在していた空間を切り裂く。
「無駄な動きが多い……!」
ZF-KL-1が声を発している。だが、その声は輝に届かない。
満身創痍。自分が何を言っているのか、何と戦っているのか。
もう訳が解らない。
輝は苛立ちを募らせていた。
「……くっ!?」
ZF-KL-1の拳が風を切り、ファリクサーの右腕に当たりよろける。
ZF-KL-1はそのままの勢いで、右足で蹴りを行う。
ファリクサーの胴体部分へ見事に当たる。
地面を滑り、あらゆる物を破壊していくファリクサー。
山に当たり停止する。
「くっそ……やられる訳には……!」
「お前の腕では勝てんよ、それ以上の力は出せないはずだ。所詮人間。その程度」
「お前、分かってないな。先遣隊が……何故やられたのか」
「あいつらが無能だったからだ」
「違う!俺達には絆の力が……無限に沸いてくる、この絆の力があったからだあぁぁ!」
ファリクサーの全機能が最大稼働。右腕の装甲板が、悲鳴をあげているにも関わらず、命があるかのように、動きだす。
「うおぉぉ!ガトリングパイバー!スパイラルユニコーン!ウェポンコネクト!」
一か月前。戦いの後、ガトリングパイバーは原河 京郎から離れ、甲長 輝を契約者として再度契約した。
ファリクサーの中核から、光の粒子が外に漏れる。
その粒子がガトリングバイパーとスパイラルユニコーンを構成させていく。
ガトリングバイパーとスパイラルユニコーンは、それぞれ左腕、右腕に接続される。
「うおぉぉぉ!ガトリングバイパー!スパイラルユニコーン!アタァァァック!」
輝が叫ぶと、ガトリングバイパーの砲身が伸びる。
スパイラルユニコーンの角が回転し、角が獄炎を身にまとう。
ファリクサーが光速とも呼べるスピードでZF-KL-1をに近づきディメンションブレイクで拘束する。
「だあぁぁ!」
スパイラルユニコーンの角を敵の胴体に差し込み、獄炎の炎をZF-KL-1を拘束しているディメンションブレイクに流しこむ。
灼熱の業火が敵を包み込む。
ZF-KL-1を拘束している空間が目に見えるほどの丸い空間に変化していく。
ファリクサーは飛翔し、ガトリングバイパーをZF-KL-1に向ける。
ロックオン。
発射。
ガトリングバイパーから発せられた、銃弾が軌跡を描き敵を貫く!
爆発。
輝はファリクサーを上空で待機させる。
「はぁ……ふぅ……」
少し息をつこうとしたその時だった。
地面が大きい悲鳴をあげたかのような音。
音を立てて、一時の平和が崩れる音。
轟音が町を包む。風の振動が伝わってきて、ファリクサーを小刻みに揺らした。
「なッ!」
ファリクサーを衝撃のあった所へ向けると、まだ爆発が起こっていた。
「FDA本部が……!?」
そう、FDA本部が爆発したのだ。あらゆるもの轟音が耳に入るが、輝はそんなことは考えられなかった。
すぐに咲へ向かって通信を行う。
「咲!咲!くっそ、今、行くからな!」
ファリクサーが本部へ加速しようとした時だった。
エムからの通信。
「隊長……原河隊長が……敵……に……」
途切れ途切れで聞こえる声。
「敵!?敵がどうしたんだ!咲はどうなったんだ!」
絞り出すようなエムからの声が聞こえる。
「……人間……が……」
そこで通信は途絶えた。
「人間!?人間がどうしたんだ!エム!おい!」
辺りを見渡すファリクサー。八方を見渡すと人間が空を飛んでいるのが見えた。
映像を拡大。
「あれは……咲!」
あの男。無機質でいて機械的な目をしていた男が、咲を脇に抱えていた。
輝はすぐにファリクサーをその男がいる方向へ向けるが、、飛行システムがボンッと音をあげて爆発。
今までの戦闘で蓄積されたダメージの悲鳴が次々と上がって、装甲が音をたてている。
じょじょに高度を落としていくファリクサー。
手を伸ばす。
届かない。
ただ。
遠くへ行くだけ。
輝は思いっきり空気を吸い込むと声を発した。
「咲!さきぃぃぃぃ!」
ただ、声だけが空中に響く。
何の反響も無い空間。
輝は、咲が連れて行かれる光景を見ていることしかできなかった。
ただ、落ちて行くファリクサー。
そして、輝は考えていた……最悪の可能性を目にすることになる……。
第二十話 オワリ
第二十一話へ続く