第五学園 「文化祭 後編」
第五学園 「文化祭 後編」
今日は、文化祭最終日だ、俺は朝五時起きで学校にきている、凄く眠い。人は学校にほとんど居らず閑散としている。
なんでも喫茶店関係で色々仕込まないといけないらしい。俺はコスプレ喫茶にはでなくてよかったんじゃなかったのか。
「すまんな、甲長、今日の喫茶店についてお前に聞きたいことがあるのだ」
「なんだ?」
こんな朝早くに呼び出したんだから、よほどの要件なんだよな……。違ったらどうしてやろう。
「この褌を誰につけさせるか、を聞きたいのだ」
「褌?」
「そうだ、褌だ。昨日でもう予想利益の20倍以上は確保したので今日は男子一人に褌をつけて言ってもらおうと思っているのだ」
「20倍って凄いな、そんなに稼げてたのか?」
「ああ、大盛況でな、昨日の客は必ずくる、今日もかなりの利益が見込めるはずだ、だが、看板娘であったお前と原河がいなくなるので代わりを立てようという訳だ」
看板娘ってなんだ、俺は男だぞ。咲は……ああ、そうか、ミスコンか。でもなんで俺が副賞なんだよ……。
「でも褌なんかで客がつかめるのか?」
「つかめるわけなかろう、とにかく看板になる奴がいればいいのだ」
適当でいいのかよ……まぁ20倍以上っていうくらいなんだから志乃はもういいのかも知れないけど。
「陽樹でいいんじゃないか?あいつああいうの好きだろ?」
「やはりそうか、分かった、甲長――」
「ん?」
「今日は楽しくなるぞ」
志乃は背中を向けて歩き出した。俺はその背中に声をかけた。
「お、おい、あんまりいらないことはするなよ!」
「はっは、分かっている、だが、今日は楽しんだもの勝ちだぞ」
楽しんだもの勝ちか……分かったよ、志乃。俺は心でそう思うことにした。
朝五時に起こされたというのにまだ5時半だ。さっきより人は多いものの、それも少しだ。
この時間に来ていて、知っている人は……あ、いたな。俺は生徒会室へ足を向けた。
……
…
俺は生徒会室より少し離れた場所にくると、足を立てないように近づき、ドアノブを握った。
そこからこんな声が聞こえてきた。
「はぁ、はぁ……っ……入らないよっ」
何かを連想させるような声が聞こえてきて、俺は少し頭がおかしくなったのかと思った。
何故か肝心な部分が抜けて聞こえてくるのは気のせいか。
「あ……はっ……ら――」
俺はもう何をやっているのか分からなくなった。そしてドアノブを開き、飛び出た一声がこれだった。
「何をやってるかぁぁ!」
「ふぁ、ふあぁぁっ」
「本当に何やってるんだ?冬……」
冬はスカートを着ようとしていた所だった。当然下は体操服だ。もしかして、スカートが入らなかったのか……?
「スカートが入らなくて、それでっ――あっ、輝くん変な妄想でもしてたなーっ」
「してない!」
「なんでそこまで否定するのかなっ」
ダメだ、この状況では何を言ってもダメな気がしてきた。
「いや、もういい……」
「私が聞いてるのにそれは、どいうことかなっ!」
「いや……」
「まぁいいやっ何しにきたの?」
冬はもうスカートを着ていた。さっきまで入らなかったんじゃなかったのか。
「いや、適当に……」
「寂しかったんだっ?」
「うっ……」
「あはは、可愛いなー輝くんはっ」
「……」
俺はその後反論できずに、生徒会室のお菓子を食べるだけに徹していた。
このまま答えるのは何かシャクだと感じたからだ。
……
…
「おやっ咲ちゃんだ」
「へ?」
「ほら、あそこ」
俺は生徒会室の窓から校門を見た、咲が少し不安そうな感じで歩いているのが気になる。
「本当だ、でも何か足取りが重そうだな……」
冬は少し驚いたような顔をしてから俺に一言。
「へぇっ輝くんも気づくようになってきたんだ」
「まるで俺は今まで気づいてなかったみたいじゃないか」
「だってそうだから言ってるのにっ」
「……俺ってさ、やっぱり鈍感なのか?」
「うんっ」
この世の男を七割は虜にできるような笑顔でそういうことを言うものだから、俺はその後、言い返す言葉が見つからなかった。
……
…
冬に分かれを告げてから、すぐに教室へ向かう。当然咲の足取りが何故重かったか聞きたいからだ。
「さ――」
「ふぁ?」
咲は少し間抜けな顔をしてこっちに向き直った、教室の扉を開けて入るとそこにはなぜか着替えをしている咲の姿があった。
まずは、整理しよう、着替えていると誰かが教室の扉を開けて入ってきた。これで一秒。
それを男だと確認、二秒。どんどん口が開いていくこれで三秒。俺が考えている間に丁度三秒になったらしい。
咲の顔がどんどん赤く染まり、口が開いく。幸いこの時間は人が少ないからと言っても、悲鳴を出したら当然。他のクラスに聞こえる。
俺はその前に回れ右をして、教室の扉を閉めた。
それから一秒。悲鳴は聞こえなかった。どうやら大丈夫だったみたいだ。
でもあれはさすがに……ってなんで俺は朝からこんな目にあうんだ。
「て、輝くんー」
「入っていいのか……?」
少しドキドキしている声が咲に聞こえたかもしれない。こんな状況で平常心でいられるほうがおかしいよな。
「う、うん……」
咲も少しドキドキしているような声だ。
教室の扉を開けて、教室に入る。今日の咲は何故かメイド服だった。
「何してるんだ……?」
「えっ……そ、その――」
「今日はミスコンで着れないから着たって所か?」
咲の顔がボンッという効果音がつくほど赤く染まる。そこまで赤くならなくてもいいんじゃないのか?
「そ、そうだ!輝くんそこに座ってて!」
突然、俺に指示して、水を汲みに行った咲。そこまで恥ずかしかったのか。
「お、お待たせ」
「ああ」
水を汲んできた咲は、早速コップに水を入れて運んできた。なんでこんなことになってるんだ。
運んできて、その水の入ったコップを置いた。俺はその水を何気なく手に取り、飲んだ。
うん、ただの水だ。
「……」
俺と咲はしばらく無言になり、その空気に耐えられなかったのか、咲が席を立って水をもう一度入れに行こうとした時。
「うわぁ!?」
見事に転びそうになっている。
「咲!」
俺は席を滑るようにでて、俺の左手に咲の頭そして頭の隣に、右手。そして足は咲の股の間に滑り込んだ。
「あ……ありがとう――」
その時今まで気付かなかった、廊下を歩く音が聞こえてきた。もうすぐそこだ。その手が扉に掛けられて、解き放たれた。
さて、皆に質問しよう、俺は今こんな状態だ。それを第三者がみたら?当然押し倒しているように見える。
「ようー!皆元気か――……」
入ってきた人物は陽樹だった。あいつは言いかけていた言葉を途中でやめ、コンマ2秒ほどでこう呟いて去って行った。
「すまん、邪魔した」
扉を勢いよく閉めて去って行った。確かにこんな状況を見たらこうなるよな。
「輝くん?」
「ああ、ごめん」
俺はすぐに咲の上から退いて、咲に手を伸ばして立たした。咲の顔がさっきより赤くなってるのは気のせいか。
その後、俺と咲は文化祭が開始されるまで、一言も喋れなかった。
その間、やっぱりと言うべきか、陽樹が色々からかってきたけど、適当に言ってあしらった。
……
…
「さぁ!盛り上がっていこうぜぇぇ!」
おおーという声が体育館に響き渡る。文化祭が開始されてから三十分後。ミスコンが開催された。
体育館はほとんど男で埋め尽くされ、異様な雰囲気を放っている。志乃が見に行けと言ったからきたけど、いる意味あるのか、俺。
陽樹は見に行きたかったらしいが、昨日サボっていた罰として、褌の姿でお客に尽くしているらしい。
大変だな。
例のごとく、司会者は校長だ。よく盛り上がる校長だな……。そレに交じって教師も拳を上げている。
ここの教師はどんな神経をしているんだろう。未だにこの学校が大丈夫な理由が分からない。
「今日は学園のアイドル二人が参加してくれてるんだぜ!さぁ、名前を呼べ!どちらでもいい!」
校長がマイクを差し出すと、たくさんの人が咲と冬の名前を呼んだ。咲が4、冬が6の割合だろうか。
冬は生徒会長としてよく人の目につくから、その差だろう。
「こ、こんにちは~」
「こんにちはっ!皆元気かなぁー!」
咲と冬が挨拶をすると拳を突き上げる男達。俺は当然その中には入っていない。
「皆、私達は可愛いかなーっ!」
「おぉー!」
咲は冬に合図されておずおずと声を出した。
「皆さん、本は好きですかー」
「おぉー」
お前ら、なんでもいいのか。もう本当に何でもいい感じだ。
それから、冬がしばらく適当なことを言い、場を鎮めるのではなく、さらに場は盛り上がり、最高のムードに達した所で、冬はさり気無く、校長に司会を返した。
「よし、場が盛り上がった所でまずは自己紹介いってみようかぁぁぁ!」
「おーう!」
本当にノリいいな……。俺はここまでノルことはできない。ファリクサーに乗ってたらもしかしたらいけるかもしれないけど……。
それから数分後、自己紹介が始まった。
「妹羨 姫歌です――」
あれ……妹羨さんじゃないか、なんででてるんだ?
……そういえば、こんなことを聞いたことがある。陽樹が言っていたことだ。
なんでも妹羨さんも学園のアイドルと称される所まで行きそうな所らしい。この学校は一体どれだけのアイドルがいるのやら……。
というか、それだけ告白している奴は一体誰なんだ。女子を見たらすぐに告白でもしているような奴がいるのか?
「はーいっ、比良乃 冬でーすっこの学校で生徒会長をしていますー――」
大方予想通りの自己紹介だったと言っておこう、上からのサイズとかを言いだそうとするから、咲が慌てて口を塞いでいた。
「は、原河 咲です、宜しくお願いします――」
咲は頬を染めながら、自己紹介をしていた。そのことでさらに会場の男子は声をあげて、咲をビックリさせていた。
物事は順調に進み、いよいよ、というべきか、水着審査に入ろうとしていた。でもミスコンに皆が集中している間に
裏ではとんでもないことが進められていた、らしい。
……
…
「これでいい、これで今年の文化祭は楽しくなる、フゥーッハッハハハ!」
この人物は輝達が志乃と呼んでいる男である。皆がミスコンに気を取られている間に色々なことをして回っている。
その色々なことが発動する時間は――。
「今日のクライマックス、楽しみにしておけよ!全生徒諸君!ハーッハハッハ」
誰もいない場所でただただ、高笑いをする彼――。
……
…
「さぁ、いよいよ水着審査もアイドル達の出番が回ってきたぞぅぅ!どうだ!嬉しいかぁー!」
「いえーい!」
「それじゃあコォォォルゥゥ行ってみようかぁぁ!」
「比良乃!比良乃!比良乃!ひっらっの!」
水着審査ももう後は冬と咲の残すのみ、らしい。豊も出てきて、色々やっていたが、全生徒と教師の目的はあの二人らしい。
ちなみに審査をする人は教師と校長、そして、民主的に選ばれた生徒だ。
民主的というのは、クジ引きで決まったらしいからだそうだ。
冬が、体育館の舞台に現れる。今は上に制服を着ている、下には水着を着ているんだろう。少しずつ脱いでいく気か。
その時――。
「……やっと、これた……」
「お疲れ様」
俺の隣で息をあげて今にも倒れそうになっていたのは、陽樹だ。走ってきたのか、こいつ。そこまでミスコンが大事だったのか?
「……」
もう陽樹は体育館の舞台に文字通り釘付けだった。まぁ、いいか。
「はーい!脱ぎ脱ぎするよーっ!」
「おぉー!」
おぉーしか言わないよな、こいつら、でもおぉー以外に何を言ったらいいのかと聞かれたら、分からないけど。
陽樹はもう本当に変態かと言われるほど目を見開いて、冬を見ていた。
俺はこの暑苦しい空気に耐えきれずに、今更ながら、体育館の外へ出た。
風が涼しい。あの中があり得ない熱気なだけか……。
しばらくしてから、体育館にまた戻ると、うっ、と言いそうになるほどの熱気がまた襲ってきた。
俺もよくまた来たものだ、と言いたくなる。って、あれ?
体育館に人はだれもいなかった。いや、一人いた。
窓の外から射す夕日がただ一人の女の子を照らしていた。
その女の子の顔はとても――とても怖く、この世の物とは思えないほどだった。
原河 咲――そこにいたのは、彼女だった。
……
…
今は、体育館から出て、そのあたりを散策しながら屋台を回っている。
これは回っていると言えるか知らないけど……。
「咲……ごめん」
「……」
あの後、咲に色々事情を話した。でも、彼女は頬を膨らまして、そっぽを向いてしまっている。
どうしたらいいんだ?確かに絶対に来てと言われた。
でもあそこの空気はとても耐えられるものじゃないぞ……。
時間はもう7時となり、文化祭が本格的に終了するまで、一時間ほどになった。
盆踊りまでの時間はあと十五分だ。
「……」
「……」
俺達は、無言で歩いている。
人の波も少しは疎らで、少ない感じだ。もう盆踊りのほうに言っている奴らがいるのか?
辺りにいる主に男子から、鋭い視線がザクザクと刺さっている。
一人の男子と目があった。
その目は、夜道に気をつけろ。と言っているようだ。
もしかして……これはやばい。
またしばらく歩いていると、何処からともなく声が聞こえた。
「フゥーッハハッハ!聖龍高校の諸君!盆踊りまであと1分だ!一緒にカウントしようじゃないか!」
その声は、屋上から聞こえてきた。志乃か……。
屋上を見上げると、案の定、志乃がいた。
丁寧なことに、周りにライトまで仕込んである。
志乃だけがライトアップされている感じだ。
「さぁぁー!もう文化祭もラストだ!みんな!盆踊り会場へ急げ!」
周りの生徒は咆哮とも呼べるべきものをあげて、盆踊りをする会場へ走っていった。
数秒後には俺と咲しか残っていなかった。
それにしてもノリがいいな。
「フゥーッハッハ!集まったな――プッペ、なんで虫がいるのだぁ!まぁいい、この青春の文化祭!この恋の盆踊り!
さぁ!あと30秒だぞ!」
志乃は自分をライトアップしているんだから、当然、光に虫は寄ってくるよな……。
「29!」
遠くから、カウントの音が聞こえてきた。少しやけくそ混じりの声も聞こえている。
異変が起きたのはその時だった。
校舎のあちらこちらが開き、中からミサイルのような物がせり出したきた。
「なんだろう、あれ」
さっきまでそっぽを向いていた咲は、こっちに向き直っていた。
「志乃のことだからとんでもない物だろう」
「……」
でも喋ったのはその時だけだった。まだ怒ってるのか?
いや――彼女はもう怒ってない。多分。
「10!」
その間にもどんどんカウントが進んでいった。
ああ、文化祭ももう終わりか、また盆踊りを一緒に踊る人はいなかったな。
でも、ファリクサーに乗って戦っていなかったら……俺と咲はこうはなってなかったんだよな。
「……」
咲の目が無言で、なんでそんなに笑ってるの?と語りかけてきていた。
俺は笑っていたらしい。自分のことはやっぱり分からないもんだな。
「いや、ファリクサーに乗って戦うことにならなかったら、俺と咲は出会ってなかったんだろうなって」
「……そうだね、多分」
「ああ」
「1――……0!」
その瞬間、学校からせり出していた、ミサイルのような物体が射出された。
それははるか上空で、爆発した――いや、花火だ。
文化祭そのものを祝福しているかのような花火。
「うわぁ」
「凄いな」
「うん!」
咲の目がキラキラと輝いていた。やっぱり怒ってなかったんだな、もう。
それにしても、志乃の奴、一体どうやってこんな仕掛けをしたんだ……?
志乃だから、で納得できるのが少し癪だけど。
「あのね、輝くん」
「……」
俺は数秒間、次の言葉を待ち続けた。
「一緒に踊ろう?」
咲が手を差し出してきた。
俺はその手をとって、踊り始めた。
握り締めた、咲の手は、とても儚くて、すぐ潰れてしまいそうだった。
「ふふ」
でも――咲は笑って、俺の不器用な踊りに合わせて踊っていた。
儚いなんて、俺が、勝手に思っているだけだよな、咲も思ってるのかもしれない……それはないか。
「咲」
「ん?」
「これからも宜しくな」
「うん、こちらこそ宜しくお願いします」
咲は一々踊りを止めて言うもんだから、少し噴き出してしまった。
「な、なんで笑うの!?」
「ご、ごめんごめん」
「うぅ……」
俺にとっては、前代未聞の文化祭だった。でも……楽しかったと言える。
皆も楽しかったと思っているはずだ。
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