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最終話

 秋になり、また冬が訪れようとしていました。

 城へと戻った姫は、来る日も来る日も客人の訪いを待っていましたが、その報せは届かず、さみしい思いをしておりました。

 国を取り戻し、城に再び住まうようになったとはいえ、父王も母妃もすでになく、そもそも取り戻した国も、今や本当には姫のものではありませんでした。

 隣国の王が兵を挙げたのも、本当のところは、王妃に懇願されたからでも姫を救わんがためでもありませんでした。このひとが姫をないがしろにすることはありませんでしたが、姫も立場をわきまえていましたから、随分と屈託もあったのです。

 町では狼が出るというので、猟師が見回っておりました。

 人が襲われたという話は聞きませんでしたが、夜など狼のものらしき遠吠えがたまさか聞こえてくるのでした。これまでにはそんなこともなかったのですが、冬には森の動物も少なくなるのでしょう、きっと獲物を求めて人里へまで出てきてしまったのだろうと人々は噂しあいました。


 町はずれで狼が狩られたのは、この冬に最初の雪が降った朝でした。

 片方の目がありませんでしたが、他には目立った傷もなく、体も大きく、銀色の毛皮は見事なものでした。

 それで猟師はその毛皮を剥ぎ、ていねいに鞣して町の毛皮屋に売りました。

 これを買ったのは姫の近従です。その日町中を歩いていたこのひとは店の窓に見事な毛皮を見初め、姫のためにとこれを買ったのでした。

 姫は思いがけない贈り物を喜びました。

 この国の冬はたいそう深いものでしたが、しかし姫がこの毛皮を喜んだのは、それが一番の理由ではありませんでした。

 銀色の見事な毛並み。そして鞣しても濃く残る獣の匂い。

 それらに姫は、森で自分を守ってくれた男のこわい銀色の髪と、ちりちりと焦げるような体臭においを思ったのでした。

 銀色の毛皮は優しく姫を暖めました。姫は城へと戻って以来、初めて心から満たされ、幸せな気持ちでゆったりと深く眠りました。

 この夜、幸せに包まれたのは姫ひとりではありませんでした。

 狼もまた、再び幸せを得たのです。

 ようやく、愛しい姫の許へと辿り着けたのですから──。

 毛皮になった狼は、これからずっと姫に寄り添いその心と肌を暖め続けることでしょう。

 姫のお側に侍り、姫を守り続けること──それこそが姫に恋をした狼の願いでした。

 もう姫を奪われることもありません。恩人に再び会いたいという姫の願いは叶えられ、狼の願いもまた叶えられたのです。

 姫と狼が出会ったときと同じ雪が降る夜のことでした。




  了




お待たせして申し訳ありません&お読みいただきありがとうございました。

冬童話企画参加(飛び入りではありましたが)作として投稿したのに、完結が随分遅くなってしまいました。


このお話は数年来温めていたものですが、掌編にも拘わらずなかなか蔵出し出来なかったのは、もちろん「描くのが難しい」ネタだったからです。

内容ではなく、書きようと申しますか、もともと表現の抽斗が少ないのですが、どんな風に書けば私の思い描く雰囲気をお伝えできるのか、皆目見当もつかなかったのでした^^;

それを今回書いてみたのは、ひとえに「冬の童話」というキッカケがあり、某さんのヒトコトがそれを後押ししたからでして、残念ながら「それなりにお伝えできる確信を持った」とかでは全くないので、今回の書きようで良かったのかどうかはなはだ自信がないのですが、読んで頂くからにはマジメに取り組んだつもりです。

また感想などもお聞かせいただければ幸甚です。


※あと、元々は絵本にしようかとも思っていた話なので、もしかしたらそのうち挿絵入りに改稿するかも知れません。

しないかも知れませんが^^;



あんのーん拝

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