凛耶の心情[2]
あれから五ヶ月が経った。
深夜の魔法能力は、かなり向上した。
既に名のある高校に入学出来るレベルに達している。
そんな天才肌の深夜だが、ここ数週間の伸びが悪い。
どこか力んでいる様だった。
それも何かに追われているような感じを醸し出している。
俺は何故そんなに力んでいるのかと聞いた。
「お前最近妙に力入ってねーか?」
「そうだな⋯⋯少し最近力んでいる⋯⋯いや、焦っているな」
すると深夜は、力んでいるのではなく焦っていると言った。
俺からすれば、この歳で初級以上⋯⋯ましてや天災級魔法を扱うなど、天才としか言えないのに何故焦る必要性があるのか分からなかった。
「なんでだ?お前は十分強くなったと思うがな」
俺は到底理解が出来ないという雰囲気を
出して、深夜に強さを求める理由を聞いた。
「それじゃ足りないんだ⋯⋯」
⋯⋯驚いた。
深夜から出た言葉は「足りない」という一言だった。
寧ろこれ以上の力をこの歳で身に付けてしまうと、五歳になる頃には裏の住人の仲間入りになる可能性もある。
「力を求めても良いことばかりとは限らない。寧ろ悪い事の方が多い。お前がなぜそんなに力を求めてるか知らねーがろくな事にならないぞ」
俺はこれ以上力を求めない方が良いと言った。
「⋯⋯俺はとある人を倒すために力を付けたいんだ」
だが、深夜から出た言葉は予想外の言葉だった。
俺はてっきり、何故力を求めてはいけないのかと聞かれるかと思ったが、深夜から出てきた言葉は、闇をチラつかせる様な言葉だった。
「ふーん⋯⋯あれか、復讐とかか?」
「違う。恩返しだ」
俺は復讐か何かかと思ったが、どうやら違うらしく深夜は恩返しをする為だと言った。
「恩返しで人を倒すねぇ⋯⋯」
俺には恩返しをする為に、人を倒すという感情が理解出来なかった。
なぜなら、俺の中での人を倒すという行為は、殺すという行為と同義だからだ。
(裏に生きる人間と、表で生きる人間の違いか⋯⋯)
俺はここに来て裏に生きる人間と表で生きる人間の違いを感じた。
だが、俺は深夜の感情が理解出来ないからといって、魔法を教えないなんて言うほど理不尽ではない。
(恩返しねぇ⋯⋯理由が真っ当だからアレを教えてやるか)
俺は、これ以上深夜に入れ知恵をしたくなかったが、魔法を教えると言ったからにはその気持ちは無下には出来ないと思い、とある提案をした。
それは複合魔法のトレーニングだ。
これは感覚が一番大事になる。
つまり、経験が物を言うのだ。
だからまだ教えるのは早いと思ったが、やむを得ないと思った。
正直、俺と如月紅夜の契約終了期限までに、深夜が複合魔法を習得出来る気がしない。
出来る限りの事は尽くそうと思い、俺は深夜に複合魔法の事を説明した。
――
しかし、その数分後の事だった。
深夜は複合魔法を難なく発動させた。
それは、風と炎の属性を混ぜた炎風という魔法だった。
まだ操りきれてはいないようだが、それも時間の問題だろう。
(さすが天才と言ったところか⋯⋯)
俺は深夜への期待値をさらに上げた。
――
俺と如月紅夜との契約終了期限まで一週間を切っていた。
深夜は複合魔法を完璧に操れるようになっていた。
これはハッキリ言って異常な事だ。
複合魔法を操るには、通常数年のトレーニングが必要になる。
だが、深夜は数ヶ月で操れるようになってしまったのだ。
これは才能の賜物だろう。
さらに、深夜はオリジナルの魔法の使い方を開発している。
俺がそれに気付いたのは、最近になって魔法の論理を執拗に聞いてくるようになったからだ。
それだけで決めつけるのは、軽率過ぎる判断だと思うかもしれないが、一番の決め手になったのは、炎属性と水属性魔法をぶつけたら水蒸気は出るのかと聞かれた時だ。
これは普通の魔法トレーニングをしていたら気にするような事ではない。
この魔法の使い方は、奇襲をする為に使うやり方だからだ。
なぜ、この使い方が奇襲でしか使われないかと言うと、この使い方よりも複合魔法の方が圧倒的に威力が高いからだ。
複合魔法の方が威力が高い理由は、複合魔法は違う属性同士の魔法を融合しているが、この使い方だと合体程度にしかならないからだ。
では、逆になぜ奇襲では使われるかと言うと、予想外の攻撃を加える事が可能だからだ。
例えば、風属性魔法の烈風を発動したとしよう。
そうすると、相手は相殺するか避けるか、はたまた別の魔法で打ち消したりするだろう。
だが、烈風に炎属性魔法の炎球をぶつけたとしよう。
そうすると当然威力が上がり、相手も別の対処方法を取らなくてはいけなくなる。
そんな事を今の深夜は気にしなくていい筈なのに、深夜は気にしているのだ。
つまり、深夜は実戦を見据えたトレーニングをしている事になる。
だが、俺はここで当然疑問を持った。
それは、深夜の恩返しをする相手が今の深夜の実力を持ってしても、奇襲が必要になる相手という事にだ。
俺は約一年間深夜と接してきたが、そんな人間と深夜が接触しているのを見た事が無い。
まりんという少女と遊んでいるのを見かけた事はあるが、あの子には単純な魔法勝負で深夜が負けるとは思えなかった。
だが、深夜が接触した事がある人間は、家族とまりんという少女しか居ないのだ。
(⋯⋯では、一体誰なんだ?⋯⋯まさか)
ふと、ここまで考えた所で俺は気付いてしまった。
まりんという少女と家族以外で、深夜が接触した事のある人物が一人だけ居ることに。
だが、俺はこの答えを否定した。
なぜなら、その人物は深夜に恩返しをされる様な事は一切していないからだ。
その人物は⋯⋯俺だ。
これは自惚れではない。
俺の事を恩返し相手だと考えると、今までの深夜の行動全てに納得出来てしまうのだ。
深夜は一時期、恩返しをする為に力を付けたいと焦っていた。
だが、まだ三歳児の深夜には焦る必要がない筈だ。
しかし、俺と如月紅夜との契約終了期限を深夜が知っていたとすれば、焦るのも納得出来てしまう。
(⋯⋯まだ、憶測の範囲に過ぎないな⋯⋯)
俺はデリカシーが無いと分かりつつも、恩返し相手を深夜に聞く事にした。
「そーいえば、お前の事を教えるの後一週間ぐらいしか無いから」
俺はまず、俺と如月紅夜との契約終了期限を知っているか探る事にした。
「知ってるよ」
深夜はあっさりとそう答えた。
俺はその答えを聞き、頬が吊り上がるのが分かる。
(これは殆ど確定か?)
俺はさらに鎌をかける事にした。
「俺が言いたいのは、お前は俺に言いたい事があるんじゃねーのかって事だ」
俺の言葉を聞いた深夜の表情は、明らかに驚きの表情を見せていた。
「そうだな。言いたいことがある⋯⋯最終日に俺と勝負をしてほしい」
深夜はあっさりと白状した。
しかし、深夜の表情はこれまでに見たことが無い程厳粛な表情をしていた。
その表情は、戦地に赴く兵士その物の顔付きだった。
俺はその表情を見て、さらに頬が吊り上がるのが分かる。
「⋯⋯わかった」
俺は一言そう答えた。
俺は一言でしか返さなかったが、内心は自分の育ててきた期待の天才が、どんな戦闘を見してくれるのか楽しみで仕方がなかった。
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