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世界最強は異世界でも最強ですか?  作者: 鯨鼠さん
世界最強は異世界に召喚されたようです。
14/23

<12>朝から騒がしいようです

「ユ、ユウさーん! どうしましょう……!」



 勇者がフーリの経営する宿に泊まり始めた初日。ユウが朝食を摂り終わるとフーリが嘆き始めた。

 昨日さくじつ勇者が来てから、フーリがオロオロする頻度が急上昇している。

 ちなみにトオヤはまだ何も知らされていないのか、オロオロしている母親を不思議そうに見ている。



「落ち着いてフーリさん。……どうしたんですか」



 多分勇者関連のことなんだろうなぁ、と確信に近い物を感じながらユウは尋ねた。



「あの勇者さん、まだ起きてこないんです!」


「……はぁ」


「はぁ……。じゃないですよ! 朝食も出さないでお金取ってたら、私勇者様に殺されちゃいます!」


「……それは、起こしに行けばいいじゃないですか……」


「なっ……!? 起こしになんて……できません! そんなことしたら私殺されちゃいます!」


「どうしろっていうんだよ!? つーか起こしに行っただけで殺されるとか理不尽すぎるだろ!」

 

「いいですか、もしそんなことしたら……」



――――



「勇者様! 朝食ができたので起きて下さい!」


「……勇者の」


「ひっ!?」



 鋭い眼光が、フーリを貫く!



「よくも勇者の朝の時間を邪魔したなぁぁぁぁ!!」


「ひっ! ゆ、許してください! 好きなだけ寝ていていいですからぁあああ! いやあああああ……」



――――



「と、こんな感じになるに決まってます!」


「すごい想像力だ……!」



 語り終わったフーリはなぜかやりきった顔をしていた。さっさと勇者を起こしに行ってもらいたいものである。



「なので、起こしに行くのは危険なんですよ!」


「……それじゃあ、勇者が起きて来るのを待ってればいいじゃん。その時に朝ご飯でも昼ご飯でも出せば……」


「甘いですユウさん! もしそんなことしたら……」



――――



「あっ! おはようございます勇者様! よく眠れましたか?」


「……よくも」


「ひっ!?」



 鋭い眼光が、フーリを貫く!



「よくも勇者に恥をかかせたな! もう昼だぞ!!」


「ひっ! ゆ、許してください! 昼ですけど朝ご飯でも夜ご飯でもいいですからぁあああ! いやあああああ……」



――――



「と、こうなるに決まってます!」


「恐ろしい想像力だ……!」



 語り終わったフーリはなぜかどや顔をしていた。さっさと勇者を起こしに行ってもらいたいものである。



「じゃ、じゃあさ! もうフーリもトオヤも一緒に外に行こう?」


「甘いですよユウさん! もしそんなことしたら……」


「いやもういいよその想像! どうせ殺されるオチなんだろ!?」



 フーリの両肩を押さえつけながら、ユウはフーリの話を遮った。

 そこへトオヤがやってきて、



「ねぇねぇ! さっきから勇者様のお話してるけど、もしかしてうちに勇者様泊まってるの!?」


「え、えっと泊まってるけど、勇者様にちょっかい出しちゃ駄目ですからね!」


「えー! 僕勇者様とお話してみたいー!」


「駄目です。勇者様はトオヤと話す時間なんてありません」


「……まだ起きてこないけどな」


「も、もうっ! ユウさん横からそんなこと言っちゃ駄目です!」


「ま、トオヤに話しかける勇気があるならそうして見てもいいんじゃないか?」


「ほんと!?」


「はぁ……。もういいです。トオヤ、勇者様に話しかけようとして泣かないでくださいね」


「泣かないよ!」



 泣くわけないじゃん! と怒る姿になんだか癒される2人だった。

 だが昨日のような勇者と相対してしまったら、今のように怒ることもできないだろうな、と確信を抱いてしまう。

 どうにかしてあの威圧感を出さないようにしてもらいたいが、それも難しそうだ。



「……それで、お願いがあるんですけど……」



 おずおずと言った感じでフーリがユウににじり寄る。



「…………予想できるけど、一応聞いておこうか」


「え、えへへ……。ユウさん、勇者様起こして来てくれませんか?」


「あぁ……。そう来ると思ったよ……。逝って来ますよ……」


「ありがとうございます! 今日の宿代はサービスしておきますね!」


「…………」



 複雑な顔をしているユウとは対照的に、フーリは笑顔になっていた。

 戦場に向かう兵士を見送るように、トオヤまで手を振り始めていた。



「もう知らね……」



 若干自棄になりながら、ユウは階段を上るのだった。

 


――――




「ここか……」



 勇者の部屋の前まで来て、ユウは一息ついていた。

 扉越しではあの威圧感のようなものを感じ取れない。それともまだ寝ているのだろうか?



「……」



 フーリの想像は大げさに言っただけだと思うが、もしフーリの想像通りだったら困るのでユウは警戒しながらドアをノックした。

 コンコンと2回ノックして反応を待つ。

 

 …………。

 ……。


 反応がない。

 まだ寝ているのだろうか。

 ユウとしては寝ている人を起こしたくはないのだが、フーリ曰く起こさなければ起こさないで大変な事になるらしいので、仕方なく声をかける。



「おはよーございますー? 勇者さん? 朝ご飯の時間なんですけど、まだ寝てます?」



 まだ寝ていたい、という証言さえ取れれば放っておいても後で怒れらることもない。

 なのでユウは返事だけでも聞きたいのだが、



「……返事来ない」



 本当に部屋にいるのだろうかと思い、試しに部屋のドアノブを捻ってみる。

 ドアノブを回すと、途中で止まることなく回しきることができてしまった。どうやら鍵はかかっていないようだ。



「……開けるべきか。さて、どうしようか」



 ドアノブを回したままユウは止まっていた。

 ここで開けて勇者がいなければそれでいいが、いた場合どう反応していいかわからない。

 そもそも勇者は女性なのだから、ユウが突然入って来たらフーリの想像通りのことをする可能性もある。

 流石に死にたくないので、開けるのはやめようとドアノブを離した瞬間、



「ふぁ……。だぁれ……?」


「は……?」



 ドアが開き勇者が出てきた。

 それだけならユウにとっても幸運なのだが、出てきた勇者は服を着ていなかった。

 背中からタオルケットを被っているだけで、胸元とか下の方とか丸見えである。

 昨日は鎧で分からなかったが、結構なモノをお持ちだ。


 しかしこの勇者。

 昨日はあれだけ威圧感を放っていやがったのに、なぜか今は全体的にふんわりとした雰囲気しか感じない。

 キリッとしていた目元もぽやぁとしており、正直誰だ? とユウは言いたかった。



「……? どうしたの?」


「どうしたの? じゃねぇよ!! 隠せよ前とか色々!」


「んー?」


「あーもう!」



 ほんわかしながら隠す気がない勇者に変わって、ユウは勇者が背中から被っているタオルケットを引っ張って、簀巻きにするかのようにぐるぐると勇者に巻きつけた。

 両手も巻き込まれてしまった勇者は不満そうな顔になって、



「何するの?」



 と文句を言う。

 しかし、全く迫力がないし怒られてる気もしない。



「うるせぇほんわか勇者。あんたが朝飯食べるか食べないか聞いて来てくれって泣きつかれたんだよ。はぁ……それでどっちなんだ? 寝てるなら寝てるで構わないんだぞ」


「ん……。食べる。すぐ行くから待ってて……。て、あれ?」


「………………」



 ものすごく嫌な予感がしたユウは、勇者の一挙一動を見逃さないように極限まで集中する。

 すると、自身の状況を確認することができたのか、勇者はゆっくりとこちらを見……、



「っ!」



 バァン! と大きな音がでるくらい勢いよく部屋のドアをしめてユウは逃げた。

 殺される。 

 今あのまま静止していたらフーリの想像通りのことが起こっていただろうという確信がある!

 3階から2階に続く階段を飛び降りて、すぐに1階にいるフーリの所まで行く。



「あ、ユウさんどうでしたか?」


「ああ、フーリ。勇者は朝ご飯を食べると言っていた。それじゃ俺はちょっとなんでも屋まで行ってくるから後は任せた」


「はい、いってらっしゃ……て、待ってください! 私とトオヤ置いていくつもりですか!? せめて朝ご飯作り終わるまで一緒に居てくださいよ!」


「ああ、じゃあトオヤは連れてくから後は頼んだ。トオヤ、一緒になんでも屋で依頼でも――」


「駄目です! 駄目駄目駄目! 私1人になったらおしっこ漏らしちゃいます!」


「なんてことを叫ぶんだ……! ……くっ、なら俺は厨房から出ないからなぁぁぁ!!」



 なんとか勇者が降りてくる前にユウは厨房に隠れることができたのだった。

 部屋から降りてきた勇者は、昨日と同じような威圧感を放っていた。

 トオヤが倒れた。



「ト、トオヤ!? しっかりしてください! 勇者様ですよ! 貴方が会いたがっていた勇者様ですよ!」


「あわわ……」



 あわわ口調は遺伝しているらしい。

 フーリはトオヤを抱きかかえ、



「すみませんユウさん。私はトオヤを部屋に寝かせて来るので、勇者様にご飯出してあげてください」


「おい待てコラ」



 ユウの言葉を聞くこともなく、フーリは2階へぴゅーっと上がってその姿を消してしまった。

 ……。



「……どうしよう。俺勇者に殺されちゃう……!」



 今ならフーリが朝起こしに行きたくないと言った気持ちがわかる。

 朝食はもう出来上がっているので、あとは勇者の下へ運ぶだけなのだが、



「恨むぜフーリ。あとタイミング悪かった俺」



 朝食片手に決死の覚悟で勇者に近付くユウ。

 しかし、その覚悟は一瞬にして砕け散る(、、、、)



「……なんだその頭!? 勇者ってのは人をおちょくるのが好きなのか!?」


「……? 意味がわかりませんが……。それより貴方は、先ほど起こしに来てくれた人ですよね?」


「ああ、そうだ。いきなり部屋訪ねたことは謝るし素肌見たことも後で謝るけどよ……! その頭なんとかしてから部屋出て来いや!」


「へ?」



 乱暴に歩きながら近付き、朝食が乗った皿を置く時は丁寧にしながらユウは言葉を放つ。

 勇者の頭――そこは寝癖でぼさぼさになったままだった。これでは折角の美少女も残念な美少女である。



「寝癖だよね・ぐ・せ! 部屋から出てくるなら髪型くらい整えてからにしろよ……!」


「……それは置いといてですね。朝から女の人の部屋に来るのは関心しませ――」


「置・く・な! ……ああ、もう緊張してるのが馬鹿らしくなるわ……。あんたは朝飯でも食べてろ」


「ちょ、ちょっと!」



 ユウは言いたいことを言うと、苛立ちを隠さないまま階段を上り姿を消した。

 

 一方勇者はここまで普通の人と話したことがなかったので、文句を言いつつもなんだか楽しかった。

 素肌を見られてしまったが、土下座されて謝られても困るだけなので、もう少し文句を言ったら許してあげようと考えていた。

 誰もいなくなってしまったので朝食を食べる。

 想像以上においしくて頬が緩んだ。

 

 しばらくするとユウが戻ってきた。

 その手にはヘアブラシを持っている。



「……髪、触っていいか?」


「……? いいですけど」



 ご飯は食べ続けて良いというユウの言葉に従い、勇者はゆっくりご飯を食べ続ける。

 その一方で、ユウはブラシで勇者の髪を梳かし始める。

 しかし、寝癖が酷くて直る気配がない。

 

 完璧に勇者の頭を仕上げようというわけではなく、多少マシにする程度のつもりで始めたのだがそれもできそうにない。

 仕方がないので、ユウは厨房に戻りタオルを持ってくる。



「あのさ、このタオル綺麗にする魔法ある?」


「……? はい」


「おお……」



 勇者が手をかざすと、タオルに光が集まった。どうやら綺麗になったらしい。

 ユウは再び厨房に戻ると、水でタオルを湿らせる。



「これ湯気出るくらい暖かくする魔法ある?」


「? ……? はい」


「おお……」



 勇者が不審そうな顔をしている。

 きっとなぜ自分で魔法を使わないのだろうと考えているに違いない。

 だが魔法をかけてくれるので問題ない。湯気が出るくらい暖かくなったタオルを持って、しかしユウの動きが止まる。



「少し頭濡れるけど、構わないか?」


「……ええ、お願いします」



 勇者もなんだか受け入れていた。 

 勇者はご飯を食べ終わってしまったが、ユウの為すがままになっている。



「……手馴れているのですね」


「ん? ……あー。まぁな」


「……女の人の髪よく触ってるんですか」


「違うよ。昔、自分の髪伸ばしてたんだよ……。いや、伸ばしていたというか伸びていたというか……。まぁどっちでもいいんだけど」


「そう、なのですか」



 お互い無言になり、ユウが髪を梳かしている音だけが聞こえる。

 さらさらとした勇者の髪の毛を感じながら、ふと疑問に思ったことを尋ねることにした。



「なんで寝癖のまま出てきたんだ? 慌てたのか?」


「いえ、そういうわけではないんです。急がないと、と思いはしましたが」


「……急ぐにしてもこれは酷いと思うんだけど」



 最初に比べるとマシになったが、まだまだ外に出るには厳しい頭髪だ。



「私もこの髪型で外に行こうとは思っていませんでした。ですが、ここは私が泊まっている宿です。つまり、今だけですが私の家と行ってもいいと思います。つまり家の中なので、どんな髪型をしていても恥ずかしくはないのです!」


「うん、あんたアホの勇者なんだな」


「あ、あほ!?」



 ガタッ、と椅子から立ち上がろうとした勇者の両肩を抑えつけ、立ち上がるのを阻止する。

 そこまで力を入れていなかったのか、あっさりと椅子に納まる。



「家とか思うのは勝手だけどさ、人の前に出るんだからこれくらい気をつけろよ」


「うう……。ごめんなさい、です」


「俺は別にいいけど。つーか俺は従業員じゃないからな」


「えっ」



 どうやら勘違いしていたようだ。

 だが昨日さくじつからフーリを庇ったり、朝起こしに行ったりしているのだから勘違いされても仕方がない。

 

 勇者の寝癖を直し終わったので、ユウは腕を回しながら勇者から離れた。

 ただ1つ、頭上の髪の毛が飛び出ているが、何回も梳かしても直らないのでもう許して欲しいところだ。



「おお……。自分でやるより綺麗……!」



 鏡を見ながら勇者はうっとりしている。

 昨日の髪の毛が乱れたように見えなかったのは、もしかしたら雨で濡れていたおかげなのかもしれない。



「ありがとうございます……その、髪直してくれて嬉しかったです」



 勇者はユウの方を見ながら、しかし視線は合わせないでお礼を言った。

 そういえば昨日から視線は合わせてくれないよなぁ、と思いながらもユウは気にしないことにした。

 のだが、なぜ視線を合わせてくれないのか、という答えはすぐにわかることになる。



「その……ですね」



 自身の長い銀髪をいじりながら、緊張した様子で勇者が言う。



「貴方と視線を合わせてもいいですか?」






 

 



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