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キャラバン出発の準備

傭兵の家を訪ねてから数日後。

夜明け特有の暗い青が空を覆っている頃合いに、この国の首都へと向かうべく結成されたキャラバンが街の外でその出発を待機していた。

責任者であるアリスは何か不手際がないか隊列を組んだラクダたちを相手に最後の点検をしている。

「それで、どうして僕に断りもなく新たな出資者が出現しているのですか?」

そこから少し離れた地点。

薄闇の中、ジト〜と黒いオーラを身にまとった少年が俺に詰め寄る。

その視線の先には傭兵、キャロルの姿があった。

仕事モードならしく、軽装の皮鎧と細い剣が腰のベルトに差してある。

すらりとした体型ともマッチしてその服装はなかなか様になっているが、頼りになる屈強な傭兵というより、

セレモニーで登場する儀仗兵に近いものを俺は彼女から感じた。

「出資者なんておおげさだよ。

彼女はアリスの友人だからお金を貸してくれたんだ。

君への断りだって特には必要ないだろ?」

「それはそうですけど、彼女は間接的に山田さんに投資したことにやっぱりなるんです。

すると僕の発言力だって相対的に低下しますからね。

そうした配慮をお願いしているんです。」

言いたいことは分かる。

会社なんかでも新規で株式を発行すれば、既存株主の保有割合を低下させることに繋がる。

なので発行の際には株主総会の認可を事前に得る必要が…

「それにあの人って神官ともめごとばかり起こしていたはずです。

ただでさえ注目される立場なのに、悪目立ちしている人を仲間に加えるのはあまり得策だとは言えませんね。」

彼は師匠を裏切る形で俺達に協力しているので、そういうところには神経質になっているのかも。

「まじかー。

やっぱりこの街の有名人なんだ。キャロルって。」

「マジかじゃないですよ!

山田さんは仲間が増えたぜ!位の感覚かもしれませんが、集団は大きくなった分だけ強くなるとは限らないです。

前例を踏襲しない人を闇雲に増やせば、組織が本来持つ自己修正機能も失われて、世界はどんどん悪い方向へ。」

わかったわかったと、世界の終末を幻視しているウルクを宥める。

「俺としても切り売りがこれ以上進んでも困るし、今あるお金で砂糖の問題は解決するつもりではいる。」

そうなのだ。だから俺はこの旅に同行するのである。

目的は言わずもがなカツカレーの材料入手。

「ところでウルクくん。

頼んでいた例のものは手に入ったかね?」

「はい。

僕が確認できた範囲ですけれど。」

少年は腰の辺りをもぞもぞさせてから、紙のはしきれを取り出した。

そこにはずいぶん達筆な字で少ない余白が埋められている。

「師匠が書いてた手紙の送り先一覧です。

持っているだけでも危険なんで、ここでさっさと渡しておきますね。」

彼がそんなことを言うもんだから、俺はそそくさとその紙を受け取る。

なんだか違法薬物の取引場面みたいである。

「やはり有力商人や貴族の名前が多かったですね。

内容までは流石に見れていませんが、まだ一通目の手紙なんで当たり障りのない挨拶と、星の子に興味はありませんか?位の内容だと思います。」

「ありがとう。

こいつはパンツの中にでも隠しておくよ。」

ネタが通じなくて、ウルクは苦笑いを浮かべている。

「でもこんなことを調べていったいどうするつもりなんですか?

山田さんのお金集めとこの情報は、無関係とは言いませんが役に立つものでもない気がします。」

「この手紙はイリアスが俺を転売するために書かれたものであることは分かっているよね?」

気まずそうにこくりと頷く。

「それでずっと気になっていたんだけど、イリアスはその取引でいくら儲けられるだろう?」

さっぱりですね。と少年は正直に答える。

「君は俺の一年をアリスの借金の7分の1で買ったわけだけど、それは本当に適正価格なのか?

それよりもこれから行われる競売によって出た数字の方が、正しい値段なのではないか?」

「自分の市場価値を知りたいということですか?」

うん。と俺は応じる。

「それはなんというか、すごく、新しい考え方をするんですね。」

ウルクは困惑した様子で首をひねる。

「それでその値段を知って山田さんは何をするつもりなんですか?

言っておきますけどボクとの契約はすでに成立しているので、高い値段が後から付いたからといって まけるつもりはありませんよ。」

警戒モードの小動物みたいな目をしている。

「もちろん分かってるよ。

俺が取引したいのは君じゃなくて、競売に応じる参加者達だ。」

危険な橋を渡らせて、その成果物で不利な条件を彼に提示するほど俺は鬼ではない。

「いまいち話が見えてこないですね。」

彼の疑問ももっともである。

「イリアスが取引を主導すれば、俺は7年間働くことになるんだろ。

でもそれって少し長すぎやしないか?

砂糖の借金を返すだけなら、それだけ長く働く必要なんてないはずなんだ。」

「あぁ、山田さんが言いたいこと分かってきました。

アリスさんがボクにやったことを競売の参加者候補に打診するつもりなんですね。」

「うん。具体的な数字はまだ分からないけれど、

イリアスが手にする利益の分だけ、この7年という数字を短縮できる。」

あの老人に売られるくらいならこっちが先に出し抜いてやれという話だ。

「確かにいい考えだと思います。

でもその競売から逃れるために今、頑張っているわけですよね。」

「もちろんだよ。

だからこれは期日までにお金が集まらなかった時のための最終手段だ。

繰り返しになるけれど、切り売りされるのは俺も気分がよくないし。」

「すごいですね!

たぶんこれ上手くいくと思いますよ。

師匠に対して先手をうてる人がいるなんて。」

ウルク君がまた目をキラキラさせながら興奮している。

ただその口ぶりから察するに、イリアスのことも尊敬しているようだ。

「さっそくこの話をアリスさんにも伝えましょう。」

「いや、この話はギリギリまで秘密にしておこう。

あくまでもこれは保険のようなもので、俺が売り飛ばさせることには変わらない。

だったら彼女の性格的に、心配が晴れるわけでもない。」

ウルクにこの話を打ち明けたのは、彼がスパイという危険な仕事に従事しているからである。

「隠し通すんですか?

分かりました。僕からは言わないでおきます。」

わっ!

何者かに突然肩をつかまれて、反射的に俺は声をあげる。

「さっきからこそこそ二人で何を話しているんだ?

私のことも混ぜて欲しいな。」

声の主はキャロルであった。

おそらく忍び足で俺の背後まで接近したのだろう。

気になるのはウルクで、視界が取れているはずなのに彼も彼女の突然の出現に驚いた様子である。

これも傭兵として働く彼女の能力なのか。

「ん?今なにを隠したんだ?

私にもそれを見せてくれ。」

俺の背中に体重が乗っかる。肩越しから彼女が俺の手元を覗き込んでいるのだ。

「いやいや、たいしたもんじゃないよ。

これは男の社交というか、エロ本の交換というか…

本来は男子トイレで取引するものなんだけど、女には分かんないよね。」

彼女経由でアリスに先程した話が伝わるかもしれない。

なのでここは適当に誤魔化しておこう。

「一体なんの話をしているんだ?

まあ、君達がそれを秘密にしたいなら私もそれを尊重するが。」

面白くないなと、少しいじけた表情をしていたがそれもすぐに変わる。

「それよりも私は君の服装が気になってここに来たんだ。」

脇に挟んでいた茶色い布を彼女が広げる。

「奇抜な服で往来を歩くのは挑発行為にあたる。

無用な面倒事を起こされても困るからこれを着るといい。」

それは薄手のフードがついた外套だった。

「イリアスにも似たようなことを言われたけど、この世界ではスーツってそんなにも異質なのか?」

黒のジャケット、白いカッターシャツ、そして青とグレーの縞模様ネクタイ。

サラリーマンのお手本みたいな服装だ。

「色の組み合わせがてんでバラバラで意味も矛盾だらけ。

無機質で冷たい印象を抱く服だ。」

えらく酷評されたものだ。

ただこの服に特別なこだわりはないので、素直に渡された外套の袖に腕を通す。

「そろそろ出発しよっか!

二人共準備は終わってる?」

ラクダにまたがったアリスが俺達に向かって声を張る。

一度死にかけたこの砂漠にこれから俺は戻る。

耳かきにのるくらいの希望と、ウルクの「ご無事で〜」という声援を背中に受けて。

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