魂晶の儀
魂晶の儀当日。
朝から忙しかった。体を清めて、身なりを整える。それだけで、3時間ぐらいかかった。
ピロロは髪のセッティングやら化粧やらで、さらに、時間がかかっていた。
謁見の間には城中のものが集う。
まず、俺が衛兵に案内され左側に立つ。つぎに、ピロロがマドムさんに案内され入ってきた。
扉が空いた瞬間、会場がどよめいた。そこには真紅のドレスに身を包んだピロロが佇んでいた。凛とした立ち居振る舞いに、隣に俺が居ていいのか不安になった。
俺の右側へやってきて並ぶ。続いて、ラキノン王が上段より降りてきて、俺達の前に立った。
俺とピロロの額に手をかざし、親指と人差し指で何かを摘むように引き出た。そして、真ん中で手をひとつにあわせる。
王により引き出された二本の赤い光が、手の中で一つに合わさり、より一層輝いた。
再度二つに分け、俺達それぞれの前でゆっくり掌を開く。
眩い光が徐々に落ち着き、装飾品が出現した。ピロロには赤い宝玉が嵌め込まれた指輪、俺には耳飾りが与えられ、王直々に付けてくれた。
ピロロと俺は、ゆっくりと後方に向きをかえた。ピロロが手を高々と掲げる。貴族達から、割れんばかりの拍手が起こった。
その後、他国使者のご祝福等があり、俺が参加する儀式は終了した。ピロロはその後も、ダンスパーティーに参加したりと忙しそうだった。俺は部屋に戻り、次に呼ばれるまで寛いだ。
ふと、思い立ち、ドン・スネークに誰の守護魔獣なのか尋ねてみた。俺のお腹から顔を出す。気に入ったようで、知らぬ間に入り込んで、入り浸っているのだ。
第二皇女であるヴァイオレッタ姫の守護魔獣であること、背中にある一枚の赤い鱗が宝飾であることを教えてくれた。そう言われて、よく見ると、白い体に一枚だけ、赤い鱗が混じっている。自然体で羨ましくなる格好よさだった。
ヴァイオレッタ姫は今、シアニン帝国に嫁ぎ皇太子妃になっているらしい。国を離れる際、ドン・スネークことを思い、こちらに残るよう取り計らってくれたのだと。
能天気そうなこの蛇にも、色々あったようだ。
昼過ぎモアゼルさんが俺を呼びに来た。国民にお披露目するのだそうだ。馬車でパレードを行うらしい。
ピロロと俺は、二人でオープンタイプの馬車に乗せられた。その後ろをラキノン王の馬車が着いて走る。左右を騎士が併走し警護していた。
沿道には多数の国民が、俺達を、いや、ピロロを一目見ようと集っていた。皆、口々にお祝いの言葉を叫んでいる。ピロロも笑顔で手を振り、それに応えていた。
テレビで見たことはあったが、まさか、自分がこっち側に来ることになろうとは。人生とはわからないものである。
そんな、能天気なことを考えていたら、突然、鋭い殺気に襲われた。
慌てて、ピロロと俺の周りに結界を張る。それと同時に、結界が破壊された。漆黒の矢が突き刺さったようだ。弾かれた矢は、大型のカラスに変身した。というより、このカラスが矢に変身していたようだ。
背中には、悪魔のような奴が乗っている。
「よくも、私の大事な日を汚したな」
ピロロは1本の髪飾りを抜くと、宙へと放った。それは、真紅の鋭利な結晶となって飛んでいき悪魔に突き刺さった。奴は全く気にする素振りをみせず、笑いながらいった。
「これは失礼。お怒りをお収めください。ニガレオス帝国皇帝ボン・ブラック様の使者として、お祝いを述べに参上しただけです。
この度はおめでとうございます。また、いつの日かお会い出来ることを、楽しみにしております。フハハハハ、アハハハハハ! 」
絵に書いたようなセリフを吐くと、黒い煙となって消え失せた。
「皆の者伏せよ! 」
ラキノン王の一声で、群衆が一斉にふせる。二対の朱雀が飛び出していき。黒い煙の周りを飛翔した。それはやがて、一つの火球となり、爆音とともに燃え尽きて、また、二対の朱雀となり王の元へと戻った。
王は瞬時に、あの黒煙が有害な物だと判断し対処したようだ。
一連の騒動が落ち着くと、国民から歓声があがった。
「国王陛下、万歳! 」
「ピロロピロール妃殿下、万歳! 」
その声は国中に広がり、俺達が城へ帰るまで、いや、帰ってからも、鳴り止まなかった。
この事件から、俺たちとニガレオス帝国との戦いの火蓋が切られることになる。
そしてそれが、こんなにも長く陰鬱なものになろうとは、その時の俺は知る由もなかった。




