宴
ピロロ姫のお怒りは、その後数時間収まらなかった。モアゼルさんとマドムさんのご尽力と、白蛇への八つ当たりにより、なんとか、落ち着きつつあった。
ドン・スネークは数十分もの間、姫に追い回されていた。中庭に帰ればいいものを、この部屋にいることに拘っている。
「ピロル様のお傍にー! 」
と言いながら、逃げ回っていた。実の所、ピロロ姫にいたぶられて悦んでいるようだ……。
流石に疲れたのか、俺の方へ飛んできた。
叩き落とそうとする手をすり抜け、俺の懐へ納まる。
そこで、初めて気づいたのだが、俺は有袋類のようだ。皆の注目が俺に集まる。
「どうなっているのだ」
「中を確認させて頂きましょう」
複数の手が俺の体をまさぐる。
「あっ、わぁ、ちょ、バカ。このバカ蛇。でやがれっ。あっ、やめっ、やめてーー! 」
いつのまにやら、一致団結している。
そこへ、救世主シマさんが現れた。お祝いのご馳走を届けてくれたのだ。一瞬で俺は放置される。現金な奴らである。
ラヴォア博士も呼んで、シマさんの料理を堪能した。ちゃっかり、ドン・スネークも参加している。おまけに、声帯までもらっていた。
「お前、私の唐揚げを食べたなー! 」
最後の唐揚げをめぐり、ピロロ姫とドン・スネークの間で諍いが起きた。
白蛇が唐揚げの形に膨らんだ体を、重そうに引きずりながら逃げ回っている。
追い詰められると、苦肉の策で俺の方へ飛んできた。結界を張って、侵入を防ぐ。
「二度目はありませんわ」
バチーンと音がして弾かれると共に、モアゼルさんが俺の代わりに言いはなった。
ピロロ姫は、無理やり唐揚げをとりだそうとしている。
俺は、シマさんの七層ケーキ(五層からグレードアップしていた)を啄みながら、博士にドン・スネークが如何にして俺から逃げ失せたのか聞かせた。そして、例の解剖計画を持ちかけた。博士が悪い顔になり、ノリノリでのってくる。
こうして、俺達は奴の体の仕組みについて、夜が更けるまで熱く議論し合ったのであった。
皆が寝静まったあと、ピロロ姫が俺の元へやってきた。
「どうかなさいましたか」
「敬語ではなくてよいぞ。お前の意見を聞きたくてな。私の守護魔獣をやってくれるか」
「もちろんです…だよ。むしろ、一緒に居たいし、守らせて欲しい」
俺が心からそう言うと、ピロロ姫は嬉しそうな寂しそうな、なんとも言えない顔をした。
「お前、異世界からきたのであろう。帰りたくないのか」
「うーん……、難しいな……」
俺が答えに窮していると、ピロロ姫が続けた。
「私と魂晶の儀を行うと、帰れなくなるかもしれぬぞ」
なんでも、魂晶の儀は色素核(分かりやすく言うところの魂)を融合し永遠を誓い合う儀式らしい。つまり、魂が束縛されてしまうため、異世界には飛べなくようだった。
ただし、俺のような前例がないため、憶測だそうだが。
「俺、ピロロと魂晶の儀をやるよ」
「お前、帰れなくなるのだぞ」
ピロロが切なそうに言う。
「ピロロに解任されて、分かったんだ。 俺はピロロの傍にいたいんだ、って。
ピロロのそばに居て、ピロロを守りたいんだ、って。
例え、それで帰れなくなっても、俺は絶対に後悔しない」
今にも泣きだしそうなピロロを安心させたくて、俺は笑顔でそう言った。
ピロロが俺を、そっと抱き締める。
考えるのをやめた。どうしようもないことを悩むのは性にあわない。今できることを、やりたいことを全力で取り組もう。




