王命
謁見の間は、ふわっふわっの真っ赤な絨毯が敷きつめられていた。
何度も転げそうになる。獣の足では沈みこんでしまい、上手く歩けないのだ。
五段ほど高くなった所に、高級そうな金縁の椅子が置いてあり、左右に屈強な兵が控えていた。
王が入ってきて鎮座した。万物を見通す慈愛に充ちた目。万人を抱擁し安心させる風貌。色素の御加護であろうか、隠しても隠しきれぬ覇気。それらが一瞬にして場の空気を引き締める。
「余がマゼンタ王ラキノンである。色素魔獣に作法は求めぬ。気楽に話すが良い。話はきいておる。そなたが、ピロロに選ばれし守護魔獣であるな」
「はい」
「では、きこう。そなたはピロロを守りたいか」
「はい。ただ、ピロロ姫に解任されてしまいました」
「もう一度聞く。そなたは姫を守りたいか」
「はい」
「それならば、そなたの命ある限り姫に仕えよ。姫には、余から話しておこう」
「ありがとうございます」
「こやつがそなたに仕えたいらしい。つれてゆけ」
白い何かが飛んできて、俺の手前で丸まった。
王との面会が終わると、モアゼルさんが俺の部屋に案内してくれた。ピロロ姫のご寝所の隣に、新たに作ってくれたのである。
中に入ると、白いなにか、いや、蛇もついてきた。蛇の知り合いは1匹しかいない。一応、きいてみる。
「お前誰だ」
「俺様……私はドン・スネークだ……です」
「おい、お前本当に反省してんのか? 」
白蛇にメンチを切って近づこうとすると、モアゼルさんのうしろに隠れる。
「も、もちろんでございます。私をぜひ、貴方様の弟子にしてくださいませ」
「今後の態度次第だな」
せっかく、冷たく言いはなってやった……のだが。ドン・スネークが勝ち誇った顔でこちらを見た。モアゼルさんが、抱き上げたのだ。
「かわいい」
そう言いながら撫でいる。こいつ、これを狙ってやがったな。
俺はドン・スネークに、どうやって助かったのか聞いた。
爆発の際、咄嗟に全色素を体の内側に集め硬化させたらしい。その結果、色と大きさを維持できず白蛇へと変化したのだ。都合のいいことに、意外と大きさは自在に変えられるらしい。本人は隠しているが、今の姿が本来の姿のようだ。
今度研究室に連れていき、博士と徹底解剖してやろうと心の中で画策するのであった。
「入るぞ」
ピロロ姫が部屋やってきた。
そして、俺を抱き締めた。
「ピロル、私の傍に居ろ」
静かにそう言った。王に、命ある限り俺を守るように諭されたのだそうだ。
どうも、状況がよく掴めない。
「俺はピロロ様をお守りできなかったから、守護魔獣を解任されたのでは、ないのですか。」
「何を言っている。私がお前を守りきれないと思ったから、解任したのだ」
俺が傷つくのをみたくなかったのだそうだ。しかしながら、王に、それは逃げているだけだと叱責されたようだ。大事なものから逃げるなと。
「というか、お前、話せるようになったのか」
俺の顔をまじまじと見つながらピロロ姫が問う。やっと、ラヴォア博士が擬似声帯を作ってくれたことを伝えられた。
「マドムやシマに教えてやらねば! 」
ピロロ姫が目を輝かせて言う。より強く抱きしめられた。
あれ、ちょっと、まずい展開かも……。俺は恐る恐る、二人がもう知っていることを伝えた。
「なぜ、この私より先に知っているのだーー!
」
数秒の沈黙の後、姫の大絶叫が城中に響き渡った。




