第二十六回 浮気
「僕は離婚して娘と二人暮らしだけど、毎日色々起きて楽しい。娘を見ていると人は失敗する為に生まれているんだってわかる」
単純に驚いた。離婚して子供がいるとは気づかなかった。夜のバー経営の男性だから独身だというのは勝手な思い込みである。マスターの印象が変わった。
「失敗しないと成長しない。浮気という失敗も、今の暮らしのためにやってしまったのだなとわかったんだ」
浮気。
離婚理由は浮気だったのか。学生の頃をまた思い返す。
わたしは友子の彼の浮気相手だ。
わたしとの浮気がバレても、糾弾されたのはわたしだけで二人の関係は続いていた。不思議に思っていたが、浮気という危機を乗り越えようとして絆が深まったのかもしれない。友情が続かなかったのはやはり、友情なんてなかったからだろう。
マスターの言う通りだ。浮気事件を経てわたしも成長した。
「僕は結婚も浮気も後悔していない。娘をくれた奥さんにも感謝しているし、浮気相手の彼にも、開眼させてくれて本当に感謝している」
浮気相手の彼ということは、奥さんの浮気だったのだろう。
感謝しているとは心が広い。マスターを見直した。真鶴に住むと人間が出来てくるのかもしれない。
信じていた人に裏切られるのは辛いことだ。
友子から、泥棒猫と罵られたことを思い出す。事件が起きたのは大学の食堂だった。





