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机の一番下の引き出しを開けた状態でなければ見えない床面に、ガムテープで貼り付けられていた〝感想〟の切れ端を読んでみよう。
『もう駄目だ
疲れてなにも考えられないし
何をしていいかわからない。
ここはべっどで横になろう
少し休めばいい案も浮かぶさ』
……この〝感想〟は、まさに今の俺の気持ちを表していた。
見知らぬ部屋に閉じ込められて、記憶のない状態の上、何かを思い出そうとすると、頭に刺すような痛みだ。
「やってられるか!」
だいたい、ヒントが少なすぎるんだ。
……まあ、これがゲームだと言うのなら、だが。
ヒントも何も、ただ単に、何者かに拉致監禁されているのなら、脱出できるような都合のいい閉じ込め方はしないだろう。けれど、この場所は、適度な自由と不自由が用意されている上に〝感想〟という命綱まで完備されている。
「要するに、出来過ぎているんだよな」
若干の希望があるように見せることで、暴れたり無茶な破壊行為をさせないようにしている。という考え方もあるのか?
……まあいい。どちらにせよ、何も良い案が浮かばないんだ。果報を寝て待つのも、選択肢のひとつだろう。
「なにしろ〝感想〟に書かれていたのだからな」
しかも、破り取ってきれいに折りたたんだ上に、あんな場所に貼り付けるぐらいだ。きっと何か、意味があるのだろう。
俺は、ベッドにゴロッと寝そべった。布団や枕が、良くも悪くもない〝ゴワつき加減〟で、軽く文句を言いたくなる……
「あれは……何だ?」
天井に、かなり大きな文字で、長々と文章が書いてある。
いやいやいや! さっき見上げた時には何も無かっただろ!
「……んー?」
枕にのせた頭を、少しだけ左右にずらしてみる……なるほど。そういう事か!
視点で絵が変わるオモチャと同じ原理だ。
「少しでも視線がズレると、見えなくなるんだな」
案の定、枕を確認すると、ガッチガチに固定されている。なるほど、あの文字を見せるための仕掛けだな?
「でも、さっき目を覚ましたときは、気づかなかったな」
あまり覚えていないけど、枕に頭をのせていなかったか、仰向きで寝ていなかったのかもしれない。
「もしくは、すごく寝ボケていたとか?」
なんてね……いや、まあそれもあり得るか。
さておき。この文字の仕組みは、見たことがあるぞ!
左右に傾けると、キャラクターが動いたように見える、ギザギザした表面のオモチャ。俺が子どものころ持っていたのは……あ痛っ!
くそっ! 不用意に過去を思い出そうとすると毎回激痛が走る。何なんだまったく!
……とにかく、何が書いてあるのか確認しなければ。
「なになに?」
〝祝宴が始まるよ。あの針が指すのは時間だけ? 彼女は異国の言葉で歌う。「C・Li・H・N・O・F」それは1番小さい物たち。祝いの品を手に、彼女はくるりくるりと舞い踊る。右左右、右右左。やがて扉は開け放たれた〟
「……何だろう?」
祝宴に歌って踊る……? 不思議な言葉?
間違いなく、何かのヒントなんだろうけど……。
CLiHNOF?
んー。分からないな。
「とりあえず、保留だな」
何か思い付くかもしれないし、別の場所を調べてみるのも良い。もちろんこのまま寝る事も可能だが、たしか別の〝感想〟に、リミットがあるような事が書かれていたような気もする。
「やっぱ、頼みの綱はこれだな……!」
俺の手には、折り畳まれた紙。さっき、枕のカバーに挟まっていたのを見つけたんだ。
これが次の〝感想〟だろう。
俺は、次なるヒントを求めて、折り畳まれた紙切れを開いた。