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10話 召喚されたし泣き方が汚い

前回のあらすじ:飯堕ち2コマ

 あの騒動から数日後、エイレックス王国から再び召集の催促が届き、俺たちはまた人間界へと来ていた。ただ少し違うのは、今回はイブも参加しているということだ。エイレックス側から、『あの卵雑炊を作った者を連れてきてほしい』という旨が魔術手紙に書かれていたので、なるべく相手を刺激しないために布団から引っぺがして連れてきた。

 イブは寝起きの不機嫌な顔で目をこすりながら、俺のすぐ後ろにひっついて歩いていた。


「ふわぁ……なんでこんな朝早くに行かなきゃいけないんだ。私に何かあったらお前のせいだからな、ヨシカゲ(童貞ナメクジ)


「お前今、頭の中で失礼なルビ振ったろ? ……しょーがないだろ。このままいけばエイレックスが味方に付いてくれるかもしれないんだ。なるべくヘタなことはしたくない」


「どういうことだよ? ダメな感じだったんじゃないのか?」


「はずなんだけどなぁ。やったことって言えば、クーポンと卵雑炊渡しただけだし……」


 エイレックスはあの会談の後、『要求を呑み、エイレックスは魔界の配下につく』と言った。こちらとしては願ってもないことではあるのだけれど、あそこまで敵意むき出しだった国が、手の平を返すようにあんな返事をするのは、正直裏があるんじゃないかとも思ってしまう。警戒はしといたほうが良いだろう。


「でも、もしかしたら、イブの卵雑炊が効いたのかもしれないわよ?」


「あー、美味かったっすねアレ」


 一緒に歩いていたリリスさんが、ついでロックさんが振り向いて話しかけてくる。今回はイブも一緒だからか、少し嬉しそうな顔だ。


「あの国、こう言っちゃなんだけど、食に関しては大分アレだったし……初めてのお料理を食べて感動したんじゃないかしら。イブのつくるご飯、美味しいしね」


「確かにありゃ、凄いもんがあったっすね……オリーブオイルのみで、量もスプーン一杯か二杯くらい。あれでどうやって生きてたんすかね?」


「なんでも、足りない栄養素は全部魔法で補ってたみたいよ。そう言う教義らしいわ。ほら、あの国、男が極端に少なかったでしょ? 魔法に耐性のある男性って少ないから、栄養失調でどんどん死に絶えちゃったみたいなの」


「うっはー、それでもやめないんしょ? こえー……」


 リリスさんとロックさんの話を聞いて、俺はあの国のことを思い出す。魔界への敵意と憎悪。それも十分すごかったけど、何より驚いたのは、盲目的とすらいえる、あの信仰心だ。自身を死に追いやるものであろうと、神の教えを最優先にする。並大抵のことじゃない。

 もしくは、それ以外の生き方を知らないのかもしれない。そうだとしたら、今回イブの卵雑炊が決め手だったって言うリリスさんの指摘は、あながち間違ってないのかも。


「ま、なんにせよ、今回の取引はイブの活躍が大きかったわね。すごいわ~、さっすが私の妹」


「そ、そう? ……ウェヘヘヘヘ、おいヨシカゲ聞いたか? 今回成功したのは私のおかげだってよ。これを機に、お前もその舐めくさった態度を改めて、主人を敬って『魔王様』と呼ぶんだぞ。わかったか? ほら言ってみろよゲェヘヘヘ」


「わかりましたよ笑い方の汚いロリっ子(魔 王 様)


「お前何と書いて魔王様と呼んだ? バカにしてんの顔見りゃわかんだかんな」


「お、見えたぞ。あの馬車みたいだ」


 スーツの裾を引っ張りながらぶーたれてるイブをガン無視し、目の前にある馬車を見る。それは前回行った時と同じ、貴族然とした装飾が施された豪華な馬車である。

 ただ今回違うのは、そこにいるのがあの女勇者ではなく、知らないメイドさんだったということだろうか。


「ま、魔王様御一行ですね? お……お待ちしておりました!」


 俺たちが近くまでいくと、メイドさんは少し怯えた様子で、俺たちに深々とお辞儀をした。全員こういう扱いに慣れてないからか、それを見て思わず、俺たちも頭を下げてしまう。


「どもっす……あれ、今回はあの勇者ちゃんたちいないんすか?」


「そ、それは、その……」


 ロックさんが聞くと、メイドさんはしどろもどろで口をあわあわと動かして理由を語ろうとしない……と言うよりは、焦っていっぱいいっぱいで言葉にならない。と言う感じがした。何かあったんだろうか?


「ま、まことに申し訳ありませんが、お急ぎください! 時間がないんです!」


「え!? は、はい……」


 突然のメイドさんの言葉につられて、俺たちは馬車に飛び乗る。全員が乗ったのを確認するなり、メイドさんが扉を閉め、馬車が少しだけ勢いよく発車した。


「何かしらあの慌てよう? ずいぶん急いでるみたいだけど……」


「お、おいヨシカゲ。お前ホントに取引成功したんだろうな? これで着いた途端バーンとかなったらお前のこと祟ってやるからな」


「なんだバーンて。……それは間違いないはずだ。少なくとも、手紙にはそう書いてある」


「じゃあ何なんすかね? ……あっわかった! きっとフェスか何かあるんすよ。それの開催が近いんすよきっと! ホッホオォォォォウ!」


「いい加減にしろこのウェイホッホ野郎が! 誰もかれもがバイブスアゲたいわけじゃねーんだよ!」


 ウェイホッホ野郎って何だよ……でも確かに、イブじゃないけれど、ロックさんが言うようなポジティブなことで急いでいるわけじゃないのは確かだろう。あれは、やばいことが迫っているって感じの焦りかただと思う。


(……ホントにバーンてなったりしないよな?)


 そんな俺の不安を乗せて、馬車は前よりもずっと速く、エイレックス王国への道を辿って行った。





 ◇





 ……んで、そんなこんなでエイレックスに俺たちは着いた。結果としてバーンとはなんなかった。なんなかったんだけど……



「姫様! 説明をお願いします!」


「魔王に民を売ったというのは本当なのですか!」


「国民を裏切る形になりますが、どのようにお考えですか!」


「姫様、一言!」


「姫様!」



 ……記者会見開いてる……

 え、なに? え、どういうこと? あれ姫様だよな? 確かエルカ姫って名前だったか。なんであんな汚職がばれた政治家みたいな扱い受けてんだ?


「……え、ねえメイドさん。あれどないなことになっとるとね?」


「は、はい……今回我々が、あなた方魔界の傘下に入ることになったのはご存知かと思われますが、実はあの返事は、行政官や大臣に一切話さず、独断で決めてしまったものでして……そのせいで国内で内輪もめが始まってしまい今のような状態に……おかげでみんな出払っちゃって、まだ新人なのに単独で魔王を出迎えなきゃいけなくなるし、ううっ怖かったよう……」


 後半の声が小さくなってよく聞こえなかったけれど、断片的に聞こえた限りただの愚痴っぽいから無視していいだろう。てかあの人独断で決めたのかよ。どうりでなんかおかしいなと思ったんだ。


「姫様! 何か言うことはないんですか!」


「いえですから、私は国民のことを思って……」


「魔王に国を売って何が国民を思ってですか!」


「あのだから……」


「さっきから質問の答えになってませんよ!」


「いやあのその……う、うう、うるっざいのよこのハゲェェェエ! 違うでしょぉぉお!」


「ちょ、姫様」


「暴力はおやめください姫様!」


 泣きながらブチ切れちゃったよ……しっかし声でけえなあ。イブと言いあの子と言いきったねえ泣き方する女の子しかいないのかこの世界?


「ねえこれ止めたほうが良いのかしら?」


「いやアレ止めれないでしょあの感じ……あーあーハゲジジイの頭ぺチぺチ叩いちゃってあの子」


「いいんすかね、数少ない男性にあんなことしちゃって?」


 ロックさんに言われて気付いたけど、そういやあのハゲ貴重な男性なのか。あの年でずいぶん活動的な職種についてんなあ……あららら大変だなもうペチペチペチペチ。


「なあヨシカゲ、私もう帰っていい?」


「うんちょっと待っててね? 馬車の中で寝てていいからね?」


「んー」


 俺も正直帰りたいけどなと思いながらも、段々飽き始めたらしいイブをなだめて、とりあえず馬車の中に連れて行った。

 しかしどうしたもんかな? なんかすんげえ話しかけにくいし、これは冷めるまで待ってた方がいいかな。


「わだじはねえ! ブフッフウワァァ! 誰がねえ! 誰がじでも、結果はおんなじだおんなじだっておもっでえ! ウワッハァァアン! ずっとがみのおじえを守ってぎだのよ! げれどねえ! 変わらながっだから、それだっだらわだじが! 教義をやぶっででも、命がけでエエッフフウワァァア! ウワァァァア! ァごの国を、がえだいッ!」


「やめなさい。やめなさいこのおバカ!」


 やっぱりこれ以上あの記者会見を続けさせてはいけないと思った俺は、なるべく大きい声で姫様にストップをかけた。これ以上やるといろんな意味で取り返しのつかないことになりそう。


「!? ま、魔王……」


「ふぇ、魔王様……!」


 俺の存在に気づいたらしい周囲が、まるで恐ろしいものにでもであったかのような目で俺を見てくる。凄い怖いあの目。

 でも姫様だけは、俺を見るなり嬉しそうな顔をしている……てか今あの子、魔王『様』って呼ばなかった? 前呼び捨てだった気がするけども。


「貴様、何故ここにいる!」


 おおっと、さっきのぺチぺチハゲがこっちに叫んできたぞ。こっからは魔王を演じて喋らなきゃ。


「……何故も何も、あなた方が呼んだからこうやって来たのですよ? なんでも、要求を呑んで下さるという話を、お聞きしたのですがね……」


「それは姫様が独断で決めたこと! 大臣である私の検閲はされていないのだ! その要求はまだ認めておらん!」


 大臣だったのかあのハゲ。ずっと記者だと思ってた。まあこの世界に記者っていう職業があるのかは知らないけど。


「お、お願いします魔王様。アナタからも説得してください。私の話は全く聞いてくれないんです。酷いですこんな……皆様に、選出されて、やっと、やっど姫になっだのにィ……」


「え、姫って選挙制なの?」


「世襲制ですよ」


「世襲制じゃねーか」


 じゃあ要らないだろ今の下り絶対。なんなのこの子? ちょっと前はもっとこういかにもお姫様な感じだったじゃん。キャラ変わり過ぎだろこの短期間で。


「はあ……まあ、話しを聞いて下さいよ、大臣殿」


 とりあえず姫様のことは置いといて、気を取り直して大臣の説得をしよう。このままじゃ反故にされるかもしれないし。


「ああいった要求は致しましたが、我々は別にエイレックス王国をどうこうしようという気はありません」


「何? どういうことだ?」


「そのままの意味です。あなた方に、要求することはただ一つ。『魔界(我々)と同盟を組むこと』です。それ以外はいつも通りに暮らしてくれて構いません。呑んで下されば、魔界のモノをそちらに仕入れることも出来るようになります。人間界にはない良いものがそろってますよ? 道具も、食べ物も……」


「ふざけたことを言うな! 貴様ら魔の者の話など、聞くだけ時間の無駄だ!」


 やっぱりこの爺さんも頑なだなあ……どうしよう、またイブに言ってなんか飯作ってもらって食べてもらえばいいかな?


「大体、貴様ら魔物がどれだけ人を殺したと思っている! いまさらそんな要求をするなど滑稽だぞ!」


「……魔物?」


 そうだ、失念していた。確か聞いた限りじゃ、今の人間界は魔物に村や町を滅ぼされて、何人も被害が出てるって……けれど、その魔物は『魔界の魔物』じゃない、魔かいとは関係のない別の何かのはずだ。

 ……もしかして、それを言えば、ある程度聞いてくれるんじゃないか? 少なくとも今なら、姫様は敵対心はほぐれてるみたいだし、姫様を通じて話せば、もしかしたら信じてもらえるかもしれない。


「姫様、すこし聞いてほしいことが……」


 と、俺は姫様に歩いて近づいた。




 瞬間、ドンッと言う音がした。




「!?」


 音がした方を振り向いてみると、何かが俺にものすごい勢いで向かっている。

 あれは、あの時の女勇者

 そして鈍い光、鋭い先端

 彼女の剣だ


「魔王ォォォオ!」


 あ、死んだ。漠然とそう思いながら動けないでいると、突然目の前に結界のようなものが張られ、彼女の攻撃をはじき返した。


「ぐあっ……クソ」


 突然の連続で反応できないでいたけれど、結界がなくなったと同時に、リリスさんからもらったネクタイがボロボロになって霧散したのはわかった。どうやらさっきのが防御魔法みたいだ。


「ヨシカゲ君!」


「ヨシ君!」


 リリスさんとロックさんが、こちらに駆け寄ってくる。しかしそんな中でも、女勇者はこちらをめがけて、再び攻撃を仕掛けてくる。


「待って、リサ!」


 けれど、姫様が立ちはだかって、その動きを止めた。


「……どいてよ、裏切り者」


「待ってリサ……お願い聞いて!」


「うるさい! なにが祝福だ何が神だ。結局僕をだましてたんじゃないか。……もういい、国も何も関係ない……」





「僕は、魔王を殺す」





 その言葉と共に、隠れていた勇者の仲間が集まってくる。全員武器を構えて、俺をじっと見据えていた。


「申し訳ない、姫様」


「けれどやっぱり……」


「魔王は許せないのよ」


 やはり勇者御一行、全員魔王に恨みをお持ちのようだ。……さて、ここで現状を確認しよう。俺とリリスさんとロックさんは勇者パーティ4人に包囲され、周りも敵だらけ、防御魔法は破られ、更にイブが馬車で爆睡中……





 ……あれ、詰んだんじゃねこれ?




イブ(なんか外うるせえな……)


貴族仕様の馬車だから絶対寝心地いい(偏見)


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